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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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82話【罅】



(ひび)


 お遊び(たたかい)を終えて、意識を失った第二王女スィーティアを(かか)えるアルベール・ロヴァルトは、優しげな顔で王女の(ほほ)に付いた土を(はら)った。

 そして小さな声で(ねぎら)いの言葉をかける。


「――お疲れ様です……殿下(でんか)


 そう言うと、お姫様抱っこのような形でスィーティアを(かか)え、立ち上がると。


「エミリア……ローマリア殿下(でんか)……」


 兄の心配そうな表情(ひょうじょう)(さっ)して、エミリアも。


「いいよ兄さん。スィーティア様を医務室(いむしつ)に連れていってあげて」


「ああ、そうしてくれアルベール。ティア姉上も、どうやら事前に、医務室(いむしつ)患者(かんじゃ)が運ばれてくると言っていたようだからな」


 当人も、まさかそれが自分だとは思ってはいなかっただろうが。


「感謝します、ローマリア殿下(でんか)……ローザさんも、ありがとうございます!」


「ええ。よろしくね……アルベール」


 アルベールは三人に笑顔を向けると、スィーティアを連れて行った。

 傷は大したものではない。火傷(やけど)こそあれど、(あと)も薬で残らない筈だ。

 ただ問題は、ローマリアの指南役(しなんやく)であるローザが、第二王女をのしてしまった(・・・・・・・)事だろう。

 ローザは一切気にしていない様子だが、ローマリアは内心ドッキドキだった。

 しかし、気分がいいのもまた事実。不思議(ふしぎ)と口元がにやけてしまう。


「だらしない顔しないの。ローマリア」


「ご、ごめんなさい……だけどローザ、良かったの?ティア姉上は、その……」


 言いにくそうに、ローマリアはごにょごにょと口を動かす。

 そんなローマリアを笑いながら、ローザは。


「いいのよこれで。私とあの子は、もう違う道を歩くべきなの……ここは、私たちの知っている場所ではないけれど……これから、知っていける場所なのだから」


 そう。知っていけばいい。

 別々の道を歩いて、自分を探す。

 ローザはそうする事を決意できた。

 スィーティア王女には、まだ通じていないかもしれないが、ローザの考えを何度も何度も思い返していけば、きっと。


 元の姿のまま、(はる)か未来の異世界と言う場所に“召喚”された姉と、数千年という長い時代を“転生”して来た妹の物語は、別々であるべきなのだから。


「それはそうとエミリア……これ」


 ローザは槍をエミリアに渡すが、何故(なぜ)か物凄く(もう)し訳なさそうにしていた。

 エミリアは不思議(ふしぎ)そうに受け取り、槍を見ると。


「……あぁ、これまた凄くボロボロな事で……」


 赤い槍は所々が黒く(すす)(おお)われており、装飾(そうしょく)された【エミリアの花】も、ボロボロで形が判別できなくなっていた。

 更には、槍の刃部分。

 刃毀(はこぼ)れは激しく、ローザの炎に()えきれなかった箇所(かしょ)罅割(ひびわ)れていた。


「ごめんなさい……あなたの槍を……」


 ローザはエミリアに頭を下げようとするが。


「ダメ。(あやま)らないで?」


 ローザの頭を下げさせず、エミリアは笑顔で言った。


「ローザの為になったなら、それがこの槍の役目(やくめ)だったんだよ」


「……エミリア」


「あ、その代わりにさぁ……修理はお願いね?」


 ハッキリと言ってしまえば、修理よりも作り直した方が早いレベルで(いた)んでいる。

 それでもローザは。


勿論(もちろん)よ、全霊(ぜんれい)()くさせてもらうわ」


 どれほどの事を(ほどこ)せるかは分からない。

 だが、エミリアが(のぞ)むのなら最善(さいぜん)()くしたいと思った。

 それが、初めてできた友達と呼べる、この少女に対する礼儀(れいぎ)だと思ったローザだった。





「そろそろ退散(たいさん)しましょう。人払(ひとばら)いをしていたとはいえ、ティア姉上が医務室(いむしつ)に運ばれた事は()ぐに知れ渡るはずだから、それに……()げ臭いし」


「た、確かに」


 スンスンと自分のドレスを()ぐローマリア。

 ローザの熱風(ねっぷう)()っすら焼かれて、若干(じゃっかん)()げ臭さを感じた。

 エミリアもクンクンと騎士服を()いでいた。


 三人は訓練場(くんれんじょう)を後にする。

 誰に見られる訳ではないが、こそこそと。

 【リフベイン城】の屋外訓練場(やがいくんれんじょう)は、()()げた臭いが(ただよ)っていたが、そこは屋外である。(さわ)やかな風が(なび)いて消し去ってくれる事だろう、()(あと)は知らないが。


 帰り(ぎわ)、スィーティア王女を(かか)えたアルベールが帰っていった方を(なが)めて、ローザは思う。


(次に会うときは……姉妹ではないわよ。スィーティア王女)


 エドガーに“召喚”され、それでもこの世界で、この世界の人間として生きる事を決めたローザ。

 “転生”し、何度生まれ変わり別人になろうとも、私怨(しえん)に取りつかれたライカーナ。


 一度は交わった道は、決別と言う形で別れることになった。

 もしかしたら、二人が仲良くできる未来もあったかもしれない。

 ローザの選択がこの先どう変化するか、知りえる事ではない。


(ライカーナではない、スィーティア王女としての人生を生きなさい。私も、生きるから……ロザリーム・シャル・ブラストリアではなく、ローザとして……)


「ローザ?」


「……なんでもないわ。行きましょう」


 心配そうに声を掛けるエミリアに笑顔を見せて、ローザは並び立った。

 ローザの向かうところは、エドガーの隣だ。

 自分だけの人生を歩むつもりは、今の自分には毛頭(もうとう)無い。


(関わってしまったから……私は進む、エドガーと……皆と共に)


 “召喚”なんて特有(とくゆう)()ぎる始まりも。

 思えばすべて、自分の物語の一部だ。

 同じ境遇(きょうぐう)の仲間たち、友と呼べる存在、そして何よりも大切な――エドガーの為に。


(私の物語は、これからが始まりよ……)





 【リフベイン城】の医務室(いむしつ)のベッドに、スィーティア王女は横たわる。

 《石》のお陰か、怪我(けが)は本当に大したことは無かった。

 痛みに顔を(ゆが)める事もなく、今はすぅすぅと寝息(ねいき)を立てていた。


 簡単な()り薬だけで済み、治療(ちりょう)を終えた医師(いし)は。


「――ではロヴァルト様……私は、一旦(いったん)席を外しますゆえ」


「あ、はい。治療(ちりょう)感謝します……先生」


 スィーティア王女を医務室(いむしつ)に運びこんだアルベールは、先程の戦いを思い返していた。

 姉妹だと言われた時は度肝(どぎも)を抜かれた。

 エドガーが“召喚”した、ローザの妹だというスィーティア王女の言動も(うそ)とは思えなかったし、なにより行動が(しん)(せま)っていた。


「……この(かた)を放っておくことなんて、俺には出来ねぇよ……くそっ」


 (あぶ)なっかしく、見ていなければ傷だらけになっていきそうな女性を見ながら、アルベールは思う。自分には、心に決めた女性がいる。

 【聖騎士】に成ってからは(ほとん)ど会えておらず、すれ違いと言ってもいいくらいだ。

 そんな思い人に、今はとても会いたい。

 だが、そうすれば。


「スィーティア殿下(でんか)……もしかしなくても、貴女(あなた)は俺を……」


 自惚(うぬぼ)れる訳ではないが、スィーティア王女の好意(こうい)には気付いている。

 自分を専属(せんぞく)騎士にしてくれたのだって、きっとそうだ。

 もし、今メイリンに会いに行けば、この人は(こわ)れてしまうかもしれない。

 姉に負け、騎士には見捨てられたなんて、精神的に不安定なこの女性がショックを受けない筈は無い。


「……俺が」


 (そば)にいれば、この人は立ち直れるだろうか。

 戦いを見ていて、スィーティアが強い事は分かった。

 あのローザに対抗(たいこう)して、あそこまで戦えるんだ、それはもう確実に強いのだろう。

 それに《石》もある。

 エドガーのお陰で、《石》と言うものがどれほどの力を()めているのかも知っている。


(この人は、人を(ひき)いる事が出来る人だ……でも、それは今じゃない。もっと、もっともっと俺たち【聖騎士】が強くなって、この人を守れるくらいになった時……きっと【聖騎士】を(ひき)いているのはこの人だ)


 そんな予感(よかん)が、アルベールにはあった。

 今は、数少ない【聖騎士】の半数が第一王女セルエリス、そして第三王女ローマリアの傘下(さんか)だ。

 だが、もしかしたら未来は違うのではないかと、そんな根拠(こんきょ)のない確信が、アルベールの胸の鼓動(こどう)を速くしていた。


(俺がこの人を(みちび)くだなんて大層(たいそう)な事は言えねぇ……でも、この国の未来に……スィーティア殿下(でんか)は必要なお(かた)だ……それだけは、今でも言える……だから、俺は)


 この一つの決意は、アルベールの人生を大きく左右する事になる。

 それは(まわ)り回って、アルベールの妹であるエミリアや幼馴染エドガーをも巻き込む事になる。

 (はる)か遠い、未来の王の(そば)(つか)える騎士の物語は、こうして動き出すのだった。


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