エピローグ2【信念は誰のために】
第2部2章終わりです。
◇信念は誰のために◇
数々の人物が、色々な意味で奔走している最中。
王城では、ローザことロザリーム・シャル・ブラストリアが、訓練場で向き合っていた。
相対するのは、第二王女スィーティア。
鋭い眼光でローザを見るその目は、獲物を見つけた獰猛な猛禽類のようだった。
「ふふふっ……逃げずによく来たわね、お姉さま」
「……あんな手紙を残されてはね」
ローザがローマリア王女のお稽古指導を終え自室に戻ると、机の上に一枚の手紙が置いてあった。
しかも、その手紙はナイフで突き刺されていて、物騒極まりなかったのだ。
「内容は把握しているのでしょう?」
「――しているから来たに決まっているじゃない」
手紙の内容は「遊びましょう」だった。
指定場所はここ、訓練場。
以前と同じように遊ぶ事が、スィーティアの目的らしい。
◇
「……お、お姉さまだって……?」
この場で最も驚いている人物、それは紛れもなく。
スィーティアの後ろに控えていた【聖騎士】アルベール・ロヴァルトだっただろう。
アルベールのその視線は、ローザの後ろにいるローマリア王女とその騎士、エミリアに向けられる。
「どういうことだよ!?」と、アルベールは妹のエミリアに視線を送るが。
エミリアはその視線に「説明を聞こうとしなかったからでしょ!」と睨みつけるように送り返してきた。
一瞬たじろいだ様なアルベールも、役目を放棄する訳にはいかない冷静さは残っているようで。
「ス、スィーティア殿下……これを」
跪いて、スィーティアに木剣を差し出す。
王女はそれを気分よさそうに受け取り、ローザに向けて切っ先を滑らせた。
(おいおいおい!何がどうなってんだよ……スィーティア殿下が、ローザさんの妹?なわけねぇよな……んじゃ何か?姉妹の契りでも結んだ……?いやいや、どう見てもそんな感じには見えないってっ!)
アルベールは混乱する。視線を代わる代わるスィーティアとローザに移して、一人考えを巡らせるが。
(全っ然分からん……!!)
「下がりなさいアルベール、ケガをするわよ?」
「――えっ。す、すみません……」
愛しい者にするように、頭を撫でるスィーティア。
その癖は、奇しくも姉妹で同じだったらしい。
アルベールはすくっと立ち上がり、顔を赤くして後ろに戻った。
どちらかと言えば、戦いの前にボーっとしてしまった恥ずかしさで赤かった。
「――さぁお姉さま、遊びましょうかっ!」
「慌てるんじゃないわよ……ライカーナ」
ローザにも、思うところは沢山あった。
ここ数日、《石》の力を一切使わないで生活をしてきて感じた事。
自分自身の潜在能力を、そこまで強くはないと実感し、見つめ直すきっかけになった。
《契約者》であるエドガーの、“不遇”職業というものも目の当たりにし、不甲斐なさと申し訳なさに見舞われた。しかし。
その体験は、ローザの心境を一歩進めたのだ。
一度はスィーティアに負け、妹の積年の恨みをその身で受けた。
精神的に不安定になったローザは、【消えない種火】の力を自分から拒んだのだ。
その結果が、《石》の使用が出来なくなると言うものだった。
魔力不足や、精神的疲弊、様々な状態が重なったとはいえ、それは自分を否定する行為だった。
だが今、スィーティアに相対するローザの目は――赤い。
燃えるように赤いその瞳は、ローザ自身が持つ純粋な魔力だ。
フィルヴィーネが数日掛けて回復させた、《石》の力に頼らない、ロザリーム・シャル・ブラストリアと言う女性の、信念の色だった。
~天使奔走~ 終。




