表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 2章《天使奔走》
273/383

43話【眠り姫1】



◇眠り姫1◇


 【聖騎士】エミリア・ロヴァルトは、(つくえ)に向かって書類に目を通していた。

 後ろでは専属(せんぞく)従騎士(じゅうきし)】、レミーユ・マスケティーエットが目を光らせている。

 まるで、どちらが上司なのか判別がつかないほどに。


 それも、エミリアがここ数日、何度も行方を(くら)ませて、仕事を放棄(ほうき)していたからだった。

 事情は勿論(もちろん)ある。ローマリア王女もその事情を知っている為強くは言わないが、【聖騎士団長】から直接言い渡されてしまっては、サボる訳にもいかなかった。


「え~っと……ゼルカウスト子爵家の屋敷改築費(やしきかいちくひ)、その資金源(しきんげん)の工面……っと」


 エミリアが現在目を通しているのは、【聖騎士】に成って割り当てられた、自分が管轄(かんかつ)する区画(くかく)の報告書だった。

 エミリアが【聖騎士】に成って、【貴族街第二区画(ダイディア)】の一区域(ひとくいき)管轄(かんかつ)を任された。

 それはそれほど(むず)しい事ではない。(いま)だ学生の身でもあるエミリアに取っては、区画内全体でないだけマシと言うものだった。

 区画の一区域(ひとくいき)、それも小規模(しょうきぼ)であり、しかも現在いない【聖騎士】の代わりの割り当てだ。


「……【貴族街第二区画(ダイディア)】には鉱山穴(こうざんけつ)があったわよね……そこからはもう何も採掘()れないんだっけ?」


 エミリアは後ろを見る。

 何せ【従騎士(じゅうきし)】レミーユの家、マスケティーエット家は、【貴族街第二区画(ダイディア)】の公爵だ。

 自分の住んでいた区画の情報だ、知っていても不思議(ふしぎ)はないのだが。


「……す、すみませんエミリア様……存じていません」


 箱入りで、騎士学校にも通っていなかったレミーユは、区画内の情報を(ほとん)把握(はあく)していなかった。

 申し訳なさそうに、レミーユは謝罪する。


「――ああ、いいのいいの!元々私がちゃんとやってなかったのが悪いんだから」


「は、はぃ……」


 エミリアは手をブンブンと振って、失言をしてしまったと()ぐに質問を取り消した。

 再度申し訳なさそうにするレミーユ。

 エミリアは、ちらっと見えたレミーユの表情で、公爵に挨拶(あいさつ)された時の事を思い出した。





 公爵令嬢(れいじょう)レミーユ・マスケティーエットは、自室に閉じこもり気味の少女だった。

 友達もいなく、家庭内でも物静(ものしず)かで内向的。言わば、暗い子だ。

 偶々(たまたま)ロヴァルト家とシュダイハ家の決闘を見る機会があり、父に連れられて決闘を観戦(かんせん)していた。

 エミリアの兄アルベールの戦い、黒髪の少女サクラの戦い、そして何故(なぜ)悪名高(あくみょうだか)い【召喚師】の戦いを見て、エミリアの出番を待つはずだった。


 しかし、【召喚師】の対戦順で事件は起きた。

 会場は混乱(こんらん)(おちい)り、怒号(どごう)と悲鳴の中でレミーユは逃げなくてはいけなかった。

 会場の外に出て、父と共に“悪魔”からの恐怖に()えていたが、やがて空に緑色の閃光(せんこう)が舞った。

 そして誰かが(さけ)んだのだ、「“悪魔”は撃退(げきたい)された!【聖騎士】エミリアがそれを成したのだ!」と、高らかに(さけ)んだ。

 レミーユは戦いを見ていないにもかかわらず、その瞬間、(すで)にエミリアに(あこが)れていたのだった。


 そしてその日のうちに、父に願い出た。

 「騎士に成りたい!」と。

 当然ながら、騎士学校にも通っていない小娘が簡単に成れるはずもないのだが、偶然(ぐうぜん)と言うものは恐ろしい。


 その日の夜、王族からの御触(おふ)れがあった。

 内容は、「【聖騎士】に、専用の部下を(もう)ける」と言うものだ。

 その内容は()ぐに王都内に出回ったが、さすが貴族、コネと金で解決してしまったというなんとも後味が悪いものだった。


 しかしその結果、翌日には娘二人が【従騎士(じゅうきし)】に成ると言う事態を生んだ(姉のラフィーユに関しては、関知していない)。

 そしてそれから日数を開けることなく、レミーユはエミリアと対面を果たした。

 当時のエミリアも緊張をしていたが、レミーユの緊張は異常だった。

 《槍の聖女》と(しょう)され始めたエミリアを前にして、自分で言ったにもかかわらず、一言も口を開けなかったレミーユは、両親がエミリアに挨拶(あいさつ)をすると言う形で対面したのだが、その日は一言も言葉を交わしてはいない。

 エミリアが何か言ってはいたが、レミーユは緊張しすぎて何も覚えていないのだ。


 だが実は、打ち()けるのも早かった。

 レミーユは当初、エミリアの【従騎士(じゅうきし)】に成ったことを、『私は槍使いです!エミリア様の部下になるのが必然なのです!!』と言っていたが、それは超口実だった。

 (あこが)れの人に近付きたい、(そば)に居たい、仲良くなりたい。

 そんな欲望(よくぼう)まみれの理由でも、内向的な性格のレミーユが()み出せたのは、エミリアの持つ何かに()かれたからだろう。





「ん~……っと!!」


 背伸びをして、書類の山を見る。

 まぁまぁな量だった。数日サボったツケを(はら)い終えて、エミリアは疲れたように立ち上がる。ボキボキっと骨が鳴った。


「お疲れ様ですエミリア様!次のスケジュールですけど……」


 レミーユが手帳を(なが)めながら、次の予定を口にしようとしたが、エミリアは。


「――っとごめんレミーユ!私行かなきゃっ、続きはまた明日ね!」


 と、上着を羽織(はお)って()け出してしまう。


「え!?エミリア様!?……何処(どこ)に!ま、まだ今日の予定は……い、行っちゃった……って、また(・・)って事は、サボるおつもりなのですね……」


 制止(せいし)するまでも無く、エミリアは自室を出て行ってしまった。

 残されたレミーユは、(つくえ)の上の書類をまとめながら思う。

 それでも、今日中にしなければならない物には目を通していってくれただけ、ありがたいと。


「……いつになったら、槍の訓練(くんれん)してくれるんだろう……はぁ……」


 同じ得物(えもの)を持つ者同士、訓練(くんれん)修行(しゅぎょう)があると思っていた。

 しかし、雑務(ざつむ)や王女の身の回りの世話ばかりで、(いま)だ槍を合わせることなく過ごしている。

 しかもエミリアは、ちょくちょく行方を(くら)ませている。

 早くも、将来が不安になるレミーユだった。





 自室を逃げ出すように出て来たエミリアが向かうのは、ローザに割り当てられている部屋だった。

 こっそりと、目立たない様に足を運び、まるで侵入者(しんにゅうしゃ)のようだった。


(やっぱりいる……いや、むしろ増えてる?)


 エミリアがコソコソしているのは、スィーティア王女の派閥騎士(はばつきし)や貴族が、そこら中にいるようになったからだ。

 ここは【白薔薇(しろばら)庭園(ていえん)】、ローマリア王女の部下や貴族が集まる場所なのだが、先日のローザとスィーティア王女の模擬戦(もぎせん)の結果が広まり、このありさまだ。


(……やりにくいなぁ、もう!もう!)


 (すき)を見つけて、エミリアはダッシュで廊下(ろうか)を渡る。

 本来は、コソコソ何てしなくてもいい。ローザは客人であり、ローマリア王女の部下ではないのだから。

 模擬戦(もぎせん)で負けたとはいえ、スィーティア王女の部下達が図々(ずうずう)しくする理由など、本当は無いのだ。

 しかし、ローマリア王女にそれを問うと「放っておけばいい」と言うだけだった。


 それは、ローマリアが姉のスィーティアに対する配慮(はいりょ)とも言える。

 (おおやけ)の場に顔を出し、人望が広まりつつある第三王女ローマリア。

 一方で第二王女スィーティアは、武力でものを言うタイプの女性である。

 つまりは、(いくさ)のないこの国では地位が低いのだ。

 (ローマリア)がそう言う以上、いくら【聖騎士】であろうとも、その行為(こうい)を止める事は出来なかった。


「ふぅ、到着(とうちゃく)~……」


 エミリアはローザの自室前で安心して息を()くと、コンコンとノックをする。


「……あれ?返事がない」


 ローマリアのお稽古(けいこ)は、ローザが弱ってからもこの自室で(おこ)なわれていた。

 なので居ない訳はないだろうと、エミリアはゆっくりと扉を開けて入室する。


「お邪魔しま~す……ってなんだ、居るじゃない」


 暗い部屋のカーテンを開けて、ローザを見る。

 眠っていた。すぅすぅと小さく寝息を立てて、綺麗な体勢(・・・・・)で静かに眠っている。


「……別人なんだよねぇ……」


 エミリアは思い出すように身を(ふる)わせる。

 ローザは寝相(ねぞう)寝癖(ねぐせ)寝起(ねお)きが非常に悪い。

 脱ぐ、動く、暴れるを平気で(おこ)ない、エミリアや他の少女達を困惑(こんわく)させるほどだ。

 それが今は、まるで別人。

 童話(どうわ)の眠り姫なのではないかと思わせる程、ローザは自然に眠っていた。


「やっぱり……コレ(・・)のせい、だったのかな?」


 エミリアは、ベッド横のサイドテーブルに置かれた《石》に目をやる。


 【消えない種火】。

 ローザの本質を現す、赤く、存在感(そんざいかん)(しめ)奇跡(きせき)の《石》。いつもはローザの右手の甲に付けられているが、それがテーブルに置かれていた。

 ローザの身から外されているのだ。つまり、今のローザは本当に――ただの人間の女の子だという事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ