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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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94話【悩みは尽きず】



(なや)みは()きず◇


 エミリアは、いつの間にか自室に戻って来ていた。

 レミーユは夜勤(やきん)に戻っているので、今は部屋に誰もいないはずだ。

 そう、思っていたが。

 ドアを開けて部屋に入ると、そこには見慣(みな)れた赤毛の女性が、()が物顔で椅子(いす)に座っていた。


「――お帰り」


「……ローザ。寝てなかったんだね」


「ええ。タイミングを逃したわ」


 優雅(ゆうが)紅茶(こうちゃ)など飲んでいて。

 少しだけ、ほんの少しだけ腹が立った。


「熱いの平気なの?」


「これはアイスティーよ」


 フーフーしてたじゃん。とは言えずに、エミリアは「そ」と言いながら上着を()ぐ。

 しかし手が(ふる)えて、上手く力が入れられない。


(……手が、(ふる)えて……なんで!)


「――エミリア」


「――!」


 いつの間にか、ローザが後ろに立っていた。


「な、何……?」


「……何でもないけれど……ほら、後ろを向いて?」


 エミリアは、やたらと気にかけてくるローザを警戒(けいかい)しながらも、言われたままに後ろを向く。すると、ローザが服を()がせ始めてくれた。


「……」


「……」


 無言のまま、エミリアは夜着(よぎ)に着替え終わる。

 「はい終わり」と、ローザがポンポンと肩に手を置く。

 その優しさに。つい。


「ローザ。私……戦場に行かなくちゃいけなくなった……」


「……」


 ローザは何も言わない。エミリアの言葉を待っているのだ。


「私、馬鹿(ばか)だ……戦争(せんそう)なんて、起こらないって思ってた……いきなりそんな事を言われて、頭……真っ白になっちゃって……戦争(せんそう)、行かなきゃ……私……」


 突然の宣告(せんこく)に、エミリアの心中は白く()りつぶされた。

 話は後半だったため、その内容(ないよう)のすべては覚えている。

 だが、ここまでの帰り道、自分がどうやって戻って来たかを覚えてはいない。


「怖くて……騎士学校も、【聖騎士】に成りたかったのも……私は、全部……エドの……」


 幼馴染の“不遇”を解消したい。

 それが全てだった。不純(ふじゅん)と言われれば、まさにその通りなのだろう。

 しかしエミリアにはそれが全てであり、何事をするにも動機はエドガーだった。


戦争(せんそう)がしたくて【聖騎士】に成った訳じゃない……違うよ?分かってるんだ。それが本筋(ほんすじ)だって、分かってる……でも、私は……」


 【聖騎士】とは国を守るための組織(そしき)であり、個人を守るものではない。

 勿論(もちろん)のことだが、個人も国の一部。しかし【召喚師】は別だと、その国が言っている現状(げんじょう)だ。

 それを変えたくて、ロヴァルト兄妹は頑張って来た。


「初めは……私、エドが“不遇”職業だなんて知らなくて……ただエドを守りたいって、エドは弱っちいから、私が守ってあげなくちゃって、思ってて……」


「……」


 暗い室内で、(つくえ)の上に乗った蝋燭(ろうそく)の明かりだけが、二人を()らす。


「理解してるよ。国の為、私は戦わなくちゃいけない……その為に訓練(くんれん)をして、勉強(べんきょう)して……来た、んだから……っ」


 恐怖(きょうふ)は、自然と(ひとみ)()らし、(ほほ)(つた)う。


「怖い……死が、目の前に来て……私も、戦いで死ぬかもしれないって……思っちゃって……」


 事前の知識はある。【ルウタール王国】は強くはないと何年も前から頭に叩き込んでいる。

 しかし、一度芽生(めば)えた恐怖(きょうふ)は、そう簡単に(ぬぐ)えるものではない。


「怖いよ、ローザ……私、死ぬのが怖い……怖いよぉぉ……」


「エミリア……」


 ローザは、エミリアを背後から()きしめた。

 ギュッと(つつ)み込むように、その恐怖(きょうふ)が、少しでも(うす)れる様に。


「怖い、怖いよぉ……エドぉ……エドに会いたい、エドぉぉ……」


(この子が怖いのは、戦う事じゃない。自分が死ぬことじゃない……きっと、エドガーに会えなくなる事だわ……一瞬でもそれを考えてしまえば、一度決壊(けっかい)した想いは……流れ出る事しかしない。エドガーに対する思いが、この子にとっては全て……“恋”、しているのね……エミリア)


 エミリアがエドガーに特別な思いを(いだ)いている事は、きっと誰が見てもそうだと言うだろう。ローザだって気付かない訳がない。

 初めて会った時に(すで)に気付いている。


「うぅぅ……ぐすっ……」


 回されたローザの腕を(つか)んで、エミリアは顔を隠して涙を流す。


(普段のこの子なら、きっと戦争(せんそう)なんて気にしない。笑って()り飛ばすくらい、この子は前向きなのだから……それでも、暗闇(くらやみ)はどこからでもやって来る……それこそ、サクラが暗闇(くらやみ)に落ちたように、闇はいつも、光の(そば)にいる……)


 一度思ってしまったネガティブな思想(しそう)は、根付(ねづ)くことを放棄(ほうき)することはない。

 普段どこに行ったか分からない顔をして、その思想(しそう)は突然目の前に現れるのだから。

 きっと、エミリアの心が弱いのではない。

 暗闇(くらやみ)が光を飲み込むスピードが、恐ろしく異常(いじょう)なだけだ。

 だから、ローザに出来る事。それは。


「――エミリア。会いに行きましょう……」


 エドガーに、エミリアを合わせなくてはいけない。


「……え……?」


 この子を、このままにはしておけない。


「少し早いけれど……ローマリアに言ってくるわ。少し待っていなさい」


 ローザは腕を()く。

 エドガーにするようにエミリアの頭をポンと叩き、ローザは笑顔で言う。


「――私は、親友を泣かせたままにしておくつもりはないから……」


「……ローザ……?」


 部屋を出ていくローザの手には、赤く(かがや)く宝石が(にぎ)られていた。

 一人になったエミリアは、ぺたんと座り込み、その時を待つ。

 それしか、今のエミリアには出来なかった。





 ローザは城内を()けていた。

 ここはローマリアの寝所(しんじょ)付近であり、夜は警戒(けいかい)が強い。

 賓客(ひんきゃく)とは言え、ローザが無断(むだん)で出歩いていい場所では無かった。


「――お止まり下さい、ローザ・シャル殿」


 二人の騎士が、槍を合わせてローザの進行を(ふさ)ぐ。


「悪いけれど、通してくれないかしら」


「出来かねます。普段ならともかく……残念ながら今日からは許可(きょか)できません。お(あきら)めを」


 流石(さすが)に、戦争(せんそう)を始めようとしているだけの事はある。

 おそらくローマリアと面会させないつもりだろう。それだけ、セルエリスはローザを警戒(けいかい)していたという事か。


「どうしても?」


「「どうしてもです」」


 仕方が無い。と、ローザが手を出そうとした瞬間。


「――(かま)わないわ」


「「!」」


「――メイド騎士……」


「――ノエルディアよ!いい加減覚えて!……ゴホン。まぁいいから、ローマリア様も待っているから。いいわね?」


 メイド服の【聖騎士】ノエルディアは二人の騎士に、そっと(そで)の下を渡す。

 そしてぼそりと何かを(つぶや)いた。


「……どうぞ、私は何も見ておりません」

「私もです……」


「いい心がけね。いきましょう、ローザ・シャル」


「……」


 若干(じゃっかん)ほくほく顔の騎士たちの横を、ローザは通っていく。

 少し歩き、ローマリアの部屋に近づいてきた二人。するとローザがノエルディアに。


賄賂(わいろ)とはね……」


「一番簡単でしょ?それにあいつらは、元々第二王女殿下(でんか)派閥(はばつ)だから、簡単よ」


「何か言ったみたいだけれど」


「あ~。あの騎士、最近子供が生まれたのよ。んでもう一人は……その恋人(・・)


「……もしかして……」


 あの騎士二人は、デキていたのだ。

 片方は妻子(さいし)が居り、いい旦那(だんな)なのだろう。

 しかし実態は同性愛を(かか)えており、隣の騎士とそういう関係だという事だ。


「言わないであげてね?」


「そんな悪趣味(あくしゅみ)、私にはないわよ……」


 恋も愛も、人それぞれなのだ。それが世間一般(せけんいっぱん)でいけないとされていても、それをとやかく言うような無駄(むだ)趣味(しゅみ)は、ローザにはない。


「それならいいけど。んじゃ、殿下(でんか)のもとに行きましょうか、警備(けいび)の騎士を倒されたら、(たま)ったもんじゃないからね!」


「ええ。そうね」


 ノエルディアはどうやら、ローザが城の衛兵を倒してしまう事を恐れたらしい。

 実際、ローザは強行をするつもりだったのだから、何も言えないが。

 ノエルディアからそう言って貰えて、ローザとしても実に重畳(ちょうじょう)だった。


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