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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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126話【人として生きる】



◇人として生きる◇


 【異世界召喚】の責任を持つエドガーは、誰の想いにも答えない。

 たとえ自分が誰かに恋心を(いだ)いても、絶対に告げたりしない。


 近い未来の戦いを見据(みす)えた【召喚師】エドガー・レオマリスの覚悟。

 少年にそう決意させたのは、(まぎ)れもない複数の異世界人たちと、戦って来た“悪魔”やあの少女(・・・・)だろう。


 人に至高(しこう)の力を(さず)ける《石》。【災厄の宝石ディザスター・ストーン】または【天啓の宝石リヴェレーション・ストーン】。

 エドガーが初めてそれを手にした時、確かにエドガーの【召喚師】としての物語が始まった。

 それと同時に様々な場所でも、同じく動き出したものがある。


 【送還師(そうかんし)】エリウス・シャルミリア・レダニエスの物語。

 彼女が、異世界人たちの最大の難敵(なんてき)になるのは間違いない。

 だが、エドガーたちはその事実を知らず、そのエリウスでさえも、【送還師(そうかんし)】としての力を行使(こうし)できない状況にあった。


 そして“天使”スノードロップ・ガブリエルを始めとする、他の異世界人たちの物語。

 過去にエドガーから“召喚”された彼女らは今、エドガーのもとだ。

 身分を隠し、素顔も名も隠し、かつての主の(そば)で息を殺している。

 そこには、【送還師(そうかんし)】エリウスもいる。

 更には、同じ【王都リドチュア】に、【魔女】ポラリス・ノクドバルンまでもが、エドガーに近付こうとしていた。


 そして、エドガーの父であるエドワード・レオマリスの物語。

 彼はシュルツ・アトラクシアと名を(いつわ)り、隣国で国の軍事を(にな)う重役をしている。

 目的はエドガーだと言うのは間違いない。

 しかし、エドワード・レオマリス、その真の目的はいったい――。


 いづれにしても各々(おのおの)の場所で、各々(おのおの)の目的で進んでいる。

 そして、その意志の向かう場所は全て――【リフベイン聖王国】だと言う事だ。





 メルティナとの()い話を終えて、エドガーはメルティナの白い背を見る。

 先程からかった(さい)に、実は死ぬほど()ずかしかったことを思い出しそうになったが、集中してメルティナの指示(しじ)を待った。


「それでは、《石》の解除……お願いします、マスター」


「わかったよ。メルティナの言う通りにやればいいんだよね?」


「イエス。自分で出来ればいいのですが、生憎(あいにく)手が届きませんので……」


 メルティナの《石》は、肩甲骨(けんこうこつ)(あいだ)にある。

 手だけなら届くのだろうが、繊細(せんさい)な操作を必要とする上、今はメルティナの機器も不調で使いにくいらしい。

 だから、エドガーが代わりにやるのだ。


「ではまず……ベースの連結を外します」


「ベース?って……《石》が乗ってる台座みたいな?」


「イエス。そのベースは、《石》の制御装置(せいぎょそうち)(けん)魔力の循環(じゅんかん)(にな)っています。ワタシの《石》はローザやサクラと違い、素肌に(じか)には付いてはいません。そのせいで、魔力による操作(そうさ)不得手(ふえて)なのですが……」


「そっか……うん、それで、このベースをどうすれば?」


「まずは、右上、左下のボタンを同時に押して、右を左に、左を右にスライドさせて下さい。そして離します」


「……うん」


 エドガーはそっと親指だけで触れようとするが。


「マスター。それでは(ふる)えます。手のひらをワタシの背にくっつけてください」


「――い、いいの?」


「イエス。もう変な事は言いませんので、存分(ぞんぶん)に触りたくってください」


 「言い方!」とエドガーは(ほほ)を赤くしながら、ぺちんとメルティナの背を(はた)いた。


「フフフっ……」

(なるほど。マスターは押せばいいのですね……)


 エドガーは、押せば攻略出来るかもしれない。

 そう思ったメルティナだった。


「それでは、お願いします」


「――分かったよ。こう、だね」


 カチっと右上、左下の突起を押し、横に(すべ)らせる。

 すると、《石》を固定していた四つの金具(かなぐ)の内、二つが外れた。


「では……次は右下、左上のボタンを同じ様に」


 否定しないメルティナ。エドガーは正解だったと安心し次に進む。


「分かった」


 カチっ――。

 スライドさせて、四つの金具(かなぐ)全てが外される。

 ベースの中では、金属で拘束(こうそく)されていたエメラルドが自由になり、それを喜ぶかのようにキラリと(かがや)く。


「……」


「――メルティナ?」


「あ、ノー。なんでもありま……いえ、少し……怖いのかもしれません」


 メルティナの表情は(すぐ)れない。

 その顔色から(うかが)えるのは、やはり恐怖だ。


「マスター。《石》はワタシの本体と呼べるものです……以前のワタシからすれば、心と呼べるものは、《石》の中にあったのです……今、《石》を外せば――ワタシの心は、何処(どこ)に行くのでしょうか?」


 (ふる)える手は、自分自身が消えてしまうのではないかと言う不安の表れだ。

 メルティナは人工知能として生まれ、まさか身体を持つという事は考えられなかったのだろう。

 《石》の魔力を媒介にして作り出された人工の心、それがメルティナの考える、意識(・・)と言うものだ。


「……メルティナ。大丈夫……大丈夫だよ」


 エドガーは、そんなメルティナの頭に手を置き、優しく()でる。

 (おさな)い子供をあやす様に、落ち着かせる様に。


「メルティナは、ここにいる。《石》じゃない……僕の目の前にいるよ」


「マスターの?」


「心の在処(ありか)って言うのは……(むずか)しいけど、()(どころ)だと思うんだ。僕にとっての皆がそうなように、メルティナにとっても……僕がそうなれればいいと思ってるよ」


()(どころ)……」


 言葉は分かっても、理解が(むずか)しい。


「安心出来る……落ち着く……(なご)む……ずっと一緒に居たい、とかさ。理由は何でもいいんだ、自分が納得できて、そこに居たいと思える場所……そこに心はある。それに、メルティナはもう機械じゃないんだ……メルティナ、手を胸に当ててごらん?」


「手を?……胸に?」


 メルティナは言われるがままに、胸に手を()える。

 すると感じる、命の鼓動(こどう)


「トクン……トクンって、感じるでしょ?」


「……はい」


「メルティナの命も、心も……《石》じゃない……きっかけがなんにせよ、メルティナは生きてる。命を貰って、ここにいる。起きてても眠ってても、ここにいる。僕たちの(そば)にいるんだ……だから、安心して?怖がらないで?」


 後ろからそっと(だき)きしめられて、メルティナは、そのエドガーの腕に(ひたい)を乗せた。


「……はい。マスター……感謝します。命は、ワタシなのですね……《石》ではなく」


「ああ。そうだよ……人なんだ、メルティナも、僕も……生きているんだ」


 優しさに(つつ)まれる。

 ――人。人間。たとえ異世界から来た存在でも、同じだと。

 機械であった存在でも、命だと。

 メルティナに芽生(めば)えた、人間としての意識。

 人として生きていく覚悟。真に、人間になった瞬間だった。




「すみませんマスター……何度も中断させて……」


 メルティナは、何度も不安定になって遅れた事を謝罪する。

 エドガーは笑顔で「いいんだ。分かるから」と()べる。

 もう、メルティナに恐怖(きょうふ)はない。

 自分の()(どころ)は、この少年の(そば)――それだけを、胸に(ちか)って。


「いいって。さ、次はどうするんだい?」


「イエス!お願いします!」


 背を向けるメルティナ。心なしか、縮こまっていた背中が、シャキッと伸びているように感じられた。


「では、ベースから《石》を外す工程に移ります。金具(かなぐ)のロックは解除出来ましたので、露出した《石》を、上方、左回転で90度回転させます」


 エドガーはそっとエメラルドを(つか)む。

 ジリリと磁場のようなものが肌に来るが、ゆっくり回転させ。


「回したよ」


「では、ゆっくりと押し込んで……そのまま上へスライドさせて下さい。そうれば、ベースから離れるはずです」


「こうかな?」


 エドガーは持ったままのエメラルドを上へ。

 カシャ――っと、スロットから抜き取るように。


「……あ。だ、大丈夫?」


 聞いたのは、突然取ってしまってもいいのかと思ったからだ。


「構いません。ワタシは、ここに居ますから」


「……そっか。うん、そうだね」


 その返事に、エドガーはスライドさせて止めていた《石》を、外す。

 《石》を乗せていた台座は、コードのようものがびっしりと(きざ)み込まれている。

 これが、【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】を読み取っているのだろう。

 形は、エメラルドに固定されているらしく、他の《石》は設置(せっち)できないようにも見える。

 そしてメルティナの様子を、エドガーは。


「どう……かな、メルティナ?」


「……」


 下を向き、ジッと目を(つぶ)る。

 まさか意識が、とエドガーは(あせ)る。

 しかしメルティナは、ゆっくりと顔をあげた。

 そして、エドガーを向き。


「マスター……」


「メ、メルティナ?大丈夫?」


「はい……心配ありません。ワタシは、ここにいます」


 胸に手を当て、優し気な表情を浮かべ。

 エドガーがが手に持つエメラルドを受け取る。

 自分がこの中に居たと、感慨深(かんがいぶか)く見つめて。


「ワタシは、この異世界で。人として、生きていくのです……貴方(あなた)と、皆と共に」


 人として、この少年の(そば)に居たい。

 《石》の中で芽生(めば)えた意識は、人の心と身体を()て、前へ進む。


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