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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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91話【魔女再び】



◇魔女再び◇


 夢を見ていた気がする。でも、短い夢だった。

 生まれた頃の、優しい夢。

 僕は誰なのか。分からない。

 そんな曖昧(あいまい)な感覚の夢だった気がする。


 でも、確かに愛を受けていた。それだけは分かった。

 優しさに(つつ)まれて、生まれる事が出来た気がするんだ。


「かあ、さん……?」


 目を開けると、そこにはふくよかなものがあった。

 (さわ)れば(やわ)らかそうな、大きなものだった。


「――悪い気はしないわねぇ」


 この状況(じょうきょう)、前もあった気がする。

 確か、ローザと初めて会った時だ。

 “召喚”の疲労(ひろう)で気を失った僕は、目を覚ますとローザに膝枕(ひざまくら)をされていたんだ。

 思い出して、一気に意識が覚醒(かくせい)する。

 そしてその相手がローザでは無いとも気付いて、僕は。


「――ごっ!」


 ごめんなさいと(あやま)ろうとして、無理に起きようとしたけど。


「うぐっ……」


 急激な頭痛(ずつう)(おそ)われて、また頭を(かか)える。

 何だって言うんだろう、この痛み。


「――落ち着きなさい、深呼吸(しんこきゅう)して、集中するのよぉ」


 優しい声には聞き覚えがある――気がする。

 (つや)っぽくも、()めたような感情を乗せた、思いやりのある言葉。


「すぅー……はぁー」


 僕は言われるがままに深呼吸(しんこきゅう)をして、その女性の言葉を聞き入っていた。


「ゆっくり、(はい)を意識して……深く、長く吸うのよぉ」


「すうぅーーー……はあぁーーー」


 胸を上下させて思い切り深呼吸(しんこきゅう)をすると、段々と頭痛(ずつう)(やわ)らぎ楽になって来た。

 そうなれば、後は考える事は一つ。この女性(ひと)は誰なのだろうか?

 女性は身体を前のめりに(かたむ)けて、僕の顔を見ようとした。多分。

 でも、その大きなものが僕の顔面に。


「わぷ……」


「あら?」


 ()ぐにもとに戻って、恥ずかしそうに深緑色の髪を()き上げる。

 長い髪を耳に掛ける仕草(しぐさ)が、やけに色っぽい。


「ごめんなさいねぇ、私ったら……恥ずかしい」


「い、いえ……その、僕こそすみません。なんだかご迷惑(めいわく)をおかけしたみたいで……」


 僕はやっと起き上がる。どうやら公園のベンチだったようだ。

 入り口で倒れたと思ってたけど、もしかしてこの女性(ひと)が運んでくれたのかな?


「いいのよぉ。苦しそうにしていたし……お互い様(・・・・)だし、ね?」


「え?」


「ううん。なんでもないわぁ」


 女性は笑う。やっぱり、どこかで会った気がする。

 白いワンピース、幅広(はばひろ)の帽子に指に()められた無数(むすう)の指輪。その先に(かがや)く宝石。


「そんなにじっくりと見られたら、流石(さすが)()ずかしいわぁ」


「――あ!すみません……じろじろ見て!」


 あれ……?このやり取り、前にもあった気が……

 なんだろう、思い出そうとすると、(もや)が掛かってくるような気がする。

 ぼやけてよく思い出せない、でも。

 僕は、この女性(ひと)を知ってる。理由もなく、何故(なぜ)かそう確信できた。


「いいわ。今度は忘れなくてもいいし……」


「え?」


 ぼそりと言われた言葉は、僕の耳には入らなくて。

 「え?」と聞き返しても、笑顔を向けてくるだけで、女性は何も言わなかった。


「あの……」


 だから、僕は他の事を聞こうとした。


「なぁに?」


「僕はエドガーっていいます……その、お姉さんは」


 見た目は僕よりも少し上だと思ったし、その風貌(ふうぼう)はどう見てもお嬢様(じょうさま)ではないかと思った。

 貴族の令嬢(れいじょう)だったら、こんな場所に一人でいるのはおかしい。

 だから旅人なのではないかと、“お姉さん”と呼んでみたが。


「――ポラリス」


 名前、だよね。言われた名を、僕は鏡返(かがみがえ)しのように()り返す。


「ポラリス……さん」


「――んぁ、くぅ……」


「――え!?」


 ポラリスさんが急に身悶(みもだ)えだしたんだけど。

 僕何かした!?


「うふふ……なんでもないわぁ、少し、(たっ)してしまっただけだからぁん」


 (たっ)し、なに?

 え、何なの?滅茶苦茶(めちゃくちゃ)顔赤いけど、大丈夫なのかコレ!


「その、ポラリスさん」


「――はんっ……!」


 ええええええええっ!?

 ど、どういう状況(じょうきょう)!?

 名前を呼んだだけ、だよね……?

 それなのに、なんでこんな(つや)っぽい声を、いや声だけじゃなかった!

 顔も紅潮(こうちょう)してるし、息も(あら)い。え?具合が悪いのかな?

 でも正直言って、そうは見えないんだけど!!

 ハッキリ言えば……その……い、いやらしい!!


「え、えっろ……じゃなくてえっと!!」


 しまった。とんでもない間違いじゃないか!


「うふふ……流石(さすが)ね、名前を呼ぶだけで女を恍惚(こうこつ)(みちび)くだなんてぇ」


「えぇぇっ!?」


 僕、そんな高度なことしたの!?何の経験もないのに!?

 一頻(ひとしき)(おどろ)き、(あわ)てる僕を見ているポラリスさんは、とても嬉しそうに笑っていた。

 心の底から笑っていた。ように……僕には見えていた。


「うふふ。ふふふふっ……はぁ、面白かった。でも、そろそろ限界かしらね?」


「……へ?げ、限界……?」


 あれ、もしかしてからかわれてた?


「時間も少ないのよぉ、残念ながらね……」


「時間?いったい何が、どう……」


 全く意味が分からず、僕は戸惑(とまど)うばかりだった。


「エドガー」


「え、はい」


 あれ、初めて名前呼ばれたんだよな……なんだろう、この(なつ)かしさ……


「これをあげる」


「……」


 ポラリスさんに渡されたのは、一枚の白い羽だった。

 受け取り、僕はまじまじとその羽を見つめて言う。


綺麗(きれい)な羽ですね……まるで、天使の羽(・・・・)のようです」


 思ったことを素直に言った。それだけだったが。

 ギリッ――!と、何かが(きし)む音が、ポラリスさんから聞こえた気がした。


「……?」


「……」


 気のせい?ポラリスさんは笑顔のままだった。


「私はこれで帰るけど、そうね……なら、その羽のような……」


 ポラリスさんはベンチから立ち上がり、僕の正面に立つ。

 前かがみになり、僕の耳元で(ささや)くように言う。


「――白銀の天使(・・・・・)に……気をつけなさい。忠告(ちゅうこく)よ?」


「……天、使?」


 この綺麗(きれい)な女性の口から出たとは思えない程狂気(きょうき)じみた、心臓がゾクリとする声音(こわね)だった。

 その一声で全てを(つか)んでしまうような、そんな声。

 だけど、その(つか)みに来た手は、綺麗(きれい)でしなやかな指ではなく。

 “悪魔”のような、骨と皮で出来た、(のろ)いの呪具(じゅぐ)のような手だった気がした。





 ボーっと、孤独(こどく)に空を(なが)める。

 もう、あの女性はいない。

 僕は一人になり、夕刻(ゆうこく)に近い時間を()ごしていた。

 ポラリスさんが言った言葉が、頭から離れない。

 脳髄(のうずい)(きざ)み込まれてしまったように、白銀の“天使”の姿が目に浮かぶ。

 それは想像に()ぎないはずなのに、(みょう)にその姿がしっくりきて。

 そしてその姿が、ある女性と重なってしまって、凄く、凄く恐怖を感じてしまっていたんだ。


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