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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 2章《忍者VS女子高生》
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29話【甘いワナ】

誤字修正しました。



◇甘いワナ◇


 (ばつ)を受ける覚悟は(すで)に出来ている。

 弟を助けた後、私は地獄へ落ちるだろう。

 それでも――私は――。




 コンコン。


「エドガー君……いるかな?」


 エドガーの部屋でもある、一階ロビーの(そば)にある管理人室。

 そのドアをノックして、リューネは息を飲む。


「――えっ!?……リューグネルト、さん?」


 ホントに来た!?みたいな反応に、リューネの緊張が少しだけ(ゆる)む。


「約束通り来たよ……開けてくれる?」


 別に(かぎ)がかかっている訳ではなさそうだが。

 男に開けさせてこその、女心。


「い、今開けますっ……あの、リューグネルトさん……やっぱりロビーに――っ!!」


 カチャっと部屋のドアを開けて、エドガーは自室から出ようとする。

 このままではマズいと思い、別の場所への移動を提案(ていあん)しようとしたのだが。

 エドガーの前に現れたリューネに、目を奪われてしまう。


「……」


 リューネの格好があまりにも煽情(せんじょう)的で、思わず言葉に()まるエドガー。


「あの……変、かな?」


 リューネの身体は、湯上りの火照(ほて)った(つや)と、生地の薄い紫色のネグリジェに包まれて、エドガーと同世代なのが(うそ)のように色っぽく、(なま)めかしい。


「――っ!!なっ!何でそんな恰好(かっこう)をっ!?」


 思いっきり体を反転させて後ろを向き、エドガーは距離を取ろうと部屋の奥に逃げようとする。


「逃げないでっ。エドガー君っ!」


 しかし、リューネは騎士学校・新三年生の成績第一位だ。

 身体能力ではエドガーには負けない。背を向けるエドガーに思いっ切り抱きつき、そのままベッドに倒れこむ。


「――()っ!!」


 自分の部屋の固いベッドにボフッ!とうつ伏せに押し倒されて、エドガーは赤面しながらテンパる。


「な!なななっ、なんで、な!んでっ!?」


「黙ってエドガー君……(さわ)いだらエミリアが来ちゃうわ」


 そう言って、リューネはエドガーの目元に何かを巻く。

 ()いだことのある(にお)いと不思議な香りが、エドガーの鼻孔(びこう)(くすぐ)った。


「――冷たっ!?」


「あ、ゴメンね。でも……私も恥ずかしいから……」


 ――(うそ)だ。


「ねぇ。コレ……なんだと思う?」


 蠱惑(こわく)的な声を出して、エドガーの耳を(まど)わすリューネ。


「な……何ですか?」


「私……湯上りなのよ?」


「――!!」


 エドガーでも気付く。リューネは、自分の身体を拭いたタオルで、エドガーを目隠ししたのだった。


「……正解」


 キュポンっと、何か(びん)の様な物を開ける音が響いた。


「コレね、いい香りのする芳香薬(ほうこうやく)なんだけど、多分エドガー君も気に入ってくれると思うな……」


「あ、あの……何をしようとしてます……?」


 緊張と不安に()られるエドガーは、何故(なぜ)こんなことになっているのかを考える。


「……何って」


 リューネは「分かってるくせに……」と言って笑う。

 そんなリューネの言葉に、エドガーは更に緊張する。

 エドガーだって健全な青少年だ。期待が無かったと言えば完全な(うそ)になる。


 でも、こんなこと。今までのエドガー・レオマリスの人生にはあり得ないことだ。

 ローザと出会って、人生が変わり始めた。

 自覚は少しずつ出始めている、が。

 こんなことが簡単に()い降りてくる様な事を考えるほど、エドガーは楽観(らっかん)的ではない。


(彼女が何を考えているのかが、まるで分からないけど……これだけは言える)


 エドガーは、心の中で結論(けつろん)付ける。

 タオルで隠された目を見開いて、この状況を(だっ)する(ため)に考える。


(どうにかしないと。それに、エミリアやローザに見られたら――死ぬっ!!)


 そう。エドガーが、こんな蠱惑(こわく)的な美少女であるリューネに迫られて流されないのは、(ひとえ)に、ローザとエミリアの存在が大きい。


「リューグネルトさん……話があるなら聞きますよ……だから、一旦どきましょう、ね?」


 焦りと自分の未来への不安半分、リューネへの心配半分で、彼女の説得(せっとく)(こころ)みる。


「……」


「あの。リューグネルトさん……?」


 彼女は無言だった。

 でも()ぐに。


「――エドガー君……何を言ってるの……?」


 キョトンとした返答がエドガーの耳に入ってきて、変な声を出す。


「はぇっ!?」


 見事に格好(かっこう)悪い、変な声が出てしまった。





 エドガーは、リューネにこんな事をしている理由を聞いた。


「ま、マッサージ。ですか?」


「うん。そう」


 相変わらずうつ伏せで目隠しをされているが、リューネは事情を話し始めてくれた。


「私ね。整体師(せいたいし)に興味があるの」


整体師(せいたいし)、ですか?」


「そう。マッサージとか、すっごい得意なんだから!」


 声が(はず)むリューネ。これだけは――事実だ。


寄宿舎(きしゅくしゃ)では、同窓生や先輩達に、沢山施術(せじゅつ)したのよ……?」


 「趣味のようなものだけど」と謙遜(けんそん)するも、リューネのマッサージは、どうやら騎士学校では有名だったらしい。


「女子たちには沢山してきたから慣れてるんだけどね、男の人はまだ……ちょっとね」


 だから練習させてほしい。そういう事らしい。

 勿論、これは真っ赤な(うそ)だが、リューネのこの話術は(たく)みに人を信じさせる。


「な、なんだ……そうならそうと言ってくれれば……」


 そう言って、エドガーは目隠しを外そうとタオルに手をかけようとしたが。


 ――バッシャァァァァァン!!


「――な、何の音っ!?――そう言えば、さっきも鳴りましたよね!?」


 今度こそタオルを取ろうとしたエドガー。


「それは、ダ~メっ!」


 リューネに、身体全体で(おさ)えられて動きを封じられる。


「ええっ!なんでっ!?」


「ふふっ。いいからいいから……♪」


 そうして、リューネのマッサージは始まってしまった。





 一方、大浴場では。


「で……?話ってなにかしら?」


 茹蛸(ゆでだこ)状態のエミリア。

 ローザは、エミリアの真っ赤になったお尻を()みながら話す。


「ううぅ」


 ふしゅぅ~と息を()き、涙目になるエミリア。


「エミリア。貴女(あなた)意外と学ばないわね……」


 (あき)れるローザ。

 学ばないエミリアは、またも高温の湯船に投げられていたのだった。

 先程の音は、エミリアがお尻から投げられた音だ。


「だってローザの胸がぁ!」


 涙目で、ローザの胸を(うらや)むエミリア。


「――だってじゃないわよ」


 ローザからすれば、あげられるものなら差し上げたいくらいなのだ。

 今日、これ程までにこの胸をコンプレックスに感じたことは無い。

 財布(さいふ)を落とし、足元に落ちている事にも気づかず慌てた事は、恥ずかしいのでエミリアには言わない。絶対言わない。


「で?……話す?」


 ローザは、()みつける足に力を込める。

 エミリアは「きゅ~」っと敗北し。


「うぅ……話す」





 エミリアによると、ローザの存在は今は隠しておきたいとの事だ。

 出かける時は、この赤い髪を隠して出歩くこと。無暗(むやみ)に炎を使わない事、などを言われた。

 二人は今、エミリアに合わせて(ぬる)めの湯船に()かっている。

 ローザは何と三回目の入浴になる。この短時間で三度も湯船に()かっていたら肌がふやっふやになりそうなものだが。

 ローザは、ちゃぱちゃぱとお湯をかき混ぜながら。


「それにしても、あの子がエドガーの妹……ね」


 リエレーネにエミリアが聞いた話は、やはりローザで大正解だった。


(まさか……財布(さいふ)の事を、(すで)にエミリアが知っていたなんて……恥ずかしい)


 先程の決意は無かったことにしたい。


「うん。私、本当に驚いたんだからっ」


 初めてリエレーネにエミリアが聞いた時、本当に驚かされた。

 今ローザも驚いてはいるが、ローザの中では恥ずかしさが(まさ)っていた。


「でも。外に出にくくなるのは嫌ね……折角(せっかく)楽しみが出来たのに」


「ごめん……でも、今だけだから……ふぅ」


 エミリアはお湯の暑さに(たま)らず、ザバリと洗い場に向かう。


「……どういうこと?」


 今だけ。と言うエミリアの背に、ローザは声を掛ける。

 エドガーには言っていないが、エミリアとアルベールで考えていることがある。


「うん。小さいけどさ。屋敷(やしき)が完成すれば、もっと自由に出来るからね……」


 実は、アルベールが【聖騎士】に成った祝いとして、アルベールは屋敷を建てることになっている。それまでは褒美の屋敷に住むらしい。

 ロヴァルト家が負担して建てるその屋敷を、ローザの為に使用すればいいと考えていた。

 これはアルベールが言い出した事だが、エミリアも全面的に同意した。


「屋敷なんていらないわよ……お兄さんにもそう(つた)えてちょうだい」


「えっ、なんで!?」


 洗い場に移動して、髪を洗いながらもエミリアは疑問に思う。


「屋敷があった方がいいでしょ?絶対この宿にいるより自由に出来るはずだしさ」


「エドガーはどうするのよ……私、エドガーと(あま)り離れられないのよ?」


「――えっ、なにそれ!?聞いてないよ!」


 (おけ)に入れたお湯を頭にかけて、ローザの答えに驚くエミリア。


「言ってないからね……これは“召喚”の契約効果だと思うけれど……離れれば離れる程、力が弱まるのよ」


 実はこの効果は、今日の昼にも発動していたのだ。

 だからエドガーは、必死にローザを探した。


「ある程度の距離(きょり)なら何とかなるけれど……そもそも力が弱まってたりしたら、多分無理だと思うわ……」


「は、離れ過ぎたら?」


 湯船に()かるローザの方を向き、エミリアが聞いてくる。


「――さあね。死ぬとか?」


「――そんなっ!」


 限りなく、死に近い事が起きるのは確かだろう。

 それが、異世界人の契約と言うものらしい。


「……結果は分からないのよ。とても試せることじゃないしね……」


 少なくとも、今のローザがこの国を一人で出ることは出来ない。

 ローザはエドガーから離れるつもりなどないから、意味はないが。

 これはエミリアには言わない。(がら)にもなくしんみりしているエミリアに、ローザはお湯を掛ける。


「――ばっ!あっっつ……くない」


 二度の熱湯ダメージの反動か、咄嗟(とっさ)に熱いと口に出てしまったエミリア。

 これは普通のお湯だった。


「……フフッ」


「な、なによぉ」


「いいえ。なんでもないわ……」


 笑みをこぼしながら、二人は大浴場を堪能(たんのう)した。





 鼻孔(びこう)(くすぐ)る甘い香りが、まるで脳の中まで入り込んでいくみたいに、エドガーは睡魔(すいま)に襲われていた。


(なんだこれ……滅茶苦茶(めちゃくちゃ)眠い……)


 リューネからマッサージを受け始めて、まだそう時間は経っていない。

 それなのに、(すで)に何日も徹夜(てつや)しているような眠気が、(まぶた)を襲う。


「どうかな?気持ちいいでしょう?」


「――あ。……はい」


 意識も朦朧(もうろう)とし始めて、リューネの声がはるか遠くに聞こえる。


(もう少しね……ゴメン、エドガー君)


 リューネの目的の為、エドガーには眠ってもらう。

 初めから、エドガーに害を加える気はない。この王都で、この少年は“不遇”な扱いを受けているらしい。

 だが【リフベイン聖王国】の最南で、かなりの田舎出身のリューネは知らない。


 特別に調合された芳香薬(ほうこうやく)、男性のみに効く不思議な効能は、本来ならばエドガーの意識などとっくに()り取っているはずなのだが。


(凄いわね……精神力が)


 正確には魔力に分類される()()は、エドガーの右手にある。

 契約の《紋章》として発動しているこの《紋章》は、ローザの【消えない種火】とほぼ同等の効果を持つ。

 

 その一。状態の変化への対抗力(たいこうりょく)がものすごく高い。

 しかし、常に発動している訳では無く、任意での発動を主とする。

 その為、エドガーは睡魔(すいま)に負けそうになっている。おそらく時間の問題だ。


「……」


「眠かったら寝てもいいよ?」


「あ。ふぁい……」


 呂律(ろれつ)も回らなくなり、いよいよ夢の国へと出発しようかと。

 意識を手放そうとした。――その時。


 バッシャァァァァァン!!


 先程も聞こえた水音が、また聞こえた。


「っ!!」

(さっきからなんなのっ!コレ、エミリアでしょっ!?エドガー君が起きちゃ――)


 故意(こい)ではないにせよ、邪魔するエミリアへの(いら)立ちと作戦の失敗という恐怖が、リューネを(あせ)らせる。


「――すぅ……すぅ」


「……ね、た?」


 大きな水音にも気付かず、エドガーは眠りに落ちていた。


「よし……後はっ」


 リューネは()ぐにベッドから退()き、部屋を見渡す。


「……な、なにこれ――どれが“魔道具”なのよ……?」


 正直、この国の常人にはどれも同じゴミに見えるだろう。

 そんなリューネにも、目が()かれた物があった。

 木のラック、その真ん中に鎮座(ちんざ)する小汚い《石》。


「――コレって」


 リューネは自然と手を伸ばし、その《石》を(つか)んだ。




「あっつぅぅぅぅいっ!!」


 三度目。またまた熱湯に放り投げられたエミリア。


「エミリア……貴女(あなた)本当に【聖騎士】になりたいの……?」


 茹蛸(ゆでだこ)は、またもローザの胸に手を出した。

 今度は叩くだけではなく、()みしだいたのだ。それは投げられるだろう。


「だって、だってぇっ!!」


 どうも()りない茹蛸(ゆでだこ)、もといエミリアは。


「私も欲しかったぁ……おっきなオッパイ!」


 目を見開いて、無謀(むぼう)願望(がんぼう)を叫ぶエミリア。


「頭、大丈夫……?」


 投げられすぎておかしくなったかと思うくらい、エミリアの行動は突然だった。


「成長期でしょ……?まだ大きくなるわよ」


「――無理だよっ!だって母様も小さいもん!」


 何故(なぜ)か、唐突(とうとつ)に自分の母親を口撃(こうげき)する。


「フッ。――フフ」


 可笑(おか)しくなったローザはつい笑ってしまう。

 日常を楽しみ初め、明るくこの世界を受け入れていくようなそんな笑顔。

 ――が、突然。


「――くっ!――あっ!」


「――えっ?……ローザっ!?」


 今まで笑っていたローザが、突然右手を押さえて(うずくま)る。


「ローザっ!どうしたの!?大丈夫……!?」


 バテていたエミリアも、ローザの苦しみ方に異常を感じ、()ぐに()け寄る。


「だ、いじょうぶよ……でも、この痛み……」

(まさか……エドガーに何か起きた……?)


 不自然な痛み、唯一“契約者”と繋がっている右手の痛みに、ローザは感付く。


「エミリア。すぐにエドガーの所に行くわよ。まずいかも知れないわ」


「え、え?」


 驚くエミリアだが、彼女にも心当たりがある。


「――あっ。まさか、リュ、リューネ……!」


「……なに?あの子がどうかした?」


 立ち上がり、息を()いて心臓の鼓動(こどう)を落ち着かせる。


「い、いや……リューネがエドに話があるって……だから今日、来たん、だけ、ど」


貴女(あなた)ね……最初に言いなさいよ」


 エミリアの心当たりにローザは(あき)れる。

 お仕置きにデコピンしてあげた。


「あだっ!!――うぅ……ご、ごめん」


 デコを押さえてローザに謝る。


「いいわ、とにかく行くわよエミリア」


 痛みが引いたらしいローザが、脱衣所に向かう。エミリアも急いでついていった。


「う、うん、多分エドの部屋だから……」


 二人は着替える(ひま)もなく。

 バスタオルだけを身体に巻いて、エドガーの所へ向かった。





 人の気配が感じられない部屋、その部屋のドアの前で、ローザ、そしてエミリアが待機する。

 ローザは、(あご)でエミリアに合図し、エミリアは行動を開始する。


「エドっ!!」


 バタンとドアを()破り、エミリアは部屋に突入する。


「……」


 エドガーはベッドで横になっている。が、そのエドガーを見たエミリアは。


「あ、あぁ……エド、エドォォ!!」


 安らかな顔をして眠るエドガーに、大切な人が死んでいると、そう錯覚(さっかく)して、混乱するエミリア。


「落ち着きなさいって……」


 エミリアの後ろから来たローザが、エミリアの(ほほ)をつまんで思いっ切り引っ張る。


「にゃ、にゃにぉ……」


「エドガーに何かあったら私にも何か異常があるわ、だからエドガーも大丈夫。寝てるだけよ」


 ゆっくりと近付き、エドガーの口元に耳を近付けるローザとエミリア。

 すぅ。っと聞こえ、エミリアは安心する。


「よかったぁ」


 ベッドの横にへたり込むエミリア。ローザは、そのベッドの横にある(たな)を見る。


「――っ!コレね」


 ベッドの横の(たな)に置かれていた、エドガーの部屋に似合わない可愛い小瓶(こびん)を取り。

 ――ゴウッ!と、(びん)から中身の液体までを、一瞬で燃やしてしまう。


「わっ!な、何だったの。それ?」


 一瞬生まれた炎に、エミリアは驚く。


睡眠薬(すいみんやく)みたいなものね、()ぐタイプの」


「それをリューネが……?」


「エドガーが自分から使うとは思えないし、まぁ、そうでしょうね」


 エドガーの目元に巻かれたタオルを確認して、ローザが答える。


「私、部屋に行ってくる!ローザはエドを起こしててっ!」


「エミリアっ!ちょっと待ちなさいっ……行っても多分――」


 ローザの答えを聞く前に、エミリアは疾風(しっぷう)(ごと)くエドガーの部屋を飛び出していった。パサリと、何かが落ちたのも気付かないままに。


「……(いのしし)みたいね……」


 (あき)れて追うのを止めたローザは、エドガーを起こしにかかる。


「さてと。この“契約者”君を起こさないとね」


 そういいつつ、誰かさんが落としていったバスタオルを拾うのだった。





「リューネェェェェっ!!」


 先程よりも強く。ドアを勢いよく()り開け、エミリアは飛び入る。


「リューネ!!エドに何をしたのっ!?何が目的!?一体どういう……話を……した……の?」


 居ない。


「あれ……そ、そういえば」


 タラーっと一筋(ひとすじ)汗を流し「多分居ない」的な事をローザに言われたような気がする。


「ってあれ!?た、タオルがないっ……!あれれ!?」


 部屋から顔を出して廊下(ろうか)を確認するが、エミリアの身体を(まと)っていたはずのバスタオルは、落ちていない。


「――やっちゃった」


 もし【福音のマリス】に客が入っていたら、エミリアはお嫁にいけないところだったかもしれない。

 エドガーには悪いが、今日ばかりは閑古鳥(かんこどり)の鳴くこの宿に感謝したい。

 それでも、全裸で宿中(やどじゅう)を走り回った事実は消えないのだが。

 エミリアは着替えを、と思ったが。


「あ……だ、脱衣所じゃん」


 ガックリと項垂(うなだ)れる。


「仕方ないよね……?エドがまだ起きてませんようにっ!」


 エドガーの部屋までバスタオルを取りに行く。そう決意した。

 今、この宿に三人の他は誰もいないというのに、なぜ脱衣所に着替えに行くという発想が出なかったのだろうか。


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