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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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90話【思い出の中に潜む2】



◇思い出の中に(ひそ)む2◇


 突如(とつじょ)聞こえた産声(うぶごえ)に、白銀の髪の女性は今までしていた形相(ぎょうそう)を一気に明るいものに変えた。

 隣にいた灰色の髪の女性も、安堵(あんど)したようにため息を()く。

 後ろで立っていた深緑色の髪の女性は、何か待望(たいぼう)の者が生まれたような希望(きぼう)()ちた顔をして、三人の女性はそれぞれ顔を見合わせて、子を産んだ母親に会いに行く。

 しかし直前、バタンと乱暴(らんぼう)に扉を開け放ち、出て来る男性。


『〇〇〇〇〇、どうしましたか?』


『どうしたもこうしたも……あれ(・・)が俺の子だと……?』


 男性は赤子の父親のようだ。

 しかしその態度(たいど)は、()が子が生まれた喜びに()ちたものとは、到底(とうてい)思えないものだった。


『――何を言うのです!貴方(あなた)と○○○の、愛の(あかし)でしょう?』


『愛だと!?笑わせるなよ○○○、確かに俺は○○○を愛してる……だけど、○○○は違う!○○○が見てるのは、あいつだけ……俺なんて見ようともしてない!!』


馬鹿(ばか)を言わないでくださいませっ!○○○はそんなことを考えたりはしませんわ!』


 白銀の髪の女性は、男の言葉に腹を立てる。

 友人でもあるその母親を、馬鹿(ばか)にされた気分だった。


『お前らはいいさ!異世界って所から呼ばれて、自由に()らして……でもな、俺は違う!!』


 そう言い捨てて、男性は外に出て行った。


『○○○○○……』


『○○○?どした?』


 灰色の髪の女性が戻って来て、白銀の髪の女性に問う。

 女性は『何でもありませんわ』と答えて、母親と子供に会いに向かった。





『おぎゃぁー、おぎゃー!』


『うふふ、随分(すいぶん)と赤ちゃんらしい泣き方をしますわね』


『そうね。耳が痛いわ』


 灰色の髪の女性は、頭上にある耳を押さえて言う。


『ほら○○○、()いてあげて?○○○○も……』


『で、ですが……』


『なら、私が』


 白銀の髪の女性は怖がって遠慮(えんりょ)し、代わりに深緑色の髪の女性が子を()く。


『……これが、命……』


『そう、私たちみんなの子供よ。そして……私たちの全て(・・)でもある』


『そうねぇ』

『だね』

勿論(もちろん)です』


 栗色の髪の女性の言葉に、三人の女性は一様(いちよう)(うなず)きあい、赤子を()でた。





 場面は変わり、少し時間が()ったようだ。

 赤子の見た目的に、一年()ったかどうかという感じだろう。


継承(・・)されていない?』


『ええ、その可能性があるわぁ』


『それじゃあ意味ないんじゃないのー?』


 順に栗色の髪の女性、深緑色の髪の女性、そして灰色の髪の女性だが、何故(なぜ)か見た目が若返っていた。


『《魔法》は正常に発動したのでしょう?』


『そうだけれど、○○○○を見るに……』


『いやいや、まだ一歳だよ?まだ分かんないでしょ……』


 栗色の髪の女性が()く赤子を見ながら、灰色の髪の女性は言う。


『ですが……契約の《紋章》は出ていません……』


 扉を開けて、入ってきた白銀の髪の女性が言った。


『そ、それは……あ、○○○○が失敗したんじゃないのー』


『正常だと言ったわよぉ、馬鹿猫(ばかねこ)ぉ』


『――にゃんだとぉぉ!』


『○○○○も○○○も落ち着いてください!』


『○○○○○○○が居ればなー』


居なくなった犬(・・・・・・)の話をしても意味が無いわぁ』


『そうだけどさー』


 ソファーに横になりながら、猫のように丸くなる灰色の髪の女性。


『もし失敗だったとしても……それでも、私たちの子供である事は変わらないわ』


『○○○……そう、ですね。この子は、この子ですからね』


 優しく子を()でる女性に、故人(こじん)を見る感情はもはやないようだった。

 その言葉に、白銀の髪の女性も同意するが。


⦅私が《魔法》を失敗した……?そんなバカな事、ある訳ないでしょ……私は……私はあの人の、最高の《契約者》なんだから……何があっても、ずっと⦆


 深緑色の髪の女性は、何も言わずに部屋を出る。

 他の女性たちの意見に、納得(なっとく)することは出来なかったのだろう。

 そして何より、【魔女】と呼ばれた自分が、《魔法》を失敗したと言われた事が、(ゆる)せなかった。





 場面はまた変わった。


(さび)しいですわ……○○○』


『私もよ、○○○……』


貴女(あなた)はいいわよねぇ。新しい子(・・・・)も生まれて、この子の(そば)にも居られるのだから』


『○○○○!!』


『――ふんっ!』


 深緑色の髪の女性は、真っ先に出て行った。別れの言葉もなしに。


『すみません、○○○……別れだというのに、こんなことになってしまって』


『ううん。いいの……○○○○が怒るのも無理ないわ』


 ベビーベッドには男の子が眠っており、栗色の髪の女性の腕には女の子が()かれている。

 年子の兄妹だ。


『この子が生まれて、○○○○○も安定してくれたし……』


 女の子が生まれてから、父親である男性は気を持ち直してくれたらしく、幸せそうに女性は笑う。


『そうですね。○○○○○も、【○○○】の呪縛(じゅばく)(とら)われた方ですから……』


『でも、その呪縛(じゅばく)は……将来(しょうらい)この子が……』


 女性が見るのは、ベビーベッドで眠る男の子だ。

 男の子の将来(しょうらい)は、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)ではないと確信できてしまう。

 それを見て来ているから、実感してきているから思えるのだった。


『だいじょーぶ!この子が大きくなるそれまでには、アタシたちが見つけてくるよ。あの馬鹿犬(ばかいぬ)をさ』


 これから、三人の女性は旅に出る。

 目的は、こちらの世界に来たばかりの頃に別れた、もう一人の仲間を探す旅だ。


『ありがとう、○○○』


『○○○○○も協力してくれるしね。○○○○○はここにちょくちょく戻ってくるだろうけど』


『目的は“魔道具”の回収ですから、仕方ありません。だから今は……』


 そう言いながら、白銀の髪の女性はベビーベッドの男の子を()き上げ、キスをする。


『しばしお別れです……○○○○様』


 男の子、○○○○にキスをする白銀の髪の女性は(さび)しそうに、けれども少し強く男の子を()いた。

 強かったのか、目を覚ます男の子。けれども泣くことはなく、白銀の髪の女性の(あたた)かさを感じているようだった。





 場面はまたも切り替わった。

 男の子は成長し、妹の女の子と外で遊んでいた。


『おにいちゃーん!まってよー!』


『あはは!はやくはやくっ、おいてっちゃうよ!』


『うわーん!やだーー!!』


 これから、最近知り合った貴族の兄妹と遊びに行くらしい。

 その様子を、母親の女性は微笑(ほほえ)ましそうに見守っていた。


『――元気で何よりだわ』


『!!』


 栗色の髪の女性が振り向くと、そこには深緑色の髪の女性が立っていた。


『○、○○○○……久しぶりじゃない!急に来るなんて、どうしたの?』


『……犬が、死んでいたわ……』


『……え……?』


 その報告(ほうこく)は、一番聞きたくなかったものだった。

 彼の呪縛(じゅばく)()唯一(ゆいいつ)の存在、犬神(いぬがみ)レティシアーノ。

 過去の仲間であり、別世界の“神”。

 離別(りべつ)し、(すで)に数年。

 その仲間を探す旅をしていた彼女らは、現在北国にいるらしい。

 またしばらくしたら別の国に移動するらしいが、その北国で見つけたものが、その犬神(いぬがみ)の《石》だった。


『それ……レティシアーノの《石》』


『【賢者の金剛石パラケルスス・ダイヤモンド】……あの犬っころしか使えない、《神の石》よ』


 唯一(ゆいいつ)解呪(かいじゅ)が出来る可能性を()めた《石》。

 しかし、使用者はもう存在しないという事だ。


『そ……んな……』


 希望(きぼう)を持って、【○○○】の(のろ)いを()(すべ)を考えた。

 そしてそれを実行するため、仲間が離れ離れになる覚悟を持って行動をした。

 しかし、その可能性はもう、(つい)えていた。

 初めから、失っていたのだ。


『……無駄(むだ)だったわね。あの子を産んだのも、あの男と寝たのも』


『――そんな言い方しないでっっ!!』


 心無い言葉に、栗色の髪の女性は(さけ)んだ。


『……私はもう()るわ、ここにも戻らないから』


『――ま、待って!待って○○○○!!』


 パシュン――!と、深緑色の髪の女性は消えていなくなった。

 そしてもう、彼女の前に姿を現すことは無かった。





 場面はまたも切り替わる。

 テントの中には、猫耳の少女が不機嫌(ふきげん)そうに寝転んでいた。

 灰色の毛並みを(つくろ)うように、(くし)(ととの)える。


(くや)しいな……アタシ』


『仕方がありません……彼女が選んだ決意です』


 白銀の髪の女性は、身体を()きながら答える。

 二人は(よご)れていた。

 仲間を(とむら)うために、土に(まみ)れていたからだ。


『あの馬鹿犬(ばかいぬ)……自ら命を()つとか、何考えてんだろ……なんちゃらっとか言う世界の“神”さまなんでしょ?』


『ええ、ですが……それだけ、この世界を受け入れられなかったのでしょう……わたくしだって、始めはそうでした。でも、○○○や○○○、不覚(ふかく)ですが○○○○も(そば)にいましたから……』


『あの馬鹿犬(ばかいぬ)も、離れなかったらこうはなってないよね、きっと』


 それは、考えたところで答えは出ない。

 死を選んだ彼女に向けられるべきは、手向(たむ)けだけだ。


『○○○○、遅いですね……○○○に報告に行ったのでしょうけれど……』


『あの色魔(しきま)の事だし、何処(どこ)かで遊んでるんじゃないのー?』


『こんな時に、ですか?』


 彼女らしいと言えばらしいが。しかし。


『わたくしたちは、もう○○○○様には会えないのでしょうか……』


『……』


 急激に、悲しくなる。

 【○○○】の(のろ)いが()けないという事は、彼がその運命を全て背負(せお)うという事だ。

 その責務(せきむ)を、少しでも軽くするために行動して来た意味も、たった今無くなった。


『《魔法》が失敗してた時点で、彼を彼として(・・・・・・)見れればよかったんだけどね……もしかしたら、○○○の言う通りにした方が……いいのかもね』


『ええ……そう、ですね……』


 そうして彼女たち三人の女性は、彼のもとに戻ることは無かった。


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