表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
283/383

52話【逃亡者「その2」】



◇逃亡者「その2」◇


 静かに降り続けていた雨は、徐々(じょじょ)に雨足を強くしていく。

 ガタゴトと走る馬車の中で、帝国皇女(こうじょ)エリウスも、耳に集中して【魔導車(まどうしゃ)】の気配に注意をしていた。

 そんな中。


「お姫様、そろそろ【コルドー村】付近ですけど。ヘルゲンがこの近くでレイスが倒れたと言っていますが」


「――!」


 白馬ヘルゲンは、ここが黒馬レイスと別れた場所だと覚えていたらしい。

 それを、御車(ぎょしゃ)をしている異世界の“獣人”、ノインに(つた)えたのだ。

 ノインは動物と会話が出来るらしく、ヘルゲンの言葉を代弁(だいべん)してくれた。


(にお)いは雨のせいでしないらしいよ。アタシも、感じないね」


 「ごめん」とノインは(あやま)るが、エリウスは御車席(ぎょしゃせき)まで顔を出して言う。

 雨のせいで泥の偽装(ぎそう)も落ちて、白馬に戻ったヘルゲンも、申し訳なさそうにブルルゥと鳴く。


「そんなことは無いわ……ここまでこられたのも、あなたとヘルゲンのお陰。本当にありがたい事よ、でももう少し……もう少しだけ、頑張ってくれる?」


 リューネだったらどうするか、それは予測(よそく)できる。

 付き合いはまだ浅いが、真面目(まじめ)で思いやりのある子だ。

 もしかしなくても、黒馬レイスは()くなっているだろう。

 それは、悲しいかな理解出来てしまう。

 それならば、その後のリューネがどう行動するか。


「ノイン。【コルドー村】へ向かってくれるかしら」


了解(りょうかい)スノーは(・・・・)?」


「……まだ、戻らないわ」


 “天使”スノードロップは、後ろの荷降(にお)ろし口から外へ出て行っていた。

 「様子を見てきます~」と飛んでいったのだが、もう結構(けっこう)な時間が()っている。


「そっかぁ……追手に見つかってなきゃいいけど」


「……そうね」


 心配そうに、外を見る。

 雨はますます(いきお)いを増して、エリウスの顔をポツポツと打つ。


(嫌な予感(よかん)がする……杞憂(きゆう)なら良いのだけれど……)


 音を()き消すようなこの雨は、数日にわたって降り続くことになる。

 まるで、逃亡するエリウスの邪魔(じゃま)をするかのように。





 馬車がゆっくりと停車(ていしゃ)して、ノインとエリウスは警戒(けいかい)しながらも降りる。

 もう()ぐ【コルドー村】だ。

 しかし追手が先回りしている可能性も考え、少し遠めに馬車を()めた。

 ヘルゲンを雨に当たらない様に木陰(こかげ)に移し、二人で村へ向かう。


「リューネ……」


 予想が正しければ、リューネは村に居るはずだ。

 流石(さすが)に、少女一人の手で馬一頭を手厚く(ほうむ)るには難儀(なんぎ)だろう。

 (かしこ)いリューネなら、レイスを(とむら)う為に村人に助力を求めるはず。


「大丈夫だよお姫様、ヘルゲンも言ってるから」


 レイスについてもリューネについても、心配はいらないと言うノインはフードを被る。

 獣耳を隠す為だ。

 エリウスも、その青い髪を隠す為にフードを被った。


「じゃあ行きましょうか……それとノイン、お姫様は()めてね?」


「うん、お姫様」


「いや……だから」


 言った(そば)から、ノインはお姫様と呼ぶ。

 帝国の皇女(こうじょ)であるエリウスは、顔も名前も知れている。

 この村には公務(こうむ)(おとず)れた事もある。

 それだけに、簡単に知られるわけにはいかない。


「いっくぞ~、おお~!」


「あの……話……」

(大人の姿の時と、本当に別人のようね……子供の姿(こっち)(つか)みどころがない。やりにくいわ……)


 ノインは吞気(のんき)にズンズンと進んでしまう。

 (むな)しく伸ばした手は、文字通り何を(つか)むことなく、にぎにぎされていた。

 エリウスはため息を()きながらも、ノインを追う。

 ノインのような明るい性格の人が苦手なタイプなのだと、この時初めて思ったエリウスだった。





 草を()き分けて、エリウスとノインは顔を出して周りを警戒(けいかい)する。

 目に見えるのは数件の家と小屋、それに厩舎(きゅうしゃ)だ。


(にお)いはどう?」


「……ダメだね。雨で完全に流されてる……」


 ノインは、エリウスの匂い(・・・・・・・)を頼りにしていた。

 リューネがエリウスと一緒にいる事が多いからだ。

 それにレイスが生きているとすれば、ヘルゲンの(にお)いもするはずだったからなのだが。

 しかし、降り続ける雨はその(にお)いを完全に消していた。


「まぁいいわ……それに兵もいないようだし……ね」


「そーだね」


 草むらから顔だけ出すマヌケな格好だが、帝都(ていと)からの追手がいない事を確認して、ようやく草むらから全身を出す。

 ポンポンと草を(はら)い、エリウスはフードを深めに被り直して言う。


「村長の所に行きましょう。彼なら何か知っているかもしれないわ」


「うん、分かった」


 村長とは、公務(こうむ)(おとず)れた時に会話をした事がある。

 気さくで優しい普通の老人だったが、もしラインハルトの追手に先手を打たれていれば、それもどうか。

 エリウスは緊張しながらも、ゆっくりと歩き出した。





 雨のお陰か、外に出ている村人はほぼいなかった。

 ノインは物珍(ものめずら)しそうに(あた)りを見渡していたが、エリウスは気が気ではなかった。

 もしこの村にリューネが滞在(たいざい)していなかければ、きっとすれ違いだ。

 それだけは()けたかったが、この村には宿はあるのだろうか。

 エリウスは看板(かんばん)を探している。

 果物屋(くだものや)仕立屋(したてや)看板(かんばん)はある。しかしそれは、この村人が利用する為の物に見える。

 旅人(たびびと)など、ほとんどいないに決まっているのだ。

 ましてや他国(たこく)からの旅人(たびびと)など、来るわけないのだから。


「宿屋ないね、おひ……エリウ……え、えっと……」


 この子は本当にあの時のお姉さんと同一人物(どういつじんぶつ)なのだろうか。

 エリウスは本気でそう思った。


「シャルでいいわ」


「シャル?」


「ええ。シャルミリアだから」


 エリウス・シャルミリア・レダニエス、それが本名だ。

 シャルでもミリアでも、呼びやすければ何でもいい。

 この村の人が分からなければいいのだ。


「――分かった、シャル!次はどうする?」


「しっ、声が大きいわ……(ひか)えめになさいっ」


「ぅ……ごめん」


 ノインはフードの中の獣耳をシュンとさせて、とぼとぼとエリウスに付いて行く。

 エリウスはゆっくりだが、(まわ)りを確かめながら歩いた。

 一軒一軒の窓、入り口、小屋、しっかりと確かめながらリューネを探す。


「あそこが一番大きいね」


 この村で一番大きく、屋根が一軒だけ青い。

 他の家は全て統一されて屋根の色は茶色だった。

 それはつまり、特別だという事だろう。


「ええ、あれが村長宅よ……居てくれるといいけれど」


 確認すると。雨とは言え、昼間なのにカーテンは閉め切られていた。

 村長宅は来客者(らいきゃくしゃ)も多いだろう、これは不自然だ。


「……」


「二階に気配(けはい)が一つあるよ……じっとしてるけど。後は一階に二つだね……」


 リューネがいるのだろうか。

 村長の家族は、夫人、娘夫婦がいたと記憶している。

 三人では一人足りないが。


「行ってみましょう……ノイン、悪いけれど……警戒(けいかい)お願いできる?」


「うん。任せて、シャル」





 コンコン。と、エリウスはフードが(めく)れない様に深く被り、髪も奥にしまう。

 これで、(のぞ)き込まなければそうそう見えない筈だ。

 見えるのは顎先(あごさき)だけ、少し(あや)しいが、(いた)し方無い。


「……は、はい……」


 ノックに対応したのは、一人の女性だった。

 ガチャリと、(ひか)えめにドアが開かれる。

 エリウスも緊張気味に。


「――申し訳ない……ここに人が来ていないかしら。わたく……私と同じ年頃の、緑っぽい金髪の女の子なんだけど……」


 同じ年頃というのは少し間違えたかもしれない。

 エリウスは15歳だ。リューネは17歳。

 もし、見た目で看破(かんぱ)されていたら、同じ年頃と言ったのは失敗だ。


「……えっと……もしかして……帝都(ていと)の方でしょうか……?」


「!――……い、いえ……違う、違います……」


 女性は明らかに(あや)しんでいる。

 そりゃあ顔も見せない、言葉もたどたどしい者など、(あや)しさ満点だ。

 エリウスは初動のミスをカバーするため、リューネの名を出す。


「さ、探しているのは、リューネと言う少女なのだけれど……いないかしら。その……本当に探していて」


「……あなた、その子とは?」


 関係性だろうか。しかしそれを聞くという事は。


「……」


 関係性を正直に言うべきか。従者(じゅうしゃ)主人(しゅじん)だと。

 リューネが居なかったとして、もし罠だったら完全なる失敗だ。

 しかしエリウスは、意を決する。


「と……友達、です」


 それは願望(がんぼう)だったのかもしれない。

 リューネなら、もしかしたらと。

 女性は――フッと優しく笑うと。

 手を差し出して。


「――どうぞ。そちらの方も」


 ノインにも声をかけて、ドアを大きく開けてくれた。


「し、失礼します」


「おじゃましまーす!」


 内心「コラぁっ!」と思ったが。

 エリウスは()えてそのまま家に上がらせてもらう。

 ドアの先にはテーブルがあり、一人の男性が座っていた。


「ようこそ。【コルドー村】へ……エリウス殿下(・・・・・・)……ようこそご無事でお越しくださいました……」


「……(わたくし)と、分かって――」


「――エリウス様っっ!!」


 その声に、エリウスは振り返った。

 二階の階段から顔を出して、今にも泣き出しそうな少女が、そこにいた。


「リューネっ!?」


 階段を駆け下り、リューネは真っ先にエリウスに()きついた。


「エリウス様!よくぞご無事で……本当に、本当に良かった……!」


 ファサっとフードが(めく)れ、エリウスの青い髪が露出(ろしゅつ)する。

 エリウスもまた、泣きそうな顔をしていた。

 ()れる事を考えもせず、リューネはエリウスに()きついてきた。

 相当心配してくれていたのだろう。目の下にはクマがあり、眠れてもいなかったのだと分かった。


「心配、かけたわね……」


 自分よりも背の高い年上の少女の頭を()でながら、エリウスもようやく安堵(あんど)する。


「いえ……いえっ……!エリウス様、レイスは……最後まで頑張りました、何度も、何度も立ち上がろうと懸命(けんめい)に……でも、最後は……」


「ええ、ええ。分かっているわ……本当にありがとう。レイスは幸せ者だわ……」


 別れた後の事を話し始めるリューネだが、村長が。


「エリウス殿下(でんか)……再会は一旦(いったん)お預けいたしまして、身体をお拭きください……風邪(かぜ)をお引かれになってしまいます」


「あ……ごめんなさい、ありがとう」


 エリウスは泣くリューネをいったん()がし。

 村長からタオルを受け取った。ふと見れば、先程の女性が二階から下りてきた。

 リューネに知らせに行ってくれていたのだろう。

 ありがたい言葉と、(あたた)かい部屋のお陰で、エリウスの心はドンドン落ち着いていく。

 まるで、何年もかかっていた(もや)が晴れていくように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ