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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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99話【視えるもの】



()えるもの◇


 エドガーは一人、宿に向かっていた。

 深夜帯(しんやたい)である事を理由に。

 「エミリア。(とま)っていくでしょ?」と言葉を掛けたが、エミリアは自分から「今日はロヴァルトの屋敷(やしき)(とま)るよ、朝一で城に戻るから」と言って帰っていった。

 もしかしたら、少しだけ気まずかったのかもしれない。


(エミリア。大丈夫かな……あんなこと言っておいてなんだけど、正直言えば不安だな……)


 エドガーは確かに言葉を掛けたが、それは激励(げきれい)では無かった。

 それで本当に、エミリアの心に(おお)いかぶさった不安が払拭(ふっしょく)されたかと言えば、きっとそれは違うはずだ。

 だが、()くした言葉は噓偽(うそいつわ)りのない本心であり、(まぎ)れもないエドガーの気持ちだ。


(戦争(せんそう)か……南の国、【ルウタール王国】か……)


 エドガーは知らない。その国がどのような国柄(くにがら)で、どのように発展(はってん)してきた国なのか。

 それどころか、【リフベイン聖王国】以外の国の詳細(しょうさい)を、エドガーは知らなかった。


(西の国、【レダニエス帝国】……じゃなくて、【魔導帝国レダニエス】、か。その国も、何も知らないんだよな……僕は)


 自分の無知(むち)に泣きたくなる。

 勉強なんてしたこと無くて、学ぼうとすることすらしなかった。

 ここに来てそれを後悔(こうかい)するなんて、先程の自分に言ってやりたい。


(馬鹿野郎(ばかやろう)だな僕は……エミリアに言った事は、自分にも言い聞かせてるようなものだ……何が後悔(こうかい)はしてないだっ……今さっきの自分に問質(といただ)してみろっ)


 自分を(なぐ)りたくなって、エドガーは(こぶし)(にぎ)る。


(確かに戦った事も、あの人を斬ったことも後悔(こうかい)はしてない……それは(うそ)じゃない)


 (うそ)はない。本心だ。しかし、真実ではないのだろう。

 エドガーにだって、男としての意地がある。格好(かっこう)悪いと言われても、情けないと言われても気にはしないが。


「エミリアに嫌われたくない――って、思っちゃってたんだろうな、きっと」


 あそこで引き離すことも出来た。

 それでエミリアが【聖騎士】として、強く(かしこ)くなるのなら、それもいいのかもしれないと。

 だが、心に残ったほんの一握(ひとにぎ)りの意地で。少年として、男として、格好(かっこう)悪くても情けなくても、意気地(いくじ)がないとは思われたくなかった。

 ならばどうするのか、それは。


「努力しよう……!せめて、(うそ)つきって言われない程度には……」


 そこでハッとする。(にぎ)った右手の(こぶし)、その甲だ。


「……【真実の天秤(ライブラ)】?いつの間に……」


 右手の甲に、赤と紫の《紋章》――【真実の天秤(ライブラ)】が復活していた。


「こ、これって……もしかして、ローザ……力が戻って!」


 一度、ローザが弱った際に消えていた、赤の《紋章》。

 右手には、フィルヴィーネの紫の《紋章》しか残っていなかったのだが、今見ると。


「戻ってる!ローザの《紋章》だっ!!」


 右手を星空に(かか)げ、自分の事のように喜ぶエドガー。


「ローザ……もしかして、エミリアの為に……?」


 深夜にも(かか)わらず、エドガーのもとにエミリアを連れて来たローザのあの態度(たいど)

 もしかしたらと、エドガーは更に嬉しくなる。


「話、聞かないと!」


 今後の願望(がんぼう)と、自分への切願(せつがん)。そしてローザの帰還(きかん)の喜びを胸に(かか)え、エドガーは星を(なが)めつつ、誰もいない路地を歩き帰ったのだった。





 タタタッ――と走る素早い影は、(ほほ)を上気させた少女だった。

 気恥(きは)ずかしさと、未来への不安と希望(きぼう)がごちゃ混ぜになった複雑(ふくざつ)な気持ちを(かか)え。

 エミリアは走って汗を流しながら、元の自宅である【貴族街第一区画(リ・パール)】のロヴァルト公爵(てい)へ急いでいた。

 城に()してからは、ロヴァルトの屋敷(やしき)では寝泊(ねとま)りしていない。

 (たま)に両親やメイドたちの様子を見に帰るときはあるが、その程度だった。


「父様と母様にも、ご報告をしておかないと……」


 父アーノルド・ロヴァルトは、【元・聖騎士】と言うのもあり、仕方がないと言うだろう。

 しかし、母はどうだろうか。病弱な母は、卒倒(そっとう)してしまうのではないだろうか。


「言わない方がいいのかなぁ……でも、エドの言う通り……私は」


 守りたい。家族を、大切な人たちを。

 エドガーに言われるまで気付けなかった、戦争(せんそう)実態(じったい)

 前線で敗戦(はいせん)してしまえば、聖王国【王都リドチュア】は火の海になりかねない。

 その先に待つのは、エドガーの言った通り最悪の結末(けつまつ)だろう。


「あ~……好きだなぁぁ……私、エドが大好きだよぉ」


 こんなことで恐怖心(きょうふしん)(うす)れるだなんて、自分はなんて単純明快(たんじゅんめいかい)な乙女なのだろう。

 エミリアは()けた(あし)を一旦止め、星空を(あお)ぐ。

 きっとエドガーも、星空を見ながら帰っているに違いない。

 同じ秘密(ひみつ)共有(きょうゆう)しているようで、不思議(ふしぎ)とドキドキする。


「うぅ、(とま)ればよかったぁぁぁ……」


 顔を(おお)って、早速後悔(こうかい)の念に()られる。

 本当はもっと一緒にいたかったし、もっと話したかった。

 (さけ)び終わると、エミリアはもう一度星空を(あお)ぐ。そして。


「……エド。エドは、私よりも騎士っぽいよ……」


 その精神は人の為に動き、人の為に(ふる)わせる事が出来る。

 自分を(かえり)みない心根(こころね)は、確かに騎士道と言えるものだろう。


「私も、エドと同じように考える。エドを、皆を守るために戦うよっ」


 星空に(こぶし)を突き上げて、一人(ちか)いを立てたのだった。





 そしてそのエドガーは。


「お!ラッキー……」


 (かが)んで、小石を(ひろ)う。

 月明かりを通して小石を見ると、キラリと赤っぽく(かがや)いた。


「……滅茶苦茶(めちゃくちゃ)小さいし(かがや)きも少ないけど、【アレキサンドライト】だ。魔力も少しある……ホントにラッキーだぞこれ」


 帰り道、一人で《石》(ひろ)いをしていた。

 腕に掛けたコートのポケットにその小石を入れて、ホクホク顔で立ち上がる。

 (ひろ)った【アレキサンドライト】は、昼夜(ちゅうや)で色を変える(めずら)しい《石》だ。

 光によって昼には緑、夜には赤と色を変える。

 今(ひろ)った小石は非常に品質(ひんしつ)が悪く、(かがや)きはほとんど無い。

 色もまばらで、本来は綺麗(きれい)な赤になるはずの夜にも(かかわ)らず、若干(じゃっかん)緑がかっていた。


「フフフ……」


 それでもエドガーは嬉しそうに、一人笑いながら帰り道を急いだ。

 見る人が見れば、(ひか)えめに言っても気持ち悪いかもしれない。

 しかし、その笑顔は一瞬で消え去る。


「――ぐっ……!!」


 突然襲って来た胸の痛みに、エドガーはしゃがみこむ。


「――うっ……痛っった……」


 胸の中心を押さえて、二度目の痛みに苦悶(くもん)する。そして更に追い打つように。

 ズギンッッッ――!!と、()れそうになるほどの痛みが、頭部を襲って来た。


「ぐぅぅ……な、なん……で、こんな……痛っ……たぃ」


 (ひざ)を着き、脂汗(あぶらあせ)()き出す。

 呼吸(こきゅう)(あら)くなり、目を開けてもいられなくなった。


「これ……もう、何度目何だよっ!痛ったぁ……!」


 エドガーは(うずくま)って、ついには身体を倒した。


「ぐぅ……なん、だ……これ……なんで、目を瞑っているのに(・・・・・・・・・)……()えるん、だよっ!?」


 エドガーは痛みに目を閉じている。

 しかし、暗いその視界(しかい)には、どこぞの光景(こうけい)が浮かんでいたのだ。





 そこには、一人の少女が横たわっていた。

 戦場と思しきその場所で、エッグゴールドの金髪が地面に広がっている。

 (ひとみ)は開き、口元からは血が(あふ)れていた。


 腕は(ひしゃ)げ、(あし)千切(ちぎ)れている。

 細い身体に突き刺さっているのは、鉄の杭(・・・)のような物だった。

 そして、その少女の最後の言葉は。


『……エド……』


 瞬間、何か巨大な塊(・・・・)が、その少女を押し(つぶ)したのだった。


「――うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」


 (さけ)び、起き上がる。

 ()えてしまったものを理解して、咄嗟(とっさ)に悲鳴を上げた。


「ぁぁぁぁぁ……ぁぁ……あ、ああ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 声は切れた。咄嗟(とっさ)(さけ)んだせいで、(のど)が痛い。

 しかし、そんな事は気にならないほどに、()たものが衝撃だった。


「今のは……エ――っ!!」


 言ってしまえば。口に出してはいけない気がして、エドガーは口を(ふさ)ぎ。


(な、なんだったんだ……今の、(ゆめ)(まぼろし)?……そ、それにしては)


 現実のような、肉感的(にくかんてき)なものだった。

 しかも、不吉()ぎるものだ。


「……うぐっ……!!」


 張り()めたものが途切(とぎ)れるかのように、エドガーは再度地面に倒れた。


「……エミ……リア……」


 段々と(うす)れる意識(いしき)の中で。

 ()えてしまった、幼馴染の悲惨(ひさん)な瞬間が、何度も何度も()り返されていった。


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