100話B【繰り返す未来《ルフラン》】
100話Aの会話に、フィルヴィーネのセリフを追加したバージョンになります。
◇繰り返す未来◇
『転移完了だ。少し先に……いたぞ、エドガーだ……』
「エドガー様……この感覚。やはり……」
『ガブリエル。念話で言った事は……』
「ええ。噓偽りの無いものです」
『そうか……では行くぞ。介抱しながらでもいい、話せ』
「はい……そうしましょう……」
◇
「取り戻したようですね、契約の力を……」
『契約の?念話で言っていたやつか……』
「はい。今お話した事が、現状言える全てです」
『やはり、信じ難いものがあるな……今お前に聞いたエドガーの話は……だが、エドガーの能力、いや……何か特別な物、【真実の天秤】と同じようなものか?』
「ええ、癪ですが……わたくしと【魔女】の【接続能力】……【繰り返す未来】を発動されたようですね、エドガー様……」
『やはりそうか。我とロザリームの《紋章》が同じ右手にある様に……お前たち、一つ前の異世界人の能力も、しっかりと引き継いでいるのか……その反動と言った所だな、倒れたのは』
「そうです。わたくしともう一人、そして【魔女】が。その【魔女】の《石》は脳内にあります……その反動が、ここ最近の不調の原因でしょう。まぁ、わたくしの《石》のせいでもあるのですが……」
『これほどの状態でも、隠し通していたのかこやつは……それだけ強い絆が、あるという事か……』
「申し訳ないとは思っています……“絆”……ですか。いえ、今となっては呪いでしょう……」
『呪い、か……確かにそうかもしれんな……今のエドガーには、何一つ望んだことではあるまいに……しかし、因果は廻るものだ』
「本当に……面影があります」
『そこまで似ているのか?前世である人物に。それならば、転生したというのも頷けるが』
「ええ。やはり、成功していたのですね……【魔女】のあの《魔法》は」
『《転生魔法》か……“神”のみぞ使える神域にまで足を踏み入れるとは、【勇者】になるだけの事はある』
「よくもわたくしやノインを欺いたものです。一人だけエドガー様を監視していたのでしょうが、これからはそうはさせません。もう直ぐわたくしの仲間、ノインたちが王都に到着するでしょう……そうすれば」
『全てを話してもらうぞ?そのもう一人も含めてな』
「はい、構いません。あの【魔女】が何を企んでいるか、分かったものではありませんから……」
『そうか、ならばいい』
「わたくしとノインが貴方様に気が付いたのも……あの【魔女】の行動を怪しんだから。思えばまだ、それ程時間は経っていないのですね……」
『お前たちからすれば、十数年か……我等からすれば、まだ一年も経っていないからな』
「エドガー・レオマリス……しかし本当に、同じ名前を付ける事だけは反対だったのですが……」
『なるほど、悪趣味な事をする……』
「恨みを込めた、憎むべき相手だから……そう言っていましたよ、彼の父親は」
『自分の子に、親と同じ名か……威厳や尊厳のある人物ならば珍しくもないが。憎しみを当てるか……』
「ですが、今になってよく分かりますよ……【召喚師】としての力を持たなかったあの方が、彼……エドガー様を恨むのも。帝国にいてなお、その向けるべき悪意は……エドガー様にあったのだと、理解させられました」
『……前世のエドガーは、そこまでの人間だったのか?』
「確かに厳しいお方でしたが……でも、愛情はあった筈なのです。だからこそ、わたくしが守るのですわ……今の彼を、エドガー様を」
『……?』
「ですが、彼女はもういない……」
『まさか、エドガーの母親は……お前たちの仲間か?』
「はい、エドガー様の母親は、異世界人です」
◇
「ぅ……ぅぅ……」
『むっ?』
「……(苦しむ顔は似ているでしょうか……?)」
『おいガブリエル。エドガーが苦しんでいる……話しどころではないっ』
「気休めでしょうが、ドライハーブです……少しは効くはずですが」
『【月の雫】は?』
「いえ、もう【月の雫】はありませんよ」
『なんだ使えん。ふむ、それにしても……エドガーが年老いている姿が想像できんな』
「もう四十年もすれば……あのようなお姿になるのでしょうね、きっと」
『我等の時間の経過は早いからな……無限に等しい我等“魔王”や“天使”の生は……人間とは比べられぬ』
「……すぅ……すぅ」
『可愛らしい寝息を立ておって……』
「正直、もう関わらない方がいいかとも思いましたが、あの【魔女】が何かを企んでいる以上……わたくしもノインも、指を咥えて観測者に徹していられるほど、吞気ではありません」
『――その【魔女】が何を企んでいようとも、我には関係の無い事だ。エドガーを害しようとするならば、それを防ぐだけ、そうであろう?』
「……はい。わたくしは、守るためにここに戻って来たのですから……」




