プロローグ【咲乱れる黒と白】
◇咲乱れる黒と白◇
ここは、【召喚の間】
【召喚師】エドガー・レオマリスの経営する宿屋【福音のマリス】。
その地下にある“召喚”を行うための部屋だ。
十日程前、この広い地下室で、エドガーはローザと運命とも言える出逢いを果たした。
親友であり、幼馴染のアルベール・ロヴァルトが、彼に恨みを持つ男達に拉致された。
それを助けるために、アルベールの妹エミリアの協力のもと、エドガーは“精霊”を“召喚”しようとした。
しかし、“精霊”イフリートを“召喚”しようと用意した触媒、【消えない種火】に封印されていた“悪魔”が、“召喚”用の魔法陣と供物の《魔道具》に反応して復活してしまう。
復活した“悪魔”は、自らを“魔人”と称し、エドガーに牙をむく。
そんなピンチなエドガーを助けたのが、ロザリーム・シャル・ブラストリア。ローザだ。
エドガーは、“精霊”を“召喚”しようとしていたが、実際に“召喚”されたのは、このローザだったのだ。
《石》から目覚めた“悪魔”に襲われたエドガーは、彼女に助けられる。
ローザはどうやら異世界、別の世界からこの世界にやってきたらしい。
エドガーは、異世界から彼女を“召喚”したのだった。
そんな大切な、思い出の場所になりそうなこの場所で。
現在エドガーは、かなり戸惑っている。
――何故ならば。
『新たに異世界人を“召喚”しなさい』
そんなローザの一言がきっかけで、エドガーはまた、この場で“召喚”を行ったのだ。
エドガーを戸惑わせているのは、“召喚”したと思われる人物。
黒い髪を馬の尾のように靡かせ、素早く移動する少女。
そう、少女だ。
エドガーが新たに異世界から“召喚”したのは、異国の装いをした可憐な少女だった。
「おのれこの偽物めっ!!そこに直れ!」
「ちょ、ちょっと待って!落ち着こう!?」
「主殿は黙っていてくれっ!!」
少女はエドガーの事を主と呼ぶも、袖口から刃物を取り出し、エドガーに向かって投擲した。
正しくは、エドガーの後ろに隠れるもう一人の人物に。
「――きゃああっ!」
可愛らしく悲鳴をあげたのは、勿論エドガーではなく。
もう一人の、少女。
「な、なんなのよっ!いきなり!」
もう一人の少女は、黒い髪を頭の上で二本結びにし、見慣れない服とスカートを履いている。
影の少女の眼光に「ひっ!」怯えて、エドガーの後ろに隠れる。
「マジなんなのよっ!有り得ないでしょ!こんなの映画じゃんっ!!」
聞きなれない言葉と、見慣れない恰好。
二人の少女は、どうやらお互いを敵とみているようで。
「主殿……その女を差し出すのだ!その偽物には聞きたいことがあるのでな……」
影の少女は、エドガーの後ろに隠れる少女を偽物と呼ぶ。
「は、はぁ!!偽物はあんたでしょ!?変な恰好して……コスプレかっての……」
「な、なんだとっ!こすぷれが何だか知らぬが!馬鹿にしたな!?」
ポニーテールの少女とツインテールの少女は、お互いにいがみ合い、ポニテの子はツインテの子を攻撃するのを忘れている。
「大体さぁ、何それ!今時【忍者】?古臭すぎなんだけどっ!」
「なんだとぉ!私は【くノ一】だ!」
「同じでしょ!」
「違うわっ!!ボケっ!」
「はぁ?誰に向かって言ってんの!?あたしはこれでも学年一位なんだけど!」
「知るかっ!そんな足を出して、腹が冷えて子を産めなくなるぞ!!」
「ははっ、何それおばあちゃんじゃん!!ウケるっ」
「こ、こ、このボケぇぇっ!!」
「う、うっさい、馬鹿!!」
口撃の応酬に、エドガーは頭を抱えている。
「た、頼むから……同じ顔でケンカするのはやめてくれぇぇぇぇぇ!!」
同じ顔。しかし全く違う個性に、恰好も違う。
だが、双子の様なこの少女二人が、エドガーに呼び出される出来事まで、話は少し遡る。




