表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
354/383

116話【召喚師は何処に?】



◇召喚師は何処(どこ)に?◇


 玄関ロビーから大部屋の109号室までは、西に向かって()ぐだ。

 誰も遊んでいない娯楽室(ごらくしつ)を通り過ぎると、大廊下の左方に見える部屋の入り口。


「――あちらになります」


 従業員である女性、メイリンに案内されていく一行だが。

 一人、非常にそわそわしている者がいる。

 フードで完全に隠れてはいるが、(うす)い緑がかった金髪は汗で(ひたい)に張り付き、見られている(・・・・・・)自覚で、手汗はびっしょりだ。


 リューネ・J・ヴァンガード。

 元の名をリューグネルト・ジャルバン。

 この国【リフベイン聖王国】出身であり、エドガーの元・同窓生。

 そして、視線(しせん)(あるじ)――サクヤと、一度剣を(まじ)えた少女だ。


(めちゃくちゃ見られてる……やっぱり、あの時戦った黒髪の子よね?あの後瓦礫(がれき)が落ちてきて、凄く気になっていたけど……無事でよかった、とは……言いづらい状況(じょうきょう)に)


 サクヤの視線(しせん)は、実はこの宿に入った直後からリューネに注がれていた。

 サクヤ自身、ドロシーの事など気にかける事が多くなり、視線(しせん)散漫(さんまん)だが。リューネをよく見て来ているのは確かだ。

 【薄幸(はっこう)法衣(ほうい)】のおかげで、どうやら誤魔化(ごまか)しは効いているようだが。

 流石(さすが)は【忍者】と言った所であり、その観察眼(かんさつがん)は、エリウスたちにとって、今(もっと)も注意しなければいけないものだと感じたリューネ。


(あの従業員の人……ノインさんの態度的(たいどてき)に、多分スノーさんなんだろうけど……さっきからあの子、見てる……よね?)


 リューネとドロシー、両者を観察(かんさつ)しているようなサクヤ。


(エドガー君の(そば)にいるのは……皆、異世界人……そう考えろって言われたけど。うぅ……正確な数が知りたい……)


 不安材料は、なるべく(けず)りたいリューネ。


(それに、エミリアはどう動く?私が戻ってきている事を知ったら……戦いになるかもしれないし)


 ()しくも、入れ違いに近いエミリアとリューネの親友。

 次にあった時は戦う時と。覚悟して離れた故郷(こきょう)

 リューネには、ノインやレディル以上に(かか)える(なや)みが多くなっていた。





「では、何かありましたら……こちらのベルを鳴らしてください。誰かが(まい)りますので……」


「……ありがとう」


 深く頭を下げるメイリンに、ノインが一言述べ。

 支払(しはら)った代金以外の銀貨を一枚渡した。


「……ありがとうございます、では……御用(ごよう)があれば。行きましょうか、ドロシーさん。サクヤも」


「はい……ごゆっくりどうぞ」


「うむ……」


 メイリンはスマートに仕事をこなし、ドロシーは少し安堵(あんど)したように。

 サクヤはまだ(うたが)いの目を向けているが、ゆっくりと閉められるドアを最後までジッと見ていた。


 パタン――。


「「「……」」」


 ノイン、レディル、リューネが(そろ)って。


「「「はぁぁぁぁぁ~~~」」」


 クソでかため息を()いた。

 オルディアは「ふぅ」と一息を()き、ベッドに寝かせたエリウスの様子を見てくれている。


「……どうすんだよ。あの黒髪のチビ、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)見てたぞ……特にリューネ」


「わ、わかってます……だから自重(じちょう)して、レディルさんの後ろに隠れてたんじゃないですか……」


 不安そうに、リューネが言う。

 そしてノインは、荷物(にもつ)を下ろし。


「あのドロシーって従業員がスノーだけど……あいつ多分、襤褸(ぼろ)出したなぁ……」


「そうなんですか?」

「マジかよ……」


 スノードロップの態度(たいど)から、ミスをしてしまったのだと見抜くノイン。


「ここに戻ってきて、多分安心(・・)しちゃったんだよ……それで、どうでもいいミスをしたんだきっと。内容は知らないけどさ……」


 一番冷静(れいせい)に見えても、心の安寧(あんねい)はミスを(さそ)う。

 気を張らなければならない相手が大勢いた事もあるだろうし。

 何より、エドガーと直接会ってしまった事で、緊張の糸が(ゆる)んだのだ。


「まぁ直接バレちゃいないんだし……【福音のマリス(ぜんいん)】に気を付けて行動しようか。()ずは、エリウスが目を覚ます事。次は……隠れ続ける事、エド――【召喚師】にアタシたちの事を告げる事……」


 追手も聖王国に近づいているはずだ。

 皇女(こうじょ)エリウスを追った、【黒銀翼(こくぎんよく)騎士団】が。


「俺らはどーすんだ?顔バレしてんだぜ?」


 レディルとリューネだ。

 エリウスもだが、この部屋にいる以上は安全。

 しかし、問題は一つも解決してはいない。


「そうですよね……一度は敵対していますし、私はこの宿から盗み(・・)もしてます……それに、顔見知りもいますから……」


 レディルはエドガーやローザに顔を見られている(フィルヴィーネも)。

 そしてリューネも、この宿から【化石】を盗み出した罪悪感(ざいあくかん)が後を引く。


「それはアタシ等が何とかするよ。スノーも、ずっとあの姿をしている訳じゃないだろうし……【召喚師(エド)】が……アタシとスノーを――」


 思い出してくれれば。


「ノインさん?」


「――あ、ごめん。とにかく、食事のお願いや入浴なんかは、オルディアに負担(ふたん)をかけちゃうけど……」


 エリウスのフードを脱がせながらオルディアは「が、頑張るっ」と気合を入れる。


「……何かあればこちらから言うって言ったけど……適度(てきど)(あや)しまれにようにしないとね」


 この部屋まで来る途中(とちゅう)、メイリンにノインが説明した。

 その我儘(わがまま)を聞いてくれたお礼の、先程のチップだ。


「それにしてもよぉ」


 レディルがへたり込みながら言う。


「その【召喚師】はどーしたんだよ。いなかったよな?」


「そ、そう言えば……いませんでしたね、エドガー君」


「……《石》を外してるから、気配も分かんないけど。スノーが宿の中にいるんだし、どこかに……いや、多分地下だよ」


 途中(とちゅう)で回答を変え、確信する。

 【召喚の間】で何かをしている。そんな予感(よかん)があったのだ。


「なんで分かんだよ?」


「……【召喚師】は、基本的に【福音のマリス(ここ)】から出ないんだよ。出ない方が強いって言うか……陣地だからね。変な言い方だけど、聖王国内も敵陣のようなものなんだ、【召喚師】にとってはさ」


 今まさに、“召喚”の為の“魔道具”を探しているとは(つゆ)とも知らず。

 ノインは知りうる事をつらつらと。

 それに対して、意外な事にレディルが。


「――いいのかよ、そんな事をペラペラと……(おも)くそ弱点じゃねーか」


 言わば、【召喚師】を引きずり出して戦えばいいのだと言ったようなものだ。

 だがノインは、自信ありげに。


「大丈夫。だって――」


「だって?」


 リューネが復唱(ふくしょう)すると、ノインはリューネとレディルを見やり。

 ニヤリと笑う。そして言う。


「だって……――そのための異世界人なんだから、さ」


 【召喚師】。

 この国で“不遇”職業と(あつか)われる唯一(そんざい)の存在。

 特徴(とくちょう)は、その名の通り“召喚”だ。

 しかし、戦いの場では使えず、時間もかかり道具も必要。

 “召喚”出来る場は【召喚の間】と限られ、戦地ではおそらく足手まとい。


 だが、今代の【召喚師】エドガー・レオマリスはどうだ。

 (みずか)らも剣を持ち、戦いに(のぞ)む少年。


 弱点である自分自身を守らせるために、異世界人と言う超常(ちょうじょう)の存在を呼び出す。

 しかし、その【異世界召喚】と言う力を顕現(けんげん)したのは、かつてエドガー一人。

 長年の“不遇”も、近年の(あつか)いの悪い“不遇”も、十数年前に変わり始めたのだ。


「【召喚師】は変わっていくんだ……エドガー様(・・・・)(きず)いて、エドが変える。アタシたち異世界人を救い……この世界に(みちび)いてくれた恩人(おんじん)


 ノインの言葉は、途轍(とてつ)もなく途方(とほう)で、夢の話だと一蹴(いっしゅう)されてしまう様なものだった。

 しかしレディルもリューネも、固唾(かたず)を飲んで聞き入る。


「きっとこの先……遠くて近い未来、世界は生まれ変わる――っと……こんな話をする予定じゃなかったね……アタシも、帰って来て安心しちゃったみたいだね。忘れて……とは言わないよ」


 そんな途方(とほう)に暮れるようなノインの言葉を――眠っていた筈のエリウスだけが、真実だと理解できた。

 “悪魔”の《石》を(はら)に宿し、魔力を()い続けるベリアルの助言を心の中で聞く。

 そして、ベリアルに見せられた近い未来の映像(ビジョン)を焼き付けて――目を覚ますのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ