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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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124話【緑は迷い、されど進む】



◇緑は迷い、されど進む◇


 心が痛むだなんて、機械であった頃では考えも(およ)ばなかったでしょう。

 彼の言葉の端々(はしばし)に感じる、彼女への絶対の心服(しんぷく)

 ワタシに対して、彼はこんな表情(かお)を見せた事があっただろうか。


 普段言葉にしなくても、彼の彼女に対する信頼と、ワタシや他の少女たちに寄せるものでは、どこか違うものを感じてしまう。

 彼は優しい人間だ。優しすぎる程、彼は他人にばかり気を遣う。

 その結果自分に(いばら)が刺さっていようとも、彼は(いと)わない。


 今も、大切な幼馴染の為に奮闘(ふんとう)し。“召喚”をする為に全力を()くしている。そんな彼に、ワタシは突き放すような言葉を投げた。

 それでも彼は、こうして夜間にワタシのもとを(おとず)れてきた。

 心配し、食事を持って、ボディまで()いてくれて。小さないたずらはされましたが。


 こんなワタシに、そこまで心を向ける意味があるだろうか。

 役にも立てないワタシに、心配される価値などあるのでしょうか。

 先程までそう考えていた自分を今、ワタシは殴り飛ばしてやりたい気分です。


 ここまでしてくれた彼。その隣に並べる彼女に。

 ワタシは嫉妬(しっと)していたのでしょう。

 機械として存在していた頃は、胸が痛むと言う苦しい気持ちも、嫉妬(しっと)などという(みにく)い言葉も、知る事など無かったのでしょう。


 でも――彼は、分け(へだ)てなく接してくれる。

 ワタシにも、他の少女たちにも、均等(きんとう)に感情を向けてくれる。

 それは、“召喚”したと言う責任もあるのでしょう。

 少女たちを“不遇”にさせないと言う思いもあるはずです。

 ですが、ワタシたちだって、彼に(おん)を感じているのです。


 ワタシは、もともと彼を危険に感じていました。

 異世界と言う場所に事故(・・)のように呼ばれたワタシは、思えば、彼の意志(いし)で“召喚”された訳ではない。

 そんなワタシに対して、彼が責任を()う事はないはずです。

 邪険(じゃけん)にされる事はあったとしても、ここまで優しさをワタシに向けてくれる事が、嬉しいし――けれど、辛い。


 何も返せないと思っていた。

 何の役にも立てていない事に、苛立(いらだ)ちと(いきどお)りを。

 他の少女たちに、嫉妬(しっと)羨望(せんぼう)を。

 何より、そんな自分に嫌悪(けんお)(いだ)いた。


 機械の身体では有り()ない感情を手に入れて、異世界人――人間として生きていく事を決めたはずのワタシが、彼の言葉を受けて出来ること。

 エミリアの為に、マスターの為に、ワタシは進まなければならない。


 今から、ワタシは《石》を外す。

 ワタシの本体である【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】。

 システムであるワタシは、《石》を機械のパーツとして組み込んだ瞬間、芽生(めば)えた。

 【機動兵装ランデルング】である機体に搭載(とうさい)された【M・E・L(メル)】。

 ワタシと同型の機体は多くあれど、【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】はオンリー。

 ワタシのように意思を(しめ)し、軍に反旗(はんき)(ひるがえ)した異分子は存在しない。


 当時のマスターであるティーナ・アヴルスベイブを生かすため、ワタシは軍と戦い。

 逃走の時間を(かせ)いだ(のち)、強制的に自爆させられた。

 しかし、目覚めた場所は異空間であり、しかも人間の身体を持っていた。

 背には本体である《石》、【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】が。

 ならば、ワタシの意志は何処(どこ)にあるのだろうか。

 《石》を外した時――ワタシの心は何処(どこ)へいくのでしょうか……





 ローザに対する嫉妬(しっと)

 サクラやサクヤ、フィルヴィーネに対する羨望(せんぼう)を胸に秘め。

 メルティナは進む。


 悩み、迷い、苦しみ。

 そんな人間として、メルティナ・アヴルスベイブは。


「……ローザが(うら)ましいです」


「――え?」


 エドガーのローザに対する気持ちは、(あこが)れのそれに近いだろう。

 同じ異世界人だとしても、メルティナに対するものとは大きく違うと、メルティナ本人は思っている。

 (うらや)ましい。それはメルティナの本音だ。

 エドガーから向けられる、そんな愛情にも近い感情を、自分も受けたかった。

 だが、それは自分から手に入れる事も出来るのだと思った。


「ワタシは、他の異世界人たちが(うらや)ましいのです……先程マスターが言った言葉。ローザに言われた言葉ですが……」


「うん」


「同じような言葉をワタシが言ったと聞いて……何故(なぜ)ワタシが初めではないのかと、思ってしまいました……そんな事を言ったとしても意味など無いのに。思っても、仕方が無いのに。でも同時に、嬉しくもあったのです」


 メルティナは胸に手を当てて、(ひとみ)を閉じる。


「同じような意見を持った。似たようなことをマスターに言えた……それは、まだ並べる(・・・)と言う事でもあります……」


 エドガーは真剣な顔で聞き入っている。

 (かす)かに光る、【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】を見ながら。


「ローザは、試練(しれん)を乗り越えたのでしょう。ここに帰って来た時、まるで人の変わったようなローザに会いました……以前は他人に(あま)り目を向けてはいない様に見えた彼女が、ワタシを気にかけてくれた。その後は少しうるさかったですが……それでも三人が話す雑音(こえ)が……心地よかったのです」


 ローザが帰って来たその夜。

 メルティナの部屋で行われた深夜の女子会を、メルティナはBGMにして眠っていたらしい。


「ワタシも、その輪に入れるでしょうか……ワタシも、貴方(マスター)に思って頂ける(ひと)に……なれるでしょうか」


 願望(がんぼう)であり、人として当然の感情を今、メルティナは(いだ)いていた。

 エドガーに対する思い、他の異世界人に対する思い。それは、人としての前進だ。


「……メルティナ、そんな事を考えていたんだね……」


 エドガーは、自分がそんな感情を(いだ)いてもらえる男だとは思ってはいなかった。

 だが、自分に向けられる少女たちからの思いに気付かないほどの鈍感(どんかん)でもない。


「嬉しいよ。正直さ……火が出る程、多分顔が赤いかもしれない……」


 エドガーは下を向き、メルティナに見せない様に隠す。

 身内贔屓(びいき)になるが、異世界からの客人は皆美女だ。

 そんな女性に好意を寄せられて、嬉しくない訳はない。

 今だって、本当は火が出る程()ずかしい。

 そんな女性の素肌(すはだ)が目の前にあるのだ。自制心(じせいしん)を最大限に発動させなければ、精神的に死んでしまう。


「あれ……なんだ……?急に()ずかしく……あはは……その、メルティナ……」


 急にメルティナにそんな事を言われて、折角(せっかく)覚悟を決めた自制心(じせいしん)崩壊(ほうかい)しそうになる。


(……(あらた)めて見ると、メ、メルティナって、凄く綺麗だよな。白くてスベスベ(触った感想)な肌。人形のように均衡(きんこう)のとれた身体に……って!!何考えて……はっ!?)


 いろいろ考えていたら、メルティナと目が合った。

 ボッ――と、一気に羞恥(しゅうち)が加速する。


「あ、いや……」

(やば……言おうとした事、全部飛んだぁぁ!!)


(……答えては、くれないのですね……)


 嬉しかったのは事実。恥ずかしいのも事実。

 だが、答えられるのだろうか。今のメルティナの問いに。


「マスター。《石》の外し方……説明します」


「え、あ……」

(良かった……――!!――違う!ダメだ!そんな顔をさせたいんじゃない!)


 メルティナの方から話を()らそうとして、エドガーは内心で安心しかけた。

 しかし、エドガーは顔を上げた瞬間見てしまう。メルティナの泣きそうな顔を。


「――違う!メルティナっ!」


「え……」


 ガバッと、エドガーは肩を(つか)んで振り向かせる。

 涙目のメルティナは、寸でで涙を指で(ぬぐ)った。

 そして、真剣な顔のエドガーを見上げる。


「……違うよメルティナ。僕は……」


 男として、逃げてはいけないと、本能的に(さと)る。

 悲しい顔をさせてはいけないと、エドガーは言葉を振り(しぼ)る。

 それは(まぎ)れもない本心であり、揺れ動く優柔不断(ゆうじゅうふだん)な少年の、青春と呼べるものだろう。


「メルティナ。僕は、ローザもサクヤもサクラも、メルティナもフィルヴィーネさんも……エミリアやリザだって大切に思ってる。皆素敵な女性(ひと)で、どうこうしたいとか、そう言った事も考えなくはない……って違う!言いたいのはそう言う事じゃなくて……」


 混乱気味かつ顔の赤いのエドガーだが、少し暴走した発言が出た事に、自分でツッコんでいる。

 しかしそのおかげか、冷静になれたようで、ベッドにへたりと座り込んでし笑う。


「あはは……ごめんメルティナ、変なこと言って、でも聞いてくれるかい?」


 たはは、とまるでエミリアのように笑う。

 それでもその笑顔には、何かを(うった)える強い意思があった。


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