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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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110話【出兵の時1】



出兵(しゅっぺい)の時1◇


 ローザとの話は楽しかった。

 準備(じゅんび)を手伝いながら、ローザはエミリアの心境(しんきょう)を聞いた。

 その惚気(のろけ)のような話に顔を赤く染めたり、言い(よど)んだりと、時間はあっと言う間に()ぎた。


「あっ……と。そろそろ時間だね……行かなきゃ」


 【聖騎士】で新たに派兵(はへい)されるのは、エミリアとノエルディアだ。

 それに加えて、帰城(きじょう)したばかりではあるが、先輩(せんぱい)【聖騎士】オルドリン・スファイリーズも、また向かう事が決まっていた。


「――エミリア。エドガーたちには会わなくてもいいの?【下町第四区画(アル・フリート)】の関所に移動したら、明日には出兵(しゅっぺい)でしょう?もう、自由時間はないのではない?」


 たち(・・)とは、他の異世界人の事だ。

 エドガーとは昨夜(さくや)に話せたことで、気持ち的に区切りは出来た。だが、サクラやサクヤ、メルティナはどうだろう。


「……うん。平気だよ……わたし、ちゃんと帰ってくるからさ」


 エミリアは笑顔で言う。もう死への恐怖(きょうふ)はない。

 全て払拭(ふっしょく)出来た訳ではないだろうが、少なくとも恐怖(きょうふ)(おび)えて、取り(みだ)すような事はしない筈だ。


「そう……ならいいわ。戦いが起こらない事、(ねが)ってる……」


「――うん!ありがとっ!!」


「……っと、その前にエミリア」


「ん?なに?」


 ローザは右手を差し出し、エミリアに何かを催促(さいそく)する仕草(しぐさ)をする。

 なんとなく、手を乗せてみると。


「――違うわよっ。槍よ槍……直すって約束したでしょう?」


「あ、ああ……」


 思い出したかのように、エミリアは【勇炎の槍(ブレイジング・スピア)】をケースから取り出し、持ってきながら言う。


「でも本当にいいの?魔力使っても……」


 受け取るローザは、()っすら(はい)が入ったその槍の刃を眺め。


「最低限はね……それに約束したし。戦いに行くのに武器が不安だと身も入らないわ」


「それはそう……だけどさ」


 「本当に大丈夫?」とローザを心配するエミリアに、ローザはウインクをして。


「任せなさい。オーラを(まと)わせる応急処置をするから。余程(よほど)の固さじゃなければ()れないはずよ」


 右手を(かか)げ、火の粉を出現させるローザの顔は。

 友の為に最善(さいぜん)()くしたいと言う思いと、これから(ため)す事が出来る自分の力の、両方を体現した笑顔だった。


「……お願い。ローザ」


 ローザの心配そうな、それでも優しく微笑(ほほえ)みかけてくれた笑顔を、エミリアは生涯(しょうがい)忘れないだろう。





 ローザは、エドガーがエミリアの為に“召喚”をしようとしている事を言わなかった。

 理由二つ。一つは、気負(きお)わせたくないと言う思いからだ。

 戦争(せんそう)が起こらなければそれでよし、起こってしまった場合でも、エミリアが気軽に行動できるように、()えて余計(よけい)な事は言わないでおこうと思ったのだ。


 二つ目は、エドガーが“召喚”を確実に成功させられるかの問題だ。

 エドガーが今回“召喚”しようとしている物は人物ではない。

 ――()だ。


 成功例は勿論(もちろん)無い。

 何せ【異世界召喚】では無いのだから、通常の“召喚”と言う事になる。

 それはつまり、エドガーは“召喚”のルール上、槍のパーツを一つ一つ“召喚”しなければならない。

 それがエドガーの“召喚”の(かせ)だ。

 物によっては時間もかかるし、魔力が増えているとはいえ(いく)つのパーツを“召喚”すれば槍を造れるかなど、分かりはしない。

 過度(かど)な期待をエミリアにさせてはいけないと、エドガーと相談(そうだん)して(だま)っていることにしたのだ。

 だがしかし、急ぐに()したことはない。

 きっと今日からでも、エドガーは“召喚”に入るだろう。


 ローザは、そんな思いを(かか)えながらも、空から(・・・)エミリアを見守る。


「……」

(魔力付与(エンチャント)はうまくいった……これで、武器の心配はない。あとは……)


 背に生えた赤い翼は、メラメラと()らめく炎だ。

 空中で足を組み、王城から出てくる馬車を見つめて。


「――頑張りなさい……エミリア」


 そう言い残して、ローザは翼から生まれた出た炎と共に、姿を消した。





 【リフベイン城】から出兵(しゅっぺい)した馬車は二台。

 その馬車内には、【聖騎士】が三人、【従騎士(じゅうきし)】が三人乗っている。


 前方の馬車に【従騎士(じゅうきし)】が、後ろの馬車には【聖騎士】が乗っていた。

 今出発したエミリアたちは、今日一日【下町第四区画(アル・フリート)】の関所で待機し、翌朝完全に王都を出る。

 今日は前準備と言う訳だ。

 それでも、エミリアにとっては今朝が知り合いに会える最後の時間。

 それを分かって、ローザも会いに来てくれたのだ。


「……き、緊張しますね……」


 前方の馬車で、胸の鼓動(こどう)にハラハラするのは、レミーユ・マスケティーエット。

 エミリアの【従騎士(じゅうきし)】だ。

 それに答えるのは。


「そ、そうですね……補助要員(ほじょよういん)とは言え、戦争(せんそう)なんて……生きている内に起こるとは思いませんでした」


 明るい茶髪の少女、リエレーネ・レオマリス。

 エドガーの妹にして、ノエルディアの【従騎士(じゅうきし)】。

 そしてもう一人。一番緊張気味の少年(・・)がいた。

 その少年に、リエレーネは気を遣うように声を掛ける。


「大丈夫ですか?――ゼレンさん」


「……――だ、大丈夫です!」


 真っ白い顔で、リエレーネの言葉に返答する。

 声は上ずり、緊張で身体はカチコチだ。


 この少年の名は、ゼレン・ホロート。

 つい昨日、【聖騎士】オルドリン・スファイリーズの【従騎士(じゅうきし)】になったばかりの、新人中の新人だった。


「大丈夫には見えませんけど……」


「そうですね……ゼレンさんの緊張がうつりそうです」


 少女二人に言われる16歳の少年。

 このゼレンと言う少年は、騎士学生ではない。

 幼い頃から警備隊(けいびたい)所属(しょぞく)する、平民生まれの兵士だった。

 しかし、その剣の腕を買われてオルドリンの【従騎士(じゅうきし)】に選ばれた逸材(いつざい)

 この蒼白(そうはく)では信用してもらえないかもしれないが。


「本当に大丈夫ですからっ!平民生まれの俺なんかが、オルドリン様の【従騎士(じゅうきし)】なんかに選んでいただけて……それだけでも感謝しきれないのに、まさか国を守る為の戦いに参加できるなんて……感激しているんです!」


 興奮気味(こうふんぎみ)に早口で話すゼレン。

 落ち着かせるように、リエレーネは自分たちの仕事を説明する。


「――私たちは、補助要因(ほじょよういん)ですよ……現在の【従騎士(じゅうきし)】は、その(ほとん)どが10代の子供です――自分で言ってて馬鹿らしいですけど、正式に派兵(はへい)されたのは【聖騎士】のお三方で、私たち【従騎士(じゅうきし)】は、そのお世話係としてついて行くだけです……戦いには参加しませんよ。それに、まだ戦争(せんそう)が起こるとは限りませんから」


 その通りだ。リエレーネ、レミーユ、そしてゼレンの三人は、【聖騎士】三人の世話係として帯同(たいどう)する事になった。

 初めは、【従騎士(じゅうきし)】の帯同(たいどう)はその内容に入っていなかったが。

 第一王女セルエリス王女も、【従騎士(じゅうきし)】については派兵(はへい)対象(たいしょう)にしていなかった。

 昨日の深夜に決まったばかりの、急すぎる【聖騎士】の派兵(はへい)

 だが、向かう事が出来るのは、城にいた三人だけ。

 帰城(きじょう)したばかりのオルドリンを(ふく)む、エミリアとノエルディアの三人だ。


 報告をしに戻って来た【聖騎士】ギルオーダ・スコスバーは、休ませるために再派兵(さいはへい)はなしだ。

 エミリアの兄アルベールは、第二王女スィーティアのお付きとして公務(こうむ)に出ており。

 【聖騎士団長】と【聖騎士副団長】、クルストルとオーデインも、貴族閣下(かっか)としての仕事で出払(ではら)っていた。

 必然的(ひつぜんてき)に、城に残っている三人に白羽(しらは)の矢が立つ。


「……【従騎士(じゅうきし)】は戦いには参加できません。それが第一王女殿下(でんか)が決めた、派兵(はへい)条件(じょうけん)だったじゃないですか」


 リエレーネはそう言うが、レミーユも何か思う所があるのか、指を(あご)に当てて。


「十代とかそんな事を言ったら、エミリア様だって17歳ですよぉ?」


「確かに。エミリア様は【土の月】生まれ……なのでしょう?」


 ゼレンの問いに、レミーユとリエレーネは(うなず)く。

 エミリアの誕生日は、【土の月72日】(3月10日前後)だ。

 その時期は、アルベールの騎士学校の卒業式の少し前。

 異世界人ローザが“召喚”される、ほんの少し前だった。


「それはそうなんですけど……エミリア先輩(せんぱい)は【聖騎士】ですし……」


 リエレーネだって、戦争(せんそう)になど参加したくはない。

 内心、補助要員(ほじょよういん)で安心しているのが本音だ。

 兄エドガーに、【従騎士(じゅうきし)】になった事すら言えていないリエレーネは、エミリアが派兵(はへい)されると聞いて、自分も覚悟を決めたのだ。


 それは勿論(もちろん)補助要員(ほじょよういん)として安全を約束されたからと言うのもあるが、一番はエミリアだ。

 一つ年上ではあるが、彼女は今や全騎士学生の(あこが)れである。

 学生の身でありながら、偉業(いぎょう)をなして【聖騎士】と成り、更には“悪魔”を退治(たいじ)した【槍の聖女】。

 本人に自覚が無いのも、彼女の魅力(みりょく)として(うつ)っている事だろう。


「【聖騎士】とは言え十代、まだエミリア様は学生です!危険な戦いに出るのは私は反対ですよっ」


 エミリア信者(しんじゃ)の一人、レミーユは(こぶし)(にぎ)って言う。


「――でも、国の為だろ?」


 ゼレンは窓の外を(なが)めながら、レミーユに正論(せいろん)()べる。

 これにはレミーユも分かっているようで「むぅぅ」と半眼(はんがん)でゼレンを見るしかできない。

 これ以上は、きっと議論(ぎろん)にならない。

 それが分かるから、レミーユもリエレーネも、それ以上は何も言わなかった。


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