プロローグ【逃げた皇女たち】
3章、よろしくお願いいたします。
◇逃げた皇女たち◇
【魔導帝国レダニエス】。
慌ただしくする騎士や兵士たち、ボーツ大臣も、焦ったように指示を出している。
その訳は、第二皇女ミア・レイチェル・レダニエスの脱走だった。
その報告を受けた【魔導皇帝】ラインハルトは、不気味に笑う。
それは苛立ちか、それとも虚勢か。
報告を受け、すぐさま問い質さなければならない人物を呼び出し、謁見の間の椅子に座る新皇帝。
ラインハルト・オリバー・レダニエスは、目の前で跪く二人の女性騎士に、優しく声を掛けた。
「……待たせてすまない。顔を上げて構わないよ。サンドラ・シルス、それにギリィ・チェイス」
「「はっ……」」
二人の騎士は緊張気味に顔を上げる。
ただならぬ雰囲気に汗が滲み、頬を伝う。
この二人は、第二皇女ミアの近衛騎士だ。
つまりは、ミアを逃がした張本人な訳で。
「さて、報告は聞いたよ。ミアが塔から逃げ出したと……二人はミアの近衛だ、心当たりがあるのではないかな?」
「……申し訳ありません……陛下」
「わたしたちが席を外している間に、窓から逃げ出されたようで……」
三階の高さの部屋から、カーテンやシーツを繋ぎ合わせてロープにし、飛び降りた痕跡があった。
動きやすいようにドレスは短く切られ、靴も履かないまま逃走したのではないかと、二人は言う。
「……ふむ。そうか……周辺警備の騎士たちからは、未だ報告はないが……行きそうな場所は分かるかい?」
「――い、いえ……」
「申し訳ありません……わたしたちは、なにも……」
未明の出来事とは言え、暗がりで行動できる胆力はミアにはまだない。
彼女はまだ九つ、特異な力があるとはいえ、それは不安定すぎると分かっている。
誰かの助力がなければ、こんな行動は出来まい。
「……そうか、それなら仕方がないな。今後に期待しよう」
「「え……?」」
それを理解していながら、ラインハルトは騎士二人を許す。
妹が“何を持って”逃げたのかも、ラインハルトは知っているのだ。
「ミアの監視を怠った事は、確かに失態だが。あの子は特殊だ……この数年、想定外の事ばかり起きているだろう?ならば仕方がないと言うのだ。しかし捜索はしてもらおう。ミアを見つける事を、至極の任とせよ……サンドラ・シルス……ギリィ・チェイス」
「「――は、はいっ!」」
サンドラとギリィが退出した後。
ラインハルトは一人、堪え切れない笑みをこぼす。
「ククク……クックック……本当に、予定通りの行動をしてくれるじゃないか……これも全ては計画の一手……面白いものだよ。ポラリス、スノー、ノイン……お前たちも、精々踊ればいいさ……再び俺の前に立つ時、驚愕する顔を……見せてくれよ、ククク……」
背凭れに身体を預けて、ステンドグラスの天井を見上げる。
ここにはいない人物たちの名を出して、大いに笑う。
そして。
「……俺が気付かない訳がないだろう……その為に、お前の手に届く場所に置いたんだからな。頑張ってエリウスに届けてくれよ?……ミア」
近い未来の自分を想像して、ラインハルトは笑う。
それは、【召喚師】と【送還師】の、絶望的な邂逅となる。




