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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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95話【友の証】



◇友の(あかし)


 ローマリアの寝室に入ると、待っていましたと言わんばかりに。


「ローザ!よく来たわ……!ほら見なさいノエルディア、やっぱりローザは行動してた!」


 興奮気味(こうふんぎみ)にメイド騎士に言い寄る王女。

 それに対してノエルディアは。


「あーはいはい、殿下(でんか)の言う通りでしたよ。もう少しで、聖王国民が二人消し炭になる所でした~」


「――こ、殺しはしないわよ……多分」


 物騒(ぶっそう)な事を言われて、ローザはギクリと心臓を鳴らす。

 一応手加減(てかげん)はするつもりだったのだから、大目に見て欲しい。

 実際は未遂(みすい)だったのだし。


「でも良かったわ……ローザだったら、きっとこの部屋かエミリアの所に行っていると思っていたのよ――聞いたのでしょ?」


「全てではないけれど。あの子が異常(いじょう)(おび)えていた事と、戦争(せんそう)が始まる……って所ね」


 その言葉に、ノエルディアが「やっぱり……」と(うなず)く。

 ローマリアにも、エミリアの状態(じょうたい)を言ってくれていたようだ。


「それで、ローザならきっと……エミリアの為に動くだろうなって思っていたのよ!でも、セルエリス姉さまが……」


 【聖騎士】の派兵(はへい)を決め、その【聖騎士】二人がローマリアの部下だという事で、少しでもローマリアが助長(じょちょう)しないように、ローザの接近(せっきん)阻止(そし)しようとした、と言った所か。


「それなら、私がここに居るのはマズいのではない?」


「無理矢理来ようとした女が何を言うのよ……まったく」


 ノエルディアに言われた。


「それはいいわ。私も私なりに行動しなければと思っていたのよ。エミリアもノエルディアも、私の【聖騎士】だもの……簡単に派兵(はへい)なんてさせないわ!」


 しかし現実問題として、派兵(はへい)を止めさせることは無理だろう。

 セルエリスは国の全権(ぜんけん)を任されており、今や女王とも呼べる存在である。

 王女に()ぎないローマリアがもし、親である王に進言したところで、一蹴(いっしゅう)されるのがオチだ。


「でも、もうエリス姉さまは、きっとお父様に(つた)えている筈だから……二人の派兵(はへい)をキャンセルなんて出来はしないの……ローザも、それは分かるでしょう?」


「ええ。勿論(もちろん)よ」


 ローザだって王女の(はし)くれ、それくらいは当然知っている。

 しかもローザに(いた)っては、戦争(せんそう)の中心にいた人物だ。


「ローザがここに来たのは……」


「そうよ。ローマリア、私は……」


「――待って。その前に、コレを……」


 ローマリアは(つくえ)に戻り、豪奢(ごうしゃ)な小箱を手に取り。

 それをパカリと開け、中身をローザに見せる。


「……これは、勲章(くんしょう)……?」


「そう、少し前に用意させていたの。まさか、こんなに早く渡すことになるとは思わなかったけど」


 てへへと笑いながら、ローマリアはその勲章(くんしょう)を手に取り、ローザの胸元に付けた。


「――聖王国王女、ローマリアの名において……ローザ・シャルにこの勲章(くんしょう)(さず)けるわ。貴女(あなた)は私の師……先生だもの……いつでも城に出入りしてくれて(かま)わないから……」


「ローマリア……」


 ローザの目的を、ローマリアも分かっていた。

 そしてこの勲章(くんしょう)は、ローザに出していた依頼(いらい)の終了の(あかし)であり、おそらく初めから用意するつもりでいたのだろう。渡す時期が早まっただけで。

 しかしこれで、何の後腐(あとくさ)れもなくローザは城を出れる。


「――感謝するわ。ローマリア」


 ポンと乗せられたローザの手に、ローマリアはくすぐったそうに笑みを見せ。


「エミリアを頼みます、せ、先生……」


 自分ではもう、何も出来ないと分かってしまった。

 部下として任命(にんめい)しておきながら、その身を戦地に差し出さなければならない処遇(しょぐう)を、ローマリアは(なげ)いていた。


 姉はもう、誰の意見も聞かないだろう。

 ノエルディアに聞いたエミリアの状態(じょうたい)では、戦地に(おもむ)かせるのは危険だ。

 絶対に、エミリアの命の灯火(ともしび)を消させるわけにはいかないのだから。

 だから、自由に動ける人物が必要だ。

 その役目は、きっとローザがやってくれると確信して勲章(くんしょう)を渡した。

 そして実際(じっさい)、ローザは自分から動き出してくれた。

 ローマリアにとって、こんなに嬉しい事はない。


「――任せなさい」


 ローザはそんな短い言葉一つだけを言うと、背を向けて部屋を出て行く。

 ローマリアとノエルディアは、最後までローザの背を見続けていた。





「――エミリア!!」


 ローザがエミリアの部屋に戻ってくると、エミリアは部屋の(すみ)(うずくま)って泣いていた。

 誰もいなくなった自室にも(かかわ)らず、(すみ)っこで(ひと)り、孤独(こどく)に泣いていた。

 その姿はまるで、迷子の幼子(おさなご)のようだった。


「……ローザ?」


「立ちなさいエミリア。行くわよ!」


 顔を見るなり、ローザはエミリアを無理矢理立たせて顔を正面に(とら)える。

 当然のことだが、エミリアは何が何だか分からず混乱(こんらん)した。

 今から戦地に向かうと言われてそうなほどの、困惑(こんわく)した顔だった。


「ど、どこに……!?」


 腕を取られて、向かう先はバルコニー(・・・・・)だった。


「ロ、ローザ!?」


「いいから」


「良くないよ!」


 少女は手を振り(ほど)く。

 月の光だけが()らすバルコニーに、少女は充血(じゅうけつ)し赤くなった目を向ける。

 向けた先には、赤い髪が美しく(かがや)彫刻(ちょうこく)のような美しい女性が、月光(げっこう)()びている。

 神々(こうごう)しいまでに神秘的(しんぴてき)雰囲気(ふんいき)(かも)し出していた。

 (りん)と立つその姿に、少女は引き寄せられるように自然と歩み、自身の足もバルコニーへと一歩を()み出していた。

 そして。


「今からエドガーに会いに行くわよ」


「……え?」


 女性が口にしたのは、絶対に不可能な言葉だった。

 確かに今、少女が一番目にしたい、会いたいのは彼だ。

 だが現在時刻(じこく)は深夜、それも王都内は静寂(せいじゃく)(つつ)まれており、勿論(もちろん)馬車など出ている筈もないし、【聖騎士】であろうと、城の馬車を自由に使えるまでは時間もない。


「なにを……言って」


「エドガーに会おう、エミリア」


「――無理だよ!今、深夜だよ!?……明日には準備もしなくちゃいけないのにっ、今エドに会いに何ていけないよっ!!」


 これは時間が原因(げんいん)だった。

 出立(しゅったつ)までの期日が十日もあれば、エドガーに会いに行くことも出来ただろう。

 しかし期日はたったの三日、正確には出発が三日後なので、事実上二日だ。

 そして今の時刻(じこく)は深夜。もう二日も無いのだった。


「無理なんかじゃない。エドガーは起きてる」


「そ、そうじゃないってっ!!私、戦争(せんそう)に行くのっ!行かなきゃいかないのっ!!今こんなんでエドに会ったら、私……!」


 少女は両手で顔を(おお)い、(あふ)れ出てくるものを隠す。我慢(がまん)していたものが嗚咽(おえつ)に変わり、自然としゃくり上げそうになって、羞恥(しゅうち)(さら)された気分だった。


「エミリア」


「……!や、やだ……!やめてよローザっ!」


 女性は少女の腕を取り、隠していた顔を(さら)す。

 涙で充血(じゅうけつ)し、()(むし)った髪はぼさぼさで(とtろの)えられてはおらず、その苦悩(くのう)表情(ひょうじょう)はまさに悩める少女だった。

 そんな少女を、女性は優しく()き寄せる。


「そんな事思わなくていい。自分本位になりなさい、エミリア」


 今の少女の思考(しこう)は、幼馴染に会えば自分は迷うのではないかと言うものがあった。

 国の決定は(くつがえ)る方が(まれ)だ。誰かが方針変更(ほうしんへんこう)できる立場でもない。

 (したが)うしかない状況(じょうきょう)は、更に悩ましさを助長(じょちょう)させる。


「私……は、自分勝手だよ……ローザ。言われるまでもなく、ずっとずーっと!私は自分の事だけ考えてるんだからっ!!」


 ()かれた腕を振り(ほど)いて、少女は(さけ)んだ。しかし。


「それは違うわ。貴女(あなた)の考えは……いつもエドガーが一番よ」


「……そんな事」


「――ある。彼の事を最優先にする貴女(あなた)は、怖いのよ。彼と離れる事で……その最優先が変わってしまうから」


「……」


 国の為に戦う事が、本来騎士のあるべき姿。

 しかしこの少女は違う。幼馴染の男の子の為に槍を持ち、男の子の為に国を変えたいと騎士学校に通う、恋をする少女だ。

 聖王国の人間の中で、この少女はとその兄だけは根本(こんぽん)が違う。

 人の為に自分を(かえり)みることの出来る人間だ。


「自分を最優先にしてもいいのよ。貴女(あなた)も……エドガーも」


 お(たが)いに似た者同士の幼馴染。

 だからこそ、何の不思議(ふしぎ)はない。

 好きな男の子に会いたいと、そう言ってしまえばいいだけの事だ。

 女性の知っている少女は多少の事ではめげない、勇気と根性を持った、(たた)えられるべき人材だ。

 たったそれだけの事、許してやったっていいだろう。


「……私だって、会いたいよ……会いたいよぉ……エドに」


「ええ」


 女性の肯定(こうてい)に、少女は胸に飛び込む。


「エドに会いたい……会いたい!!」


 受け止められた少女は、顔を()せつつも(さけ)び、その思いをぶつける。

 まるで、想いを“神”に願うように。


「――行きましょう……エミリア」


「――うんっ」


 月が(かがや)く深夜のバルコニーで、二人は笑う。

 向かうべき場所はたったの一か所、エドガー・レオマリス。彼のもとだ。


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