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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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ショートストーリー【異世界人お風呂談義】



◇異世界人お風呂談義◇


 これはいつの事だったか。メルティナが“召喚”されて、エミリアとセイドリック・シュダイハの決闘を終えた後の話だった筈だ。

 その日、宿屋【福音のマリス】では異世界から“召喚”された女性陣で、お風呂会議が行われていた。


「【忍者】、シャンプー取って?」


「しゃ、しゃんぷう……これだな?」


「そ、あんがと」


 異世界【地球】の【女子高生】サクラが(かばん)から取り出した、自分の世界の道具は、この発展の(とぼ)しい世界では非常に貴重で、かつ物凄い高性能だった。

 透明(とうめい)なボトルを手に取りサクラに渡すのは、同じく異世界【地球】から“召喚”された少女、サクヤ。

 彼女は、サクラとは生きていた時代が違うらしく、価値観(かちかん)や考え方が大幅に違うのだ。

 それでもサクラに文句もなく接するのは、何か特別な思いを(いだ)いているようにも思えた。


「――これ、本当に凄いわね……数日髪が綺麗(きれい)でいられるもの。私のいた世界では考えられないわ」


 サクラの横でシャンプーを受け取り、自分も(ため)す女性。

 シャンプーなど使わなくても十分に綺麗(きれい)な髪だったが、その燃えるような赤い髪は、更に(かがや)いているように感じられた。


「……ローザさんには必要ないんじゃないですか?」


「確かに。(よご)れているようにも見えんしな」


 ロザリーム・シャル・ブラストリア。

 愛称(あいしょう)ローザと呼ばれるこの女性は、《剣と魔法の世界》から“召喚”された、どこぞの国のお姫様だ。

 しかし、それをひけらかす事無く、この二人の少女にも、他の誰にでも同じく(せっ)する。


「そんなこと無いわよ。サクラのこのソープがあるから、更に綺麗(きれい)でいられるのだから」


「さ、更にって……」


 モデルのような身長に、大きな胸、くびれは流麗(りゅうれい)で、臀部(でんぶ)は張りがあり上がっている。

 まさに、美人中の美人と言えた。


「ローザ殿はお顔も(ととの)っておられるからな。その上そのお身体……主殿(あるじどの)も目を(うば)われる筈だ」


 うむうむと、一人納得(なっとく)するサクヤ。


「そう?ありがとう」


 わしゃわしゃと髪を洗うローザは、思い切り目を(つぶ)っている。

 まるで泡が怖いかのように。そんな事を、サクラもサクヤも気付くことなく(おけ)に入ったお湯で洗い流して、湯船に向かう。


「お、いいお湯だな!」


「そうね」


「だね!」


 今日のお湯は高温だ。55℃を超えており、中々入れる人はいないだろう。

 いつもはもっと低いのだが、今日はこの高温好きの三人が最後の入浴だ。

 (すで)に従業員のメイリンとその母が入り、残すところは自分達だけという事なので、熱湯(ねっとう)と化していた。


「……――その温度は危険ではありませんか?」


 まさしく水を注すように、後方から声を掛ける、もう一人の異世界人。

 皆と同じく裸なのだが、(かたく)なに湯船に入ろうとしないこの女性。

 名をメルティナ・アヴルスベイブと言い、最近仲間入りしたばかりの女性だった。


「メルも入ったらいいのに。機械なんでしょ?」


「イエス。内臓……いえワタシの場合内蔵でしょうか。ああ、とにかく、身体には良くありません。適温(てきおん)で入るべきです」


 メルティナは、“召喚”される前は人工知能と言うものだったらしい。

 “召喚”される(さい)に、作り変えられて人間の身体を()たらしいのだが、その内臓には極小のナノマシンが(いく)つも内蔵されていた。

 内蔵と内臓がややこしい……


「ワタシの身体に搭載(とうさい)されているマシンは、そこまで熱に強くありません。多少は平気でしょうが、数値に誤差(ごさ)(しょう)じる可能性がありますので、熱には注意すべきなのです」


「あーはいはい」


「つまりは嫌なのでしょう?」


「なるほど。メル殿は熱に弱いのか」


 三人は相手にしない。高温の湯が好きなのに、どうしてわざわざぬるま湯に入らねばならんのだと、まるで話を聞こうとしない。

 ましてや、一応は宿の(あるじ)に言われた通りに、高温組は最後の入浴なのだから。


「ストップ!話を聞いていますか?聞いていませんね!?」


「はいはい、分かったって。水出せばいいんでしょ?」


 サクラはお湯の量を調節(ちょうせつ)する。

 チョロっとだけ、水が出た。


「――意味がありませんよっ!」


「私達はルールに(したが)っているわ。貴女(あなた)も入りたいなら、他の時間に入りなさい。というか、湯船はもう二箇所(にかしょ)あるでしょう?そこは熱くないわよ」


 その通りだった。この温泉は湯船が三箇所(さんかしょ)あり、順に水、常温、常温となっている。

 その一箇所(いっかしょ)を高温に変えて、この三人は入浴しているのだから、文句を言われる筋合いはないのだ。


「ノー!そういう事ではありません!熱さが問題なのです!」


 メルティナが言いたいのは、健康面を考えてだ。

 今後も戦いが起こると考え、体調は考慮(こうりょ)しなければいけない。


「ぬるま湯に長湯するなどすれば、代謝(たいしゃ)は上がります!そこまでの高温では、細胞(さいぼう)が死にますよ!?」


「メルは分かってないなぁ」


「そうだぞメル殿。熱いお湯は精神統一(せいしんとういつ)にもいい、修行(しゅぎょう)にもいいのだ」


「い、いえ……ですから、体温を上げ過ぎては……」


 何を言っても分かってくれそうにはない。

 ならば無理矢理にでもと考えるが、ローザの視線(しせん)が痛い。


「メルもさ、一度入って見ればいいじゃん」


「そうだな。それがいいぞ!」


 サクラとサクヤの二人が、ざばっと立ち上がってメルティナの方に向かう。


「――身体が真っ赤ではありませんか!!何故(なぜ)平気なのですかっっ」


「慣れよ慣れ」

「もう慣れた」

「私はそもそも熱くない」


 黒髪の少女二人は身体が真っ赤だ。

 それこそ茹蛸(ゆでだこ)のように。しかし、ローザは汗すら()いていない。平然として、普通の入浴だ。


「――はっ!」


 ローザの異常なまでの熱耐性(ねつたいせい)啞然(あぜん)としていたメルティナは、左右の脇を(かか)えられている事に気付いた。

 しかし残念ながら、もう遅かった。


「いや、ちょ……待ちましょう!サクラ!サクヤ!ストップ!ステイ!」


「聞こえんなぁ~」


「わたしは言葉の意味が分からぬ」


 二人共ニヤニヤしている。

 こういうところ、本当にそっくりだ。


「ふざけ……あっ!まっ!――やっ」


 (かか)えられて、脚を浮かせる。

 我儘(わがまま)を言う子供が連れて行かれるような体勢(たいせい)で、メルティナの尻がお湯に付く。


「――あ!!っっっつーーーーーい!!」


 ()ね上がって悲鳴をあげる。

 本当に人工知能なのだろうかと思わせる程、人らしい悲鳴だった。





 渋々(しぶしぶ)ぬるま湯に()かり、高温組を(にら)む。

 その刺々(とげとげ)しい視線(しせん)に、流石(さすが)にやり過ぎたと(あやま)る。


「……」


「ごめんって、メル……でもほら、気持ちいいでしょ?」


「……」


「す、すまぬ……メル殿、ちとはしゃぎ過ぎた……反省(はんせい)している」


「……」


「いや……私は何もしてないでしょう?」


 確かに。ローザは一人で入浴を楽しんでいただけだ。


不思議(ふしぎ)でなりません。人間と言うものは、そこまでお湯に入る必要があるのですか?」


 人工知能だったメルティナには、理解し(がた)かった。

 人間の身体を()て、食事や睡眠を必要な身体になってしまった事を、少し後悔しているのだ。

 “召喚”された間際(まぎわ)は、まだ機械っぽさも残っていたのだが、エドガー・レオマリスをマスターと認めた瞬間にそれは起こった。


 外装の解除(かいじょ)と共に、素肌が露出(ろしゅつ)した。

 ケーブルらしきものが接続されていた関節部なども、完全に人間のような間接に変化し、見た目だけでは判断しにくい所まで変化していた。

 一部、名残(なごり)と言える程度の線が残っているが、遠めに見ただけでは分からない。


 内部も、超技術と言えるもので作られており、人間の体内構造とほぼ同じとなっている。

 ただし、関節の一部に球体モジュールが。

 眼球には投影機(とうえいき)、脳内には高性能コンピューターが超小型化されて内蔵されている。

 更には、生殖器(せいしょくき)なども完全に再現されており、そういう行為も可能だ。

 メルティナにそういう概念(がいねん)はないので、自覚しているかどうかは(あや)しいが。


「必要とか()らないとか、そういう理屈で入浴をしている訳ではないわよ……」


 ローザが、ぬるま湯のメルティナに向けて言う。

 ()った髪がお湯で()れて、首筋に(いく)らか張り付いているが、それが(なま)めかしかった。


「どういう意味ですか?」


「エドガーに(くさ)いと思われたいの?」


「!!」


 言われた瞬間、想像してしまった。


『あれ、メルティナ……なんだか油臭(あぶらくさ)いね』


「ノ、ノー……」


「うわぁ……あたしも想像しちゃったよ……」


「わ、わたしもだ……立ち直れない」


 入浴が(さか)んではないこの国で、現地民(げんちみん)のエドガーや、幼馴染のエミリアですら習慣(しゅうかん)にしているのだ。

 それはつまり、理由があるからに他ならない。


「男の子にしたら、気にしないのかもしれないけどさ……汗の(にお)いは()がれたくないよね?」


「……イエス。サクラの言う事は、理解できます」


「でしょ?なら、身体を()くだけじゃなくて、こうやって一緒に入ろーよ」


「い、いえ……一緒にも無理です」


「なんでっ!?」


 (かたく)なだった。

 メルティナにも、何故(なぜ)かは分からない。

 ただ、何故(なぜ)か嫌なのだ。湯船が。

 今は渋々(しぶしぶ)入ってはいるが、すぐにでも飛行して逃げ出したい。


 ただ、(よご)れを落とすと言う行為自体は嫌いではない。

 機動兵装【ランデルング】のインターフェースだった時も、前マスターのティーナ・アヴルスベイブがボディを洗浄(せんじょう)しているのを何度も見て来た。

 鼻歌交じりで、機嫌よく洗っていたのだが。

 今思い出すと、その洗っていた洗剤(せんざい)が“トイレ用”と書かれていた気がする。


「マスターに嫌われたくはないので、洗浄(せんじょう)はします……ですが、湯船は極力(きょくりょく)入りません。これは絶対です」


洗浄(せんじょう)て……」


「メル殿には湯船の良さが分からなかったか……残念だが致し方あるまいな」


「好きにさせなさいよ」


 そんな事を言いながら、異世界人の四人は談笑(だんしょう)する。

 そう言えば、エミリアも湯船が苦手そうだったなとローザは思っていたが、口にはしなかった。

 茹蛸(ゆでだこ)になったエミリアを思い出して微笑(びしょう)し、ローザは湯船から出る。


「――さ、上がって食事にしましょう。エドガーの事だから、私達を待っているわよ?」


「それもそーだね」


「イ、イエス……」

(メモリがボーっとしているのですが……)


 四人は大浴場を出て、着替え、食堂に向かうのだった。

 《契約者》であるエドガーが待つであろう、楽しい食卓へ。




~異世界人お風呂談義~ 終。


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