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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 1章《帝国内乱》
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19話【労力に見合わぬ進展】



労力(ろうりょく)に見合わぬ進展(しんてん)


 【リフベイン聖王国】・【王都リドチュア】。

 【火の月89日】。エドガーが今いるのは、鑑定屋(かんていや)【ルゴー】だ。

 【鑑定(かんてい)師】マークス・オルゴが経営する“魔道具”の店だ。


 エドガーと一緒にいるのはメルティナだ。

 エドガーは、この数日でコノハに古書を読んで貰う事を(あきら)めた。

 それも先日、目を覚ましたコノハが、またあの本を見て気を失ったからだった。

 サクラの意志(いし)がそうさせるのか、それとも別の何かか。

 理由も分からずに負担(ふたん)は掛けられないと、全ての古書をコノハの見えないところに置いた。


 それが、ここ鑑定屋(かんていや)【ルゴー】だった。

 マークスとコノハはまだ会っていないので、都合(つごう)がよかったのもある。

 エドガーも、コノハに負担(ふたん)()いるのは本望ではないので、置き場所を提供(ていきょう)してもらって助かった次第(しだい)だ。


 しかし、マークスは別だ。

 今もエドガーとメルティナを、「なんで毎日来てやがる」と(にら)んでいた。

 葉巻(はまき)を吸いながら、苛立(いらだ)たしい顔をしている。


「――ほらほら店長。今日はお城に行くのでしょう?いつまでもエドガー君とメルを(にら)んでいても始まりませんよ?」


 店員であるルーリア・シュダイハに言われ、更に苛立(いらだ)つ。


「るっせ!分ーってるわっ!そもそもお前が勝手に置き場所を提供(ていきょう)してんじゃねぇよ!」


 マークスはガタンと椅子(いす)から乱暴に立ち上がって、自室に向かった。


「す、すみません……ルーリアさん……毎日来ちゃって」


 エドガーが申し訳なさそうに言う。

 しかしルーリアは笑顔で。


「いいのよ。あの人本当は嬉しいんだと思うし……表現(ひょうげん)が下手くそなだけだよ。エドガー君も分かるでしょ?」


「それは……まぁ、少なくない付き合いですし……でもまぁ、コレを見たら嫌にもなるかなって」


 エドガーの視線(しせん)は、大量に積まれた古書だ。

 メルティナと二人で運び出したこの本の山は、まさしく山となっていて、店の空間を(いちじる)しく(せま)く感じさせていた。


「あはは……それはそうだね~。こんな読めない本ただのゴミだって言ってたもんね、店長」


 マークスに取ってはそうなのだ。

 “魔道具”でもなく、一切合切(いっさいがっさい)読めない本など、置かれても困るというものだ。


「――ノー。それは違いますルーリア」


 エドガーの隣で黙々(もくもく)と文字の解析(かいせき)を行っていたメルティナが顔を上げて言う。

 しかし、なんだか目が疲れている。


「違うって……何が?」


「この書物、サクラの世界の物なのは間違いありません。ですので、マスターの知識(ちしき)になります。更には、ワタシのデータベースにも、現在進行形で文字の登録(とうろく)を行っています」


 メルティナが登録(とうろく)を行っているのは、本に書かれた文字の羅列(られつ)をそのままコピーして、メモリーに焼き付けているのだ。

 これは、以前エドガーの“召喚”に使われる魔法陣に書かれた文字をスキャンした時のシステムと同じだ。

 まぁ、エドガーには秘密(・・)で行った事なので言えないのだが。


「凄いね。本に喰いついて見てたけど……それやってたんだ……」


 その様子はどう見ても、文字を無理矢理見ようとするおばあさんだった。


「イエス。平仮名(ひらがな)片仮名(カタカナ)……この文字は登録(とうろく)完了しました」


 エドガー達がコノハに聞いた少ない情報だけで、メルティナが調べてくれた結果だ。


「ただ、この漢字(かんじ)……でしたか。それは文字数が多いうえに、どうやら複数読み方があるようです……どうしてそんなややこしい事をしているのでしょうか。サクラの世界の文字は……」


「う~ん……」


 異世界人達は共通して、この世界の文字や言語が、異世界人の能力で翻訳(ほんやく)されているそうだ。

 それは見えるもの聞こえるものが自身の世界のものに変わると言うものらしいが、他人の世界のものは別のようで、その効果は、今いるこの世界に限られるらしい。


 中でも、このサクラの世界の文字はまた格別(むずか)しかった。

 サクヤが言うには、時代が違うだけで言語がかなり違うらしい。

 しかも国ごとに言語や文字があるとか。

 エドガーは、それらを思い出して言う。


「ローザとフィルヴィーネさんは、ほとんど同じ時代から来たらしいし……サクラとサクヤは時代こそ違うけど、同じ世界。メルティナは……」


「ワタシは、【惑星ニコル】という星の出身者達の手で製造(せいぞう)されました。生まれを言うのなら、そうなると思われます」


 (ちな)みに、メルティナが居た時代と今のこの世界の時代は、かなり年数が違っているらしい。


「なるほどね。そしてサクラとサクヤだけが……完全にこの世界とは関係ない世界からの【召喚者】……って事になるのかな……?」


 ローザとフィルヴィーネは、この世界の約千年前。

 メルティナが別の惑星、かつ時代は数百年前となり。

 サクラとサクヤの二人が、完全に別の異世界となる訳だ。


 正確に言ってしまえば、ローザとフィルヴィーネは過去からのお客様となってしまうのだろうが、千年以上もの時は、世界を大きく変えている。

 大まかに言って異世界と言っても間違いではないだろうと、フィルヴィーネ本人も言っていた。


「イエス。そうなれば……余計(よけい)(むずか)しくなりますね」


「……だね」


 サクラとサクヤの世界、【地球】。

 サクヤが知っている知識(ちしき)以上の物を知っていたと思われるのがサクラだ。

 そして、その知識(ちしき)を、今はコノハが共有(きょうゆう)している。

 だが、それを引き出すことはかなりのリスクになっていた。


「教えてもらう度に気を失ってしまったら……申し訳なさすぎるよ。どうしたらいいか」


 ここ数日の進展(しんてん)は、正直こんなものだった。実に割に合っていない。

 そしてエドガーが、今後の方針を考えようとしていると。


「――ぅおいっ!そろそろ帰れお前ら……わりぃが、急ぎの用が出来ちまった。ルーリア、店閉めろ」


「え、ええっ。急すぎませんか!店長っ!?」


 マークスが自室から急いで下りて来て、(あわ)て気味に言う。

 この様子だと、依頼(いらい)だろう。


「……でも、城に行くのは変わらないんですよね?」


「おう。第一王女からの依頼(いらい)じゃなけりゃなぁ!」


「セルエリス殿下(でんか)……?」


 大臣御用達(だいじんごようたし)だったマークスへの依頼(いらい)は。

 大臣が収監後、第一王女セルエリスに引き()がれていた。

 その王女からの初依頼(はついらい)なのだろう。気合の入り方が異常だった。


「……マークスさん」


「あ?……んだよエドガー……急いでんだって」


 エドガーは、ふと疑問(ぎもん)になったことを口にする。


「――いつ、連絡が来た(・・・・・)んですか?城側から……」


「……!」


 マークスが城に行くことは決まっていた。

 しかし、初めから王女の依頼(いらい)だと言う事が分かっていれば、エドガーだって初めからお邪魔することは無かった。

 では何故(なぜ)、まるで今連絡が来たかのように(あせ)るのか。


「マスター。マークス・オルゴの体温が上昇しました。それに、一瞬でしたが口角がつり上がったのを確認、これは(きょ)を突かれたと言っているようなものです」


「……」


 余計(よけい)な事を言うなよと、マークスはメルティナを(にら)む。

 しかし、エドガーの無言の視線(しせん)を受けて、観念(かんねん)したように言う。


「ああー。わーった。わーーったよ……教えてやる。やるからその目止めろって……」


「何ですかその目って……」


「悪かったって……ほらよ、これだ」


 マークスがポケットから取り出したのは耳飾り(イヤリング)だった。

 小さな(かざ)りのついた、女性用の耳飾り(イヤリング)だ。


「……これは?」


「……【声凛(せいりん)のイヤリング】……帝国産(・・・)の、“魔道具”だ」


「――!?」


 帝国。エドガーの脳内に、エリウス皇女(こうじょ)の顔が浮かぶ。

 自分をスカウトしてきた、あの青髪の少女。


「ど、どうしてそんなものをマークスさんがっ!?」


「イエス。正直に()べてください」


「分かってるって言ってんだろ!お前(メルティナ)も、その武器(かま)えてねぇで座れやっ!」


 【エリミネートライフル】を(かま)えていたメルティナに苦情(くじょう)を言い、マークスは(あきら)めて座る。

 エドガーの指示(しじ)で、メルティナも大人しく座ってくれた。


「ちょっと、その前にいっぷくを……」


「「……」」


「……――わーったよ」


 葉巻(はまき)を吸ってからと思ったマークスだったが、エドガーとメルティナに(にら)まれて、渋々(しぶしぶ)(あきあ)めたのだった。


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