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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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63話【修行】



修行(しゅぎょう)


 【リフベイン聖王国】の首都である、【王都リドチュア】。

 王族が住まうこの国の中枢(ちゅうすう)、【リフベイン城】。

 数日間続いた雨は、【水の月10日】(7月10日に当たる)の今日、ようやく晴れた。


 王城で、退屈(たいくつ)そうに外を(なが)めていた聖王国の第三王女、ローマリア・ファズ・リフベインは。

 外に出る事もなく、ましてやお稽古事(けいこごと)も休みになっていて、非常に(ひま)を持て(もて)していた。

 考え事は()きないが、毎日毎日それをしていては気が滅入(めい)る。

 そう思って、指南役(しなんやく)であるローザの所に遊びに行っても、ここ数日はいない事が多くなっていた。

 どこに行ったのかを専属(せんぞく)の【聖騎士】である、エミリアに聞こうと思っても、何故(なぜ)かエミリアまでもが居ないという事がここ続き、仕方がなく本を読んだりしていたのだった。


 と、言うのも。現在エミリアはローザと二人きりだ。

 場所は訓練場(くんれんじょう)、それも城外(じょうがい)のだ。

 ローマリアが探しても見当たらない訳であり、それをローザが口止めしていたりもする。

 何故(なぜ)なら、「格好(かっこう)悪いでしょう?」と言うローザなりの意地だった。

 ローザは、エミリアに修行(しゅぎょう)の相手を頼んだのだ。

 《石》を使わない戦い方を身に付けるために。





「今日も悪いわね、エミリア」


「ん~ん。別にいいよ……ローザの為になるなら(いく)らでも力になるし。私、嬉しいんだ!ローザの力になれる事がっ。それに私も……せめてローザから一本取りたいしねっ!」


 屈伸運動(くっしんうんどう)をしながら、二人は何気(なにげ)ない会話をする。

 屋根付きの訓練場(くんれんじょう)は、雨が降っていた数日間でも有難(ありがた)修練(しゅうれん)が重ねられた。

 そして今日はようやくの晴天(せいてん)、絶好の運動日和(うんどうびより)だ。


 ここは、【貴族街第三区画(ガーネ)】にあるミッシェイラ公爵(てい)

 その私有(しゆう)訓練場(くんれんじょう)だ。

 誰にも見られることなく、ローザが集中できる環境下(かんきょうか)を探していたエミリアだが。

 偶然(ぐうぜん)ここを通り、偶然(ぐうぜん)公爵と鉢合(はちあ)わせした事で、思い付きの様に「数日貸して欲しい」と無理を言った所、公爵は「いつでも使ってくれて構わない」と申し出てくれたのだった。


「それにしても、本当にいい所ね。雨も防げるし……そんなに人もいないしで一石二鳥(いっせきにちょう)だわ」


「だね~。ミッシェイラ公爵様様だよ、ありがたいね」


 ローザは内心思っていた。(あの息子(・・・・)の父親とは思えない)と。

 ミッシェイラの息子コランディルは、ローザがこの世界に“召喚”された(さい)に起きた事件の当事者(とうじしゃ)だ。

 騎士学校を卒業し、その時の【聖騎士】昇格の式典(しきてん)で、エミリアの兄であるアルベールに逆転され【聖騎士】に成る事が出来なかった。

 逆恨(さかう)みとも言える行為(こうい)は、エドガーやエミリア、一般人のメイリンをも巻き込んだ。

 その結果として、エドガーに【異世界召喚】という力を顕現(けんげん)させた事だけは、ローザは感謝してもいいと思っている。それがなければ、今頃ローザは元の世界で幽閉生活(ゆうへいせいかつ)だろう。

 きっとその考えは、同じ異世界人である他の女の子達も同じかもしれない。


「……よしっ。私は準備完了だよ!」


「ええ、私もいいわよ」


 ローザは壁に立てかけてある木剣(ぼっけん)を手に取る。

 エミリアも、用意しておいた練習用の木槍(きやり)(にぎ)った。


「いくよローザ!今日は一本取ってやるからっ!!」


「来なさいエミリア……精々、私の訓練(くんれん)相手になってもらうわっ!」





 カンカン――!ガッ!ガコッ!

 木と木がぶつかる音が、何度も何度も(ひび)く。


「やぁぁぁぁぁっ!」


 エミリアが()り出した刺突(しとつ)は、ローザが身体を回転させて回避する。

 それを見越していたエミリアは、わざと木槍(きやり)を地面に叩きつけて急ブレーキ、そのまま木槍(きやり)(じく)に足を振り回して、ローザの顔面目掛けて蹴りぬく。


「――っ」


 ()け反り、ローザはそれを回避した。

 反動で一回転し、すぐさま着地。無防備(むぼうび)なエミリアの脇腹(わきばら)を、木剣(ぼっけん)小突(こづ)いた。


「――あだっ!」


 (じく)にしていた木槍(きやり)もズレて、エミリアは転がった。

 しかし、(いきお)いのまま起き上がり、再びローザに突撃する。

 今度は横薙(よこな)ぎで木槍(きやり)一閃(いっせん)し、同時に跳躍(ちょうやく)し空中で回転、横薙(よこな)ぎの反動で(かかと)落としを()り出した。


「おっ!……と!!」


 ローザは()ける事はせず、両手で木剣(ぼっけん)を構え、(かかと)(ふせ)いだ。


「げっ!」


 片足状態のエミリアは、やばいと感じたが一足遅かった。

 エミリアの足技を(ふせ)ぎ切ったローザは、木剣(ぼっけん)を上に押し上げて、エミリアの足を更に高く上げさせる。

 変な格好(かっこう)()け反るエミリア。

 地に着いているもう片方の足を、ローザに引っ掛けられて。


「う、あ……ちょっ!!」


 ブンブンと両手を回してバランスを取ろうとしたが。

 バンッッ!と、横這(よこば)いで落下した。

 ――カラカラカラーン。


「「……」」


 (むな)しく、木槍(きやり)が音を鳴らして転がっていく。


「……だ、大丈夫?」


「……」


 完全に全身を打っている。(さぞ)かし痛い事だろう。


「……さ、さぁ……そろそろ休憩にしましょうか」


「……うん」


 鼻先を押さえて、エミリアも起き上がる。

 血は出ていないようで良かったが、鼻は赤かった。





 二人で長椅子(ながいす)に座り、昼食のサンドイッチを食べる。

 これはエミリアが用意したものだが、城のメイドさん(さく)らしい。


「……宿の食事が恋しいわね」


「――いやいや、城でも美味(おい)しいもの食べてるでしょぉ!?このサンドイッチの材料だってさ、残り物だけど城に(おろ)された高級品だよっ!?文句(もんく)あんのぉぉっ!?」


 サンドイッチを入れてきたバスケットをパンパン叩きながら、「バレないように作ってもらうの苦労(くろう)したんだからね!ねぇ!!」と(いきどお)りを見せるエミリア。


「わ、分かっているわよ……そこまで言わなくてもいいじゃない……」


 「も、文句(もんく)も無いし美味(おい)しいから……」と、ローザはエミリアに言う。

 若干(じゃっかん)(あせ)ったように聞こえるのは、エミリアの異常な気迫(きはく)に押されたからだろうか。

 小さな事から、若干(じゃっかん)の気まずさが空気を(ただよ)い、少しの時間が流れた。

 すると、静寂(せいじゃく)()えられなかったのは、意外にもローザの方だった。


「……最近、エドガーはどう?」


「――え?エ、エド……?」


 予想外の質問(しつもん)だった。

 ローザは、城勤(しろづと)めになってから一度もエドガーに会っていない。

 メルティナやフィルヴィーネから近況は聞いているが、自分から進んで話題(わだい)にする事は一切無かったのだ。

 そんなローザが、エドガーの事を聞いて来た。(おどろ)くエミリアだが、言えることはメルティナ達と同じだった。


頑張(がんば)ってる……と、思うよ。(くわ)しいことは、私じゃ分かんなくて……でも、宿に行く度に勉強しててさ、“魔道具”の事とか《魔法》の事とか、異世界の事とか……すっごく忙しそうにしてるよ」


「そう」


 ローザが少し(さび)しそうな表情(かお)をした事を、エミリアは見逃さなかった。

 でも、言えない。それを聞いてしまったら、ローザが決めた決意を水に流してしまう。

 覚悟(かくご)を持って、ローザはエドガーから離れた。

 それは仲間の為であり、自分の為であり、そしてエドガーの為だとエミリアは充分に(さっ)している。

 ローザが城に来てから、()えてエドガーの話をしない事にも気付いている。

 特に、ローザが《石》の力を失くしてしまった時から、それは如実(にょじつ)に表れていた。

 エドガーにその事を告げようとした事を、エミリアは少し後悔(こうかい)していた。

 結果的に、エドガーは《契約者》として、それに気付いていた。

 しかしそれをエドガーがローザに言う事も無ければ、ローザがエドガーに助けを求める事も無い。

 痛いくらいにそれが分かるから。エミリアは今、こうしてローザと共にいるのだろう。


 風が流れる。ふわりと流れる風は、ローザの長い髪を()らした。

 それは、決意強く燃ゆる炎のようであり、ローザの()れる心を表した、苦悩(くのう)のようでもあった。


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