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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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108話【王都到着】



◇王都到着(とうちゃく)


 【王都リドチュア】の東。

 【下町第五区画(メルターニン)】と【下町第六区画(ルファロ)】の連結門(れんけつもん)の入口近くに()まる一台の馬車。

 様子を(うかが)うように大木(たいぼく)の陰に隠れ、門を観察(かんさつ)している。


「誰も居ねぇな――ちっ!相変(あいか)わらず()めた警備(けいび)だ……」


 御車(ぎょしゃ)をしていた男、レディルは警備(けいび)(うす)さに毒づきながら、馬車の中にいる少女に声を掛ける。


「おいリューネ、エリウスは?」


「まだ眠ってます……ノインさんも」


 声を掛けられた少女リューネは、眠る青髪の少女と、獣耳の幼女を見やって言う。小声で。

 視線(しせん)を向けるレディルには、うるさいですよと(にら)みを()かせていた。


「んで?どうすんだ?王都に着いたぞ。お前の家は使えねーのかよ?」


「あそこは多分、もう解体(かいたい)されてますよ。あの家、正確には弟が借りた家ですし、(こわ)予定(よてい)の小屋だったんですから」


 リューネは元・聖王国民だ。レディルに(ひど)い事をされたあの場所は、弟の名義(めいぎ)で借りた借家(しゃくや)であり、騎士学生であった自分は寄宿舎(きしゅくしゃ)生活だった。

 大家はとても(きび)しい人で、解体予定(かいたいよてい)の小屋を格安(かくやす)で借りていたのに、二人して聖王国から夜逃(よに)げ同然でいなくなったのだ。

 もう無くなっていると考えた方がいいだろう。


「……“天使”のねーさんはどうしたんだよ、合流する手筈なんじゃなかったのか?」


 自分のした事を思い出したのか、レディルは気まずそうに言う。

 利用するだけして消すつもりだったこの少女が、まさかエリウスに気に入られるとは思わなかった。

 今では言い合いが出来るほどには打ち()けた(?)が、自分がしたことを、レディルは少し後悔(こうかい)していた。

 それが(つた)わったのか、リューネは何も分からない振りをして答えた。


「そのはずですよ。ノインさんもそう言ってましたし……」


 帝国を(だっ)して数日。

 追手(おって)遭遇(そうぐう)しない様に慎重(しんちょう)に、的確(てきかく)に森を抜けたエリウスたちは、とうとう聖王国首都、【王都リドチュア】に到着(とうちゃく)していた。

 しかしリーダーであるエリウスは、《石》の影響(えいきょう)で眠る事が多く、異世界人ノインもまた、怪我(けが)と魔力の消費(しょうひ)(いや)すために眠っていた。

 御車(ぎょしゃ)をしていたレディル・グレバーンと、リューネ・J・ヴァンガード。

 そして途中(とちゅう)、【コルドー村】の村長の娘であり、世話係としてついて来たオルディア・コルドーが、交代でエリウスの看病(かんびょう)をしながら。


「リューネさん、ノインさんがっ」


 パチリと目を開け、その特徴(とくちょう)のある獣耳をヒクつかせて、ノイン・ニル・アドミラリが起きた。

 まだ(つら)そうにするが、オルディアが背を(ささ)える。


「どうした獣耳」

「ノインさんっ!?」


「――スノーがいるっ」


「分かんのか?」

「分かるんですか?」


 ノインは獣耳をピーンと立たせて、ある方向に向けていた。

 その方向は、【下町第一区画(アビン)】。宿屋【福音のマリス】の方角だ。


「うっし。なら、【薄幸の法衣(マント)】着ろ。カルストの奴がいない分を着れるだろ。リューネはエリウスに着せてやれ」


「わ、分かりました」


 【薄幸(はっこう)法衣(ほうい)】は、認識(にんしき)()らす“魔道具”だ。以前からも聖王国に潜入(せんにゅう)する(さい)は使用している。

 異世界人であるローザたちにも通用している代物(しろもの)だ。

 流石(さすが)は【魔道具設計の家系(アイテムメーカー)】レディルが作りしものと言った所だろう。


「オルディアはそのままでいいな。お前の顔は割れてねぇから、お前が中心になって下町を回るぞ」


「わ、私ですか……?」


「それがいいよ」


「でも……」


 ノインは賛成(さんせい)のようで、レディルに同意(どうい)する。

 オルディアは不安気に、ノインとリューネを見る。


「アタシもこのままでいい。耳さえ隠せばバレないと思うし……今は《石》も外してるから……」


 ノインは普段へそに《石》を装着しているが、今は自然治癒(しぜんちゆ)の為に外している。


「これでいいよ」


 立ち上がったノインは、元から馬車内にあった(むぎ)わら帽子(ぼうし)(かぶ)り、その獣耳を隠す。


「へっ、ガキにはお似合いだぜ?」


 レディルの嫌味にもノインは笑顔で返す。「でしょ?」と。

 これにはレディルも、ノインの中の年上の余裕(よゆう)垣間見(かいまみ)た。


「エリウス様にも着せ終えました……馬車はどうしますか?」


「ヘルゲンを馬車から離して、エリウスを乗せていけばいいだろ。休ませてもやりてぇしな」


「そうですね……ここまで頑張ってくれましたから」


 レディルはエリウスを(かつ)ぎ、リューネはノインを(ささ)えて馬車から降りる。

 マントを(かぶ)っていないオルディアは一人降り、馬車から白馬ヘルゲンを(つな)ぐハーネスを外した。


「うん、いい子だねヘルゲン。早く乗せろってさ」


 ノインは動物と会話が出来る。

 ここまで無事に着けたのも、ノインが野鳥(やちょう)追手(おって)有無(うむ)を聞いて来たからだ。


「おし。リューネ、お前がヘルゲンを引け……それと、“天使”のねーさんは【召喚師】のとこって事でいいんだよな、確か宿屋だろ?」


「うん、そうだよ。だから安心して寝泊(ねとま)りできる」


「そうかよ」


 レディルは内心「敵だろ。どう安心しろってんだよ」と思っていた。

 帝国組は知らない。ノインとスノードロップ、そして【魔女】ポラリス・ノクドバルンが、エドガーによって“召喚”された事を。

 今のエドガーではないが、ノインもまたスノードロップと同じく、再会を心待ちにしているのだ。


 しかしレディルの気持ちは、リューネが分かっている。

 エリウスは任務(にんむ)として、【召喚師】にちょっかいを出していた。

 【魔石(デビルズストーン)】を様々な聖王国の人間に売り、その身を()とさせた。

 それは、帝国軍事顧問(ぐんじこもん)シュルツ・アトラクシアの策略(さくりょく)であった。

 そしてそのシュルツは、エドガーの父親であるエドワード・レオマリスだという事も、帝国組のレディルやリューネは一切知らないのだ。


 そんなレディルやリューネにも、エリウスに(つか)える矜持(きょうじ)がある。

 事情を一切知らなくても、もし知ったとしても、(あるじ)を守る気持ちはかけらも失わない。

 そう覚悟を決めて、今、この場にいるのだから。


「うっし。行くか」


「はい!」


「は、はい!」


「りょーかい」


 エリウスを白馬ヘルゲンに寝かせ、くの字に曲がった皇女(こうじょ)

 リューネはヘルゲンの手綱(たづな)を引き、オルディアとノインはそれについて行く。

 警備(けいび)の無い大門(だいもん)を抜け。

 目的地である宿屋【福音のマリス】がある【下町第一区画(アビン)】に(もっと)も近い、【下町第六区画(ルファロ)】に入ったのだった。





「……!!――来ましたか」


「ん?どうしました?ドロシーさん」


「――あ、いえ……何でもありませんよ」


 【福音のマリス】の厨房(ちゅうぼう)で、ドロシーは覚えのある感覚に反応した。

 長年を共にした(ノイン)気配(けはい)を間違う訳はなく、ついにその時が来たと。

 ドロシー、いやスノードロップも覚悟を決めた。


(ニイフ様に言われた事を、実行しなければいけませんが……)


 それは、“魔王”との約束。

 協力の条件(じょうけん)として。

 ローザたち他の異世界人に、ある程度の事を話すというものだ。

 正直、昨日の今日でその時が来るとは予想外(よそうがい)だったが、それでもやるべきことは変わらない。


(エドガー様の事をどこまで話すか……わたくしに任せてもらえたとは言え、ニイフ様がどう出るかも気になりますし)


 話す内容は自分に任せて欲しいと“魔王”に懇願(こんがん)し、それを許された。

 しかし、どう話すかが問題だ。


(どこまでの話を受け入れて頂けるか……転生やエドワードの事は()せるべきでしょう。わたくしやノインの事も、どう説明するか……考え物ですね。それに、話はエドガー様がいない時でないといけません……本人には、聞かせたくはありませんからね。ですが……)


 残された時間は、もう少ない。

 【福音のマリス】を目指すエリウスたち。

 戦争(せんそう)の為に準備する【聖騎士】エミリア。

 スノードロップやノイン、そして【魔女(ポラリス)】の異世界人たち。

 そして、エリウスを追ってきている【魔導帝国レダニエス】の黒い騎士たち。

 もう()ぐ、一つ目の(まく)は開けてしまうのだから。


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