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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
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ショートストーリー【私の幼馴染の物語】



◇私の幼馴染の物語◇


 私の幼馴染、エドガー・レオマリスは、この国で一番の“不遇”職業【召喚師】だ。

 私、エミリア・ロヴァルトは、最近までそれすら知らなかった残念な女の子です。

 自分でそれを言うのは()ずかしいけれど、エドガーは私に隠していたらしいんだ。


 【召喚師】と言うのは。国が指定した、誰でもが侮蔑(ぶべつ)し、嘲笑(あざわら)い、馬鹿(ばか)にしてもいいと言う職業。

 そんなものがあってもいいのかと、本当ならば思うはずなのに、この国ではそれは通用しない。

 何故(なぜ)ならそのルールを決めたのは、国王様だからだ。

 正確には前国王であり、今や老人となった世代の第一人者だ。

 そのお方が決めたルールに、(したが)わない者はいなかった。

 ほんの数人を(のぞ)いて。





 エドガーの経営する宿屋【福音のマリス】には、本日もお客がいない。

 残念なことに、エドガーが【召喚師】を()いだ瞬間から、馴染みの客まで(おとず)れなくなったんだと言う。

 本当に、理不尽だと思う。

 そんなんだから、それを知らなかった私は、ある日こんな事を口走ったんだ。


『ねぇエド、今日もお客さん来ないねぇ』


『そうだね。なんでかな……あはは』


『もっと頑張りなよ~』


 無知と言うのは残酷(ざんこく)だ。

 知らなかったとは言え、私がエドを傷つけた事、きっと数回では済まされない筈だ。


『頑張ってるんだけどね……』


 エドの優しげだけど(さび)しそうな顔が、焼き付くように(ひとみ)(うつ)しだされた事を覚えてる。


『今日はリエちゃんいないんだね。あ、そっか……入寮(にゅうりょう)か』


 エドの妹、リエレーネちゃん。

 騎士学校【ナイトハート】に通う、私の後輩(こうはい)だ。

 最近まではここから通っていたのだけど、友人の(さそ)いで入寮(にゅうりょう)することにしたらしい。

 その騎士学校の寄宿舎(きしゅくしゃ)に入る為に、今は買い出しに行っていた。

 勿論(もちろん)、私は知っていたけれど。


『まぁね。僕はそんなに行ってないし、()めようかとも思ってるんだ』


『えっ!な、なんで……!?』


 騎士学校を()める。

 エドがそれを言い出した時は、本当に(あせ)ったし、どうしようもなく困惑(こんわく)した。


『だってさ、僕は成績も悪いし……剣の腕だって全然成長しないから』


 この時のエドは、基本的にやる気がなかったように見えたな。

 もし、私がエドの心の(ささ)えになれていたら、エドは今も騎士学校に通っていたかもしれない。


『それにほら、学費。やる気の無いヤツの学費なんて、(はら)う方が勿体無(もったいな)いじゃん?』


 本当は、お金がなかったんだって、この時は気付けなかった。


()める方が勿体無(もったいな)いよっ……』


『いや……もう決めたしさ』


『そんなぁ……』


 エドと会える時間が減る。この時はそんな程度にしか考えていなかった。

 まさかこの先、様々な事が起きて、ライバルの女の子があんなに増えるなんて思いもしなかった。

 それでなくてもさ、私は【聖騎士】に成って会える時間が減っているのに。





 エドが騎士学校に最後に登校した日。

 その日も、エドは剣を(にぎ)って、上級生に叩きのめされてた。


『へっ!こんなんで騎士に成れるかよっ』


『あ……ありがとうございま、した……』


 上級生に礼を言い、へとへとになって寝転がる。

 周りの同窓生達はクスクスと笑っていた。


『――大丈夫?エド』


『ああうん。平気だよ……』


 最後の登校日まで、わざわざ模擬戦(もぎせん)なんかしなくていいのに。


『はは……でもほら、あの先輩……本気で騎士目指してるみたいだったしさ。僕なんかでも、練習になれたならな……って思って』


 そんな事を言うエド。()めるのに、他の騎士学生に協力すること無いのに。

 なんとか起き上がったエドは、木剣で殴られた箇所(かしょ)(さす)りながら教室に戻る。

 私は後ろから、少し離れてついて行った。




『はい……はい……ありがとうございます。お世話になりました……妹を、よろしくお願いします』


 騎学長に頭を下げ、エドは校舎(こうしゃ)を後にする。

 なんだか少しだけ名残惜しそうに見えたのは、私が残ってて欲しかったからなんだろうなと、今は思う。


『それじゃあエミリア、悪いけど荷物を運ぶの、手伝ってくれるかな?』


『あ、うん……』


 宿まで戻る道中、無言だったことを覚えてる。

 エドは何度も振り返って校舎(こうしゃ)を見ていた。

 私も、それに合わせて足を止めて、エドと並んだ。

 こうやって(そば)にいて、隣に居たいと何度も思った。

 エドが【召喚師】として“不遇”に(あつか)われている事を知らなかった私は、エドの隣にいてもいいのは、自分だけだと思っていたのかもしれない。


『ふぅ。やっと着いたね……やっぱり遠いや、はは……』


『そう、だね』


 荷物を置いて、エドは笑う。

 この時だったかな、私が毎朝起こそうって決めたのは。


『――今度から、朝は私が起こしてあげるよ!エドはお寝坊(ねぼう)さんだからねっ!』


『ええ?そうかなぁ』


『そうだよ!だから起こすねっ』


 そう、この宣言(せんげん)のせいで私は、エドが“不遇”職業だって事を知ることになるんだ。





 騎士学校を()めたエドは、【召喚師】としての仕事を多くこなす事にした。

 毎日、安い依頼(いらい)で物を直す。

 エドの“召喚”は、完成された物を呼び出すことは出来ないという欠点(けってん)があった。

 だから、依頼(いらい)は物の“召喚”ではなく、修理対象(しゅうりたいしょう)のパーツを一つ一つ“召喚”して、それを何度も()り返し、組み合わせて直す。

 そういうスタイルだ。正直言ってかなり効率(こうりつ)が悪いと、私ですら思う。


 それでも、妹リエちゃんの学費を(かせ)ぐために。生きていく為に。

 エドの進む道は(せま)く、また(けわ)しい。

 宿に客が入れば、自分から進んで苦しい事をしなくても済むのに、なんて言う事だけはしなくてよかったと、心から思う。


 そしてこの日から一年後、エドの物語は大きく動く事になる。

 異世界から、人物を“召喚”することになるのだ。

 きっかけは私、そして私の兄であるアルベール。

 エドの進む道を助けたいと思っていた私達兄妹は、エドに救われることになる。


 私が生涯(しょうがい)のライバルと認めた、異世界からの客人。

 おっぱいの大きなお姉さんに、黒い髪を持つ二人の少女。

 私と大きく関わる事になる、ちょっと不器用な緑の人。

 (えら)そうな態度(たいど)の、“魔王”様とか。


 皆エドにご執心(しゅうしん)で、ホントに大変なんだけど。

 私は負けないから。絶対に負けないからっ!!




 ~私の幼馴染の物語~ 終。


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