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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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118話【呪印《カースド・エンブレム》】

最近、カクヨムを模倣したコピーサイトが現れました。

読者の皆様も、どうぞお気を付けください。



呪印(カースド・エンブレム)


 ノインが口にしたその名を、リューネが今度は口にした。


「……【呪印(カースド・エンブレム)】……?」


 リューネとレディルはベッドに腰掛け、そしてオルディアは椅子(いす)に座った。

 エリウスは立ったままだが、そんなエリウスに声を掛けてよい雰囲気(ふんいき)ではないと(さと)り、レディルがリューネを座らせたのだった。

 そしてリューネが小さく口にした疑問(ぎもん)に、ノインは(うなず)いて答える。


「うん……【呪印(カースド・エンブレム)】。名前はちょっと物騒(ぶっそう)だけど、簡単に言えば《紋章》だよ。実害(じつがい)は無いから安心していいよ」


 安心していいと言うノインの言葉に、レディルはエリウスの腹に浮かびあがる(すみれ)色の《紋章》をまじまじと見る。


「――へぇ、魔力の(かたまり)だなこりゃ……凝縮(ぎょうしゅく)されたこの魔力の量、こりゃ……《石》のものか?」


 バシッ――!!


「――痛ってぇ!!何すんだよっ!?」


 突然エリウスに(はた)かれて、両手で頭頂部(とうちょうぶ)を押さえる。


「乙女の素肌(すはだ)をまじまじと見てるんじゃないわよ……」


 【魔道具設計の家系(アイテムメーカー)】としての好奇心(こうきしん)(まさ)ったレディルだったが、普通にセクハラだ。

 それでもその《紋章》を見る事を止めず、観察を続ける。


「――レディルの言ってる事は正しいよ」


 二人を見ながら補足(ほそく)するノインだが。半笑いだった。


「この《紋章》はさ、“契約者”の証なんだよ」


「「“契約者”?」」


 リューネとレディルが、ハミングして言う。

 二人は顔を見合わせて、嫌そうに()らす。

 そしてエリウスは、それは知っていると取れるように。


「――そういう意味だったのね」


 しかしノインは、その意味を深く知っているのか。

 慎重(しんちょう)に、けれども(きび)しめにエリウスに問い(ただ)す。


「その【呪印(カースド・エンブレム)】は、本来“契約者”と“契約主”……二人(・・)がいて成立するものだよ。シャル……何の“契約者”になったの?」


 「何の」と言う辺り、ノインはその契約が複数種類あると知っているのだろう。

 猫科の(けもの)特有の細まった眼光(がんこう)で、エリウスを射抜く。


「……」


 その視線(しせん)は責めるものだった。

 しかし、エリウスを心配する優しいものでもあった。


「普通の人間が、“契約者”になるのは負担(ふたん)が大きすぎるんだよ……」


 心配は、エリウスの身体だろう。

 責めるのは、そうさせてしまった原因(げんいん)が、自分だったからだ。

 ノインは、自分を責めているのだ。

 どこか悲しそうで、しかし怒っているようにも取れるノインの態度(たいど)


 だが単純な事に。獣耳と尻尾がへにょ~んとしな垂れ、言葉とは裏腹に、随分(ずいぶん)とへこんでいる事がエリウスには(つた)わった。


「ノイン……(わたくし)は、貴女(あなた)たちを恨んでなどいないの……」


 エリウスは《紋章》の浮かぶ腹を(さす)り、ノインに自分の気持ちを(つた)える。

 それは本心であり、そして感謝でもあった。


「あのまま帝都(ていと)に残っていれば、(わたくし)のちんけな物語は終わっていたでしょう……」


 エリウスの、人生を自虐(じぎゃく)する言葉に、リューネとレディルが。


「そ、そんなことっ!」

「おいおい……自分で言うか?」


 と否定(ひてい)しようとするが、エリウスは手で制しノインに続ける。


「……この力は、“悪魔”ベリアルの力よ……今まで自分たちが利用し、()として来た……【魔石(デビルズストーン)】の力……本人は、【魔石(デビルズストーン)】ではないと言っていたけど」


 考えるようにその言葉を聞いていたノインは。


「……うん。感じるのは、確かに【魔石(デビルズストーン)】なんて小さなものじゃない……でも……はぁ……そっか、所持者でもある……のか……」


 一人納得(なっとく)したように、ノインが頭を(かか)える。

 逆立ちそうな獣耳の毛。ピンと立った尻尾。

 細目がゆっくりと普段の(ひとみ)に戻り、冷静になる。


「さっきも言ったけど、シャルの【呪印(それ)】は……本来、存在する二人(・・・・・・)の証なんだよ」


 レディルが気付いていた事を言う。


「それってつまり、エリウスの相手?“悪魔(ベリアル)”ってやつは何処(どこ)に居んだよ?」


「あ、そうですよね……存在するって事は、近くにいないとおかしいですもんね」


 リューネもそれに続いて疑問(ぎもん)を持つ。

 そして答えは、エリウスが。


「……ここよ。この奥……」


 【呪印(カースド・エンブレム)】を指差して、疲れたように。


「そこ?」


「それって……位置的に……」


「――子宮(しきゅう)。かしらね」


「……趣味(しゅみ)の悪い話だね。その“悪魔”」


 “悪魔”ベリアルの《石》、【欲望の菫青石ディザイア・アイオライト】は、子宮(しきゅう)と一体化している。

 ベリアルいわく、女の一番大事な物、それを依代(よりしろ)にしたのだと。


「――ちょっと待て」


「なに?」


 レディルが、《紋章》を見ながら。


「俺は、似たもの(・・・・)を見たことあるんだが……?」


「似たもの?」


奇遇(きぐう)ね。(わたくし)もよ」


 ()っ気なく言うが、エリウスだって初めから気付いてはいたのだ。

 ただそれは、ある人物と同じになると確信があって、言い出しにくかった。

 言いにくそうにするエリウスとレディルに変わり、完全に答えを知っているノインが()べる。


「――そうだよ。思ってる通り、【召喚師】……エドガー・レオマリスと同じなんだ」


「――あ、そっか……右手」


 リューネも見ていた。

 エドガーの右手の赤い《紋章》。

 そして気付く、対になる人物の《石》も、右手にあったことを。


「《石》の場所に対応してるって事か……だからエリウスの腹に《紋章》が」


「そう。だから心配になる……ただの人間(・・・・・)が、【呪印(それ)】を(きざ)んでいる事がさ……」


 エリウスは【送還師(そうかんし)】ではあるが、【召喚師】ではない。

 ノインが知っている限り、エドガーは既に五人の異世界人と契約をしている筈だ。

 しかも、過去には自分を(ふく)めて更に五人。

 エドガーは、それぞれの《石》に対応した《紋章》を、身体に(きざ)んでいる。


「……つまりなんだ?【召喚師】が大丈夫でも、エリウスは駄目(だめ)って事かよ?」


 レディルが、まるで特別だと言っているように聞こえる【召喚師】と、自分の(あるじ)であるエリウスがどう違うんだと、そう言いたそうに。

 その言葉に対しノインは。


駄目(だめ)ではないよ。問題は、シャルの《石》に“悪魔(・・)がいる事(・・・・)なんだ……」


 (あき)れ半分、驚愕(きょうがく)半分と言った感じに。


「《石》の所持者とは違ってね、“悪魔”は契約を求めるものだ……それがどんなものかは、アタシには分からないけど……所持者である異世界人と契約するのと、“悪魔”が宿った《石》そのものと契約するのじゃ……話が別物だってことだよ」


 ノインは立ち上がり、エリウスの前まで歩む。

 しゃがみ込み、《紋章》――腹に手を当てて。


「……こいつがどんな条件を出して来たのか、分かる?」


「……」


 知っているも何も、エリウスは(すで)にその代償(だいしょう)を支払っている。


「――シャルっ」


「……(たましい)よ。人間の……命、そのも――」


「――馬鹿(ばか)っっ!!」


「「「……!?」」」


 肩を(つか)み、ノインが(さけ)ぶ。

 リューネは口を押えて(おどろ)き、オルディアは怖がるように身体を(ふる)わせ。

 そしてレディルが、大声で気付かれやしないかと部屋の入り口を見た。

 最後に、エリウスが。


「ノ、ノイン……?」


 どうしてそこまで怒るのかと、不思議(ふしぎ)そうにノインの顔を(のぞ)く。


「……いい?シャル。もう使っては駄目(だめ)……絶対に駄目(だめ)。ましてや、魔力の少ない聖王国(ここ)では……地獄(じごく)に片足突っ込んでるんだからねっ!!」


 ノインは分かったのだろう。

 エリウスが聖王国までの道中、ずっと眠っていたのは、(みずか)らの(たましい)を“悪魔”に与えていたからだと。


 しかし、エリウスは返事をしなかった。

 いや、出来なかった。

 答えようとしたその瞬間、また――エリウスは意識を失ってしまったのだった。


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