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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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49話【軍事顧問】



軍事顧問(ぐんじこもん)


 自室にて、シュルツ・アトラクシアは腹を(かか)えて笑う。

 床をバシバシ叩き、転げまわる(いきお)いで涙を流してだ。

 なにも、頭がおかしくなった訳ではない。本当に腹を(かか)えて笑えるほどに、この帝国の(もろ)さ、そして自分のやってきたことが可笑(おか)しくなったのだ。


「……はぁー、はぁー、はぁー……」


 一頻(ひとしき)り笑った後、シュルツは申し訳程度に入れられていたグラスの【葡萄酒(ワース)】を飲む。

 騒動(そうどう)の前に部下と飲んだ、酒の残りだった。

 しかしその部下は、今はいない。

 いや、今はと言うより、もう、と言った方が正しいだろう。


 初めから、スノードロップとノイン、それにポラリスは自分の部下と言う訳ではない。

 それぞれが同じ最終地点を目指している事を把握(はあく)して、共にいただけだ。

 形式的(けいしきてき)にはシュルツの部下としておいた方が都合(つごう)がいいためそうしていただけで、スノードロップもノインも、本気で(したが)った事はないだろう。

 仲間ではあったとしても、真に信頼を持っていたのは、シュルツに対してではなかったのだから。


 しかしそれは相互理解(そうごりかい)であり、お(たが)いの道が分かたれた時には、行動しないと言うものでもあった。

 シュルツの最大の目的は、ある人物を探すことだ。

 この世界にはいない、最愛の人(・・・・)


 その為には、この世界の外からの“召喚”が必要とされる。

 それが出来る人物は世界にただ一人、【召喚師】エドガー・レオマリスだけだ。

 シュルツは一人、本棚(ほんだな)に入っている一冊の本を手に取る。

 そのタイトルは【愛のために】。

 異世界【地球】の文字で書かれた、愛する人を探し求める男の物語。自分にピッタリの本だ。


「もうすぐだ……もうすぐ、俺は……」


 協力者が居ずとも、成し()げなければならない。

 (たと)えどれほどの被害を出しても、それがシュルツ・アトラクシアの悲願(ひがん)

 その為に全てを利用する。帝国であろうが、聖王国であろうが、【召喚師】であろうが、だ。


 本を開かず、強く(にぎ)りしめる。

 力はひどく弱々しいもので、込めた力で(ふる)えているのか、それともただ、(おび)えているのか。それは、シュルツにしか分からない感情だった。





 それから数日後、シュルツは新皇帝(しんこうてい)ラインハルトに呼ばれた。

 ラインハルトに会いに行く道すがら、あの日の事を思い出す。


 シュルツは燃える城下町を後にし、城へ入った。

 前皇帝(ぜんこうてい)ヴォルスの側近(そっきん)であった自分が(がい)される可能性も考えたが、ラインハルトの考えを見据(みす)えて、城へ入ったのだ。

 ヴォルス皇帝(こうてい)を死に追いやり、目の前に現れたラインハルトには、(すで)に王たる威厳(いげん)(まと)っていた。

 まるで今まで皇太子(こうたいし)として過ごしていた姿が、全て(いつわ)りであったのではないかと、思わせるほどに。


「……さてと、新皇帝(しんこうてい)は……どうするおつもりかな?」


 開かれた扉の向こうへ、シュルツは歩き出した。





 今この場にいるのは、新皇帝(しんこうてい)ラインハルト、ボーツ・オル・マドロー大臣。そしてシュルツ・アトラクシアと、たった数人の騎士だけだった。


「それで、俺を呼んだのはどういう要件(ようけん)ですか……?ラインハルト陛下(へいか)


 ガラガラの円卓(えんたく)に座し、ラインハルトは腕を組んで書類を見つめていた。

 シュルツを一瞥(いちべつ)するも、黙っていろと視線(しせん)を送り、シュルツはやれやれと両手を上げて黙った。


(何故(なぜ)だろうな……この雰囲気(ふんいき)、本当に17の子供か?まるでもう何十年も経験を()んだ、老兵のような空気じゃないか……しかもなんだ?それを俺は、どこかで味わったことがあるような……そんな感じだ)


 ラインハルトの(かも)し出す空気に押されてしまったシュルツは、少し小声になりながらも。


「――それにしても、随分と少ないんだな……」


 虫食い状態の円卓(えんたく)は、まだ何人も座る事が出来る。

 しかし、ラインハルトが呼んだ人物はこの面子(めんつ)だけ。

 それだけ、今は信頼に足る人物がいないのだろう。

 そしてシュルツの言葉に返答したのは、ボーツ大臣だ。


「――前陛下(ぜんへいか)や前騎士団長……それに、亡くなったノラソン大臣の派閥(はばつ)は、基本的に新皇帝(しんこうてい)(したが)いませんでしたからな。ですが、それでも帝国戦力の二割です……しかし、その二割の戦力は」


「なるほど。その方々等(かたがたら)が、本来ここに居られるような方ばかり、だという事ですか」


「……はぁ。そういうことです」


 戦力は申し分ない。しかし、若返った総戦力の中に、熟年(じゅくれん)の騎士や“魔道具”使いはいない。

 参謀(さんぼう)軍師(ぐんし)を任せられる者もだ。

 今の帝国戦力は、かなりパワフルになりつつあった。物理的な意味で。


「――ふん。下らない思想(しそう)の老人方にはご退場(たいじょう)頂いたまでだ。しかし、その老人どもに(したが)う奴らがそこそこいたのは、確かに失態(しったい)だったな。それにまだ、国内の制圧(せいあつ)も出来ていない……」


 書類を読み終えたラインハルトが、うんざりしながら言う。

 ボーツ大臣は(いさ)めるように。


陛下(へいか)、そのような弱気に取られる発言は、お(ひか)えください」


「ふっ……(かま)わないさ。怖い発言をするばかりで、周りを(おび)えさせる害悪(がいあく)よりは、(はる)かにマシだろう?」


 優しさの中に狂気(きょうき)を感じるラインハルトの笑みは、仕方なく弱みを作るという演技をしているのだと(つた)わる。

 民衆(みんしゅう)を味方にするには、強さだけでは駄目(だめ)だと分かっているのだ。


「ははは、それはいい。殿下(でんか)……いや失礼、陛下(へいか)は民に好かれる所から始める気でおられるのですね」


 まだ慣れず、殿下(でんか)と呼んでしまうシュルツは、座っていた背を正して陛下(へいか)謝辞(しゃじ)を向ける。


「……フッ。これも勉強という事だ……貴君(きくん)にも手伝っていただくよ。アトラクシア軍事顧問(ぐんじこもん)……それとも、もう一つの名(・・・・・・)で呼んだ方がいいかな?」


 ラインハルトの最初の勉強を笑うシュルツを、ラインハルトは怒ることなく続ける。

 しかし、その言葉は、シュルツの心臓を(つか)むには充分だった。


「――!!……いえ、アトラクシアで構いませんよ」

(そうか……ポラリスから聞いたんだな……あの【魔女】、どこまでも仲間を売っていくつもりか……)


 内心の(あせ)りをひた隠し、シュルツは笑う。

 ラインハルトはシュルツに、引き続き軍事顧問(ぐんじこもん)を願いたいと、そう言った。


「しかしいいんですか?俺で……俺はこの国の人間ではない事……陛下(へいか)はご存知でしょうに?……それに、【魔女】は俺の仲間でもありますが……もう関係性は無いともいえる……俺を(そば)に置く意味、その利点は無いのでは?」


 シュルツのその言葉は、ラインハルトだけではなく、ボーツ大臣や複数の騎士にも言われた気がした。

 言葉を向けられた騎士は無言を通したが、大臣だけは一瞬だけ(しぶ)い顔をした。

 そしてラインハルトは。


「ああ。当然だ。貴君(きくん)は聖王国出身だと把握(はあく)している。それに素性も、ある程度は耳に入れているよ。」


「なるほど……それでも構わないと?」

(……ポラリスはどこまで話した?……まさか、あいつの事まで話していないだろうなっ)


「そうだ。貴君(きくん)の知識は役に立つ……出身に(こだわ)間抜(まぬ)けではないよ、俺は(・・)、な」


「「……」」


 ラインハルトの視線(しせん)は、大臣と騎士達へ。

 口出しするなと言いたいのだろう。


「……」


 ラインハルトは聖王国に攻め入ろうとしている。

 その敵国出身者を、組織(そしき)幹部(かんぶ)にする采配(さいはい)

 前皇帝(ぜんこうてい)ヴォルスは、シュルツが聖王国出身だとは知らない筈だ。

 その出自不明(しゅつじふめい)の男を軍事顧問(ぐんじこもん)に起用した前皇帝(ぜんこうてい)は、ある意味大物だったのだ。

 しかしラインハルトは、全てを調べ上げ、全てを知ったうえでシュルツを部下にしようとしている。


貴君(きくん)が聖王国出身であろうとも、この俺を利用しようとしていたとしてもだ……その“魔道具”開発の実力は誰もが認めるだろう。これからも、()が帝国に力を貸していただきたい……この通りだ」


 ラインハルトは立ち上がり、綺麗(きれい)に頭を下げた。


「「「――!!」」」


「……」

(ほう……俺の素性(すじょう)を知ったうえで、それでも幹部(かんぶ)に起用しようと言うか……本当に底が知れないな、この男は)


 大臣や騎士達は、ラインハルトの行動に動揺(どうよう)するくらいに(おどろ)く。

 一方でシュルツだけは、目を細めて新しい皇帝(こうてい)見定(みさだ)めようとする。

 ラインハルトは頭を下げたまま続ける。


「俺の行く道は、覇の道だ……その道中、失うものもあるだろう。だが、ただで失うつもりはない。失った分、いやそれ以上に、帝国の(いしづえ)(きず)こう。そして、(こころざし)を共にする者には、最大限の感謝と……夢を約束しよう(・・・・・・・)


「……夢……か」


 その言葉は甘美(かんび)で、心踊(こころおど)るものだ。

 だが、目の前の少年の言葉は、決意と情熱(じょうねつ)(あふ)れているものだった。

 現帝国の魔導技術(まどうぎじゅつ)導入(どうにゅう)のきっかけは、確かにシュルツが(もたら)した異世界(・・・)の情報だ。

 たった一年(あま)りで、技術は大幅(おおはば)に進化した。

 軍の設備(せつび)勿論(もちろん)、一般家庭に使われる必需品(ひつじゅひん)も、シュルツの提供(ていきょう)した技術が発端(ほったん)となっている。


「――シュルツ・アトラクシア殿……貴君(きくん)のお力、どうか俺――」


 再び頭を下げようとしたラインハルトに、シュルツは。


「――待った!もういいですよ。ラインハルト陛下(へいか)……」


 ラインハルトを制し、シュルツは立ち上がって、逆に(こうべ)()れる。

 (ひざ)を着き、一瞬だが垣間見た、未来の覇王の姿。


(なるほど……以外と面白いかもしれないな……こういう少年の下について、計画を進めるのも)


 あくまでも自分の為、そう言い聞かせて。

 (みずか)らの君主(くんしゅ)となるべく少年に、言葉を(はっ)するのだった。


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