間話【そして呪いは繰り返される】
◇そして呪いは繰り返される◇
彼女等がその現実に絶望し、離れ離れになって十五年の時が経った。
あの時の少年も、今年で18歳になるはずだ。
その事実を、彼女等は誰一人として忘れはしない。
母親の女性が亡くなってしまっている事実も、父親の男性に聞いた。
もう、彼を守る人間はいないのだ。
西の国に入って一年。
“魔道具”の研究は進み、元の世界の技術を再現することも可能になって来ていた。
そして、その時は来た。
呪いが繰り返され、【召喚師】が誕生する瞬間が。
場所はバラバラ、思いもまたバラバラだが、たった一つ彼を思う気持ちは同じだった。
スノードロップ、ノイン、ポラリス。
彼女たちの最優先は、いつだって【召喚師】――エドガーなのだから。
◇
【魔導帝国レダニエス】の城の一室。
そこでは《魔法》によって、とある場所の映像が映し出されていた。
暗い部屋でその光景を見守るのは、【魔女】ポラリス。
『彼が部屋に入っただけで……空気が変わるわぁ』
《魔法》が失敗したことが認められず、何年も何年も“天使”や“月猫”に内緒で見守って来た。
【召喚師】エドガーの、始まりの日。
少年は、その日“召喚”に挑んだ。
“精霊”を呼び出そうと、彼は一年振りに【召喚の間】に足を踏み入れた。
『……仕草も、所作も……そっくり』
自分の主である【召喚師】に、彼は瓜二つ。
いや、本人なのだから。
唱える祝詞は脳髄に響き渡り、その手で設置される“魔道具”には嫉妬を覚える程だった。
『――ああ……ああっ!』
恍惚とも言えるその貌は、【召喚師】の帰還に打ち震えるものであり、自分の《魔法》が失敗ではないと確信した瞬間でもあった。
“召喚”は、世界で一人しかできない。
普段の物体を呼び出すアレは、決して“召喚”とは呼べないものだ。
最大の点はやはり、異世界から呼び出すことであり。正式な先代の【召喚師】がそうだったように。
『やはり、私の《魔法》は成功していたっ!!転生は成功していたのよっ!!』
転生。【召喚師】エドガー・レオマリスの前世は、祖父である。
父親のエドワード・レオマリスの父親、彼が死に、ポラリスが《魔法》によって生まれ変わらせた姿が、今のエドガーだ。
画作したのは、その男本人。
実行したのが、【魔女】ポラリス・ノクドバルンだ。
『生きている……彼は生きているのよぉ!』
映像は、真っ赤な火の海のようだった。
地面にひれ伏す茶髪の少年は、目の前の化け物に怯え、死に瀕する直前だった。
『……うふふ』
ここで自分が助けに入れば、また愛して貰える。
5人に分け与えられていた寵愛を、独り占めできる。
そう思い、長距離《転移魔法》の触媒を取り出そうとした。その瞬間。
『……――っ!!』
映像の化け物は、一刀両断の如く切断され、消滅した。
『まさか――“悪魔”ではないっ!?』
エドガーが“召喚”したのは、下級の“悪魔”だと思っていた。
しかし、その“悪魔”は一瞬で消滅した。
『いったい……なにが……』
映像に映るエドガーが見つめるものを、ポラリスも目を凝らす。
炎と煙が晴れ渡り、その場にいたのは。
『……は、はは……あはは……あははははは……あーっはっはっはっはっは!!』
瞳に映った赤は、ポラリスもよく知る女性だった。
その結末に、可笑しくて笑いが止まらない。
『馬鹿げているわぁ……ふふふ……貴女もこちら側に来てしまうのね……姉弟子ぃぃぃっ!!』
瞳に映る赤は、同じ“天使”を師に持つ、同門の女性だった。
ロザリーム・シャル・ブラストリア。
エドガーが呼び出したのは、ポラリスの会った事のない姉弟子。
“天使”ウリエルが溺愛した、最高傑作。
『疼く……脳が疼くっ……!!』
ポラリスは頭を搔き毟る。
その脳内に存在する《石》が、意識を奪っていきそうな感覚だった。
『――私は、渡さないわよぉ……エドガーは、私のもの……今度こそ、私のものにするんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
【魔女】は狂う。
それは狂気の咆哮か、それとも狂乱の狼煙か。
全ては、【召喚師】エドガーの行動に掛かっている。




