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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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109話【エミリアの準備】



◇エミリアの準備(じゅんび)


 昼に差し掛かる時間。

 【リフベイン城】の一室で革鞄(かわかばん)()め込むのは、着替えだった。

 事前に説明された事を脳内に置き、エミリアは替えの下着やシャツ、【聖騎士】制服を無理くり()め込んでいた。


 早朝、()ぐに馬車を走らせて。

 王城に着いたエミリアは、ローマリア王女に報告と感謝を()べに行った。

 その後、派兵(はへい)準備(じゅんび)を命じられたのだが。

 その(さい)のローマリア王女の、嫌そうに命令を出す顔と言ったら、実に憎々(にくにく)しいものだった。

 ローマリアはローマリアで、姉であるセルエリス王女に「言え」と言われたのだろう。

 エミリアはその様子を思い出し「フフフッ」と笑いながら支度(したく)をしていた。

 そして。


「……ぃよしっ!!」


 んふぅーと息を()き、満足そうに(うなず)く。

 しかし、突如掛けられる声に(おどろ)く。


「――何がよし!よ――エミリア」


 窓の外から聞こえた声に、エミリアはハッ――として()り向く。


「この声……――ロ、ローザっ!?」


 急ぎ窓を開けると、(せま)めのバルコニーにこっそり隠れる、ローザがいた。

 その姿はうっすらと赤く()けており、しかし段々と輪郭(りんかく)を現す。


「や、エミリア。昨夜(さくや)ぶりね」


 現れたローザがヒラヒラと手を()ると、炎がチリチリと()い消えていった。


「ローザ……どうやって?」


 不思議(ふしぎ)に思うのは、何故(なぜ)かバルコニーにいるローザが、どうやってここまで辿(たど)り着いたのか、だが。

 それはローザが簡潔(かんけつ)に説明してくれた。


「――飛んできたわ」


 簡潔(かんけつ)()ぎた。


「そうじゃなくてぇっ!」


 ローザが飛べるようになったことは、身を(もっ)て経験したから嫌でも分かる。

 言いたい事はそうではなく、「何故(なぜ)、こうも簡単に来たのか」と言う点だ。

 ローザは昨夜(さくや)、ローマリア王女の指南役(しなんやく)(にん)を終えて城から出た。

 その翌日に何故(なぜ)か、エミリアの部屋のバルコニーに出現したのだから、(おどろ)いているのだ。


「ああ……――こうやってよ」


「……!――っえ……?」


 エミリアが(まばた)きをした瞬間、ローザの姿は消えていた。

 バルコニーの外に下りたのかと確認するが、勿論(もちろん)姿はなく。


「……――こっちよ」


「ど、どこっ!?」


 声は聞こえるが、その声はまるで心に直接(かた)りかけてくるようなものだった。

 これがエドガーたちの使う【心通話】だとしたら、凄くくすぐったい感覚だ。

 しかも余計(よけい)混乱(こんらん)する。


「――ローザっ!?もう!どこよぉ!」


「目の前よ」


「……はい?」


 部屋の中、陽射(ひざ)ししか入らない部屋の一角(いっかく)に。

 集積(しゅうせき)していく赤い粒子(りゅうし)

 エミリアは口を開いたまま、その神秘的(しんぴてき)光景(こうけい)を目に焼き付ける。

 集積(しゅうせき)した赤い粒子(りゅうし)徐々(じょじょ)に形を成し、見覚えのある形に形成(けいせい)される。

 一言小さく「ローザ……」と(つぶや)くエミリアは、(ひとみ)(うつ)る赤き“精霊”の姿に、心を(うば)われた。


「――こうやって来たのよ。ん?……エミリア?」


「……」


 口をパクパクさせる少女の(ほほ)を、ローザは引っ張る。


「……い、いふぁい……」


「ビックリした?」


「……しふぁ」


「そ。ならいいわ」


 満足気に手を離す。

 エミリアは(ほほ)(さす)りながら、ローザを凝視(ぎょうし)していた。

 上から下までを確認しても、いつものローザと変わらない。

 だが、その(かも)し出される雰囲気(ふんいき)は、まるで知らない人のようだった。


「……そんなに見られても、何も出ないわよ?」


「や……そうなんだろうけど、なんだろ……」


 エミリアはペタペタとローザのボディチェックを始める。


「だから何も無いってば」


 (わな)を探る様に、エミリアはローザの身体をくまなく(さわ)る。


「そろそろ怒るわよ?」


「――ご、ごめん……」


 ローザがエミリアの頭を(つか)んで引き()がす。

 そもそもローザがエミリアのもとに来たのは、昨日の夜エドガーと何かあったのではないかと勘繰(かんぐ)り、居てもたってもいられずに聞きに来たのだ。

 勿論(もちろん)、エドガーの様子から見ても、話した内容を聞いても、男女の仲に進展(しんてん)したとは考えにくい。

 それでも、ローザが自分で二人を引き合わせた以上、気にならない訳がなかった。


「それより、エミリアはもう平気なの……?」


「――え?うん……元気だよ?」


「そうじゃなくて……その、エドガーと……」


 ローザにしては(めずら)しく、言い(よど)む。

 赤い髪の毛を指でクルクルと(いじ)り、目線を()らして、夜に何かあったのではないかと聞きたそうにする。

 早朝に、エドガーからエドガー視点(してん)の話は聞いた。

 でもそれとこれとは違う。エミリアの方も気になるのだ。


「……あ」


 エミリアもピンと来たのか、思い出して()れる。

 それでも、エドガーに言われた言葉が心を(つつ)んでくれているおかげで、恐怖心(きょうふしん)が出る事は無かった。


「ローザでも気になるんだね。そういうの」


「なっ――!」


 ローザはビクッと(かかと)を浮かせる。

 なんだか新鮮(しんせん)仕草(しぐさ)だ。

 だが、ローザは()ずかしそうにしながらも、正直に答えた。


「そ、それはそうに決まっているじゃない……友達(・・)の話なのだから」


「……あはは。()れちゃうなぁ」


「笑い事じゃないのよっ、時間無いのだから手短に言いなさいっ!」


「いふぁふぁ……」


 ローザは()ずかしさを打ち消すように、エミリアの(ほほ)を再度(つね)ったのだった。





 エミリアが紅茶(こうちゃ)()れた。

 コポポ――と音を鳴らし、茶葉の香りが部屋に充満(じゅうまん)していくのを、ローザは(かお)って気分がよさそうに言う。


「エミリアも上手よね、紅茶(こうちゃ)()れるの」


 わざわざ温めたカップに注ぎ、ローザの前に出す。


「あーほら、サクラが教えてくれたんだよ。美味しい()れ方。メイリンさんと一緒に聞いてたら覚えちゃった」


 それはメイドの仕事では?と思うも、エミリアの専属(せんぞく)メイドだった少女を思い出して、その記憶にそっと(ふた)を落とす。


「なるほどね……嫌でも上手くなる訳か」


「誰を想像したのか……一瞬で把握(はあく)出来ちゃったよ」


 「たはは」と苦笑いするエミリアの(なつ)かしそうな顔に、あのメイドは元気だろうかと、ローザも少なからず思った。

 今頃は、エミリアの兄アルベールの屋敷(やしき)で仕事をしている筈だ。筈――だ。


「さてと。それしゃ(あらた)めて……昨日はありがとう、ローザ」


 テーブルに着いたエミリアは、向かいに座るローザに深く頭を下げる。

 ローザは笑顔で。


「……いいのよ。私が感謝したいくらいなのだから」


 ローザは、エミリアの心を救いたい一身で、《石》と融合(ゆうごう)を果たした。

 長年、【消えない種火】として右手に装着していた《石》を体内に取り入れ、その内に封じられていた存在(もの)、“精霊”フェニックスと同一の存在となったのだ。


 今や“精霊”そのものとなったローザは、肉体と言う概念(がいねん)を捨てた。

 人を()めたと言えば簡単すぎるが、それに近いものだとは思っているし、実感(・・)もある。

 以前の《石》の副作用(ふくさよう)である、無発汗(むはっかん)無紅潮(むこうちょう)が無くなり、汗も()くし顔色も変わる。

 見る人が見れば、以前よりも人間らしいと思うだろう。


 だが、それは表面上の物だ。

 ローザは紅茶(こうちゃ)を飲みながら、その味を深く()み込ませる。


「……美味(おい)しいわ」


 真実の名を取り戻した《石》、【不死鳥の種火(フェニックス・シード)】。

 ローザが下町から、ここ【王城区(ブリリアント)】の城まで簡単に来れたのも、姿を消せるようになったからだ。

 飛行は勿論(もちろん)できるが、身体を粒子(りゅうし)に変える事で、瞬間移動にも近しい行動を(おこな)えている。時間もそう掛からない。


 それ以外にも感覚が鋭敏(えいびん)になっていたり、【魔力感知】の範囲(はんい)が広がったりと、それこそ人間離れしている事が多かった。

 今ローザが言った「美味しい」もそう。

 味覚(みかく)も、美味(びみ)と言うよりは、その情報を読み込んでいるに近い。

 茶葉(ちゃば)の風味、発酵(はっこう)度合い、(ふく)まれる栄養分(えいようぶん)などの情報が、舌を通してローザは感じるようになっていた。

 昨夜(さくや)のポテトチップスもそう、確かに味は感じるし、美味しい。

 だが、それ以前に情報が押し寄せてきて、あまり楽しくはない。


「ローザ。なんか変わった?」


「――そうかもね」


 ティーカップをソーサーに置いて微笑(ほほえ)む。

 もう、変に意地を張る事も無ければ、無下(むげ)否定(ひてい)するようなこともしない。

 自分自身と向き合い、進む。そう覚悟して、ローザは“精霊”となったのだから。


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