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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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58話【Diabolik1】



Diabolik(ディアボリック)1◇


 ノインが(たお)された。大きな音も動作もなく、悲鳴が先行して木霊(こだま)した。

 (けむり)をあげてノインは地に(たお)れ、周りには騎士たちが(かこ)みだしていた。


「――ノイン……!ぐっ……くぅ……!」


 スノードロップは飛び出そうとするが、ノインと同じ攻撃を受けている上に、空から落下したと言うダメージがあった。

 ガクリと、立ち上がろうとしても(ひざ)から(くず)れる。

 リューネがそれを支えている。

 一方でエリウスは、悩みと混乱の中で葛藤(かっとう)していた。


 ここまで共に来たノインを切り捨てるべきなのか、国の騎士に刃を向け、帝国皇女(こうじょ)としての尊厳(そんげん)を打ち捨てるのかを。

 それに、騎士たちの装備の事もある。黒いコートは無類(むるい)防御力(ぼうぎょりょく)(ほこ)る。

 そしてあの槍だ、異世界人であるスノードロップとノインを(たお)した、無骨(ぶこつ)な黒い槍。

 見えない攻撃と完璧(かんぺき)防御力(ぼうぎょりょく)。それを持つ彼等に、エリウスが何か出来るのか。


「……」


 手に持つ【魔剣ベリアル】の()をギュッと(にぎ)りしめて、エリウスは決断を迫られる。

 帝都(ていと)から離れてから数日、エリウスの判断の遅さが全て裏目に出ていた。

 スノードロップとノインが助けてくれなければ、今頃は皇帝(こうてい)と成った兄のもとか、それとも黄泉(よみ)の国か、いずれにしても分かったものではない。


(わたくし)は……!」


 やはり、目の前の少女を見捨てることは出来ない。

 エリウスは意を決して(さや)から剣を抜き放とうとしたが、魔剣(ベリアル)微動(びどう)だにしなかった。


「――な、なんでっ!!」


 その様子にスノードロップとリューネ、更には(おび)えてへたり込んでいた村長の娘オルディアすらも、エリウスに注目(ちゅうもく)した。


何故(なぜ)抜けないのっ!(わたくし)は、ノインを……ノインを救いたいのにっ!!」


「エリウス様……」


 エリウスはエリウスなりに考えた。

 祖国(そこく)と戦うことになるかもしれない状況(じょうきょう)でも、父を()った兄に真実を聞かなければならない。

 それとも、兄にひれ()して、帝国を繁栄(はんえい)させるために手を()くすのか。


 答えは簡単な事ではない。父の真相(しんそう)にせよ、兄の野望(やぼう)にせよ、結局は家族の話だ。

 大事な妹(ミア)も、まだ兄のもとに居るはずなのだ。

 今自分に出来るのは、逃げる事か、はたまた(したが)う事か、そうではなく(あらが)うのか。


(わたくし)に――力が……あればっ!」


 魔剣が抜けないという事は、今までになかった。

 だからこそ心を決めて、剣を抜き戦おうとした、しかし。


何故(なぜ)なの!どうしてっ!?私は……!!」


 何度も何度も、魔剣を(さや)から()き放とうと躍起(やっき)になる。

 しかし何度も(ため)しても、結果は変わらない。


「エリウス様……」


 リューネはエリウスを見、そして村の様子を(うかが)う。

 ノインの獣耳を乱暴に(つか)み、一人の男が告げた。

 「ラインハルト陛下(へいか)への手土産(てみやげ)にする」と。


「――!!」

「ノインっ」


「そんな……(わたくし)は、(わたくし)が……」


 行動を躊躇(ためら)ったから、迷いを(かか)えていたから。

 このままではノインが連れて行かれる。

 そう思った瞬間――チカッと、手元で何かが光った。


「……な」


 それは魔剣に装飾(そうしょく)された、【魔石(デビルズストーン)】だった。

 《石》は(かた)りかけるように明滅(めいめつ)し、エリウスはその深い奥底に吸い込まれそうになる。いや、吸い込まれたのだろう。





 エリウスが気が付くと、そこには何もなかった。

 虚無(きょむ)。そう言えれば簡単かもしれない。

 真っ暗な空間(くうかん)に、エリウスは一人立ち()くしていた。


「こ、ここは……な、何故(なぜ)……何処(どこ)なの?」


 突然の出来事に困惑(こんわく)するも、周りを見渡すと、自然に見えてくる。

 倒れ、騎士たちに(かこ)まれるノイン。友人を救おうと、傷つきながらも立ち上がろうとするスノードロップ、その両者を気にかけ、泣きそうになりながら必死に何かを模索(もさく)するリューネが目に入る。

 そして、それは自分の姿も(ふく)まれていたのだ。

 虚空(こくう)を見つめる自分の姿に、エリウスは更に戸惑(とまど)う。


「――何故(なぜ)(わたくし)が……?」


 自分は今、この訳も分からない場所にいる。

 それだけは認識(にんしき)できる。だが、目に(うつ)る者は、確かに自分だ。

 今さっきまでの、自責(じせき)に押しつぶされた自分だ。


『……――お前が自分で此処(ここ)に来たんだろう?』


「――だ、誰っ!?」


 突如(とつじょ)聞こえて来た声に()り向き、警戒(けいかい)する。

 しかし、この虚無(きょむ)空間(くうかん)には誰もいない。


「聞き間違い……?」


『――クヒヒ……んな訳ないだろう、俺は今までも、ずっとずっと前から、お前を見てたんだからな。幻聴(げんちょう)だと思われたら、(まい)っちまうよ。なぁ、そうだろぉ?』


「――!?」


 声が聞こえる。ゾッとするような、おどろおどろしい声が。

 それは確かにエリウスの耳に届き、男の声でエリウスに語りかけている。

 エリウスは警戒(けいかい)(おこた)らないまま、その声の(ぬし)を探る。


(わたくし)を、見ていたと言ったわね?……それはいつから?」


 確かに聞こえる声は、愉快(ゆかい)そうに笑う。


『クハハハハハ!いつ、か……そうだな、いつだろうな。少なくとも、お前が寝小便(ねしょうべん)()れてた時から見てんよ、クハハハハハ!!』


「――な、なっ!!」


 意外な回答に、エリウスはこんな状況(じょうきょう)にも関わらず赤面する。

 何故(なぜ)そんな事を言われねばならないのか。


「――くっ、こんなことをしている場合ではないのにっ……」


 頭を振って気を取り直そうとするが、声は続けて。


『兄にも妹にも、お前は嫉妬(しっと)をしていたなぁ……そこは好感(こうかん)が持てたよ……俺も、ある女(・・・)嫉妬(しっと)していたからな』


「……な、何を言って」


 突然何を言っているのかと、エリウスはノイン達の様子をもう一度(うかが)った。

 そこで気付く、この目に見える情景(じょうけい)の不自然さに。


「動いて、いない……?」


『ここに居る以上、時間には(しば)られない。さぁ、ゆっくり話そうぜ?エリウスよぉ』


「いったい……なんだと言うのよ、あなたも……(わたくし)も……――!?」


 エリウスは左手で顔を(おお)う。そして気付く、右手が(ふさ)がっている事に。

 その手には魔剣が(にぎ)られ、そして装飾(そうしょく)された【魔石(デビルズストーン)】が明滅(めいめつ)するたびに、この(なぞ)の声が聞こえているという事実に。


「――は、離れないっ!?」


 右手の魔剣は離れない。必死に引き()がそうと(こころ)みたが、手を開いても、(てのひら)から落ちる事は無かった。


『クヒヒ……おいおい、それを持ってねぇと俺と会話できねぇだろ?(だま)って持ってろって』


「……」


 右手の魔剣、正確には魔剣に装飾(そうしょく)された【魔石(デビルズストーン)】が、声を(はっ)しているのだ。

 エリウスは目を細めて《石》を見る。


『クヒヒ……照れんだろぉ?』


「あなたは一体何?誰?名前は?ここは何?」


 矢継(やつぎ)ぎ早に質問をするエリウス。


『うおおお、落ち着けよ。時間はあるって言ってんだろ!いいか?』


「……分かったわ」


 エリウスは仕方なく、虚無(きょむ)空間(くうかん)に座り込む。

 これは座っているのだろうかとも一瞬思ったが、口にはせず。


『クハハハ!地面がないから下着が見えているな!』


(……こいつ)


 どこから見ているんだと言いたくなったが、紫色の【魔石】が若干(じゃっかん)赤みがかったのをエリウスは見落とさなかった。


「いいから話して。(わたくし)には時間が無いの。恩人(おんじん)を救わなければ……」


恩人(おんじん)ねぇ……この短時間で恩人(おんじん)なんて言えんのか?』


「助けてもらったのは事実よ。ならば恩人(おんじん)でしょう」


『――人間ってのは、昔から律儀(りちぎ)だな……あの高飛車(たかびしゃ)にも見習(みなら)ってほしいもんだぜ』


「知らないわよ。いいから説明しなさい」


『……ちぇ……まぁいい、俺は“悪魔”だ』


「は?何ですって?もう一度言って、聞こえなかったわ」


 いじけた様にいう声に、エリウスは本気で聞き返す。


『――だぁぁ!お・れ・は!“悪魔”だっつったんだよ!《石》見て気付いてたろお前は!』


 本質を見抜いた“悪魔”は、エリウスが【魔石(デビルズストーン)】を見た時点で気付いていただろと追求(ついきゅう)する。

 事実、そうなのではないかとエリウスも思っていた。


「仮に“悪魔”だとして」


()ってなんだこら!俺はこれでも“大悪魔”だぞっ。力が()らねぇのかよ!』


「……力?」


 その一言に、エリウスの目の色が変わる。


『クヒヒ……やっとその気になったか。どうせ夢かなんかだと思ってやがったんだろうが、そうはなんちゃらが(おろ)さねぇぞ』


「で、“悪魔”という事は……私に要求(ようきゅう)したいことがあるのでしょう?もしかして、それが剣を抜けなかった理由?」


『……へぇ』


 ()ぐにそこまで結び付ける事が出来るのは、エリウスの才だ。

 “悪魔”は感心したように言う。


『――ま、そういうことだ……あの状況(じょうきょう)じゃ、あの“獣人(ビースト)”もガブリエル(・・・・・)も――救えねぇよ』


「ガブリエル?――いえ、どうすればいいの?」


 その名を聞き、一瞬(まゆ)を寄せるも()ぐに思考(しこう)を戻す。


『お、躊躇(ちゅうちょ)なしか……?』


 “悪魔”との契約は、死にも(ひと)しい。

 エリウスも、かつて【魔石(デビルズストーン)】に取り込まれた男を見ている。

 そもそもはエリウスがそう仕向けた事だが、今となってはその命令(・・)を実行したことを(あや)しむべきだった。


 数個の【魔石(デビルズストーン)】は、シュルツ・アトラクシアから(さず)かったものだった。

 一つは自警団(じけいだん)の男に()め込み、一つは貴族の男に売り(はら)った。

 その結末(けつまつ)はどちらも“悪魔”に取り込まれ、“悪魔”そのものとなった(エリウスが知っているのは前者だけ)。


『なんだよお前、“悪魔”化が怖くねぇのか?“魔人”化とは違うんだぜ?』


 “魔人”化は、魔力を内包(ないほう)し、その身体能力を最大限まで強化し人外となるものであり、“悪魔”化は、“悪魔”そのものに身を()とす事だと言う。

 しかも“悪魔”になれば、本人の意識は(ほとん)どと言って良いほど残らない。

 精々(せいぜい)残留思念(ざんりゅうしねん)程度だろう。


「怖い訳ないわ……力をくれるのなら、私はこの身を(ささ)げてもいい」


『……お前、馬鹿(ばか)だな』


「そうかもしれないわね」


 エリウスは、誰もいない虚空(こくう)を見つめている。

 だが、確かに目が合った気がした。交わった気がしたのだ、この変な“悪魔”と。


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