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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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57話【黒銀の翼4】



黒銀(こくぎん)(つばさ)4◇


 スノードロップが、せめてノインだけには(つた)えなければいけないと思っていた情報、しかしどうやらそれは遅くなってしまったようだ。

 スノードロップとエリウスはリューネの声に反応して、その隣に並び、騎士たちと戦っているノインに注視(ちゅうし)する。


「――あれは……?」


「あれが、わたくしを落とした――()です……!」


 その“天使”の動揺(どうよう)は、エリウスとリューネにも(つた)わった。

 騎士たちが(かま)えているそれが、スノードロップを空から()ち落とした武器だと。


「……槍?」


「です……ね」


 エリウスのポツリと(はっ)した言葉に、リューネも(うなず)きながら返事をする。

 今、騎士たちがノインに向けているのは、一見(いっけん)ただの槍だ。

 しかしスノードロップがそれを見る目は、(にく)いような、(くや)しいような感情が、充分に込められている事だけは分かった。


「あれがわたくしを撃ち落とした兵器です……見えない攻撃で、魔力すらも感じませんでした」


 魔力を感じる事が出来れば()けることも出来たはずだと、そう言いたそうな視線(しせん)だった。

 スノードロップは、相棒を援護に行こうと足を()み出すが。


「ノイン……!――ぅくっ……」


「スノーさん!?無茶しないでください!」


 せめてもの援護をと思ったが、全身の傷がそれをさせてはくれない。

 (きし)むような痛みに、スノードロップは(うずくま)る。

 リューネがそれを支え、エリウスも少し遅れてそれを支えるが。


「……」


「エリウス様……?」


 どこか怖さすら感じるエリウスの表情(ひょうじょう)を、リューネは感じ取る。

 エリウスは、右手をそっと腰の【魔剣(・・)】に伸ばす。

 グッと(つか)み込み、怒りなのか困惑(こんわく)なのか分からないまま、その時は近づいていた。

 エリウスの持つ【魔剣ベリアル】に装飾(そうしょく)された【魔石(デビルズストーン)】が、(あや)しく(かがや)いたことを、誰も気付くことがないまま。





「――どけぇぇぇ!」


 ノインが振り回す戦斧(せんぷ)は、騎士たちを何度も()き飛ばす。

 あれからまた何度か、騎士を数人気絶(きぜつ)させたが、それだけに(とど)まっていた。


「……クソっ!」

(力が入らないっ……月がまた隠れて、恩恵(おんけい)が受けられないんだ……)


 ノインは異世界の“獣人”だ。

 【月猫(げつびょう)】と呼ばれる種族で、その加護(かご)は大いに月に依存(いぞん)している 。それが受けられないと、最大限の力で戦う事が出来なかった。

 ましてや、《石》の能力を知られている可能性があり、全力を出すには危険な状況(じょうきょう)だからだ。


(【天珠の薔薇石(ヘヴン・インカローズ)】の弱点は……長時間戦闘に(てき)していない事、騎士たち(コイツら)がそれを知っててこの戦法を立てていたとしたら、あの隊長っぽいやつ……中々出来る)


 騎士の隊長格の男が支持(しじ)する作戦は、なんだか足先が(つまず)くようなものばかりだった。

 攻めさせたり引いたりを何度も()り返し、大きな声で作戦を筒抜(つつぬ)けにするような事ばかりをして、正直言って上に立つものではないと思っていた。

 だが、ここに来て思う。もしかしたら、コイツは食わせ者なのではないかと。


「なんなんだよ、もう!」


 ノインは苛立(いらだ)()戦斧(せんぷ)を地面に叩きつけた。

 ドゴォォォン!と地面は割れ、飛び()砂岩(さがん)は騎士たちを(おそ)う。

 地震(じしん)のような(ひび)きと揺れに、足元が覚束(おぼつか)ない騎士たち。


「おわっ!」

「な、んだぁ!」


 ノインは瞬時にその騎士の目の前に(せま)り、現状(げんじょう)唯一(ゆいいつ)の弱点である、頭部を鷲掴(わしづか)みにする。


「――空でも見てろ!」


 指に思い切り力を()め。


「ぐあぁぁっ!」


 アイアンクローをされて藻掻(もが)く騎士の後頭部を、ノインはそのまま。


「ふっ!!」


 ドゴス――!!と地面に叩きつけた。

 ピタリ動きを止める騎士。完全に昏倒(こんとう)していた。


「これで……何人だっけ?」


「「「……」」」


 青ざめる騎士数人の下がった士気(しき)に、隊長格の男は。


「――ええい!下がれお前達!下がって態勢(たいせい)を立て直せぇ!」


「「りょ、了解(りょうかい)」」


「簡単にさせる訳ないだろぉ!」


「――だわっっ!?んがふっ……」


 戦斧(せんぷ)横薙(よこな)ぎし、一人の騎士を転倒させる。

 そのまま斧の腹を顔面に叩きつけてやった。


(大丈夫、まだやれる……まだ一枚岩じゃない。これなら、シャル達に追いつけるはず。スノーが居なくたって、アタシはやれるんだ!!)


 一縷(いちる)(のぞ)みが見えてきて、ノインは笑みを浮かべそうになる。

 しかしそんなノインに、まだまだ余裕(よゆう)を見せる隊長格の男は、笑いながら。


「はっはっはっ!流石(さすが)は異世界の化け物(・・・)だ……!だが、(われ)らもこれで終わると思うなよ!!」


「はぁ?」


 本気で、ノインから変な声が出た。

 何故(なぜ)そんなにも余裕(よゆう)を見せられるのかを、当然知らないからだ。

 そんなノインを尻目に、隊長格の男は(さけ)ぶ。


「――【電磁衝撃機槍(スタンショックスピア)】隊!構えっ!!」


「!?」


 聞きなれない言葉に、ノインは(いぶか)しむ。

 そして、隊長格の男の後方から数人の騎士が現れた。その騎士たちは、全員が黒い槍(・・・)を持っていた。


黒銀(こくぎん)(つばさ)の名に()けて!()が帝国の敵を排除(はいじょ)するっ!!」


 ジャキジャキッ――と、槍を構える三人の騎士。

 しかし隊長格の男は。


「ん?なぜ三人なのだ?残りはどうした!?」


 騎士の一人が答える。


「はっ!先程、“天使”を撃ち落とした(・・・・・・)(さい)の分が回復していません!」


「――!」


 隊長格の男が「なんだとぉ!」と怒鳴(どな)っていたが、ノインはそれどころではなかった。

 “天使”を()ち落とした、騎士は確かにそう言った。

 その時点で、ノインは冷静(れいせい)ではいられなくなった。


「――お前らぁぁっ!!」


 頭を(つか)んで地面に叩きつけた騎士を、そのまま怒りにかまけて投げ飛ばす。


「ひぃぃやぁぁ!!」


 バウンドして隊長格の男の眼前(がんぜん)に投げ飛ばされた騎士は、完全に命を()たれていた。

 首がありえない方向に曲がり、眼球(がんきゅう)が飛び出ていた。


「――な、なんでもいいから()てぇぇ!三発あれば十分だろっ!!」


「「「はっ」」」


「それがなんだって言うのよ!アタシの仲間を……相棒をぉぉ!」


 (いか)りに(われ)を見失い、ノインは戦斧(せんぷ)を振りかざす。

 もう、手加減(てかげん)なんてしていられない。魔力の節約なんて知った事か。

 そう振り切れてしまい、ノインは。


「……はぁぁぁぁぁぁっ!!【岩斬討滅閃(がんざんとうめつせん)】!!」


 魔力を()びた戦斧(せんぷ)【ラブリュス】は、(かがや)きを放って地面に叩きつけられる。

 ()ぜるように魔力が(あふ)れ出し、地面を割る。

 先程の地面を割った攻撃とは()ではない程の威力で地面は隆起(りゅうき)し、騎士たちに突撃していく。

 地面から生え出た岩石(がんせき)の槍は、津波(つなみ)のように騎士たちに向かっていった。

 もの凄い轟音(ごうおん)と大地の質量(しつりょう)で、地形そのものまでを変化させたノインの技は、騎士たちを飲み込んだ。

 ――しかし。


「……ぅてぇ!!」


 隆起(りゅうき)()り返る地面の隙間(すきま)から、男の声が聞こえた。

 隊長格の男ではない、槍を(かま)えていた誰かだ。


「――!!」


 その瞬間、キュイン――と言う音がし、ノインは目を(つむ)るまでもなく。

 チクリ――と、肌が何かを感知したと思った時には、全身に激痛が走っていた。


「――ぅあああああああああっっっ!!」


 バリバリバリ!!全身の筋肉を引き裂くような電撃が、全身を(つらぬ)く。

 尻尾や耳の毛を逆立(さかだ)てて、ノインは(ひざ)から(くず)れ落ちる。


「あ、ああ……」


 どさりと倒れ、戦斧(せんぷ)だった《石》は元に戻ってノインの身体に戻った。


「は、はは……流石(さすが)は天才技師(ぎし)マルディーネが作りし武器だ!異世界人だろうがなんだろうが、これで怖いものはない!!」


「……」


 意識を手放して、ノインは訳も分からずに地に()した。

 全身からは(けむり)のようなものがあがり、雨が無残(むざん)にも身体を打っていた。


「――う……ぐっ……」


 ビクンと身体を動かして、ノインは一瞬で目を覚ます。

 グググっと立ち上がろうとするが、身体が(しび)れ、感覚が完全に(くる)っていた。

 ドシャリと()れた地面に顔を打つが、その痛みすら感じない程だった。


(何が、起きた?……この痛み、尋常(じんじょう)じゃない。全身を(つらぬ)かれたようだった。筋肉が悲鳴を上げて、痛いっ……しかも、魔力の反応も、実態すらも感じなかった)


 (しび)れる身体に雨が当たる。それだけで、痛みが異常に(ひび)く。

 本来、丈夫(じょうぶ)なノインがこれだけの痛みを(ともな)っているのだ、話の流れで、これをスノードロップが受けた事も分かる。

 スノードロップは《魔法》に特化(とっか)している。痛みはノイン以上かもしれない。


 そして倒れるノインは、起き上がることも出来ずに目だけを見開(みひら)く。

 そして視界(しかい)に、誰かの(くつ)が見えた。


「――手こずらせてくれたな異世界人。お陰で貴重な槍を六本も使ってしまったぞ」


「……この」


 それはアタシのせいじゃないだろと言いたそうに、ノインはギロリと声を掛けて来た隊長格の男を(にら)むが。


「はんっ!何とでも言え!お前は【魔導皇帝(まどうこうてい)】たるラインハルト様への手土産(てみやげ)にしてやる。エリウス殿下(でんか)を連れ去った(つみ)極刑(きょっけい)だろうがなぁ!」


 男はノインの獣耳を乱暴に(つか)み、ググっと引っ張る。

 ()られただけで、痛みが全身に広がる。


「――うぐ……ぅぅ」


「おい!こいつを【魔導車(まどうしゃ)】に(はこ)べ、皇帝陛下(こうていへいか)への手土産(てみやげ)だ!」


 (つか)んでいたノインの耳を離し、(いきお)い良く地面に叩きつけた。


「――がっ!」


 男の命令に(したが)い、数人の騎士がノインを(しば)ろうと手を伸ばした。

 その時だった。


「――待ちなさいっ!!」


 その(りん)とした声に、騎士たちは振り向く。

 ノインもまた、視線(しせん)だけを何とか向けた。

 そこには、森の入り口付近から歩く、青い髪を風に(なび)かせる少女がいた。


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