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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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93話【派兵】



派兵(はへい)


 ローマリアは、セルエリスを待つために玉座(ぎょくざ)の横に立った。

 エミリアとノエルディアは横で待機している。

 そしてギルオーダはニコニコしながら、エミリアとノエルディアに手を振っていた。


「ノエル先輩(せんぱい)……あの人駄目(だめ)です」

「知ってる」

「多分、クビです」

「そう思う」


 こそこそと話す二人に、ギルオーダは投げキッスまでして来た。


「ちっ……この万年発情猿(はつじょうざる)が」

「……流石(さすが)に引きます」


 ローマリアが激睨(げきにら)みしているのに、気付かないギルオーダ。

 そんな中、セルエリスが到着(とうちゃく)した。

 騎士ヴェインに連れられて、ゆっくりと歩いてくる。

 流石(さすが)に第一王女、落ち着いている。


 セルエリス王女が玉座(ぎょくざ)に座ると、()ぐに。

 ローマリアが仕切りを行う。


「【聖騎士】ギルオーダ、顔を……もうあげているな」


 ため息を()きたくなった。


「――(かま)わないわローマリア、その猿が馬鹿(ばか)なのは、世界共通だから」


「エ、エリス姉さま」

(エリス姉さまが冗談(じょうだん)言った!?)


 どうやらギルオーダに関しては、セルエリスですら(あきら)めているらしい。

 なんとも残念なことだ。


「ありがとうございまっす!」


「「()めていない」」


 姉妹で(そろ)った。


「そっすか……んじゃ報告です!」


「く、この馬鹿猿(ばかざる)!お前が仕切るなっ!」


「ローマリア」


「ですがエリス姉さま!」


 セルエリスは首を振るう。

 ローマリアも、それ以上は何も言わないでギルオーダに言う。


「続けなさい」


「あざす。では……まず先に、【ルウタール王国】国境(こっきょう)付近の(とりで)に関してっす。以前【聖騎士】オルドリンが報告していると思いますが……その(とりで)が、完成しました」


速過(はやす)ぎではない?」


「そっす。マジで速い。俺らもビビりましたから」


 ギルオーダは(おく)することなく、セルエリスに対してもフラットな態度(たいど)で接する。

 セルエリスは完全に(あきら)めているし、ローマリアも(まゆ)をピクピクさせてはいるが、横槍を入れるつもりはないようだ。

 唯一(ゆいいつ)、セルエリスの騎士であるヴェインが後方で鬼のような顔をしていたが、幸い誰も気付かなかった。


「――それで?」


「はい。戦いの準備……それが(ととの)ったのではないかと思われるっす」


「……牽制(けんせい)は?」


再三(さいさん)に渡って続けてたっす。でも、何度も何度も、不可思議(ふかしぎ)な事が起こって……邪魔(じゃま)されたっす」


不可思議(ふかしぎ)?」


「うっす。言葉は届いてるんですが、一向に聞き入れません。まぁこれは、敵国認定(にんてい)していればそりゃそうかってなるっすが、牽制(けんせい)で放った弓も投石も、軌道がズレる(・・・・・・)んすよね……」


 そのせいで、一切(とりで)建築(けんちく)邪魔(じゃま)できなかった。

 しかも物凄い(いきお)いで建築(けんちく)が進み、尋常(じんじょう)ではない状況(じょうきょう)なのだとギルオーダは言う。


「オルドリンが戻って来てから更に状況(じょうきょう)が悪くなったようね……」


「そうっす。だから戻ってきました。俺の馬が一番早いっすから!」


「そう」


 流した。


「……」


 セルエリスは考える。この【ルウタール王国】の異常なスピードは何か。

 建築物(けんちくぶつ)を建てる事自体は、そこまで注意する事ではない。

 その建築物(けんちくぶつ)堅牢(けんろう)(とりで)城砦(じょうさい)に近いという点が、()に落ちない。

 【ルウタール王国】は武力の低い国だった。それは変わっていない筈。

 しかし、(とりで)(きず)く速さに牽制(けんせい)()にしない不思議(ふしぎ)な力、それは脅威(きょうい)だ。


「この前増員した騎士たちは?」


「少し前に到着して、訓練(くんれん)は毎日(おこな)ってるっす」


 それを【ルウタール王国】側に見せつける様にして。

 しかし、それでも止まらなかったという所だろう。


「ギルオーダ、其方(そなた)の……いや、ヴィクトーの(ねら)いは何だ?」


 ヴィクトーとは、派兵(はへい)されている【聖騎士】の名だ。

 彼は【聖騎士】最年長であり、【聖騎士団長】を決める(さい)、彼が辞退(じたい)したことで、クルストル・サザンベールが(おさ)となったのだ。


「うっす……ヴィクトーのオッサ――じゃなかった……分隊長(ぶんたいちょう)によると、【聖騎士】の派兵(はへい)を求めるとの事です」


 流石(さすが)真面目(まじめ)になったギルオーダは、頭を下げてセルエリスに嘆願(たんがん)する。


「どうか、【聖騎士】全軍の派兵を(・・・・・・)!」


「「「!?」」」


「……」


 (おどろ)いたのは、ローマリアとエミリア、ノエルディアだ。

 セルエリスは冷たい目で、ギルオーダを見おろす。


「……」


 ギルオーダはぽたりと汗を落とす。緊張しているようだ。

 その様子に、つられて緊張するエミリアとノエルディア。

 なにせ二人だって【聖騎士】だ、全軍と言われれば、(おの)ずと自分たちも(ふく)まれる。


駄目(だめ)よ」


「……で、ですよね」


 セルエリスは許可をしなかった。

 ギルオーダも、半分以上は分かっていたのだろう。

 少し安心したように顔を上げるが。セルエリスが続けて。


「――全軍は容認(ようにん)できぬ……精々(せいぜい)、半分よ……」


「えっ!エリス姉さまっ!?」


 (おどろ)いて声を上げるローマリアを、セルエリスは手で(せい)し。


「ヴィクトーは戦争(せんそう)を始めるつもりね……まぁ、あちらもそのつもりなのでしょうし、都合(つごう)はいいと思っているのでしょう。それは私も考えてはいた……」


 【ルウタール王国】の目的が侵攻(しんこう)ならば、防衛(ぼうえい)という理由をつけて叩く事が出来る。

 それは、セルエリスにとっても好都合(こうつごう)だった。

 しかし、全軍となると話は違ってくる。

 最大限に注意するべきは、南ではないとセルエリスは確信している。


「……姉さま!!」


(だま)りなさいローマリア。決定権(けっていけん)は私にあるわ」


「――ぐっ」


 威圧(いあつ)にローマリアは押し(だま)る。そしてセルエリスは。


「いいでしょう。そこにいるロヴァルトとハルオエンデ、そしてオルドリン・スファイリーズを戻す形で、派兵(はへい)する」


「マジっすか!?」


「……」

「……マジ?」


横暴(おうぼう)です姉上!この二人は私の――」


「――それ以前に国の騎士よ。(だま)りなさい」


「しかし、姉上!」


「話は以上ね。派兵(はへい)は決定……出立(しゅったつ)は三日後、それまでに準備なさい」


 そう言い残し、セルエリスは玉座(ぎょくざ)を立ち、謁見(えっけん)の間を出ていく。

 ローマリアは「姉上!お待ちください!!」と(さけ)びながら追いかけていくが。

 残されたエミリアとノエルディアは。


「……」

(まい)ったわね……戦争(せんそう)か」


「……っ」


 ノエルディアの言葉に、エミリアは肩を(ふる)わせた。

 ポンと背を叩かれて、ノエルディアを見るエミリア。


「これが、【聖騎士】に成るって事よ。エミリア」


「は……はい……」


 いつにないノエルディアのトーンに、エミリアは萎縮(いしゅく)して何も言えなくなった。


「三日……後。私……戦争(せんそう)……」


 手は(ふる)えている。覚悟はしていたつもりだった。

 騎士を目指した以上、戦いは(おこな)われる。

 しかし、もう何年も均衡状態(きんこうじょうたい)だった近隣諸国(きんりんしょこく)との情勢(じょうせい)

 本音を言ってしまえば、自分の代では戦争(せんそう)など起きないと思っていたのだ。


「……ど、どうしよう……エド……私」


 エミリアは自分の双肩(そうけん)に、急激(きゅうげき)に“死”と言うものがのしかかって来た気がして。

 その身体も、その心も、絶対零度(ぜったいれいど)の寒気で(おお)われてしまっていたのだった。


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