表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
314/383

79話【数千年越しの姉妹喧嘩2】



◇数千年越しの姉妹喧嘩(しまいげんか)2◇


「――はあぁぁぁ!」


 無情(むじょう)にも(くう)を切る、スィーティアの剣。

 大振りで単調(たんちょう)な一撃は、気を張るまでもないローザに簡単に()けられた。

 膂力(りょりょく)をそのまま地面に叩き付け、剣は(にぶ)い音を鳴らした。

 そしてその地面に足を取られて、スィーティアは(つまず)き転ぶ。


「……うっ……く!」


 しかしスィーティアは()ぐに立ち上がり、ローザを(にら)み付ける。

 肩でする息はドンドン(あら)くなり、脱水症状(だっすいしょうじょう)を起こしそうになった身体は朦朧(もうろう)としていた。


「しんどそうね?もう止める?」


 ローザも汗を()いてはいるが、その無駄(むだ)のない動きから、体力の消耗(しょうもう)はスィーティアとは大違いだ。

 冗談(じょうだん)を飛ばす程度の余裕(よゆう)を見せつけながら、木剣(ぼっけん)をスィーティアに向ける。

 その木剣(ぼっけん)を、スィーティアは剣で(はじ)こうとするも、ローザは剣を引いて(くう)を切った。


「……誰が!」


 舐められたと気付いて、スィーティアは意地でも立ち、(かま)える。

 《石》の力を最大限に発動させて、身体能力の底上げを(はか)る。

 (かがや)く《石》は朱色に光を放ち、オーラはスィーティアを(つつ)む。


「……お姉さま……絶対に苦汁(くじゅう)を味合わせてあげるわっ」


 ローザは「もう充分味わったわよ」と笑いながらも、木剣(ぼっけん)(かま)えた。





 ローザの今回の目的は、《石》を(ふく)めない自分の実力を確かめる事だった。

 【災厄の宝石ディザスター・ストーン】である【消えない種火】は、非常に強力な“魔道具”であると同時に、その消費(しょうひ)魔力は尋常(じんじょう)であり、その《魔法》の影響(えいきょう)を幼少の頃から受けてきたローザにとっては、何よりも共にあった存在だ。

 それを(みずか)ら切り離して進むことを決めたのは、魔力の回復を出来ないという環境(かんきょう)と、同じ異世界人の仲間たちの成長が、ローザに影響(えいきょう)を与えたという点もあるだろう。

 しかし何よりも、あの少年(エドガー)の期待を裏切らない為に。

 あの少年(エドガー)(そば)にいる為に。ローザは進むことを決めた。


(エドガーは、あの(あつか)いを受けて笑顔でいられた……(つら)い事も逃げ出したい事も、全部受け入れて……自分の為ではなく、誰かの為に犠牲(ぎせい)(はら)う勇気が……あの子にはある)


 だからこそ、(そば)にいたいと思った。

 彼の隣で笑っていたいと、心から思えた。


(こんなことで、逃げられる訳がない……たかが《魔法》を使えないというだけ(・・)で、私が逃げ出したら……エドガーの隣にいる資格(しかく)はない!)


 彼の(となり)にいるべきは自分だと、自信を持つ為に。

 《魔法》を使わない魔法使いの戦い方を、学ぶべきだと。

 つまりローザは、剣士になる覚悟を決めたのだった。


「はあああああっ!!」


「……!」


 スィーティアから目を()らさず、一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくをその赤い(ひとみ)(うつ)す。

 筋肉の動き、込められた魔力の流れを正確に把握(はあく)するだけで、こんなにも相手の動きを予測(よそく)する事が出来るとは思わなかった。


 相も変わらず、スィーティアの剣は(くう)を切る。

 一撃も、連撃による攻撃も、全て回避して。


「……っ!」


 しかし(つい)に、ローザの動きも(にぶ)り始める。

 ローザは確かに強い。しかし、その強さは【消えない種火】があってこそだ。

 疲労(ひろう)による誤差(ごさ)微々(びび)たるものだった。

 しかしその誤差(ごさ)が、足を(つまず)かせる。


「……!――そこっ!!」


 スィーティアも見逃さずに、間髪(かんぱつ)入れずに剣を振るってくる。

 ローザが(つまず)いたのは(かかと)だ。体重は後ろに掛かり、()け反るような体勢(たいせい)で一歩ずれる。

 スィーティアの目線で、彼女が狙った部位がローザにも分かった。

 首。なんとも殺意(さつい)のある個所(かしょ)だ。


「――ちっ!」


 ガコッ――!と、スィーティアが振るった剣は木剣(ぼっけん)にめり込んだ。

 一刀にて切断できなかったのは、スィーティアの疲労(ひろう)と、この国の鍛冶技術(かじぎじゅつ)の低さが原因(げんいん)だろう。


「んあぁぁぁぁぁっ!」


 スィーティアは全力で力を込めて、ローザが持つ木剣(ぼっけん)ごと振り切った。

 握力(あくりょく)も、《石》の加護(かご)を受けたスィーティアの方が断然上だ。

 当然ローザが持つ木剣(ぼっけん)は、めり込み罅割(ひびわ)れた所から、バキッと()れた。


「……くっ」


 (しび)れを持つ手を、ローザは見る。


「次は……首を斬ってあげるわっ……お姉さま!!」


「――ちぃっ!このっ!」


 スィーティアは好機(こうき)と見て、武器のないローザを攻め立てる。

 ローザはもう、完全に回避するしかなくなっている。

 動きを見切り、予測(よそく)して行動をするローザだが、逆を言えばスィーティアもそれを可能としている。


「何度も何度も!同じ手を食うかぁぁぁぁ!」


 ローザの回避ステップにも()れ、スィーティアは力任せに剣を振るった。


「!」


 チッッ――!!と、肩を(かす)っただけ。

 (かす)っただけだが、ローザは初めて感じた。斬撃の痛みと言うものを。

 たったそれだけなのに、物凄い痛みと熱さが、身体を()(めぐ)った。


「――いっ……つっ!」


 咄嗟(とっさ)に手で押さえるが、スィーティアの攻撃は止まらない。


(……マズい!!)


 片目を閉じ、慣れない痛みに(ゆが)めてしまった視線(しせん)を戻す。

 もう、スィーティアは攻撃モーションに入っていた。


(駄目(だめ)……間に合わないっ!)


 致命傷(ちめいしょう)()けても、腕を切り()かれるコースだ。

 下手をすれば切断、もしくは肉塊(にくかい)のように(ひしゃ)げるだろう。

 覚悟をして、腕一本をくれてやろうとした直後だった。


「ローーーーザァァァァァァ!!」


 本当に一瞬だが、友と呼べる少女(エミリア)の声が耳を抜け、視線(しせん)を向けようとした瞬間。

 赤い軌跡(きせき)が、ローザとスィーティアの(あいだ)に割って入って来た。


「「――!?」」


 ガギィィィィィィン!!


 スィーティアの剣を(はじ)き、後退(あとずさ)りさせた。

 それは、目の前の地面に突き刺さる、一本の赤槍(せきそう)だった。


「……これは……エミリア!?」


 ローザはエミリアを見る。

 すると、何かを投げたような恰好(ポーズ)で、涙目でローザを見るエミリアがそこには居た。

 (となり)ではローマリア王女が口を開けて(おどろ)いていた。


 【勇炎の槍(ブレイジング・スピア)】。

 エドガーがエミリアの為に想像(そうぞう)し、ローザが魔力を()めた逸品(いっぴん)だ。

 聖王国の国花(こっか)【エミリアの花】を()した装飾(そうしょく)がされた、オンリーワンの槍だ。


「――使って!ローザ!」


 エミリアの言葉にローザは(だま)って(うなず)き、槍を抜く。

 その瞬間に、地面からは炎が(あふ)れ出し、同じ魔力のローザと共鳴(きょうめい)する。


「……あ、熱い……これが、私の炎……?」


 槍を持つ手が熱い。

 (あふ)れ出る炎で()()げてしまいそうだ。だが。


不思議(ふしぎ)ね。手に馴染(なじ)む」


「は、あはは……あはははは!!」


「――そんなに可笑(おか)しいかしら?」


 邪魔(じゃま)をされた形になったスィーティアだったが、怒る事はせずに(くる)ったほどに笑っていた。

 槍を持つ姉の姿が、馬鹿(ばか)らしいほどに想像(そうぞう)できなかったからだ。


可笑(おか)しいも何も……剣ならともかく、槍?槍ですか?……――馬鹿(ばか)に、するなっ!!」


「……」


 いつだって、憧憬(どうけい)(いだ)いた姉の姿は、剣を持つ英雄(ヒロイン)だ。

 炎を(まと)い、外敵を(めっ)するその勇姿に自分は(あこが)れ、その力が欲しくなった。

 (いだ)いていた(あこが)れは劣情(れつじょう)に変わり、(おとし)める事だけを考えるようになって、ついにそれは(かな)った。

 しかし、《石》を(うば)い取る直前に、姉は炎と共に消えてなくなった。


 数千年の時を()えて再会した姉は、憧憬(どうけい)(きみ)では無かった。

 だからこそ、コテンパンにしてやって、自分を認めさせようとしたのに。

 それなのに。


「槍を(にぎ)ったこともないお姉さまが、素人同然の技術で戦うというの!?馬鹿(ばか)にしないで欲しいわ!私はこれでも、転生した記憶を引き()いでいる……剣と槍の(あつか)いが全然違う事くらい知っているわ。もう、お終いよ!やっていられないわ!!」


 スィーティアは言い終えると、剣を仕舞おうとする。

 こんなお遊びは終わりだと、やっていられないと(さけ)んだ。

 しかし、そんなスィーティアの視界(しかい)に、槍の切っ先が入ってきた。


「……何のおつもりですか?」


 ローザが、槍をスィーティアに向けて差し向けていた。


「ここまでやったのだし……ケリをつけましょうよ」


 軽快(けいかい)に笑って、最後には挑発(ちょうはつ)するように口端(くちはし)を吊り上げた。


「……そこまで言うのなら」


 挑発(ちょうはつ)に乗ってやると、スィーティアは戻る。

 やっていられないとは言うが、これはスィーティアにとってもチャンスだった。

 あの槍からは魔力を感じる。

 それはつまり、【朱染めの種石ヴァーミリアン・ガーネット】で()い取れるという事だ。

 元の位置に戻りながら、スィーティアも口を(ゆが)める。


(単純(ばか)なお姉さま……私があんな状況(じょうきょう)で、止めるなんて言い出す訳ないでしょうに……!)


 そう、これは(わな)だ。

 スィーティアだって、ローザの性格は熟知(じゅくち)している。

 途中(とちゅう)で投げ出すような事を、あのロザリームが認めるはずがない。

 いつ何時(なんどき)でも、姉は全力だ。それを逆手にとって、戦いから逃げ出されない様に仕組んだ。


(これで、《石》の力を全力で出せる……!お姉さまを叩き(つぶ)せるっ!!)


 心内(こころうち)で、地面にひれ()す姉の姿を想像して、笑いを(こら)えるスィーティア。

 そして、決着の時は着々と近付いてきていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ