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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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87話【女帝の爪切り遊び】

※多少過激な表現が含まれております。



女帝の爪切り遊びエンプレス・ネイルカット


 聖王国と帝国の国境付近(こっきょうふきん)に、数台の【魔導車(まどうしゃ)】が停車している。その数十台だ。

 その【魔導車(まどうしゃ)】、特に一回(ひとまわ)りサイズの大きい車両に、重苦(おもくる)しい雰囲気(ふんいき)がのしかかっている。

 それは目には見えないが、見張りで立っている黒コートの騎士はそう感じていた。何故(なぜ)ならば。


「――それで?」


「……」


「答えなさいよ。マシアス・ドントーレス」


 土下座をする男に、冷たく視線(しせん)をぶつける少女。

 彼女の名は、ノーマ・グレストと言う。

 この少女は、【魔導帝国レダニエス】の新設(しんせつ)騎士団、【黒銀翼(こくぎんよく)騎士団】の副団長である。

 そして平伏(へいふく)する男が、マシアス・ドントーレス。

 この男は副団長ノーマ、そして団長である少年、バルク・チューニの部下であり、団長候補(こうほ)とまで言われた人物だったのだが。


「……」


「私たちが【魔導車(まどうしゃ)】の不調(ふちょう)で行動できない中、殿下(でんか)を見つけたと……しかし勝手な独断行動(どくだんこうどう)をとり、殿下(でんか)には逃亡された、しかも貴重(きちょう)な“槍”を数本無駄にしたと……」


 ノーマは(すで)に分かっている。

 この男が私利私欲(しりしよく)で行動し、団長の座を(うば)おうと画策(がさく)していた事を。


「……す、すみません……でした。副団長」


 地面に(あやま)るマシアス。


謝罪(しゃざい)は受けましょう。しかし、言葉は私に向けたらどうですか?それでは私の顔が床にあるみたいではないですか」


 ノーマの言葉に、数人の騎士がクスっ――と声を()らした。


「「「……!」」」


 (にら)まれた。普段は明るく飄々(ひょうひょう)としているノーマだが、ここ最近のストレスでキレそうに(おかしく)なっているらしい。

 ()えて言うが、ノーマ・グレストは騎士団最年少である。

 そして土下座のマシアスは最年長、30を()えた年だ。一回り以上はある。


 今の帝国に年功序列(ねんこうじょれつ)はない。

 しかも新皇帝ラインハルトによって体制(たいせい)大幅(おおはば)に組み替えられて、騎士団の平均年齢(へいきんねんれい)はかなり下がっている。

 そのいい例が、この副団長ノーマと団長バルクだろう。

 帝国のもう一つの騎士団、【白銀牙(はくぎんが)騎士団】の団長と副団長も若いのだが、【黒銀翼(こくぎんよく)騎士団】が出撃してから決まった事なので、現段階では知る事はない。


「それでマシアスさん、ケジメのつけ方はご存知(ぞんじ)?」


「ケ、ケジメ……?」


「ええ。エリウス殿下(でんか)をお連れする任務(にんむ)を台無しにした責任ですよ。それはそうでしょう?折角(せっかく)殿下(でんか)をお見掛けしたのに、逃げられたのですよ?しかも試験段階である【電磁衝撃機槍(スタンショックスピア)】を数本も無駄使(むだづか)いして……しかも、あそこの村の村長が死んだらしいではないですか。【コルドー村】は、貴重な聖王国との国境(こっきょう)近い村……監視(かんし)の兵も多数いたはずですけど……そいつらはいったい何をしていた(・・・・・・)のでしょうねぇ?」


 ギクリと、マシアスの心音が鳴った。

 実はマシアスには、【コルドー村】に滞在(たいざい)門番(もんばん)をしている騎士仲間がいた。

 その仲間に情報を貰い、いち早く()け付けたのだ。


「そ、それは……な、何故(なぜ)でしょうか……」


 ちらりとノーマを見上げる。


「――ひっ!!」


「どうしました?マシアスさん、怖いものでも見ましたか?」


 椅子(いす)からすくっと立ち上がるノーマの手には、何か器具(・・)が持たれていた。

 それはノーマの武器でもあり、拷問器具(ごうもんきぐ)としても知られるものだった。


「さあ、貴方(あなた)たちは出ていなさい?マシアス隊の責任は……リーダーが取らないと……――ねぇ?マシアスさん」


「あ、ああ……ぁあああっ……」


 カチン。カチン。カチン。カチン。カチン。

 その器具は、爪を()がしとるものだ。

 ただ、爪を()がされるだけでは、身体も心も(きた)えて来た騎士なら、そうは(おび)えないだろう。

 ノーマの言葉に、騎士たちはそそくさと出ていく。


「お、お前らぁぁぁ!ひぃ!」


 マシアスの(おび)え方は、その意味を知っているからだ。

 ノーマの持つ器具は、“魔道具”である。

 それはつまり、ただでは済まないという事。


「た、たのむ!!チャンスを!チャンスをくれっ!グレスト、この通りだ!!」


「んふふふ……」


「な、何故(なぜ)笑う……?俺は……!」


「あは、あはは……あはははははっ。何がチャンスだってーの、私や団長が、どうしてあんたを見逃したと思ってんの?気づけよバーカ!」


「――な、な!?」


 あほらしいマシアスの言動に、ノーマは副団長の仮面を脱ぎ捨てた。

 口端(くちはし)(ゆが)めるその笑顔は、正真正銘(しょうしんしょうめい)サディストのものだ。

 紅潮(こうちょう)した(ほほ)は、痛がるマシアスを想像したもので、浮かべる涙目は、笑いを(こら)えた(あかし)


「私らに見逃された時点で、チャンスだったって気づけよオッサン!もう終わったのよ、あんたの騎士生活はさぁ!!」


 一瞬だった。

 シュッ――!!と素早く動かされたノーマの右腕は、音もなくマシアスの手元を通った。

 音の方が遅れて来るように感じられるほど、その痛みは急激だった。


「――な、あ!がぁっ!!ああああああっ!ゆ、ゆびぃぃぃぃっ!!」


 マシアスの指は、爪の根元から切断されていた。


「んふふ……爪の次は第一関節って、分かってんよねぇぇぇぇ!」


 バチン!


「ま、待っ……――んぎゃっっ、ああああああっ!!」


「あはははははははははははっ!!あはははははははははははっ!次は第二関節ぅぅ!でも、その前に!!」


 暴れるマシアスに(またが)り、ノーマは腰元から物を取る。それは(くい)だ。

 そして。


 ドスン――!!


「――んがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「もっと!もっと!もっと、もっともっと!もっともっと!もっとぉぉぉ!泣け!泣け泣け!泣け泣け泣け泣け!泣け泣け泣け泣け泣けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 マシアスの両腕を(くい)で固定したノーマは、バチン!バチン!と器具を振るう。

 その(たび)に返り血が(ほほ)()らすが、ノーマは笑いながら指を切断していく。

 その悲鳴は、車外(しゃがい)まで(ひび)き渡っていた。





 【魔導車(まどうしゃ)】外では、数人の黒コートの騎士が、ゴクリと(のど)を鳴らしていた。

 マシアスの部下として、言う事を聞いていた騎士たちだ。


「あーあ。始まっちまったか……」


 頬杖(ほおづえ)をついて【魔導車(まどうしゃ)】を見つめる糸目の少年。

 団長バルク・チューニだ。


「始まったって……よく言うぜ団長、知ってたくせに」

「ホントだぜ、知ってて降りて来たんだろ?」

「ノーマちゃんは、怒るとこえーからな……」


 部下たちも、それを想像してブルブル(ふる)える。

 バチン!「あははは!」バチン「きゃはは」バチン、バチン、バチーン。


「うーわ。今良い音したなー」


「こっわ!」

「絶対に逆らわんとこ」

「俺は逆に……ごくり」


「「「おいっ!」」」


 そして徐々(じょじょ)に、音もなくなり。


「終わったか……」


「ああ、終わったな」

「騎士人生が?」

「男としてもな」

「つーか、生きてんのマジで凄くね?」


 騎士たちの会話に、バルクは解説する。


「あいつの“魔道具”、【女帝の爪切り遊びエンプレス・ネイルカット】は、痛みを数倍にする効果がある。それに加えて、あいつは指ごと切断するからな。しかも数えたか?音の回数を」


「い、いや……」

「それがなんだよ?」


「30回だ……爪の部分、第一関節、第二関節を一本ずつだ。しかも第三関節を残して、醜悪(しゅうあく)にするっつうオマケ付きだ。機嫌が悪ければそれで終わりだろ……良ければ――」


 バチン!!


「「「よ、良ければ?」」」


 追加された音に、騎士たちは顔を合わせてバルクをみる。

 バルクは、(ふく)み笑いを見せながら答える。


「――足の指を、やられるのさ」


「「「うわぁ……」」」


 ドン引きでは済まされないくらい引いた。

 自分も想像してしまい、バルクも冷や汗を()く。


「ま、時間も限られてるから誰か止めろよ。マシアスのオッサンも、死なれちゃ困るだろ。あいつも一応、陛下(へいか)が選んだ騎士の一人だしな」


「「「お前が行けよ!!」」」


「なんでだよ!嫌だよ!」


 バルクだって怖いのだ。


「お前が団長!」

「そうだそうだ!」

「速くいってやらんとオッサン死ぬぞ!」


 しかし、団長だからと言われれば仕方がなく。


「ちっ……お前らぁ……」


 頭を()きながら、糸目で車両を見ると。

 入口付近に、血だまりが出来ていた。


「……あ、駄目(だめ)そうだわ」


 こうして、一人の騎士はその人生を終えた。

 死因(しいん)は出血死、もしくはショック死だろう。

 しかし尚も、バチン!バチン!と、音は鳴り(ひび)いたのだった。


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