ショートストーリー【私の幼馴染の物語】
◇私の幼馴染の物語◇
私の幼馴染、エドガー・レオマリスは、この国で一番の“不遇”職業【召喚師】だ。
私、エミリア・ロヴァルトは、最近までそれすら知らなかった残念な女の子です。
自分でそれを言うのは恥ずかしいけれど、エドガーは私に隠していたらしいんだ。
【召喚師】と言うのは。国が指定した、誰でもが侮蔑し、嘲笑い、馬鹿にしてもいいと言う職業。
そんなものがあってもいいのかと、本当ならば思うはずなのに、この国ではそれは通用しない。
何故ならそのルールを決めたのは、国王様だからだ。
正確には前国王であり、今や老人となった世代の第一人者だ。
そのお方が決めたルールに、従わない者はいなかった。
ほんの数人を除いて。
◇
エドガーの経営する宿屋【福音のマリス】には、本日もお客がいない。
残念なことに、エドガーが【召喚師】を継いだ瞬間から、馴染みの客まで訪れなくなったんだと言う。
本当に、理不尽だと思う。
そんなんだから、それを知らなかった私は、ある日こんな事を口走ったんだ。
『ねぇエド、今日もお客さん来ないねぇ』
『そうだね。なんでかな……あはは』
『もっと頑張りなよ~』
無知と言うのは残酷だ。
知らなかったとは言え、私がエドを傷つけた事、きっと数回では済まされない筈だ。
『頑張ってるんだけどね……』
エドの優しげだけど寂しそうな顔が、焼き付くように瞳に映しだされた事を覚えてる。
『今日はリエちゃんいないんだね。あ、そっか……入寮か』
エドの妹、リエレーネちゃん。
騎士学校【ナイトハート】に通う、私の後輩だ。
最近まではここから通っていたのだけど、友人の誘いで入寮することにしたらしい。
その騎士学校の寄宿舎に入る為に、今は買い出しに行っていた。
勿論、私は知っていたけれど。
『まぁね。僕はそんなに行ってないし、辞めようかとも思ってるんだ』
『えっ!な、なんで……!?』
騎士学校を辞める。
エドがそれを言い出した時は、本当に焦ったし、どうしようもなく困惑した。
『だってさ、僕は成績も悪いし……剣の腕だって全然成長しないから』
この時のエドは、基本的にやる気がなかったように見えたな。
もし、私がエドの心の支えになれていたら、エドは今も騎士学校に通っていたかもしれない。
『それにほら、学費。やる気の無いヤツの学費なんて、払う方が勿体無いじゃん?』
本当は、お金がなかったんだって、この時は気付けなかった。
『辞める方が勿体無いよっ……』
『いや……もう決めたしさ』
『そんなぁ……』
エドと会える時間が減る。この時はそんな程度にしか考えていなかった。
まさかこの先、様々な事が起きて、ライバルの女の子があんなに増えるなんて思いもしなかった。
それでなくてもさ、私は【聖騎士】に成って会える時間が減っているのに。
◇
エドが騎士学校に最後に登校した日。
その日も、エドは剣を握って、上級生に叩きのめされてた。
『へっ!こんなんで騎士に成れるかよっ』
『あ……ありがとうございま、した……』
上級生に礼を言い、へとへとになって寝転がる。
周りの同窓生達はクスクスと笑っていた。
『――大丈夫?エド』
『ああうん。平気だよ……』
最後の登校日まで、わざわざ模擬戦なんかしなくていいのに。
『はは……でもほら、あの先輩……本気で騎士目指してるみたいだったしさ。僕なんかでも、練習になれたならな……って思って』
そんな事を言うエド。辞めるのに、他の騎士学生に協力すること無いのに。
なんとか起き上がったエドは、木剣で殴られた箇所を擦りながら教室に戻る。
私は後ろから、少し離れてついて行った。
◇
『はい……はい……ありがとうございます。お世話になりました……妹を、よろしくお願いします』
騎学長に頭を下げ、エドは校舎を後にする。
なんだか少しだけ名残惜しそうに見えたのは、私が残ってて欲しかったからなんだろうなと、今は思う。
『それじゃあエミリア、悪いけど荷物を運ぶの、手伝ってくれるかな?』
『あ、うん……』
宿まで戻る道中、無言だったことを覚えてる。
エドは何度も振り返って校舎を見ていた。
私も、それに合わせて足を止めて、エドと並んだ。
こうやって傍にいて、隣に居たいと何度も思った。
エドが【召喚師】として“不遇”に扱われている事を知らなかった私は、エドの隣にいてもいいのは、自分だけだと思っていたのかもしれない。
『ふぅ。やっと着いたね……やっぱり遠いや、はは……』
『そう、だね』
荷物を置いて、エドは笑う。
この時だったかな、私が毎朝起こそうって決めたのは。
『――今度から、朝は私が起こしてあげるよ!エドはお寝坊さんだからねっ!』
『ええ?そうかなぁ』
『そうだよ!だから起こすねっ』
そう、この宣言のせいで私は、エドが“不遇”職業だって事を知ることになるんだ。
◇
騎士学校を辞めたエドは、【召喚師】としての仕事を多くこなす事にした。
毎日、安い依頼で物を直す。
エドの“召喚”は、完成された物を呼び出すことは出来ないという欠点があった。
だから、依頼は物の“召喚”ではなく、修理対象のパーツを一つ一つ“召喚”して、それを何度も繰り返し、組み合わせて直す。
そういうスタイルだ。正直言ってかなり効率が悪いと、私ですら思う。
それでも、妹リエちゃんの学費を稼ぐために。生きていく為に。
エドの進む道は狭く、また険しい。
宿に客が入れば、自分から進んで苦しい事をしなくても済むのに、なんて言う事だけはしなくてよかったと、心から思う。
そしてこの日から一年後、エドの物語は大きく動く事になる。
異世界から、人物を“召喚”することになるのだ。
きっかけは私、そして私の兄であるアルベール。
エドの進む道を助けたいと思っていた私達兄妹は、エドに救われることになる。
私が生涯のライバルと認めた、異世界からの客人。
おっぱいの大きなお姉さんに、黒い髪を持つ二人の少女。
私と大きく関わる事になる、ちょっと不器用な緑の人。
偉そうな態度の、“魔王”様とか。
皆エドにご執心で、ホントに大変なんだけど。
私は負けないから。絶対に負けないからっ!!
~私の幼馴染の物語~ 終。




