40話【宝石接続《ジュエルリンク》3】
◇宝石接続3◇
発射されたグレネードランチャーの擲弾は、リザにまともに直撃した。
決して避ける訳にはいかなかったからだ。
リザの背後の空間には、今も無数の亀裂が入っている。
この空間にリザが入って来た事が切っ掛けではあるが、今のサクラの攻撃、そしてこの空間の創造主の限界が、それを引き起こしていた。
それ故に、リザがサクラの攻撃を避ける事は出来ない。
アサルトライフルによる連射も、グレネードによる破裂も、リザはそれを察知して防いだのだった。
そして、爆発の煙の中からリザが出て来る。
「……――くっ!」
魔力と翼で身体を覆って盾にし、今の爆発を防いだようだ。
「――しぶといっ!」
追撃するように、サクラはアサルトライフルをリザに向けて構えていた。
今度は、いつの間にかスコープまで追加されていた。
「しぶといだなんて、あなたがよく言えるわねっ!サクラ!!誰のせいでこうなったと思ってるのよ!」
大鎌を振るって、爆発による煙を晴らし。
サクラから受ける視線に、恨み節を言うリザ。
「そ、それは悪いと思ってるよ!」
そう言いながらも、サクラの銃から出る赤い線は、リザの身体を捉えている。
「これは……!?」
【赤外線照準器】だ。
鞄によって、ドンドン追加されていくサクラの銃の追加装備。
「すっご!なるほどこれで狙える訳ねっ!!」
ジャキン――と構え、嬉しそうにはしゃぐ。
「……あんたねぇ――!」
ガガガッッ!ガガガガッッ!
「――こらっ!話を聞きなさいっ!目的忘れてないでしょうねっ!?」
大鎌を超速回転させて、弾丸を防ぐ。
弾くのではなく、斬り落とす。だ。
パラパラと空間に散り、半分に切断された弾丸は、サクラの立つ足元に落ちていく。
「……凄い、凄いよリザ!」
普通、機関銃の連射を全て斬り落とせるだろうか。
漫画やアニメのようなリザとの攻防に、サクラは嬉しそうにする。
「――サクラっ!!」
リザは、少しだけ焼け焦げた翼を羽ばたかせて、サクラに一気に迫る。
そもそも、リザが勝手に言いだした「無理矢理連れて帰る」だが、サクラは抵抗しているだけで、リザは防戦状態だ。
どちらがどちらを連れて帰ろうとしているのか分からない状況に、リザは翼を身体に纏って、そのまま回転。
――サクラに突撃する。
「うわわっ!――ドリル!?」
ドリル状に回転したリザが飛んできて、サクラは慌てて移動を開始する。
ライフルを撃ちながら移動を開始するも。
「――ぜ、全部弾かれてるじゃん!!」
チュイン!チュイン!と、ドリルリザは弾丸を粉砕しながら迫ってくる。
「――わぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
転ぶように前転し、ギリギリ避ける。
「……あ、あぶ……危ないじゃんかぁ!!」
目を吊り上げてツッコむサクラ。
サクラがいた位置の空間で停止し、翼を解除するリザもフラフラしていた。
「お……お互いさまでしょーが……」
「「ふ、ふふふ……」」
お互いに汗をたらりと流し、睨み合う。
「ん……?これは……」
リザは、サクラが飛び避た際に落とした銃器を見つけた。
それを拾おうとするが。しかし、ふと手を止める。
「……」
サクラが何も言わない事に、不信感を覚えたからだ。
「――フンッ!!」
確信して、大鎌で落ちていたアサルトライフルを真っ二つにする。
するとサクラが、「ちっ」と舌打ちをする。
やはりと、リザは不用意に触らなくて良かったと安堵した。
サクラはそれを狙っていたのだが、“悪魔”の感と言うものが上をいったのか。
サクラが鞄から取り出したものは、本人とエドガーにしか触れられない。
一度サクヤが触れようとして、電撃を浴びていた事を、リザは知らない。
サクラはそれを罠としたのだが、リザは引っ掛からなかった。
「今舌打ちしたわね!でもいいのかしら、武器……ないじゃない」
リザは壊れた銃器を大鎌で薙ぎ、木端微塵にした。
「……う~ん」
そんな事を言われたサクラは、鞄をもぞもぞと漁り物色する。
前提として、鞄口以上の大きさなものは取り出せない。
しかし、長さや軽さは関係無い。
「……は?」
サクラが出したものに、リザは素っ頓狂な声を出す。
三本の筒が重なった、片手で持てる何かだった。
導火線があり、三本の筒につながれている。
「――ダイナマイトよ。ま、簡単に言えば爆弾だけど」
爆発の威力は、グレネードと比べるまでもない。
リザも、サクラのその慎重な扱い方に、やばいと勘付く。
「サ、サクラ……それはここで使っていいものでは、無いのではない?」
《石》の世界は限界が近い。それを考慮して、サクラの攻撃を受け切っていたリザだが。
「それは無理な気がする……」
サクラは、精神世界だから何をしても大丈夫と安心している可能性がある。
だから、一度は使わないと決めた【地球】の技術を、ふんだんに披露しているのだが、まさかダイナマイトまで出してくるとは。
「サクラ!少し待って!どう、どうよ!」
ステイステイと、青い顔のリザは両手でどうどう――とサクラを制すが。
「戦いの最中にそれはないんじゃないかなぁ?“悪魔”なんでしょ……?」
人の気も知らないでと、リザは口にこそしないが視線で訴えている。
サクラは、元々マッドな気質がある。
サクヤが「鬼畜だ!」と言うだけはあり、ダイナマイトを持つ自分の手を見て、「フフフ」と笑っていた。
「――実はよく知らないんだよね、どれ程の威力なのかさ……なんか――ゾッとするなぁ!!」
「こらこら!得体のしれないものを使おうとするんじゃないわよ!!」
サクラの笑みに嗜虐性を感じたリザは、止めようと前に踏み出す。
しかし、踏み出した瞬間に亀裂が大きくなり、流石にサクラも気付く。
「なっ!――なに?」
「……ちっ、やっぱり!」
魔力の流れを感じる事が出来るリザは気付けた事であり。
余裕のないサクラには気付けなかった事。
それは、この空間の限界だ。
「――サクラ!今すぐ帰るわよっ!!」
「嫌だってば!」
この期に及んでも、サクラは現実世界に戻ろうとしない。
「――あなたねぇ!!」
イラっと来たリザは、目端を吊り上げてサクラに突撃する。
先程までの戦いとはまったく違う。手加減もなしに、魔力にかまけての突撃だ。
防御を捨てて、移動に魔力を裂いた。
「う、え!?」
一瞬でサクラに肉迫し、ダイナマイトを持つ手を掴むリザは、反対の手で鞄を奪おうとする。
しかし。
「――ぐっ……うぅぅぅ!!」
鞄を掴んだ手に、電撃が襲った。
しかしリザは離さない。思い切り鞄を引っ張り、投げ飛ばす。
「リ、リザ!そんなことしても意味ないって!この精神世界では、イメージで何度でも戻せるんだからっ」
その通りだった。
サクラがイメージするだけで、鞄は再び肩にかかる。
「そうであろうと、関係無いわ!」
何故リザがここまでするのか、サクラには分からない。
約束と言う言葉がリザを突き動かし、信じると言う言葉がそうさせる。
「なんでそんなに……!」
リザの必死を、サクラは気付けない。
どうしてそこまでするのかと。愚かな自分のために、そこまでする必要があるのかと。
「約束した!」
「誰とよっ!?」
「――エドガー達とに決まっているでしょーが!この馬鹿!!」
ガスン!!と、リザの頭がサクラの鼻先にぶつかる。
「……痛だっ!!……ず、頭突き!?」
聞くまでもない質問にリザは腹が立ち。
塞がった両手に代わり、頭突きをかます。
そして不意の頭突きに緩んだサクラの手を、“悪魔”の尻尾が叩いた。
「――あっ!」
空間に漂う、ダイナマイト。
「油断したわね!このまま連れて行くわよ!」
「嫌だってば!――合わせる顔無いのよ!エド君にも、サクヤにも!」
「それはアンタが決める事じゃないわ!決めつけないで会ってから確かめなさい!」
「……だって、あたしは……!」
真剣なリザの表情、そして言葉にサクラは怯む。
サクラはサクラで、多大なる悩みがあった。
だから逃げた。でも、その逃げ道を間違えたのだ。
しかし、身勝手な行動だと責めるものはいない。
サクラの境遇、異世界と言う環境、エドガー達仲間の優しさ。
それを、孤独だったサクラが受け止められるか。
ただ、それだけだった。




