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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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81話【姉妹のこれから】



◇姉妹のこれから◇


 ローザの傷口から(あふ)れ出る魔力光は、首筋(くびすじ)に迫った剣を(はじ)き返した。

 (はじ)かれ後退(あとずさ)り、スィーティアは手を押さえてローザを見る。


「――ロザリーム・シャル・ブラストリアの物語は終わったですって……?一体何が!!どう終わったというのよ!!」


 発狂(はっきょう)にも近しい声を(あら)げ、スィーティアはローザに迫る。

 転生し同じ年齢(ねんれい)になっても、ローザの身長には(およ)ばないスィーティアは、見上げるように肉薄(にくはく)し、ギロリと(にら)み上げた。

 しかしローザは(ひる)むことなく、妹の憎悪(ぞうお)を受け入れる。

 それどころか、何かを(さと)ったかのような口ぶりで、こう返した。


「言った通りよ。私は、ロザリーム・シャル・ブラストリアをやめる(・・・)……この世界で、私は生まれ変わる……貴女(あなた)のように……生まれ変わりたいのよ!」


 その言葉に、スィーティアはよろりと足元をふらつかせる。


 信じられない。

 あれだけ自分を自分とたらしめた名を、捨てると言ったのだから。

 自分自身の(あこが)れや羨望(せんぼう)を、全て否定(ひてい)された。


 そうとしか、とれなかった。


「……う、うわあああぁあああぁあぁぁぁぁあっ!!」


「……スィーティア王女」


 スィーティアは取り乱す。

 目を見開き、涙を浮かべ、口を大きく開き(さけ)ぶ。

 その(さま)を見ても、ローザは動揺(どうよう)を見せなかった。

 小さく、現在の彼女の名を呼び、悲しそうに妹であった(・・・・・)少女を見る。

 もう、ローザはスィーティアを妹としては見ない。そう決めた。


 自分は生まれ変わる。この異世界で、新たな自分として。

 そう意思決定した瞬間、ローザの中で何かが(はじ)けた。

 この世界に来る時にあの空間、【魂再場(こんさいじょう)】で(さず)けられた力、【孤高(ここう)なる力】が、転換(てんかん)した瞬間だった。


 それは、きっと自分の中での気持ちの変わりようが(あた)えた産物(さんぶつ)だろう。

 どんな力に生まれ変わったのかは分からない。

 しかし。


(身体が熱い……今にも燃えだしてしまいそう)


 ローザは両手を見る。(かす)かに(ふる)える手は、何かに呼応(こおう)するようにヒクヒクと動き、指先から(あふ)れ出す魔力が具現化(ぐげんか)しているのではないかと思えるほどに、ローザの意志に反して(あば)れ出そうとする。


(ダメ……押さえないと……これは、(あぶ)ない力だわ)


 視線(しせん)をスィーティアに戻し、剣を振るって(あば)れる王女をどうするか考えた。


「あああああ!お姉さま……!お姉さまぁぁぁっ!!」


 一瞬だけ視線(しせん)が交差し、その瞬間に飛び出してくるスィーティア。

 《石》のバフを最大限に活用して、自身の能力を高めた一撃を()り出した。


「――スィーティア王女!」


 ローザはそれを槍で受ける。

 ガギィィィンッ!と甲高い金切(かなき)り音が鳴り(ひび)く。

 二人が衝突(しょうとつ)した衝撃波(しょうげきは)は、エミリアたちやアルベールにも(およ)ぶ。


「「きゃっ」」

「うおっ!」


 ()き飛ばされるまではいかないが。

 ぶわっ――と風が起こり、ローマリアのドレススカートが(ひるがえ)った。


「……か、風が……熱い(・・)?」


 エミリアは気付く。

 ()()れた一瞬の風が、熱風(ねっぷう)だったことに。

 スィーティア王女は、ローザを穴が開くのではと言うほど(にら)む。

 視線(しせん)には憎悪(ぞうお)()められ、執念深(しゅうねんぶか)い意思が、剣にも乗り移っているのではと思わせるほどだった。


「スィーティア王女!《石》の力を(おさ)えなさい!!周囲に被害(ひがい)が出るわよっ!?」


「――うるさい!うるさい!うるさぁぁぁぁい!!」


 聞く耳を持たないスィーティアは、【朱染めの種石ヴァーミリアン・ガーネット】の力を使って、ローザから()れ出る魔力を()い上げる。


「――うっ……スィーティア王女!!」


 少しカチンときた。

 ローザは()れ出る魔力に意思を()め、炎とする。

 周囲の魔力に反応し、剣と槍の摩擦(まさつ)によって生まれた炎は、ボンッッ――!!っと瞬間爆発を起こした。

 小さな爆発だったが、物質(ぶっしつ)を遠ざけるだけの威力はあった。

 反動でスィーティアは後退(こうたい)するが。しかし。


「うわああああ!お姉さま!!ロザリームゥゥ!!」


 左手の《石》を発光(はっこう)させて、スィーティアはローザの名を(さけ)ぶ。

 自分自身を否定(ひてい)し、その名を()て去った姉に、死の一撃を見舞(みま)うために。


(お願い――使えて!)

「……【防火の壁(ブレイズ・ウォール)】!!」


 ローザの願いに魔力は反応し、スィーティアの足元から炎の壁が噴出(ふんしゅつ)する。

 炎は見事に二人を断絶(だんぜつ)し、接近を(はば)んだ。


「使えた!……イケる!!」


 《石》はつけていない。それでも、その(あふ)れんほどの魔力が炎の技を実現させた。

 自分でも不確(ふたし)かな新たな力、それでもこの状況(じょうきょう)、使わない訳にはいかない。

 間髪入(かんぱつい)れずに、ローザは炎の壁に向かって。


「【炎の矢(フレイム・アロー)】!(つらぬ)きなさい!!」


 左手を(かざ)した先は炎の壁だ。しかし、スィーティアがそこにいる事は分かる。

 スィーティアの《石》の反応は動いていない。おそらく炎の壁を斬っているだろう。

 がむしゃらに、考える事などせず。


 魔力によって生まれた複数(ふくすう)の炎の矢は、炎の壁に向かって突進する。

 吸い込まれるように炎の壁の一部となった。

 そしてその瞬間、向こう側では。


「この!!こんなものぉぉ!!――っっ!?」


 スィーティアは怒りのままに炎壁(えんへき)に斬りかかっていた。

 当然意味はなく、魔力を吸収(きゅうしゅう)した方が多少は意味があっただろう。

 何度目かの斬撃の後、()らめく炎は形を変え、突如(とつじょ)としてスィーティアに襲い掛かった。


 ――ザシュ!ザシュ!ズシャァ!!


「がっ!うっ!……あぐっ……!」


 炎の壁から()え出るように、数本の炎の槍が突き出て来たのだ。

 矢は壁の炎を吸収(きゅうしゅう)し、魔力も威力も倍増(ばいぞう)してスィーティアに襲撃(しゅうげき)する。

 肩、腰、太股(ふともも)を炎で焼かれて、スィーティアは苦悶(くもん)表情(ひょうじょう)を浮かべた。


 倒れ、焼ける身体を(かか)えるスィーティア。

 そんな状況(じょうきょう)が分かっていたのか、炎の壁は音もなく消え去っていく。

 そしてその先には。


「……く、うぅぅ……お、お姉さま……!」


 自分を見下(みおろ)すかのように、槍を持つローザが立っていた。





 まだ、そんな目で私を見るのね。

 きっと、私の(おも)いは通じてないのでしょう……

 私の物語の始まりは決まったわよ。

 後は、貴女(あなた)が決める番だという事に……気付いて。


「スィーティア王女殿下(でんか)……そろそろお開きにしましょう」


 私が向ける槍の切っ先を、スィーティア王女は憎々(にくにく)しい目つきで(にら)む。

 初めに言ったように、私は負けてもよかった。

 こんな収獲(しゅうかく)もあったし、私たち(・・・)としては大いに結構(けっこう)だ。

 きっと、エドガーも喜んでくれるはず。


「――ふざけないでっ!!お姉さまを殺すまで、私は……!!」


 そこまで、(うら)まれていたのね。

 元の世界で、もっとこの子を見てやれたら、結末(けつまつ)は変わったかしら。

 いいえ――きっと同じね。


 運命と言うものは、結末(けつまつ)が同じだから運命と言うのだ。

 過程(かてい)が何通りもあったと言うだけで、私とこの子の運命は、きっとこうなる。それなら。


「……なら、私は死ねないわね……でも、貴女(あなた)を殺しもしない」


「――!!」


 私は今、どんな顔をしているかしら。

 貴女(あなた)にとって、(くや)しいくらいの笑顔ではない?


 ほら、目が泳いでいる。

 どうしたんだって言いたいんでしょう?

 私の過去(かこ)を知っていて、何十何百、何千何万じゃ利かないくらいの人を殺してきた私が、そんな顔をするなって言いたいんでしょう?


 分かる。分かるよ。私もそう思ってた。

 でもね、今までの世界に未練(みれん)は無い。

 (ごう)背負(せお)う。きっと、最後には(さば)かれる未来が来るのでしょう……

 だから、その時まで。


 私は、この世界で生きていく。


「終わりよ。スィーティア王女!」


 振りかぶり、炎を(まと)った槍を彼女の倒れる地面に突き刺す。

 瞬間に爆発は起こり、目の前は真っ赤に()まった。


「――あああああぁぁっ!!」


 それは慟哭(どうこく)にも近しい悲鳴だった。

 決別を()めた炎を受けて、スィーティア王女は()き飛ぶ。


「――アルベール!!」


 私は、初めてエドガーの幼馴染の名を呼んだ。

 彼は、その意味が分かっているかのように、スィーティア王女が()き飛ぶ先にいた。

 やはり、エドガーの幼馴染だ。


「分かってます!」


 アルベールは受け止め(いだ)くようにスィーティア王女を(かか)え込む。

 気を失ったスィーティア王女は、火傷(やけど)こそあるものの、命にかかわる怪我(けが)ではない筈だ。


「……お姉、さま……私……私は……」


 ガクリと意識を失ったスィーティア王女の両目からは、(あふ)れんばかりの涙がこぼれていた。

 しかし、私は見ないフリをして歩き出す。

 きっとまだ、この子は(あきら)めないだろう。

 でも、私とこの子の運命はこの先、枝分(えだわ)かれしていく。

 そんな気がするの……これは、姉だからかしら。

 さようなら、ライカーナ……可愛(かわい)い私の……最愛の妹。


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