表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
336/383

100話A【繰り返す未来《ルフラン》】



繰り返す未来(ルフラン)


 カツカツと音を鳴らして、誰もいない町に(ひび)革靴(かわぐつ)の音。

 やがて音は止まり。その足元には茶髪の少年が、苦しそうに胸を押さえながら倒れ込んでいた。

 歩いてきた一人の女性は、倒れる少年を見下ろして言う。


「取り戻したようですね、契約の力を……はい。今お話した事が、現状(げんじょう)言える全てです」


 女性は、栗色の髪を耳にかけながら(かが)み、少年の頭部を(いと)おしそうに(ひざ)に乗せた。

 【福音のマリス】の新しい従業員、ドロシー。いや“大天使”スノードロップ・ガブリエルだ。

 彼女は、先程までのエドガーとエミリアのやり取りを、すべて見ていた。

 正確には、()えていた。だが。


「ええ、(しゃく)ですが……わたくしと【魔女】の【接続能力(リンクスキル)】……【繰り返す未来(ルフラン)】を発動されたようですね、エドガー様……」


 スノードロップは優しくエドガーの(ひたい)()でる。

 異世界人サクラとの契約の(あかし)である、白い《紋章》がそこにはあるが、スノードロップが見ているものは、更にその奥(・・・)にあった。


「そうです。わたくしともう一人、そして【魔女】が。その【魔女】の《石》は脳内にあります……その反動が、ここ最近の不調(ふちょう)原因(げんいん)でしょう。まぁ、わたくしの《石》のせいでもあるのですが……」


 そう言いながら、スノードロップはエドガーの胸を()でた。

 スノードロップの《石》、【運命の水晶デスティニー・クォーツ】は本来胸にある。その場所だ。

 脳内に存在する筈の《紋章》は物理的に見ることは出来ない上に、《魔法》などでも感知する事が出来なかった。


(もう)し訳ないとは思っています……“(きずな)”……ですか。いえ、今となっては(のろ)いでしょう……」


 依然(いぜん)に言われた言葉を思い出して、スノードロップは苦笑いを浮かべつつも、今の(・・)エドガーの(ほほ)()れた。


「本当に……面影(おもかげ)があります」


 以前のエドガーは、老人手前の年齢(ねんれい)だった。

 それを考えても、現在のエドガーから面影(おもかげ)を感じるのだ。


「ええ。やはり、成功していたのですね……【魔女】のあの《魔法》は」


 スノードロップは少しだけ憎々(にくにく)しく【魔女】を思う。

 以前、《転生魔法》は失敗しているかもしれないと話し、スノードロップたちは生まれたばかりのエドガーから離れることになった。

 その後、西国に辿(たど)り着いたスノードロップたちであったが。

 その時からだ。【魔女】ポラリス・ノクドバルとの関係が、一気に険悪(けんあく)なものになったのは。


「よくもわたくしやノインを(あざむ)いたものです。一人だけエドガー様を監視(かんし)していたのでしょうが、これからはそうはさせません。もう()ぐわたくしの仲間、ノインたちが王都に到着(とうちゃく)するでしょう……そうすれば」


 帝国から逃げた(さい)、ポラリスが追ってくる可能性も考えていたが、追手は騎士たちだけだった。

 これは、スノードロップの中で想定外(そうていがい)に当たるものだ。

 隠蔽(いんぺい)の為に《石》の力を使っていないスノードロップは、今現在ポラリスの居場所を感知できない。

 それは相方であるノインも同じで、傷が()えるのを待っている状態(じょうたい)だ。


「はい、(かま)いません。あの【魔女】が何を(たくら)んでいるか、分かったものではありませんから……」


 十数年前から、いや、この世界に来る前から、スノードロップとポラリスは険悪(けんあく)の中だ。

 この世界に“召喚”されたのも戦いの最中(さなか)であり、まさか仲間になるとは思わなかった。当初は、そうとう当時のエドガーを(うら)んだものだ。


 しかし、それも今となっては一昔(ひとむかし)前の事。和解(わかい)したとは言えないが、同じ“契約者”を持つ実力者だという事だけは、(みと)めている。


 スノードロップは、エドガーに向けて。


「わたくしとノインが貴方様に気が付いたのも……あの【魔女】の行動を(あや)しんだから。思えばまだ、それ程時間は()っていないのですね……」


 スノードロップがエドガーの素性(すじょう)に気付いたのは、【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】を【召喚の間】に置いた時だった。(描写はない。時系列的に言えば、1部2章)

 その時はまだ半信半疑(はんしんはんぎ)であり、15年振りに見る彼の身体的な成長を喜んでいたが。今は違う。

 【召喚師】としても成長し、数人の異世界人を(まね)いたその実力は本物。

 老人手前だったあの時のエドガーに、“召喚”した数は(すで)に並んでいた。


「エドガー・レオマリス……しかし本当に、同じ名前を付ける事だけは反対だったのですが……」


 本来ならば、“天使”であるスノードロップが、エトヴァルトと名付ける予定だった。

 しかし、名付けたのはエドガーの父親だった。


(うら)みを込めた、(にく)むべき相手だから……そう言っていましたよ、彼の父親は」


 エドガーの父エドワードが、憎悪(ぞうお)を忘れない為に付けたのだ、父と同じ名を。


「ですが、今になってよく分かりますよ……【召喚師】としての力を持たなかったあの方が、彼……エドガー様を(うら)むのも。帝国にいてなお、その向けるべき悪意(あくい)は……エドガー様にあったのだと、理解させられました」


 エドワード・レオマリス。またの名を、帝国軍事顧問(ぐんじこもん)シュルツ・アトラクシア。

 スノードロップたちの昔からの仲間であり、素性(すじょう)を隠す為に部下として(せっ)していた、あの男。

 【召喚師】としての力を持たない彼は、父であるエドガーに(つら)く当たられていた。

 欠陥品(けっかんひん)だと、失敗作だと(けな)されて。


「確かに(きび)しいお方でしたが……でも、愛情はあった筈なのです。だからこそ、わたくしが守るのですわ……今の彼を、エドガー様を」


 これこそが、“天使”スノードロップの目的だ。

 エドガーを守り、家族の(きずな)を取り戻す。


「ですが、彼女はもういない……はい、エドガー様の母親は、異世界人(・・・・)です」


 スノードロップはエドガーを()でつつ、その面影(おもかげ)を探す。

 エドガーの母であり、エドワードの妻であり、同じ異世界人である、マリス・レオマリス。

 本名、マリ・スイレン。

 異世界【地球】から来た、日本人だった彼女を。





「ぅ……ぅぅ……」


「……(苦しむ顔は似ているでしょうか……?)」


 エドガーはうなされている。きっとまた、来るべき未来を()り返し()せられているのだろう。

 スノードロップは、小さな(かばん)の中から(かわ)いた薬草を取り出して、指でクシャクシャッと()(つぶ)しエドガーの鼻もとにあてがう。


「気休めでしょうが、ドライハーブです……少しは効くはずですが。いえ、もう【月の(しずく)】はありませんよ」


 効能を凝縮(ぎょうしゅく)させた、ただの香草(こうそう)だ。

 リラックス効果を(うなが)すものであり、傷薬ではない。


「もう四十年もすれば……あのようなお姿になるのでしょうね、きっと」


 死に間際(まぎわ)のエドガーは、【魔女】の《魔法》によって命を落とした。

 そしてその(たましい)は、《転生魔法》によってマリスの腹の胎児(たいじ)に転生させられたのだ。


「……すぅ……すぅ」


「正直、もう関わらない方がいいかとも思いましたが、あの【魔女】が何かを(たくら)んでいる以上……わたくしもノインも、指を(くわ)えて観測者(かんそくしゃ)(てっ)していられるほど、吞気(のんき)ではありません」


 寝息(ねいき)を立て始めるエドガーの顔を見て、笑顔を見せるスノードロップ。

 香草(こうそう)のリラックス効果が出てくれたようだ。


「……はい。わたくしは、守るためにここに戻って来たのですから……」


 スノードロップの視線(しせん)は、暗がりに向けられている。

 今までの“天使”の独白(どくはく)は、ただの(ひと)り言では無かった。


 視線(しせん)が向けられるその暗がりには、物凄い威圧感(いあつかん)(はっ)する、“魔王(・・)が居たのだから(・・・・・・・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ