表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
315/383

80話【数千年越しの姉妹喧嘩3】



◇数千年越しの姉妹喧嘩(しまいげんか)3◇


 エミリアは、鼓動(こどう)を落ち着かせて戻る。

 咄嗟(とっさ)だったとは言え、第二王女の訓練(くんれん)邪魔(じゃま)をしてしまった。

 あのままではローザが、人体に支障(ししょう)をきたす怪我(けが)を追うと、本能的に思ったのだ。

 怒られる事など考える(ひま)もなく、自分の装備である槍を投げていた。


「エ、エミリア……無茶をするわね」


「す、すみません殿下(でんか)……つい」


 結果的に、スィーティア王女は激高(げきこう)することなく、訓練(くんれん)は続く。

 しかしそのおかげで、ローザも致命傷(ちめいしょう)を受ける事は無かった。

 それだけでも、邪魔入(じゃまい)りしただけの価値(かち)はあったとエミリアは思う。

 もしエミリアが後で怒られるかどうかは、別の話だが。


「結果が全てよ。ティア姉上だって、戦いが続けられてうれしそうだわ……」


 ローマリア王女は、(おどろ)いてドレスの肩ひもをずり下げていた。

 落ち着いて、それを直しながら言う。


「だけど、訓練(くんれん)とは言え……ティア姉上の暴挙(ぼうきょ)は許される事ではないわ。下手(へた)をすれば、ローザが死んでいたかもしれない……それでは、私はエドガーに合わせる顔が無くなるもの」


「そうですね……ローザも無茶をしすぎですから」


 この事は、第一王女セルエリスに報告しなければならなさそうだと、ローマリアは思っている。

 それでも止めろとは言わない。そんな権利(けんり)は、二人には無かった。

 エミリアは「ふぅー」っと息を()いて言う。


「――信じます。ローザを」


「ええ。そうね」


 二人は訓練場(くんれんじょう)を見る。

 今まさに、時を()えた姉妹の戦いが、再開されようとしていた。





 ブンブンと槍を振り回し、手応(てごた)えを確かめるローザ。

 確かに、長年の経験とは全く違う感覚に、正直言って手応(てごた)えはない。

 槍の使い方など考えた事も無かったし、剣と重心(じゅうしん)も違う。

 よく考えなくても、ローザは剣を得物(えもの)にしていたし、しかもその剣は《魔法》によるものだ。

 この槍はエドガーが《魔法》の応用で造り出したものだが、《魔法》ではなく物質で出来ている。

 ローザが《魔法》で剣や防具を作り出す力の応用であり、言わば“召喚”に近しい技だ。


 二人の力量は圧倒的(あっとうてき)に違うが、ローザが魔力を込めた事で逸品(いっぴん)昇華(しょうか)した。

 魔力が込められたことで、炎を作り出す事が出来るその槍は、魔力を持たないこの国の人間でも使う事が出来る。

 しかしその力はエミリア固定であり、他の者が持てば、ただの切れ味の良い槍だ。


 だが、ローザは違う。

 込められた魔力はローザ本人の物であり、エドガーに作り方を教えている以上、槍の構造(こうぞう)も分かる。

 魔力の流れを感じ、炎も出せる。

 《石》に頼らないでも炎を(あやつ)る事が出来る事に、ローザは別の意味で喜びを感じていた。


「――よし。これでいいでしょ」


「お覚悟が出来ましたか?」


 槍を持つローザに、スィーティアが笑みを浮かべながら歩み寄る。

 今一度(いまいちど)剣を抜き、ローザに向けて。


「先程のように手が(すべ)る事もあるでしょうし……いっその事、致命傷(ちめいしょう)に近いダメージを与える事が、勝利条件としませんか?」


「首を狙っておいて……(すべ)った?まったく図々(ずうずう)しいわね」


「ふふふ。それで、どうですか?」


「……(かま)わないわ。それでいい」


 後ろでローマリアがそわそわしている気もするが。

 ようは致命傷(ちめいしょう)を与えなければいい。

 そもそもこの条件(じょうけん)は、スィーティアがローザを斬りたいから提示(ていじ)したものだ。

 ローザが何を言っても、きっとこの条件(じょうけん)で戦うことになるだろう。

 ならば、早いうちに合意(ごうい)した方が得策(とくさく)だ。


「ふふっ……決まりですね、では……始めましょうか!三試合目を!!」


「ええ。来なさいっ!」





 先手はスィーティアだった。

 袈裟斬(けさぎ)りからの上下二段斬り。

 ローザは槍の太刀打ち部分で(ふせ)ぎ、上下に合わせて槍を動かす。


「はっ!」


「……」


 ガキ!キン!と、剣は槍の()(ふせ)ぎ、反転して反撃をする。

 「ふっ!」と声を(はっ)して、(いきお)い良く槍を振り下ろし、スィーティアの胴を狙う。

 先程のように、ローザは回避優先ではない。

 槍の取り回しがよく分からなく、動きがぎこちなくなってしまう事を考えて、防御・反撃を優先して戦っていた。しかし。


(距離(きょり)が合わせにくい!剣の距離(きょり)だと、槍の(やいば)が当てにくいんだわ)


 自分で使用して分かる、その武器の特性(とくせい)

 剣と槍では、攻撃距離(きょり)が違う。

 そんな初歩的な事に気付かず、剣を持つスィーティアの攻撃を待ってしまった。


「――はあっ!」


「ちぃっ!」

(距離(きょり)を開けないと……攻撃が当てられないっ……なら!)


 ローザは槍に()まっていた魔力を操作(そうさ)して、炎を噴出(ふんしゅつ)させる。


 ゴオオオオオオオォォォォォ!!


「「あっつ!!」」


 残念ながら、ローザは《石》の加護(かご)を受けていない。

 今までと同じように炎を使おうとして、自分も熱に耐性(たいせい)がない事を忘れていた。

 二人は炎の熱さに(おどろ)き、お(たが)いに飛び()ねて距離(きょり)を取った。





 少し顔が赤い。

 こんな声、いつ振りに聞かれただろうか。もしかしたら初めての可能性もある。

 目の前の妹は、自分と同様に熱がった姉をキョトンと見ていた。


「お姉さま……《石》の加護(かご)が無いと、お姉さまはそこまで人間となるのですね」


「まるで私が人じゃない見たいな言い草ね……」


 元の世界では人外じみた力と神秘的(しんぴてき)なまでの存在感(そんざいかん)が、ローザを神格化(しんかくか)させていた。

 勿論(もちろん)神になった訳ではないし、ローザもそんなことを(のぞ)んではいなかっただろう。

 全ては国と、民衆(みんしゅう)が作り上げた虚像(きょぞう)だ。

 それでも、当時のスィーティア、いやライカーナはそんな姉を(うらや)んでいた。


「私がどれほどの時間と労力(ろうりょく)を注ぎ込んでも……注目されるのはいつもお姉さまだった!」


 スィーティアは走り出しながら、剣を振るってローザに斬りかかる。

 ローザは距離(きょり)を取りながら斬撃を(かわ)し、回転しながら槍を横に()いだ。


「そんなことないわっ!あなたはいつだって……私の」


 ガギン――!!と、剣と槍がぶつかり合い、ギリギリと(つんざ)く音を鳴らす。

 ローザはそれ以上の言葉が出ず、口を(つぐ)む。


「私の……なんなのよっ!!言えないんじゃない!!」


 (まゆ)を吊り上げて、スィーティアは剣を振り切った。


「――くっ」

(なぜ言えないの……あなたは大切な存在だったって……それだけでいいのにっ)


「私のなによ!!私がいつ……お姉さまのなにか(・・・)になったというのよ!!」


 乱暴(らんぼう)に剣を振り回して、スィーティアはローザを攻撃する。

 その都度(つど)槍で(ふせ)ぐが、(いきお)いと《石》の加護(かご)に勝るスィーティアの猛攻(もうこう)は、ローザをドンドン追い詰めていく。


「……」


「なんとか……――言いなさいよぉぉぉ!!」


「――ッ!!……――グゥッ!!」


 剣は肩口を(とら)えた。

 ざっくりと切られた傷口からは鮮血(せんけつ)が流れ、槍を持つ手に(つた)って地面に(したた)る。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 スィーティアは距離(きょり)を少しずつ離れていく。

 ローザは斬られた側の腕を下ろし、反対側の手で槍を持ちながらガクリと(ひざ)を着いた。


「……そこまで、だったのね……」


 今の言葉で、妹が姉に劣等感(れっとうかん)(いだ)いていた事は(つた)わった。

 そして痛いくらいに、今までそれを理解していなかったと気付いた。

 ローザは“天使”の加護(かご)を受け、《石》と言う力を()て英雄へと近づいた。

 民衆(みんしゅう)はその事実に驚嘆(きょうたん)し、しかし同時に畏怖(いふ)(いだ)いた。

 あの(・・)王の娘に、天が加護(かご)(あた)えたと。

 逆らえぬ情勢(じょうせい)にまた、一つの武器が加わってしまったと。

 だがそれは、妹であるライカーナには関係がない事だった。


 頭がよく、容姿(ようし)も優れ王に溺愛(できあい)された人生は、退屈(たいくつ)でしかなかった。

 それでも、羨望(せんぼう)(いだ)いてやまない姉、ロザリーム・シャル・ブラストリアという存在。

 正直言って、他の兄や姉は大したことはないと感じていた。


 しかし、ローザは別格だった。

 ライカーナの情愛(じょうあい)憧憬(どうけい)に変わり、憧憬(どうけい)羨望(せんぼう)へと変わって、更に増悪(ぞうお)へと変貌(へんぼう)した。

 その結末(けつまつ)が、(おとしい)れる事だった。

 王を(たら)しこみ、兄姉たちからは能無しと見られるように振舞(ふるま)った。

 だが、ローザに対する態度(たいど)だけは信を置けるものとして対応し、孤独(こどく)な姉の信頼(しんらい)を勝ち取る事に成功したのだ。


 ライカーナを最大級に信頼(しんらい)したローザを言いくるめる事は、実に簡単だった。

 思い通りに事が運び、ローザは王を()った。

 無能な父は死に、残る王家の血筋(ちすじ)は、自分とローザだけとなった。

 そうすれば、残るはこの単純(たんじゅん)化物(ばけもの)を、(ろう)にでも入れればいい。

 そうしてローザは(ひと)り、(とう)幽閉(ゆうへい)された。


「……ライカーナの考えは全部、分かっていたわ……」


「なんですって?」


 その思惑(おもわく)を、ローザは分かっていた。気付いていたのだ。


「それでも構わないと、それでいいんだと思っていた……」


 ローザは力を込めて立ち上がる。

 肩からは血が(あふ)れ出し、(ふる)える腕は真っ赤になっていた。


「私にとって……王国で(そば)にいてくれたのは、ライカーナだけだった……それが策謀(さくぼう)でも、簒奪(さんだつ)の為の(わな)だったとしても……私は、嬉しかった。誰かが(となり)にいてくれることが、こんなにも嬉しいって……あの時に言っていれば……きっと、きっと……でも、私は言わなかった」


 ローザの告白に、スィーティアはムキになる。


「そ、そうよっ!お姉さまは何も言わなかった……!馬鹿(ばか)なふりして妹の言いなりになり、兄弟を(がい)して、王である父を()ち……挙句(あげく)の果てには投獄(とうごく)よ!?単純(たんじゅん)馬鹿(ばか)な女だって……私は思ってた!」


「知ってるわ……それでも……私は嬉しかったのよ。『《石》は孤独(こどく)にさせる』……私に【消えない種火(これ)】を(さず)けた【バカ天使(ウリエル)】が言っていたわ……その意味を知って、それでも(そば)にいてくれたライカーナが大好きだった……」


 (たと)えそれが、自分を(おとし)める行為(こうい)だったとしても。

 ローザはそのおかげで、一人ではないと感じられた。この上ない喜びを与えてくれた。


「い、今更……私は大嫌いだった!!お姉さまがあの時そう言ってくれたとしても、私は嫌い!大嫌いよっ!!」


 スィーティアは無防備(むぼうび)なローザの首筋(くびすじ)めがけて、剣を振り下ろした。


「!!」


「「ローザ!!」」


 (さけ)んだのはエミリアとローマリアだろう。

 アルベールも、「ダメです殿下(でんか)!!」と声を上げているが、確実に聞こえてはいないはずだ。

 そしてそれらの声は、ローザにも聞こえなかったかもしれない。


「――なっ……なに……!?」


 剣は、直前で停止(ていし)していた。

 スィーティアが(すん)でで止めたのではない。

 (いきお)いのある剣を、何かが押し返すように。

 見えない何かが、ローザの身体を守っていたのだ。


「――私の思いも……貴女(あなた)の思いも……今は、今は関係無い。ここは、私の知っている場所じゃないから……ここにいる私の物語(・・・・)は、今から(つづ)るの……!もう――ロザリーム・シャル・ブラストリアの歴史(れきし)は終わったのよっ!!」


 ローザを(まと)(なぞ)の光は、魔力の光だ。

 ローザの存在を知らしめる、赤い魔力。

 その(ひとみ)や髪と同じ、紅麗(こうれい)の光だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ