表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
334/383

98話【言葉を胸に2】



◇言葉を胸に2◇


 エミリアの言葉は続く。


戦争(せんそう)に行けって言われてさ……私、一瞬で理解した」


 死ぬかもしれないという事に。技術や精神も未熟(みじゅく)な自分が戦地(せんち)で何ができるのか。

 そんな事も分からない自分が生きていける自信が、どうしても()かなかった。


「……怖い。今すぐ逃げ出したい……戦争(せんそう)になんて行きたくないっ……」


 【聖騎士】にとって、聞かれれば良くない印象(いんしょう)を持たれるであろうその言葉は、エドガーにしか聞こえない。

 エミリアは座ったまま身体を(ちぢ)めて、(まゆ)のようになる。

 そのまま閉じ(こも)ってしまえば、どれだけ楽になるのだろうか。

 そう、考えそうになった瞬間。


「――エミリア。それは駄目(だめ)だよ」


 頭に乗せられた優しい手は、ゆっくりとエミリアを()でた。


「え?」


 エドガーが“駄目(だめ)”と言ったのは、戦争(せんそう)に行きたくない事を駄目(だめ)と言っているのではない。

 閉じ(こも)る事が、孤独(こどく)を生み出すことが駄目(だめ)だと言ったのだ。


(ひと)りで考えちゃ駄目(だめ)だよ。それは――サクラが一度行ってしまった場所だから……」


「……あ」


 エミリアだって忘れた訳ではない。

 友達になった異世界人の少女は、自分の境遇(きょうぐう)(のろ)って《石》に閉じ(こも)ってしまった。

 結果的に救われたが、失敗したらどうなっていただろうか。

 想像もしたくない。


「……エミリアは(ひと)りじゃない。皆いるから、皆見てるから。僕も、ローザも、サクラやサクヤもメルティナも、フィルヴィーネさんやリザもね」


「……でも」


「さっきエミリアは、僕の為に……って、言ってくれたよね」


 エドガーはエミリアの頭を()でながら、反対の手でエミリアの(ほほ)(つた)うものを(ぬぐ)った。


「僕も一緒だよ。もともと騎士学校に入学したのだって、エミリアやアルベールと一緒にいたかったからだし。これでも(そば)にいたかったんだよ、僕だって」


「……そんな感じには見えなかったぁ……」


「え……そ、それはごめん……」


 涙声で(うった)えるエミリアに、エドガーが(あやま)る。

 エミリアはてっきり、流されるままに騎士学校に入学したのだと思っていた。


「でもさ、母さんが亡くなって、父さんが蒸発(じょうはつ)してさ……二人分の学費(がくひ)(はら)えないって分かって、それで()めるまで……本当はずっと一緒に、いたかったよ。僕が騎士に成れるとは思ってなかったけど、それでもエミリアと一緒に卒業したいなって……思ってたんだ。本当だよ?」


 エドガーは、妹のリエレーネが通う分の学費(がくひ)(はら)う為に、騎士学校を()めた。

 成績はぶっちぎりの最下位であり、誰も気にはしないであろうエドガーの存在。

 それでも最低限、エミリアと共に卒業はしたかった。


戦争(せんそう)は怖い。怖いね……でも、僕だったら――行くよ。戦争(せんそう)


「――えっ」


 それは、エミリアにとって本当に予想外だった。


「ど、どうしてっ!?死ぬかもしれないんだよっ!?」


 エミリアはエドガーの手を(はら)って立ち上がる。

 エドガーは座ったまま、エミリアを見上げつつ言う。


「うん、そうだね……でもさ、聖王国が戦争(せんそう)に負けたら……敵国が次に向かう所は何処(どこ)だい?」


何処(どこ)って……負けてしまったら進軍されるから……それは、王都じゃ……――っ!!」


 気付いた。気付いてしまった。


「そう、ここ……王都だ。僕は無知だからさ、この王都以外の街や村を知らない……でもきっと、戦争(せんそう)に負ける……って言う事は分かってるつもりだよ」


 何故(なぜ)、そこまで頭が回らなかったのだろう。

 エミリアは、一瞬でこの街が蹂躙(じゅうりん)される様が思い浮かんだ。

 そこにはエドガーがいて、父や病弱な母、家族同然のメイドたち、ローマリア王女に、騎士学校の同窓生や後輩(こうはい)たちが横たわり、命を失っている姿だった。


「……私、なんて……」


「違うよ。エミリアは悪くない……僕だって、ううん……誰だって怖いさ。人が一人死ぬこと、それ自体が、他の誰かに影響(えいきょう)される事なんだから」


 エミリアの手を(つか)んで、もう一度座らせる。

 呆然(ぼうぜん)として、自分が何から逃げようとしていたのかを気付かされた。

 それは(ひど)幼稚(ようち)で、(ひど)(おろ)かな考えだった。

 だが、エミリアを責める人間はいないだろう。

 誰だって、死ぬことを簡単に受け入れたくはない。

 ましてやそれが、新人【聖騎士】として着任(ちゃくにん)したばかりの、未熟(みじゅく)な学生なのだから。


「それでも僕は、戦うよ。相手が人であろうと……大切な人を守れるなら。だってそれが、僕に(あた)えられた力を、最大限に生かせる事だから」


 少し前まで、エドガーは何も出来ない少年だった。

 しかし、エドガーは力を()て強くなった。

 仲間も出来て、(さび)しさもない。

 だが、決して(おご)ってはいない。


「あの時は何も出来なくて、エミリアやメイリンさんが傷ついている時に……僕は隠れてた……怖くて、怖くて……逃げ出そうとしてた。誰かに助けてとも言えずに、僕はやり()ごそうとしてたんだ……最低だろ?」


 それは、過去の事。まだローザが“召喚”される前の、エミリアとエドガーの記憶だ。

 契約の《紋章》の無いエドガーは、一般人以下の運動能力しかなかった。

 戦う事も、守ることも出来ない無力な少年は隠れて、幼馴染が傷つく場面から目を()らそうとしていた。

 結果的に言えばエドガーは気付かれ、ある男に一撃入れられて気を失うことになったが、あの時の恐怖(きょうふ)がなくなった訳ではない。


「今だって、時々思い出すくらいに怖いよ。それに、セイドリック・シュダイハを――僕は殺した(・・・)


「……エド……」


 エドガーの手は(ふる)えていた。

 それでも言葉を止めず、エミリアに向けて自分の気持ちを(はっ)した。


「エミリアが結婚させられるかもしれないって聞いて、僕は本気で嫌だったんだ……“悪魔”になってしまったとはいえ、あの人を殺したのは事実で……でも、嫌悪(けんお)憎悪(ぞうお)が、それをさせたんだと思う……本当に――醜悪(しゅうあく)な心の持ち(ぬし)だよ……僕は」


「そ、そんな事っ――」


 エミリアが、無いと言い切る前にエドガーは。


「――あるんだよ。でもねエミリア……僕、後悔(こうかい)だけはしてないんだ。あの日行動した事も、あの人と戦った事も……今も、その前も……後悔(こうかい)だけはしてない……そう思わせてくれたのは、エミリアなんだ」


「わ、私……?」


 思えば、後悔(こうかい)だらけの人生だった。

 母が死に、父はそのショックで蒸発(じょうはつ)

 残された妹を騎士学校に通わせるために【召喚師】を()いだ。

 しかし、【召喚師】は国に指定された“不遇”職業だった。

 それを()せて、エドガーはエミリアと一年()ごしたのだ。

 その一年、負の感情が後を引かなかったと言えば(うそ)になるし、今更否定(ひてい)する気もないが。


「そうだよ。僕の始まりは、いっっっつも君なんだよ、エミリア」


 あの時、エミリアに助けを求められなかったら。

 あの時、結婚するかもしれないなんて話がなかったら。

 そうでなかったとしても、もしエミリアがいなければ、ローザは、サクラは、サクヤは、メルティナは。


「気付いてる?僕を(ふく)む、皆の輪の中に……その中心にいるのは、エミリアなんだよ?」


「え――え?……えぇ?」


 自分の事を言われるとは思っていなかったようで、エミリアはエドガーの顔を(のぞ)き込んで「(うそ)言ってない?」と疑心(ぎしん)()られていた。


「あははっ、(うそ)じゃないよ――お、面白い顔だね……」


「ひっどいっ!」


 エミリアの疑心(ぎしん)(まみ)れの表情(かお)に、思わずエドガーは苦笑いした。

 だが、そう。これこそが、エドガーの幼馴染、エミリア・ロヴァルトだ。


「あはは!」


「もう~!エドーー!」


 ポカポカと、エドガーの胸を叩く。

 ポカポカ、ポカポカ、ポカ……


「……エミリア?」


 胸にすっぽりと(おさ)まったエミリアは、エドガーの背にスッ――と腕を回して。

 ギュッとした。そして。


「そんなこと言われたらさ、カッコ悪いよ……私」


「そんなことないよ」


「あるの。私が、そう思うの……」


 エドガーはエミリアを()き返す。

 安心させるように、優しく。


「まだ怖い、怖いけど……勇気は出た、かな。ちょっとだけど」


「そっか」


「うん。大切な人は……沢山いるものね、この国に、沢山……沢山っ」


 そしてそれを守れるのは、自分たち【聖騎士】だけなのだと。


「私が、守るよ……それで、ちゃんと帰ってくる……エドの所に、帰ってくるから」


「うん。皆で待ってる」

(本当なら、僕も行くとか言えればいいんだけど……)


 エドガーにそれは許されない。国が許さない。

 そもそも、部外者であるエドガーにその資格(しかく)は無かった。

 エドガーは騎士でも、兵士でも、傭兵でもないのだから。


「ありがと……。……」


 感謝の後のエミリアの言葉は、聞き取れなかった。


「え?」


「――ありがとっ!」


 エミリアはエドガーから離れる。満面(まんめん)の笑みで。

 まだ恐怖心(きょうふしん)はある。だが、その恐怖(きょうふ)は今までの物とは明らかに違う。

 今のそれは、自分が死ぬかもしれない、幼馴染に会えないかもしれない。ではない。

 何もしなければ、誰か大切な人を失うかもしれないと言う、そんな恐怖(きょうふ)だった。


「帰って来たら、いっぱい聞いてね?私の話」


「うん。勿論(もちろん)だよ」


「私は……守るために戦争(せんそう)に行く!まだ戦いが起こるかは分からないけど、エドや皆に――大切な人たちに(がい)が無いように……私、頑張る!!」


 その笑顔は、完全な作り笑いだった。

 月明かりと星が()らすその作り笑顔は、今までのエミリアのどの笑顔よりも切なく、無理に引き出したものだと瞬時に分かった。

 それでもエドガーは優しく、何も心配など無いと言わんばかりに。


「ああ、ずっと……応援してる」


 エミリアの恐怖(きょうふ)は完全に(ぬぐ)われた訳ではない。

 恐怖心(きょうふしん)はそのままに、エミリアはエドガーの言葉を胸に()め、戦地に(おもむ)くことになる。

 それは【リフベイン聖王国】と南国、【ルウタール王国】の戦いの幕開(まくあ)けである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ