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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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101話【魔王と天使】



◇魔王と天使◇


 ほんの少し前。【福音のマリス】では。


「――ガブリエル(・・・・・)


 声を(はっ)したのは、紫紺(しこん)の髪の女性。“魔王”フィルヴィーネ・サタナキアだ。

 声を掛けた相手――栗色の髪の女性ドロシーは。

 警戒(けいかい)したようにキョロキョロと(あた)りを見渡して、半分(にら)むようにフィルヴィーネを見た。

 それもそのはず、ここは従業員ドロシーが借りている一階の部屋。

 施錠(せじょう)はされており、完全な密室(みっしつ)な状態だった。


「……」


 ゆっくりと椅子(いす)から立ち上がり、突如(とつじょ)訪問(ほうもん)してきた“魔王”を(いぶか)しむ。


「――案ずるな誰も()らん。(われ)だけだ」


「そういう理由(わけ)ではございませんが……」


 一人部屋にいたドロシー、いや、“天使”スノードロップはおもむろに移動し、小さな小物入れから紫色の小石を取り出して、手の平でそれを(くだ)いた。

 それを見たフィルヴィーネは。


警戒(けいかい)しすぎだろう……」


 (なか)(あき)れたように(まゆ)(ひそ)めて、スノードロップに言うが。


「それはそうでしょう……わたくしの、簡易(かんい)とは言え結界(・・)を……転移だけで一瞬で破壊しておいて、よく(おっしゃ)いますね……」


 今スノードロップが(くだ)いたものは、極小(ごくしょう)の【魔石(デビルズストーン)】だった。

 それを、現在使える(かぎ)られた魔力で、室内に結界を張り直したのだ。

 声を掛けてきたフィルヴィーネは、本当にいきなり声を掛けて来た。

 背後から音もなく、突然だ。結界など関係なく、まるで無意味だったかのように。


「結界などと言った(たぐい)ではなかろう、精々人払(ひとばら)いといった程度ではないか?」


「……」


 ケロッと悪びれない“魔王”に、“天使”は苦笑(くしょう)する。しかし気を取り直して。


「それで、何用でしょうか……?ニイフ様」


「ニイフはやめろ。お前に言われるとむず(がゆ)いわ」


「……ではフィルヴィーネ様」


「フィルヴィーネでよい。(われ)は“魔王”、お前は“天使”……お前は“神”に(つか)える者だろうが」


 その言葉にスノードロップは思った。

 “神”の加護(かご)など、とうにこの世界には存在しない(・・・・・)のに、と。

 しかし、にこりと笑い。


「それでは、そうさせていただきます。“魔王”フィルヴィーネ」


「クックック、それでよい」


 深々と頭を下げるスノードロップの顔色など分からないまま、フィルヴィーネは満足そうに笑った。





「それでフィルヴィーネ。貴女(あなた)様はどうしてこの部屋に?転移でなくても、直接来ればよろしいのでは?」


 スノードロップは、用意した椅子(いす)にフィルヴィーネを座らせて、自分も先程まで座っていた椅子(いす)に腰掛ける。

 フィルヴィーネは長い(あし)を組み、椅子(いす)に思い切り背を(あず)けて言う。


「先程、ロザリームが帰って来た」


「……【滅殺紅姫アナイアレション・プリンセス】、ですか……?」


 スノードロップも知らない訳はない。

 元の世界で、【勇者】になり(そこ)ねた傑物(けつぶつ)、ロザリーム・シャル・ブラストリアは有名だ。

 それに、転生したエドガーが(あらた)めて“召喚”した、初めての女。

 自分の代わりになるかも知れない、要注意人物(きけんなおんな)


「ああ。あの娘は“感じ”がいい、お前も気取(けど)られる可能性がある……」


「……そこまで、ですか?」


「クックック。そこまで、だ」


「やけに嬉しそうですね」


 フィルヴィーネは腕組みをして、大きな胸を休めているかのように腕に乗せて笑う。

 その笑みがやけに、ローザの事を話すことが楽しそうだと、スノードロップには見えた。


「それで、その【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】はどうしているのですか?」


「うむ。今は他の仲間どもと話している……どうやら何かあったらしいが」


 今は深夜だ。

 しかし、それならばフィルヴィーネは行かなくてもいいのだろうかともスノードロップは思ったが。それよりも。


「――エドガー様は?」


「……」


 ふとした疑問(ぎもん)だった。その初めての女が戻って来て、エドガーが喜ばない訳はない。フィルヴィーネだって分かっているだろうに、何故(なぜ)この“魔王”はここに居るのだろうかと。


「……」


「……」


 少しの間が開き、フィルヴィーネは言う。


「最近、エドガーは調子が悪そうだな」


「――!」

(やはり、勘付(かんづ)いていますか……)


「特に胸・頭・腹の痛みに(なや)まされているようだ……あ奴は隠しているがな」


 フィルヴィーネはエドガーの行動を把握(はあく)している。

 仕草(しぐさ)や言動で、その調子が分かる程度には。


「……わたくしに、何か?」


「……」


 もう、分かっているのだろう?と言われているような視線(しせん)だった。

 これを言いに来たと、言っているようなものだ。


「エドガー様は、眠っているのですか?」


「いや、幼馴染の娘と外に出た……ロザリームが連れて来たようでな、きっと……何かあったのだろう」


 少しだけ(さび)しそうに、フィルヴィーネは言う。


「具合が悪いと分かっていて、外に出たのですか?エドガー様は」


「そういう奴だ」


 ()に落ちない点が、次々と出てくる。


(あの【魔女】が《転生魔法》に成功していたのは分かりました……しかし、どうでしょう……以前のエドガー様は……|こんなにも他人思いだった《・・・・・・・・・・・・》でしょうか……)


 スノードロップの知るエドガー・レオマリスは、他人にも自分にも(きび)しい。

 厳格(げんかく)であり、威厳(いげん)のある堅物(かたぶつ)だった。


(……転生はしているのでしょうが、前世(ぜんせ)の記憶を思い出せてはいないから?いえ、それでも……性格がここまで変わるものでしょうか。どちらかと言えば……)


 パッ――と思い浮かんだその人物の姿に、スノードロップはゾッとして青ざめる。

 思い当たる(ふし)としてその少年の姿が出て来た事に、自分を馬鹿(ばか)らしく思った。


(いえ……まさか。そんな馬鹿(ばか)げたこと……それに、【召喚師】の力は確実にエドガー様にあるのです。それが何よりの証拠(しょうこ)……そう、それが事実なのです)


「――い……おいっ!この“天使”っ!」


 バシン――!!

 脳天(のうてん)に衝撃。

 星が見えた。


「――いっ!!たぁ……何をするのですか、ニイフじゃなくてフィルヴィーネ……」


 どうやら、ボーっとしている所を“魔王”様に(なぐ)られたようだ。

 フィルヴィーネは右手をチョップの形で振りかぶっていた。

 気付かなければもう一発貰う所だったようだ。


「お前が(われ)を無視するからであろうがっ」


「そ、それは(もう)し訳ありませんでしたが……」


 脳天(のうてん)を押さえて涙目で謝罪(しゃざい)する。不思議(ふしぎ)と、鬱屈(うっくつ)になりかけていた気分も晴れた。

 そして同時に、浮かんでいた別の少年の姿も消えて行った。


「……ガブリエル。今……エドガーが倒れた」


「――な!?……エドガー様がっ!?」


 スノードロップは、自在に使えない力を()やむように《隠蔽魔法》を解除(かいじょ)しようとした、が。


「やめておけ、ロザリームに気取(けど)られると言ったであろう」


「――ですが!」


「場所は近い……転移で行くぞ」


「わたくしも……よいのですか?」


 フィルヴィーネはスノードロップに近付き、肩を(つか)んで言う。


「ああ。勿論(もちろん)だ……その代わり」


 ニヤリと不気味(ぶきみ)に笑う姿は、やはり“魔王”なのだと、この時思い知らされたスノードロップは。


「……出来()ることは、お話いたします……」


「うむ。それを聞きたかったのだっ。では行くぞ!」


 そう言い、紫色の魔力が()き出た瞬間には、室内には誰もいなくなっていた。

 だがやはり、張り直した結界は再び破壊されていったのだった。


次話は100話Bとなります。

内容は、100話Aに台詞を追加したものになります。地文は省いております。

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