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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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104話【深夜の女子会】



◇深夜の女子会◇


 大事な“契約者”が倒れている事を知らない異世界の少女たち四人(一人は眠っている)は、深夜にも(かか)わらず、久しぶりの会話に花を咲かせていた。

 と言うのも、本来ならばエドガーが倒れた事を知る事が出来るのが、契約の(あかし)だ。

 それを上回る誰か(・・)の《紋章》による副作用(ふくさよう)が、この四人には感知されない現象(げんしょう)を起こしていた。

 今頃は、“魔王”が“天使”にその理由を問い(ただ)している筈だ。


 そして、【福音のマリス】の一室では、テーブルに広げられたスナック菓子(がし)の袋に手を伸ばすローザと、紙コップに入れられたジュースを飲む黒髪の少女二人が、談笑(だんしょう)をしていた。


「相変わらず、サクラの世界の食べ物は美味しいわね」


 パリパリ、サクサク。と、お(いも)のお菓子(かし)を気にいったらしいローザ。サクラが(かばん)から取り出したポテトチップスを、嬉しそうに頬張(ほおば)っている。


「どんどん出しましょうか?」


「本当?是非(ぜひ)……――じゃなくて、貴女(あなた)魔力は平気なの?」


 ローザは嬉しがりながらも、サクラの魔力を気にする。

 一方でサクラは、そんな事など一切気にしない様に、(かばん)に手を突っ込んでいた。


「あ~、なんか平気なんですよね。以前よりも魔力が上がったのかな?」


 レベルアップ的な。


「そんな簡単に……」


 本来ならば、魔力などは相当(きた)えなければ上昇することはないというのが、ローザやフィルヴィーネの時代(4000年程前)の一般的な考えだった。

 筋力や俊敏(しゅんびん)さとは違って、生まれ持っての魔力は(きた)えるのが非常に(むずか)しいからだ。

 しかも聖王国(ここ)は魔力が圧倒的(あっとうてき)に少ない。

 自分の魔力を使うのはともかく、その回復手段がない事の方が重要(じゅうよう)だ。


「ホントは、メルに調べてもらうのがいいだろうけど……」


 メルティナ・アヴルスベイブは、異世界能力【解析(アナライズ)】を使える。

 想定していた通りに事が進んでいれば、異世界人全員で能力を公開しあうはずだったのだが。


「お前が居なくなったからであろうに……」


「――今あたしも思ってたわよ!!……おっと!」


 サクヤにジト目で見られ、つい(さけ)んでしまい。メルティナが眠っているベッドに視線(しせん)を送る。口元に手を当てて。


「セーフ。起こしちゃ悪いもんね……」


「なにが、せぃふだ。あとその動きはなんだ?」


 サクヤが指摘(してき)するサクラの行動。

 サクラは両手を水平に広げて、何かを切るような仕草(しぐさ)だった。


「野球だけど。ベースボール」


「……余計(よけい)に分からぬ」

「知らないわね」


「ん~、ま、そうだよね。あたしの世界のスポーツ、運動競技(うんどうきょうぎ)だよ……って言っても、セーフはあんまり関係ないかな、他でも使うし」


 どうやら一般的に使われる動きらしい。


「エドガーは、そういう事まで勉強しているの?」


「……うん。()るのかなって聞いたけど、全部()るってさ……ドロシーさんにも東の国の事とか聞いてたし」


「――ドロシー?」


 聞きなれない人名に、耳聡(みみざと)くピクリと反応するローザ。


「あぁそう言えば言ってなかったっけ……ドロシーさんって言って、宿の新しい従業員だよ。優しいお姉さんって感じの人で、旅人さんらしいよ。お金が無くなって、少しの(あいだ)【福音のマリス】で働く事にするんだってさ」


「……そう」


「……ぇ」


 ローザの反応に、意外そうな顔をするサクラ。

 サクヤも少しだけ目を見開き(おどろ)いている。


「なによ?」


「いや……(おどろ)かない事が予想外で。ねぇ?」


「うむ。わたしは説明された時、心底(おどろ)いたぞ、また主様(あるじさま)女子(おなご)を増やしたのかと(かん)ぐったくらいだ。しかし、メル殿は無関心そうだったし、フィルヴィーネ殿はすんなり受け入れておったし……問題は無いのではないか?」


「だね。あたしも戸惑(とまど)ったけどさ……それ以上に、ローザさんはもっとテンパるかと思ってたからさ」


何気(なにげ)に失礼ね二人共……従業員なのでしょう?なら、メイリンが許可(きょか)すれば問題ない話だし、私たちが掃除(そうじ)をしなくて済むじゃない」


 まさかの自分が楽できるという発想だった。

 しかし、メイリンの事で一悶着(ひともんちゃく)あったという事は言わないらしいサクラ。

 面倒臭(めんどうくさ)そうだと思ったのなら、ナイス判断だろう。


「そんな理由……ん?……あ!そう言えばエド君は!?ローザさんが帰って来てるのに、ここに居ないのおかしくない!?一番喜びそうなのに」


「はっ……!た、確かに!!」


「は、今?」


 この二人、やっとエドガーが居ない事に気付いたようだ。

 そしてローザも説明をする。エミリアの身に起ころうとしている事と、自分が帰って来た理由を。





「……」

「……ふむ」


「――と、言う訳よ。私は、ローマリアの(ゆる)しを()依頼(いらい)を切り上げ、《石》を使って帰って来た……エミリアの為にね。あの子に一番(てき)した言葉を掛けられるのは、きっとエドガーでしょう?」


「うん。そうだね……」

「その通りだな」


 ローザの説明に、二人も納得(なっとく)するが。


「それにしても、《石》が身体に入っちゃうのって変な感じですね」


 サクラはローザの右手を持ち、さわさわして確かめる。

 ローザはくすぐったそうにしながらも。


貴女(あなた)の《石》も、(ひたい)刺さっている(・・・・・)でしょうに」


「――おおお、おそがいこと言わんでぇぇ!」


 サクラ、恐ろしい言葉に思わずテンパって(なま)る。

 自分のおでこを(さわ)って、【朝日の(しずく)】を確かめた。


「ねぇこれ刺さってんの!?ねぇこれ刺さってんのぉぉ!?」


五月蠅(うるさ)いわね……」

五月蠅(うるさ)いぞ、サクラ」


「だっておそがいもんね!おみゃーは目にあるんだがや!!おそがいないの!?」


 サクラはサクヤに迫って言う。

 どうやらサクヤに、《石》が眼にある事に怖さはないのかと言いたいらしい。


「今更であろう。あと、(なま)っているぞ」


「……通りで聞き取れない訳ね」


 異世界人の特典(とくてん)でも、日本語特有(とくゆう)(なま)りは翻訳(ほんやく)されないらしい。


 少しして、何とか落ち着いたサクラは、ローザから聞いた事を【スマホ】のメモ帳に残していた。それを確認するようにしながら(つぶや)く。


戦争(せんそう)かぁ……この世界的に、白兵戦(はくへいせん)なんだろうけど……なんだろ、この感じ」


戦争(せんそう)とは、本来そういうものであろう?人間対人間なのだから……」


「そうね。パリッ……私たちの世界の場合、《魔法》があるから戦局(せんきょく)は激しく動いていたけれど。パリッ……今の時代はどうも衰退(すいたい)しているようだし……白兵戦(はくへいせん)って言うのは間違いないと思うわよ?」


 ポテトチップスをパリパリ食べながら、ローザはサクラの言葉を肯定(こうてい)する。

 しかし、同意されたサクラは。


「う~ん。《魔法》が飛び()う戦場とか、想像したくないんだけど……ファンタジーの世界じゃ……いや、なんでもないや。あはは……」


 漫画やアニメじゃあるまいし。と言いかけて、ここが絶賛(ぜっさん)ファンタジーの世界な事に気付く。別に忘れていた訳ではないが。


「《魔法》なんて発動してしまえば一瞬よ。私は何日も戦っていた記憶は無いわね」


 と、したり顔で言うローザだが、しかしそれはローザの間違った認識(にんしき)だった。

 ローザの本格的な《炎魔法》は広域殲滅型(こういきせんめつがた)であり、単体攻撃ではないからだ。

 過去(かこ)戦争(せんそう)を一瞬の炎で焼き()くしてきたローザには、長時間に長引く戦争(せんそう)を体験したことが無かったのだ。


「……そんな訳なかろう。元来(がんらい)(いくさ)とは長引くものだ、ローザ殿が別格に決まっているであろうが」


 二人のやり取りに、(あき)れたようにサクヤが言う。


「そ、そうね……」


 少しだけグサッ――と、ダメージを受けたローザ。


「なるほどねぇ……」


 確かにそういう意味では、《戦国時代》の長期戦(ちょうきせん)戦争(せんそう)を知るサクヤの方が、(くわ)しい可能性はある。

 しかし、感心した二人の時間を無にする一言が。


「――まぁ、わたしは(いくさ)など出たこと無いがなぁ」


 「わははは」と笑いながら言う。

 それに(あこが)れていた事もあった少女の、ほんの少しの()いだ。


「笑ってんじゃないわよ!ようはそれにエミリアちゃんが行くって事でしょ!?」


実際(じっさい)に戦いが起こるかは分からないわ。でも、こういう時は大体戦いに発展(はってん)するのよね……それに、聞いた話だけど、南の国は戦力的にも大したことはないらしいし」


「それじゃあ、もし戦争(せんそう)になってもエミリアちゃんは大丈夫って事?」


 弱い国との戦いと言う事で、サクラの中では少しの安心材料なのだろう。


「……」

「……」


「……え?」


 しかしローザもサクヤも、真剣な顔で何かを考えているようだった。

 (むな)しく、パリッと音を鳴らすポテトチップス。


「ちょ、ちょっと……なんで無言な訳?だって弱い国でしょ!?それなら【聖騎士団】がある【リフベイン聖王国】が有利なんじゃ……」


「事前情報なんて言うものは、これっぽっちも関係ないわ。戦況(せんきょう)刻一刻(こくいっこく)として動くもの……確かにサクヤの言う通り、私の話は役に立つことは無いわね」


「うむ。その通りだな、些細(ささい)なきっかけで近況(きんきょう)容易(ようい)に転がる……それに聞く所、南の国は何年も何年も戦況(せんきょう)膠着(こうちゃく)させて()(しの)んできた国なのだろう?何を(たく)んでいるか、分かったものではあるまい」


 確かに言い方を変えればそうなのだろう。

 弱く(あなど)られた国、【ルウタール王国】の王は、(おど)か者だと言われている。

 しかしそれは、実際戦いが起こらなければ分からない。


「……そう、なの?」


「起きて見なければ……なんとも。だからその前に、どうにかしたいんだけれどね……」


 死を恐れていては戦いどころではない。

 国を守る為、家族や友人を守る為に騎士は戦う。

 恐怖(きょうふ)を持ってしまったエミリアでは、(いく)ら弱いと言われている国でも、エミリアが生き残らなければ、ローザやサクラたちには何の意味もない。


 今、この少女たちに思えるのは、エミリアと二人きりのはずのエドガーが、少しでもエミリアの心に掛かった暗雲(あんうん)を晴らしてくれればと、思うばかりだった。


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