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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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96話【踏み出す一歩、私の一頁】



()み出す一歩、私の一(ページ)


 一頻(ひとしき)りローザの胸で泣いたエミリア・ロヴァルトは、()ずかしさを胸に仕舞(しま)い、ローザを見上げ言う。


「そ、それで……どうやって行くの?」


 時間は深夜だ。しかも馬車は使えない。歩いて行こうにも、そんな事をすれば時間はあっと言う間に朝だろう。しかし、そんな事は一切気にしていないローザは、手に持った《石》をエミリアに見せつける。


「【消えない種火】……?」


 赤い赤い宝石のルビー。ローザの全てとも言える《石》だ。

 この城に来てからは、ローザは(ほとん)どこの《石》を身に着けていなかった。

 その理由は様々だが、ローザ自身が(こば)んでいた点が、一番の理由だっただろう。


「私の全て……【消えない種火】。この《石》のお陰で私は生きてこれた。でも、この《石》が原因(げんいん)で、私は停滞(ていたい)していた……前に進めていなかったのよ。《石》を外して、気付くことが沢山あったわ……そして大切なものがなんなのか、気付くことができた」


 それは、元の世界では絶対に()ることの出来ないものだった。

 孤独(こどく)と共に()ごし。孤独(こどく)に死んでいく。

 それが自分の運命だと思っていた。だが運命は、こんなにも簡単に転がるものだと知った。


「私の大切なものが泣いていたら、助けるのは当然なのよ」


「そ、それって……」


「言わせないで。()ずかしい……さぁ、少し離れていなさい。エミリア」


「う、うん……」


 言わせないで欲しかった。

 エミリアは心配そうにしながらも、ローザの言う通りに離れ見守る。

 赤面しながらも、エミリアが離れた事を確認し、ローザは《石》を右手の甲に着ける。

 人生で初めて出来た友人の為に、ローザは再び《石》をその身に着けた。


「……くっ……」


 一度拒否(きょひ)した力は、その身を()がすようだった。

 初めて使用した時のように、全身を炎で(つつ)まれたかのような熱の感覚は、痛みでは済まない程の痛覚(つうかく)だった。


「――ローザ!?」


 少し離れていたエミリアが、心配そうに()け寄ろうとするが、ローザは手で(せい)し笑顔を見せる。


「平気よ。こんなの、初めての時に比べれば……なんでもないわっ!!」


 そうは言うが、実際は相当の痛みだった。

 初めて《石》を身に着けた時とは違い、《石》は侵食(しんしょく)していくように右手に()め込まれていく。いや、勝手に手の中に(しず)んで行っているようだ。

 まるで怨念(おんねん)()み込んでいくかのような、(むしば)みだと思えた。


「《石》が、ローザの手に……()まって」


 まるで、一体化していくかのように。


「ぐ……ぐぅ……」


 歯を食いしばり、その侵食(しんしょく)(おさ)え込もうと汗を流す。

 痛みに()え、じゃじゃ馬を()いならす為に気合を入れるローザ。

 ポタリポタリと床を汗で()らして、《石》の感覚を再度、覚え込まされていく。

 直接的に手の甲に着けていた時とは違い、《石》は(みずか)らローザの体内に侵入(しんにゅう)して行っているようにも見える。

 そしてローザも、それを受け入れている。


(……分かってる。(ひど)いわよね……一度、私はあなたを(こば)んだ。その力を、自分の都合(つごう)だけでまた使おうとして……怒るのも無理はないわ)


 ローザは目を(つむ)り、心の中で(かた)りかける。

 その《石》の奥底に眠る(・・・・・)であろう意思(いし)に。





 ローザが目を開けると、そこは炎の世界だった。

 誰もいない空間に自分だけが(ただよ)う感覚。ここが夢想(むそう)だと分かる。

 だが、ローザは意を決して進む。その者が待つ最奥(さいおう)に。


 不思議(ふしぎ)な炎の空間を進みながら、ローザは思う。


(昔から、【消えない種火】の中に誰かがいるって……朧気(おぼろげ)ながらに感じていたわ。でも、あなたに気付く事が出来なかった……子供だった私には、そこまでの余裕(よゆう)はなかったのよ。でも……今は分かる。あなたに会いに行く……共に、生きて行けるように)


 《石》の奥底から感じる、灼熱(しゃくねつ)と言ってもいい豪炎(ごうえん)

 ローザを(みちび)くかのように、案内してくれている燃え(さか)る炎。

 それを追うと、この世界唯一(ゆいいつ)の住人である者が、ローザを待ち(かま)えていた。

 陽炎(かげろう)()らめくその場所にいたのは。

 ――炎を(まと)う一羽の()だった。


「あなたが、【消えない種火】の(ぬし)ね」


 ローザが夢想(むそう)の中の岩場に足を下ろすと、その鳥は丸めていた身体を起こし、値踏(ねぶ)むようにローザを見る。

 炎を(まと)った巨大な鳥は、その大きな首を下げローザの眼前(がんぜん)まで近付ける。

 虹色に(かがや)(ひとみ)はローザを(うつ)し、()れる尾の炎はローザを(つつ)むように周囲を(かこ)っていった。


『――如何(いか)にも。(われ)が……【消えない種火】に封ざれた“精霊(・・)”――フェニックスだ』


「……フェニックス……」


 炎鳥、フェニックスは念話(ねんわ)でローザに声を掛けている。


『……一度逃げ出したお前が、まさか《石》の侵食(しんしょく)も恐れずにここに来れるとは(おどろ)いたぞ。(われ)は、もうお前と話す機会は無いと思っていたが……』


「……」


『しかし、覚悟は見事だ。以前のような覇気(はき)の無さは皆無(かいむ)のようだ』


 以前というのは、ローザが初めて【消えない種火】を身に着けた時の事を言っているのだろう。

 “天使”ウリエルに(さず)けられ、何の感情もないままに《石》を受けれた時の事を、フェニックスは知っているのだ。


「……随分(ずいぶん)と昔の事を言ってくれるのね……」


『当然だ。我等(われら)永遠(えいえん)ぞ……“精霊”、はたまた“悪魔”と呼ばれる我等(われら)精神体(エレメント)は、“神”に通ずる意思(いし)を持つのだ……お前たちの一生など、我等(われら)にすれば一瞬ぞ』


「そう、でしょうね……」


 フェニックスは目を細めて、ローザに問う。


『……お前がこの場に来た理由……再度、力を求めるのは何の為だ。まさか、あそこにいる小娘を助けるなどと、世迷言(よまいごと)を抜かすわけではないであろうな……』


 心象(しんしょう)は映像となって、ローザの前に(うつ)し出される。

 そこには、苦しみ汗を流すローザを心配するエミリアの姿が(うつ)っていた。


「……」


 一瞬、悪趣味(あくしゅみ)だと思ってしまったローザだったが、長い間を一人で()ごしていたフェニックスが、少しばかり(あわ)れに思えてしまった。

 そしてそれは少し前の自分自身と、全くの同義(どうぎ)だとも気付いた。


「――私があの子を救えたら……それはそれでいいのかもしれない……でも」


 ローザはフェニックスの顔に手を()え。


「でも……私ではあの子を救えない。救うべき人物は――他にいるから」


『……では、何故(なにゆえ)力を求めた。(われ)の力は……お前がよく知っているだろう。その一端(いったん)とは言え、長年にわたり使って来たのだ……この戦うべき力で、あの小娘を救うのではないのか?これからあの小娘は、戦地に(おもむ)くのであろう?……今のような精神状態で、戦い続けられぬ事……お前がよく知っているだろう。わざわざ死にに行くようなものだ』


「――そんな事はさせないわ……私が、いえ……私たちが」


 戦争(せんそう)犠牲(ぎせい)を出さない。そんな事を言えるほど、ローザは世間知らずでも、お人好しでもない。

 それでも、自分たちなら(・・・・・・)それが出来るのではないかと、思えた。


『確かに。異界(いかい)の力を持てば、この衰退(すいたい)しきった世界で頂きを()る事も可能であろう』


「私にそんな趣味(しゅみ)はないわ……昔からね」


 ローザは炎鳥の言葉に笑みを浮かべながら、答える。


「でももし――その時が来たら……頂にいるのは――」


 言わずとも、フェニックスには理解が出来た。

 その虹色の(ひとみ)を大きく開いて、ローザの動いた口元を(うつ)し。


『――フハハハハハッ……そうか、そこまでか!あの者は』


 バサリと翼を広げ、炎を舞わせて実に愉快(ゆかい)そうに笑うフェニックス。

 反動で尾がローザにペチペチ当たっている。どうやら熱くはないようだが。


 フェニックスはローザの回答を気にいった。

 正確に答えた訳ではないにもかかわらず、その意思をはっきりと理解して、笑ったのだ。


「そこまで笑う?」


 ローザは少しムッとしながらも、自分でもおかしな気分だと認識(にんしき)はしているようだ。

 実際(じっさい)まだ、あの少年にそこまでの資質(ししつ)があるかは分からないのだから。


(われ)もお前を通して見ていた。人畜無害(じんちくむがい)なお人好しなのも理解しているさ……』


「そうでしょう?」


『ああ――だがな』


「……え?」


 そのフェニックスの言葉を。

 ローザは今後の生において、何度も何度も思い返すことになる。





「……」


『……』


 理解したくはなかった。しかし思い当たる(ふし)もある。

 聞き終えたフェニックスの言葉を考えながらも、ローザは。


忠告(ちゅうこく)として受け取るわ……あの子がどうなるか、それは異世界人(わたし)たち次第(しだい)でもあるのだから。あなたは見ていて……」


『確かにその通りだ……努々(ゆめゆめ)注意せよ。(われ)も……あの男は嫌いではないからな……』


 そう言って、フェニックスは姿を炎と変えていく。

 炎はやがて形作り、《石》となった。

 【消えない種火】のようであり、しかし違う存在のように、ローザは感じた。

 《石》となったフェニックスは、ゆっくりとローザに()い込まれるように、その姿を消していった。


「……力を貸してくれるの?」


『貸すのではない。一つになるのだ……よいな。お前は……もう人ではない(・・・・・)……その存在を、“精霊”として生きることになるのだ』


「……“精霊”として……」


 体内に感じる《石》の熱さと、その力の全てを共感し。

 格別(おどろ)きもせずに、ローザはその言葉を受け入れる。

 それが今、一番必要な力だと分かっているから、だからこそ否定(ひてい)はしない。


『――ローザよ。今よりお前は、“精霊”フェニックスだということを認識(にんしき)せよ……さすれば、天も魔も――お前に(かしず)くであろう……』


 フェニックスは、満足げに宿主(ローザ)と一体化を果たして、その全ての権限(けんげん)をローザに委譲(いじょう)した。


 “精霊”フェニックス。

 不死の力を持ち、聖なる炎と魔の炎、両方を(あやつ)る存在。

 生まれ変わったローザの新たなる力、いや……新しい存在。


『……感謝するわ。さぁ……行きましょう、フェニックス』





 《石》は、完全にローザの右手に吸い込まれていった。


「はっ……はぁ、はぁ……」


「――ローザっ!」


 ガクリと(ひざ)を着くローザを、エミリアが(ささ)えた。

 心配そうにするエミリアをよそに、ローザは見た事のない笑顔で。


「フフフ……見てたわね?エミリア、私は……進んだわよ。一歩、進んだ!」


「うん!うん!!」


 休む間もなく、ローザはエミリアの肩に(つか)まって立ち上がり。


「――飛ぶわよっ!」


「うん!……――えっ!?」


 突然の宣言(せんげん)は、予想外中の予想外だった。


「――すぅー」


 深く息を()ったローザの口から出たのは、聞いた事のない言葉だった。


「【憑依の翼(ポゼッション)】!!」


 言葉と同時に一瞬で、ローザの背に()え出る赤い翼と尾。

 メラメラと燃えているが、熱さは感じなく、どちらかと言えば心地いい感覚に、エミリアは。


「……綺麗(きれい)……」


 恐怖(きょうふ)ではなく。エミリアが()らした声は感嘆(かんたん)(あふ)れていた。

 ばさりと広がる翼は、炎の鳥のように燃え(さか)っている。

 それはローザの思いと、《石》に秘められた神意(・・)が一つになって。


「――行くわよ。フェニックス!!」


 【消えない種火】。

 その真の名(・・・)は、【不死鳥の種火(フェニックス・シード)】。

 “悪魔”あるいは“精霊”である、フェニックスが封じられた【神のみぞ知る宝石ゴッドノウズ・ジュエル】だ。


 この事実を隠して、“天使”ウリエルはローザに(たく)した。

 隠蔽(いんぺい)された能力の一端(いったん)は、魔力消失で復活(ふっかつ)する“悪魔”の力。それこそ不死鳥(ふしちょう)のように(よみがえ)る、消えない種火だったのだ。

 そして今、“精霊(フェニックス)”そのものになったローザは、その能力を全て掌握(しょうあく)した。

 だからこそ、知りもしなかった技を使う事が出来た。


「フェニックス!?何そ――」

「――ふっ!」


「れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 エミリアの疑問は完全スルーし、ローザはエミリアを(かか)えると、(いきお)いのままに飛翔(ひしょう)する。

 二人は、月が(かがや)く夜空に飛び立った。エミリアの残響(ざんきょう)だけを残して。


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