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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 1章《帝国内乱》
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11話【行方】



行方(ゆくえ)


 自室に(こも)って、一人気を集中させる紫紺(しこん)の髪を(たば)ねた女性。

 薄布(うすぬの)のネグリジェ一枚で身を隠し、大胆に胡坐(あぐら)をかいてベッドに座り込む。

 スゥー、ハァーっと、何度も深呼吸(しんこきゅう)をしながら、一人の少女の魂(・・・・)を探る。


「……如何(いかが)ですか?フィルヴィーネ様……」


 同じベッドには、フィルヴィーネの部下である“悪魔”リザ・アスモデウスが、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで(あるじ)を見守っていた。


「……」


 フィルヴィーネは目を開ける。

 フゥゥゥーっと大きく息を()くと、ベッドから足だけを下ろして、首を横に振るった。


「そうですか……」


 それだけで、失敗だという事は当然リザにも分かる。

 リザもベッドからジャンプして、自分専用(せんよう)に作ってもらった小さなドアから出ていく。

 とてとてっと、可愛らしい人形の様に歩くリザを見送り、フィルヴィーネは汗を()いたネグリジェを脱ぎ捨てる。


「リザはエドガーの所に行ったか……」


 何も言わずに出て行ったのは少々腹立たしいが、これもリザの配慮(はいりょ)だと胸に押し込んで、フィルヴィーネは背伸びをする。

 グググっと身体を伸ばすと、ブルンと大きな胸が(はず)む。


「サクラの(たましい)は……聖王国(ここ)には無いやもしれぬな……どこに行ったのだ、あの小娘は」


 ここ数日、毎日のようにサクラの(たましい)を探っていた。

 《石》にも所持品にも、残留思念(ざんりゅうしねん)は感じられなかった。


「これが、ただ死んでいるだけであれば、“神”の力でどうにでも……――」


 自分が、“神”として干渉(かんしょう)しようとしてしまった事に気付き、首を振る。


「いや……それはいかんな、まったく。どうすれば……自分の記憶だけを無くせるのだ……」


 フィルヴィーネは、サクラを見込んでいた。

 (かしこ)さもあり、臨機応変(りんきおうへん)に対応出来る気概(きがい)もある。

 ただ、少し精神的に不安定だった、という事だ。


「それが、ここまでの事象(じしょう)に変わるとはな……」


 一人の少女が居なくなっただけで、周辺の環境(かんきょう)はガラリと変わった。

 異世界人達の主人(しゅじん)であるエドガーは、毎日を(いそが)しそうに奔走(ほんそう)して、調べ物や“魔道具”の実験の試行錯誤(しこうさくご)をしている。


 ローザとメルティナは、王城に行き。

 特にローザは、住み込みで王女の指南役(しなんやく)をしている。

 その合間に、王城にしかない重要書物(じゅうようしょもつ)などから情報を探っているのだが、まさか一切の情報を得られずにいるとは。


 メルティナは連絡係だ。

 サクラがいなくなったことで、【心通話】と言う能力が使えなくなった。

 遠方(えんぽう)との連絡を買って出たメルティナは、エドガーとローザ、()いてはエミリアやローマリア王女との情報共有(じょうほうきょうゆう)の生命線になっていた。


 そしてサクヤは、記憶を失くしたサクラの世話をしている。

 サクラの残った記憶が自身の妹、コノハの記憶である事もあるだろうが、(みずか)過酷(かこく)な事を()いているようにも見える。


「――いいのかエドガー。バラバラだぞ……このままでは」


 距離(きょり)は近く、意志も統一(とういつ)できている。

 しかし、異世界人と《契約者》は一つだ。

 (はな)れれば(はな)れる程に、身体能力や《石》の能力が(おとろ)える事は(すで)に分かっている。

 特にローザとフィルヴィーネは、まともに戦えない所まで来ている。


「この世界の現地民(げんちみん)とならば、そう苦戦はしないだろうが……」


 フィルヴィーネは(あご)に手を当てて、最悪の事態(じたい)も考える。

 この状況(じょうきょう)で、ローザが孤立(こりつ)して誰かと戦うことになれば、苦戦も考えられるという事だ。


「……ガブリエルがいる時点で……他にもいる(・・・・・)可能性を考慮(こうりょ)せねばならんからな……」


 ガブリエル。【四大天使】の一人で、本名をスノードロップ・ガブリエルと言う。

 サクラの怪我(けが)を治した【月の(しずく)】を(ゆず)ってきた“天使”。

 彼女が、千年以上も生きていてここに居るのならば、それは関係ない。

 だが、フィルヴィーネ達と同じ、過去の世界から“召喚”された存在だったならば、話しは別だ。


「不老不死である“神”の存在を感じないのも……《魔界》に転移(てんい)できないのも……それならば納得(なっとく)がいく」


 その納得(なっとく)とは。

 ――世界は、一度(ほろ)んでいるという仮説。その(さい)に、“神”も“魔王”も消滅した。そう考える事が、一番つじつまが合う。


「――しかしだな……“神”が生まれ変わっている形跡(けいせき)すらないからな、この世界には……ただ一つのヒントがあるとすれば……ベリアル(・・・・)だが」


 ヒント。それは、【東京タワー】で感じた、同族(まぞく)の反応だ。

 実際目にしたわけではないが、間違うはずはない。

 フィルヴィーネは「うーむ」と、今度は腕組をして考え込む。最近はこの()り返しだった。

 ベッドに座り直して、目を(つむ)って(うな)る。

 元“神”の“魔王”でも、考え事は()きないのであった。





 エドガーは、地下の部屋(エドガーの父エドワードの部屋)で、古書を読み(あさ)っていたのだが、しかし。


「……駄目(だめ)だ、これも読めない……」


 乱雑(らんざつ)に置かれた古書の山は、(すで)に十冊を超えている。

 分厚い本の一文字すらも見逃さない様に、目を()らして集中する。

 だが、古代文字で書かれた文字は、聖王国で一般的に使われる文字、【カルン文字】ではなく、【召喚師】が使う【ルーンス文字】でもないものが多かった。


「父さんは、どこでこんな物を手に入れてたんだろう……」


 (なぞ)が深まる父の行動力。


「これも駄目(だめ)か……せめて“召喚”に使う【ルーンス文字】だったら……」


 エドガーの目の(クマ)は、(ひど)いものだった。

 最近の睡眠時間は、大体一日三時(さんとき)(3時間)だ。

 それも、誰かに休めと言われなければ、寝ようとはしなかった。


「いや……そんなことを言ってたら駄目(だめ)だっ……!少しでも多く何か見つけて、サクラを……元に」


 そう一人言って、エドガーは古書に目を通す。

 本日は、この部屋から出てくることは無かった。





 そろりそろりと、メイリン・サザーシャークは階段を上がって行く。

 実は、今し方までエドガーの様子を見ていたのだ。


「――どうであった?メイリン殿」


「全っ然休んだ気配(けはい)はなかったわ。ほらこれ、昨日の(・・・)


 メイリンが持ってきたのは、ドア入り口に置いておいたエドガーの夕食だ、ただし前日の。


夜業(よなべ)仕事をしていたのだな、主様(あるじさま)は……」


「多分ね。まったく、昔からそうなのよ……夢中(むちゅう)になると、(まわ)りが見えなくなって」


 弟を心配する姉のように小言を言い、メイリンは前日の食事を片付ける。

 サクヤと並んで歩き、厨房(ちゅうぼう)まで来ると。


「……」


 勿体(もったい)無いと思いながらも、冷たくなった食事を捨てる。

 夏前で、食材が傷みやすくなっている為だ。

 そして、食材保管用の(つぼ)から何かを取り出す。


「それは……?」


 それは、小さい袋だった。


「ああ、これね。サクラが(かばん)から取り出した、サクラの世界の食べ物よ」


「こ、米ではないか……そうか、そう言えばいつかそんなことを言っていたな……」


 サクラが自分の世界の食べ物を食べたいと言って、(かばん)から材料を取り出した事があった。

 サクヤは食べていないが。


「そうそう、それ……」


 フィルヴィーネが“召喚”される直前だったはずだ。

 その時の残りが、まだ残っていたのだ。


(にぎ)(めし)にでもして、主様(あるじさま)に持っていくのはどうだろうか……」


 厨房(ちゅうぼう)(たな)には、その時に使用したと思われる器具も多々あった。

 キャンプ用の飯盒(はんごう)に、しゃもじ、小さめの茶碗(ちゃわん)

 これはサクラの物だったのだろうか、桜の花が(えが)かれた可愛らしいものだった。


「そう言えば……」


「ん……?」


 メイリンが、米の入った袋を見て不思議(ふしぎ)そうに言う。


「この袋の文字……エドガー君が読んでた本の文字に似ているなぁって……」


「――え?」


「……へ?」


 何か変な事を言ったかと、メイリンはキョトンとする。

 しかしサクヤは、その言葉に意味を瞬時に理解して、米の入った袋を見る。


「この文字は……《ヒノモト》の……?」


 形状(けいじょう)は少し違うが、サクヤにも多少は読める。

 日本で一般的に使われる、平仮名(ひらがな)片仮名(カタカナ)漢字(かんじ)だ。


主様(あるじさま)の読んでいた本の文字が……これと同じだと言ったのか、メイリン殿っ」


「――え、ええ。似ているなぁって……」


 それは、古代文字とされたこの世界の不思議(ふしぎ)の一つ。

 どこから来たものか、どこで見つかったものか、いずれも不明だ。

 ただ一つ分かるのは、それが【召喚師】の家系に代々残されているという事。

 なにも、父エドワードが集めて来たものばかりではなく、先祖代々(・・・・)の物も(ふく)まれていたという事だ。


「よくぞ言ってくれた!メイリン殿、感謝するぞぉぉぉぉ~~……」


 ローザやフィルヴィーネも読めていなかった文字。

 二人に読めなければ自分が読める訳ないと、確認すらしなかった。

 それは、大きな失敗だった。

 メイリンとサクラのお陰で、エドガーはまた上に行けるかもしれない。

 そう確信して、サクヤは米の袋を持って()け出した。


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