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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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70話【南の報告】



(ルウタール)の報告◇


 【リフベイン城】に到着(とうちゃく)し、オルドリンはまず【聖騎士団】の詰め所に足を運んだ。勿論(もちろん)エミリアとアルベールのロヴァルト兄妹も一緒だ。


「――お久しぶりです、団長」


「……君だったか。スファイリーズ」


「……?」


 まるで誰が来るのかを知らなかったかのように、団長クルストルはオルドリンを見ると、一人納得(なっとく)する。

 オルドリンは逆に、何故(なぜ)クルストルがそう言った態度なのかが分らなそうだった。


「なんだ……書状(しょじょう)を書いたのは君じゃないのか?」


「え、ええ……書状(しょじょう)を用意したのは、ギルオーダですが……もしかして」


 団長クルストル・サザンベールの言葉に、オルドリンは嫌そうに顔を暗くする。


「ああ。名前が記載(きさい)されていなかったよ……要点(ようてん)も書かれていなかった」


 届いた書状(しょじょう)は、セルエリス王女が読了後にクルストルとオーデインの【聖騎士】二人も読んでいる。

 しかしクルストルが言うように、中身は中途半端(ちゅうとはんぱ)で、書状(しょじょう)(しる)した人物の名も、誰が向かうかも(しる)されてはいなかったのだ。

 その事実に、ガックリと項垂(うなだ)れるオルドリンは、しっかりと聞こえるため息を()く。


「はぁ……やはり、あのお猿さん(・・・・)に任せたのは間違いでしたか……あんなにもしっかり書きなさいと言ったのに……まったく」


 オルドリンはガッカリとし、クルストルはフッと笑った。

 同じく室内に入った、エミリアとアルベールは。


「ギルオーダ……?」

「騎士学校の先輩(せんぱい)の一人だよ」

「なんで猿?」

「それは……俺の口からはなんとも」


 言いにくい事なのだろうか。

 その二人の様子が聞こえていたらしく、オルドリンが振り返り言う。


「ギルオーダはあなた方、アルベール君の三つ上の卒業生ですよ。小さくてすばしっこい事から、お猿さんと……学生時代から呼ばれていましたね」


「へぇ……って、すみません!」


 エミリアは急に頭を下げて、オルドリンに(あやま)った。

 わざわざ説明させてしまったと気付いて。


「いいんですよそれくらい。面白い子ですね、団長」


「そうか?確かに、オーデインやノエルディアは気に入っているようだが」


 クルストルは椅子(いす)に座ったまま身体を(かたむ)けて、二人を見た。

 【聖騎士団】全体を仕切るクルストルとは違い、副団長のオーデインとその部下ノエルディアは、第三王女ローマリアの直属(ちょくぞく)だ、エミリアもそこに部類(ぶるい)される。

 ちなみにアルベールは関係なく、所属(しょぞく)はまだ無い。


「……な、なんでしょう?」


「いや……お前たちも、今日のオルドリンの報告に出ろ」


「「えっ!?」」


 報告とは、この後オルドリンが第一王女セルエリス殿下(でんか)にする予定のものだ。

 それに同席(どうせき)しろと言う事だが、二人には理由が読めなかったらしい。

 戸惑(とまど)う二人に、オルドリンが補足(ほそく)をしてくれる。


「勉強をしなさいと言う意味ですよ。団長は言葉が足りないので……」


「あ、ああ……そう言う」

「べ、勉強……?」


 と言う訳で、エミリアとアルベールの兄妹も、セルエリス殿下(でんか)への報告に同席する運びとなったのだった。





 オルドリンが【聖騎士団】の詰め所に来たのは、単にセルエリス殿下(でんか)の準備がまだだったからだ。

 勿論(もちろん)、上官であるクルストルにする報告はあるが、急用であるならば書状(しょじょう)にもそう(しる)す。書かれていたかは非常に怪しいが。


「そろそろでしょうか……」


「そうだな。行って来い」


 ソファーに腰かけていたオルドリンが立ち上がり、クルストルも(うなず)いて時計を見る。

 詰め所に来て半時(はんとき)(30分)、そろそろ王女の準備も出来た頃合(ころあ)いではなかろうかと予測(よそく)し、オルドリンは髪を(むす)び直す。


「さぁ、お二人も行きましょうか」


「「は、はいっ!」」


「ふふふ……そんなに緊張しなくても。報告するのは私なのですよ?」


 ごもっともだった。





 三人は、謁見(えっけん)の間の扉の前に到着(とうちゃく)した。

 門番(もんばん)の騎士が「ご苦労様です!」と敬礼(けいれい)をして、三人も返す。

 その後、門番(もんばん)は「【聖騎士】スファイリーズ様、御帰還(ごきかん)になります!」と、大きな声で告げ扉を開いた。

 以前エミリアとアルベールが(おとず)れた軽謁見(けいえっけん)の間ではない、正式な謁見(えっけん)の間。

 あの場よりも大きな扉は、三人がかりでようやく動く。


「……や、やば」

「おいっ」

「ふふふ……」


 緊張で、つい不用意な言葉が出そうになるエミリアに(くぎ)を刺すアルベールと、その様子を笑うオルドリン。

 三人は進み、赤い絨毯(じゅうたん)(ひざ)を着いて、顔を()せた。

 オルドリンを先頭にして、ロヴァルト兄妹の二人は後ろで待機する。

 そして、(りん)とした声がかけられる。


「――顔を上げなさい、【聖騎士】オルドリン・スファイリーズ」


「はっ」


 凛々(りり)しい声に、オルドリンは顔を上げて挨拶(あいさつ)をする。


御久(おひさ)しく(ぞん)じます……セルエリス王女殿下(でんか)、この度は不躾(ぶしつけ)書状(しょじょう)……(まこと)に申し訳ございません」


「……よい。どうせ書いたのはギルオーダの猿であろう、分かっておる」


 (すで)に見抜かれていた。


「……そういう意味でも、申し訳ありませんでした」


「それは本人が戻って来てからにするとしよう……それでオルドリン・スファイリーズよ、この(たび)の件……いったい何用だったのだ、書状(しょじょう)を寄こす程の事だったのか?」


 セルエリスは、(きたな)書状(しょじょう)の件は本人に問うと言う。

 それはそれで、【聖騎士】ギルオーダが後で大変そうだが。


「感謝致します……要件(ようけん)といいますか、ご報告になるのですが……」


 オルドリンが()べるのは、南の国【ルウタール王国】の現状報告(げんじょうほうこく)だった。

 南に【聖騎士】を派兵(はへい)しているのは、ルウタール王が野心家(やしんか)であったからだ。

 距離(きょり)が近い事もあり、警戒(けいかい)(つね)にしていた。

 しかし、実力が大してない【ルウタール王国】は、簡潔(かんけつ)に言っても敵ではないと()んでいた。

 だから、【聖騎士】を派兵(はへい)することで威圧(いあつ)を与え、動きを抑制(よくせい)していたのだが。


「近いうちに、ルウタールが侵攻(しんこう)してくる恐れがあります……今すぐと言う訳ではありませんが、ルウタールの北……つまり【リフベイン聖王国(わがくに)】との国境付近に(とりで)建設(けんせつ)が始まりました……それも、簡易的(かんいてき)(やぐら)程度ではありません。頑丈(がんじょう)な、壁の高いものです」


「……【聖騎士】の監視(かんし)を逃れる為か」


「はい。その通りかと」


 国境付近に大きな(とりで)(きず)き、監視(かんし)視野(しや)(せば)める。

 そうして人知れず軍備の強化や、進軍の準備をしようとしているのだろう。


「それにしても……国境付近に(とりで)か……普通ではないな」


 確かに。それでは、わざわざ何かをしていますと宣言(せんげん)しているようなものだ。


「はい。その通りでして……逆に不審(ふしん)に思い、こうして戻ってきた所存(しょぞん)です」


 国境付近に意味深な(とりで)なぞ建てれば、これから何かをしてくると警戒(けいかい)するしかない。

 しかし、そんな分かりやすい事を、監視(かんし)の目が丸分かりの状況(じょうきょう)で始めるだろうか。

 これでは確かに「逆に不審(ふしん)」というのも(うなず)ける。


「ただの物見櫓(ものみやぐら)ならば、捨て置けと言いたいところだが……大きな(とりで)か……面倒(めんどう)な事をしてくれるな……ルウタール王」


 セルエリスは苛立(いらだ)ちを指に()める。

 玉座の肘掛(ひじか)けが、ミシッ――と音を鳴らした。


「「「……」」」


 正面に(ひか)えるオルドリンも、その後ろに待機するエミリアとアルベールも、一瞬で緊張を(さっ)した。

 エミリアのみ、緊張が上掛けされた。だが。

 そんな中、セルエリスは少し考え、オルドリンが(のぞ)んでいるであろう言葉を()べる。


「――兵は増強(そうきょう)しよう……資金(しきん)も用意はする。その代わり……」


「はい、心得(こころえ)ております」


 「南のいいようにさせるな」と、セルエリスは言いたいのだ。

 これで報告は終わり、【聖騎士】三人もセルエリス王女も、一段落(いちだんらく)かと息を()こうとした。

 しかし突如(とつじょ)として、謁見(えっけん)の間の扉がバダン――!!と開き。


「こ、困ります!第二王女(・・・・)殿下(でんか)……!」

「今は、謁見中(えっけんちゅう)で……」


 と、門番(もんばん)(さわ)がしく、誰かを引き()めている事が分かった。

 そしてその言葉から、誰が来ているのかも。


「エリス姉上っ」


 門番(もんばん)制止(せいし)もまったく利かず、第二王女スィーティアが、嬉々(きき)としてやって来た。

 満面の笑顔で、つかつかとセルエリスの前までやって来たスィーティア。

 その(さい)に、アルベールをチラリと見たことを、アルベールだけが気付いた。


「……スィーティア。今は謁見中(えっけんちゅう)だと分かって来ているわね?」


勿論(もちろん)よ」


 ドヤ顔で。


「はぁ……終わるまで待てないのかしら」


「――待てないわね」


 何故(なぜ)ならば、要件(ようけん)は姉ではないからだ。

 その視線(しせん)は【聖騎士】の面々(めんめん)に。


(……俺を……見てる?)


 アルベールは気付く。スィーティアの視線(しせん)が、熱いほどに向けられている事に。


「何の用なの?手短にしてもらわないと、こちらも困るのよ」


「フフっ……分かっているわエリス姉上……それでは簡潔(かんけつ)に言うけど、先日の話(・・・・)は覚えていますでしょう?」


「……部下を寄こせと言う奴ね……?」


 【聖騎士】三人にも、ピクリとするだけの自意識(じいしき)はあった。

 こんな状況(じょうきょう)でそれを言い出すと言う事は、つまり。


「ええ。だから、ここにいる【聖騎士】を頂戴(ちょうだい)するわ!」


「なっ!」

「ええっ!?」

「……」


「……はぁ」


 【聖騎士】三人の後に、ため息を()くセルエリス王女。

 頭を(かか)えたくなる妹王女の言い分に、内心では。


(また随分(ずいぶん)と行動的になって……昨日の今日で、どうすればここまで別人のようになれるのかしら……)


「聞いていますか?姉上……私は――そこの【聖騎士】アルベール・ロヴァルトを、専属(せんぞく)騎士にします。これだけは確定です。絶対です。(ゆず)りません」


「……お、俺を!?……ですか?」


「ええ、そうよアルベール・ロヴァルト……この前の礼です、ありがたく受け取りなさい」


 この前の礼とは、倒れそうになったスィーティアを助けた事だろうか。

 アルベールを放っておいて、勝手に進めるスィーティアにセルエリスは。


「……どうなのです。アルベール・ロヴァルト……」


 セルエリスはアルベールに直接決めさせるつもりなのか、言葉を向けた。

 今まではオルドリンの後ろで勉強として待機していたが、急に白羽(しらは)の矢が立ってしまい、混乱する。

 セルエリスも、ロヴァルト兄妹が勉強で来ていると理解していて、()えて言葉を掛けいなかったが、掛けない訳にもいかなくなったのだろう。


「いや……その、きゅ、急すぎて……」

(何が何だか……でも、でもこれは……チャンスなんじゃ……?)


 アルベールの中では、最優先は成り上がりだ。

 成り上がって、【召喚師】の待遇(たいぐう)を良くする。

 それが、そもそもアルベールが【聖騎士】を目指した理由だ。


 アルベールは、これは千載一遇(せんざいいちぐう)好機(こうき)なのではないかと、ドクンと心臓を()ねさせた。


「に、兄さん……」


 一方でエミリアの心境(しんきょう)は。


(ダメだよ兄さん……あの人は、あの人はローザの……)


 スィーティアがローザの妹、ライカーナの生まれ変わりであることを知っているエミリアは、その危険性(きけんせい)重々(じゅうじゅう)理解していた。

 それはきっと、エドガーの為にはならないと。


 ()れ違う兄妹の見解に、交わる道はあるのだろうか。

 果たして、アルベール・ロヴァルトの決断は――


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