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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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71話【二人の道】



◇二人の道◇


 報告を終えて、エミリアは自室に戻って来ていた。

 そして苛立(いらだ)ちを隠そうとしないままにベッドの(まくら)(つか)み、思い切りドアに向かって投げる。


「――兄さんの……馬鹿(ばか)ぁぁぁぁぁっ!!」


 ボフン――と、(まくら)(むな)しく床に落ちた。

 はぁはぁと息を(あら)くし、エミリアは涙目になりながら、小さく。


「なんで……」


 先程。エミリアは兄アルベールの決断を聞いた。

 その答えは――


『スィーティア王女殿下(でんか)……その申し出、有難(ありがた)く受けさせて頂きたいと思います』


 アルベールは、スィーティアの申し出を受け入れたのだ。

 エミリアの意味深な視線(しせん)も意味なく、アルベールは第二王女スィーティアの専属(せんぞく)騎士となる事を決めた。

 しかしそれは、近い未来で波乱(はらん)を巻き起こすとは知らない、無謀(むぼう)な選択だった。


 謁見(えっけん)の間で宣言(せんげん)したアルベールは、そのままスィーティアに連れられてその場を後にした。

 意味は知らずとも妹の視線(しせん)は感じていたのか、「わりぃな」と言い残してアルベールは去っていった。

 別に遠くに行く訳ではないし、敵になる訳でもない。

 だが、第三王女ローマリアの騎士であるエミリアと、その関係者であるローザ。

 その妹の生まれ変わりであるスィーティアの騎士になるという事がどういう事になるのか、それはエミリアでも想像できたのだ。


「……エドに何て言えば……」


 これはアルベールの道だ。

 けれども、目的は同じなはずの兄妹の道だ。

 【召喚師】エドガーの待遇改善(たいぐうかいぜん)

 同じ(はた)(かか)げ、同じ人を思いやっての道。

 しかし、その道は分岐(ぶんき)してしまった。

 異世界人ローザの近くと、その真逆。

 今(もっと)も敵対の恐れがある、スィーティアの近くという立場に。





 扉の向こうでは、エミリアが落ち着くのを待っている【従騎士(じゅうきし)】レミーユがいた。

 エミリアの留守(るす)を任されていたレミーユは、鬼の形相(ぎょうそう)で帰って来たエミリアに(おどろ)き、それを(さっ)して部屋を出ていたのだが、「馬鹿(ばか)ぁぁぁぁ」と叫びを聞いてソワソワしていた。


「エ、エミリア様……」


 今日はまだ仕事が残っている。

 レミーユはそれを、【従騎士(じゅうきし)】の立場上エミリアに言わねばならない。

 しかし、今までにないくらいのエミリアの感情の起伏(きふく)()の当たりにして、完全にひよってしまっている。


「ど、どうしよ……どうしよぅ~」


 その結果、レミーユがエミリアに声をかけるまで数時(すうとき)(数時間)もの時間がかかってしまうのだった。





 時を同じくして、ロヴァルト男爵(てい)

 【貴族街第一区画(リ・パール)】に最近建てられたばかりの、アルベール・ロヴァルト男爵の屋敷だ。

 家に戻って来たアルベールは、自室で高鳴る心臓に興奮(こうふん)を隠せないでいた。


「――これはチャンスだっ……俺が第二王女の専属(せんぞく)騎士だぞ……!こんなこと、逃したらただの馬鹿(ばか)だろっ!」


 思えば、あの日スィーティア王女殿下(でんか)転倒(てんとう)から救った日。

 あの日から(すで)に、前兆(ぜんちょう)はあったのかもしれない。


「エミリアはローマリア殿下(でんか)の騎士に……俺はスィーティア殿下(でんか)の騎士に、チャンスじゃないって言うなら、そいつはどうかしてるっ!」


 専属(せんぞく)の騎士と成って、功績(こうせき)()げる。

 成果を残した先に、エドガーの待遇改善(たいぐうかいぜん)があると信じて。


「どれだけかかるか分からないが……俺は絶対にこの国を変えてやる!待ってろよ、エド!!」


 一人、興奮(こうふん)(おさ)えられないアルベールは、自分が(かな)えるべき未来の可能性を信じて。

 一人、共に歩めるべき道を外れて行ってしまうのだった。





 同じく、屋敷(やしき)内では。


「どうしたのでしょうか、アルベール様は」


「さ、さぁ……でも、すっごいご機嫌(きげん)でしたねぇ」


 メイドであるフィルウェインとナスタージャが、帰って来て早々(そうそう)部屋に(こも)った(あるじ)不思議(ふしぎ)がっていた。

 それは、【従騎士(じゅうきし)】ラフィーユも同じであり。


「城で何かあったのでしょうか?」


 三人は、丸テーブルを囲んでお茶をしていた。

 アルベールが部屋に(こも)って、半時(はんとき)(30分)が()った。

 だが一向に出てくる気配はなく、こうして三人でガールズトークをしている次第(しだい)である。


「さて、どうでしょうか……」


「なんだか、変な感じですねぇ」


「変?」


「……アルベール様は、以前からも必ずと言ってもいいほど、帰宅後は家の誰かと会話をしますぅ……それは家族や、使用人たちと、分け(へだ)てなくですぅ」


 ナスタージャの言葉に、フィルウェインが補足(ほそ)をする。


「そうですね。確かに様子はおかしかったかも知れないわ……でも、以前もこういう時はあったでしょう?」


 ナスタージャは「そうですけどぉ」と、お菓子(かし)を食べながら言う。

 そしてその理由に、ラフィーユも心当たりがあるのか、ティーカップに付いた(べに)を落としながら言う。


「そういえば、アルベール様は騎士学校時代からフレンドリーな立ち振る舞いで人気でしたからね……ご自宅でもそうだったと言うのは、嬉しい事です。でもそうなると、やはりお一人で部屋に(こも)るのは(めずら)しいのですね……」


 そんなアルベールが、何も言わないままに部屋に(こも)ったのが、不思議(ふしぎ)でならないラフィーユ。


「いっそエミリアお嬢様に聞いてみますかぁ?」


「お嬢様に聞きに行く?――王城に?」


 (あき)れたように、フィルウェインが言った。

 ナスタージャはガックリと項垂(うなだ)れて。


「……あ。撤回(てっかい)しますぅ」


 ナスタージャは、元々エミリアの専属(せんぞく)メイドだ。

 エミリアが城に住まう事になったために、アルベールのメイドとして再就職(さいしゅうしょく)したのだったが、(いま)だに気持ちはエミリアのメイドでいるらしい。


「アルベール様を待つしかありませんね、都合(つごう)のいい事に……今晩フロットリー伯爵がお見えになりますから、それまでには出て来てくれるでしょう、流石(さすが)に」


 ラフィーユは、アルベールに仕事があるとは(つた)えてある。

 融資(ゆうし)貴族との食事会だ。投げ出す事だけはしないだろう。


「では、私は仕事に戻ります……行きますよ、ナスタージャ」


「ええぇ――あっ!ちょっと、首根(くびね)っこ……うぐぅぅ」


 嫌がるナスタージャの首根(くびね)っこを(つか)んで、フィルウェインは仕事に戻っていった。


「さてと……私は、明日からの調整(ちょうせい)をしましょうかね……」


 念の為に(べに)を差し直して、ラフィーユも席を立った。

 仕事の出来るところを見せて、少しでもアルベールにアピールするつもりのラフィーユだった。


 そうして、同じ目的地を目指す兄妹の道はこうして別離(べつり)となり、やがて来る激動(げきどう)翻弄(ほんろう)される未来が、足音もなく近づいてきていると、誰一人として知らぬまま。


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