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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 1章《帝国内乱》
225/383

01話【代わってしまった日常1】

第2部に移り変わったという事で、話数も1話からにしました。

よろしくお願いいたします!


誤字修正しました!

報告ありがとうございます。



◇代わってしまった日常1◇


 【火の月86日】。

 あの日(・・・)から、(すで)に二十日が()っていた。

 この世界とは別の世界、【地球】と呼ばれる世界から来た少女、サクラ。

 その少女が、命を(かえり)みずに仲間を救った事は、誰が見ても勇気ある事だと言える。

 だが、その少女自身が戻らなければ、何の意味もなかった。


 命がなくなった訳ではない。

 身体も、【月の(しずく)】と呼ばれる貴重な“魔道具”のお陰で、傷一つない。

 しかし、目を覚ました少女の口からは、その少女を思わせる言葉は出てこなかった。

 そして――現在。





 【リフベイン城】。

 王城の秘蔵図書館(ひぞうとしょかん)で分厚い医学書を(あさ)る赤髪の女性は、肩にかかるその髪を鬱陶(うっとう)しそうに(はら)ってため息を()く。


「……駄目(だめ)だわ、医学書は頼りにならない……そうよね。能力(スキル)の事なんて、()っている訳ないのに……」


 赤髪の女性。ローザこと、ロザリーム・シャル・ブラストリアは、この国の第三王女、ローマリア・ファズ・リフベインからの依頼(いらい)を受けて、指南役(しなんやく)として入城した。


 それから日数も()ち。

 ローザは今日も、王女の指南(しなん)の資料と銘打(めいう)って、図書館(としょかん)で調べ物をしていた。


「――お疲れ様、ローザ……今日は、どう?」


 一人の少女が、ローザに声を掛けて、(つくえ)にティーカップを置く。

 ローザの手元にコトリと置かれたカップには、ミルクティーが並々(なみなみ)と注がれていた。


「……エミリア」


 エミリア・ロヴァルト。

 【召喚師】エドガー・レオマリスの幼馴染にして、この国の【聖騎士】の一人。

 第三王女ローマリアの護衛騎士でもある。


「調べ物もいいけどさ、自分の身体は大丈夫なの?……エドと(はな)れて、もう結構()つけど、確か(はな)れすぎるとダメなんでしょ?」


 エミリアは、エッグゴールドの金髪を(たば)ねて(うなじ)付近でぴょこぴょこ()らしていた。

 季節は夏目前だ、ローザが髪を鬱陶(うっとう)しく思うのも無理はなかった。

 近頃(ちかごろ)は、ずっと雨続きで湿気も(ひど)いからだ。


「――分かっているわ。けれど、サクラがどうしてああなった(・・・・・)のか……私も出来る事をするって言ったもの、エドガー達も……きっと頑張っているわ……」


「それは……そうだけど」


 エミリアはローザの隣の椅子(いす)を引き、腰を下ろす。

 小難しそうな医学書に目を通すも、秒で(あきら)めた。


「……あの日。サクヤに呼ばれて部屋に言ったら……あの子(サクラ)はいなかった……そこにいたのはサクヤの妹……コノハ(・・・)


「……うん。私も翌日、かな。見た時は(おどろ)いたよ……サクヤのあんな(つら)そうな顔もそうだけど、どう見ても別人だったもんね、サクラ」





 ~二十日前・【福音のマリス】・夜~


『――主様(あるじさま)っっ!!』


 血相(けっそう)を変えて(あるじ)を探す、【忍者】サクヤ。


『……サクヤ?どうしたの、もしかしてサクラが……?』


 エドガーは、ランプに油を追加している最中(さいちゅう)だったが、その手を止めてサクヤを向く。


『――はいっ……目を覚ましました。で、ですが……』


 しかしエドガーはハッとする。

 (ひたい)に感じない《契約者》の(あかし)が、(すで)にそれを予期(よき)させていたからだ。


『分かった。サクヤはサクラについていて。僕は、皆を連れて行くから』


『……はい。主様(あるじさま)……』


 元気なく、それでも急いで部屋に戻るサクヤ。

 エドガーはその背から最後まで視線(しせん)を外さず、完全に見えなくなると、椅子(いす)から腰を上げて行動を開始した。




『……どういう事?』


 サクラを見るローザの視線(しせん)は、混乱に満ちていた。

 エドガーだって同じ気持ちだし、フィルヴィーネも不思議(ふしぎ)そうに(のぞ)いている。


『……あ、姉上(・・)……』


 サクラは、ひしっとサクヤの(そで)を引っ張り、怖がっているように見える。

 引き寄せたサクヤの腕に顔を隠し、(おび)えたフリ(・・)。ではなく、完全に(おび)えていた。


『……(たましい)が感じられぬな。別人だぞ――この娘』


 “魔王”であるフィルヴィーネ・サタナキアが、(あご)に指を()わせて、興味深(きょうみぶか)そうに見つめる。

 ローザも、追随(ついずい)するようにサクラを(のぞ)き込むが。


『――ひぅっ!』


 一瞬目が合っただけで、サクラはタオルケットの中に隠れてしまった。

 中では『姉上!姉上ぇぇ』と、今にも泣きじゃくりそうだった。


『……そ、そこまで(おび)えられると……私も傷つくのだけれど』


 片手で顔を(おお)い、ショックを受けるローザ。

 笑える状況(じょうきょう)ではないが、ローザのおかげで、エドガーはほんの少しだけ冷静(れいせい)になれた。


『サクヤ。サクラ、いやこの子、もしかして……』


『……――はい。わたしの双子の妹……コノハだと思い……いえ、コノハです』


 タオルケットの中のサクラを優しく()でながら、サクヤは言った。





 話しがまとまらないままサクラは眠ってしまったため、エドガー達は一階の休憩所で話し合う。

 エドガーが()れたコーヒーを飲みながら、静かに口を開くサクヤ。


『……――わたしの責任(せきにん)です。サクラが……ああなったのは。わたしが余計(よけい)な事を言わなければ、こんな事にはなりませんでしたっ』


 下を向き、(くや)しそうに(くちびる)()む。


『……サクヤ……』


『ふむ。一理ある。あの時話したお(ぬし)の過去、確かにそれを聞いてから、サクラの様子は異常だった……だが、それを()まえて荒野では(われ)らも色々と(さく)(ろう)した……水泡(すいほう)だったがな』


『フィルヴィーネ。それは……』


 サクヤは、フィルヴィーネの言いたい事を理解している。

 『言いすぎだ』と(せい)そうとしてくれたローザに、視線(しせん)で礼を言い。


『――分かっています……主様(あるじさま)やローザ殿、メル殿フィルヴィーネ殿が、わたし達に気を回していただいたこと、感謝しています。ですが、わたしもサクラも、本心でぶつかる事が出来ませんでした……言ってやればよかった。サクラはサクラだと……わたしの妹ではないのだと。でも……出来ま、せん……でした……』


 (くや)しさで(ひとみ)()れる。

 後悔(こうかい)で押し(つぶ)されそうになる。

 それでも、責任(せきにん)がある。


『――わたしが、サクラを元に戻して見せます……絶対に、必ず……』


『サクヤ。全部背負(せお)わなくていいわ……私も、私達もいる……明日から、少しずつ進んでいきましょう……今日の明日で、帝国の奴らも何かをしてくるとは思えないし、王女に報告(ほうこく)もあるでしょう?』


 ローザの言葉にエドガーが(うなず)く。


『うん。そうだね……病み上がりになって悪いけど、メルティナが目を覚ましたら伝言をお願いするよ。()ぐに来てくれると助かるけど、()ずは明日……僕も色々調べてみる――フィルヴィーネさんも、協力お願いします』


 頭を下げるエドガーに(なら)って、サクヤも頭を下げる。


『――お願い申し上げます!フィルヴィーネ殿……!』


 椅子(いす)にふんぞり返っていたフィルヴィーネも、二人のその姿勢(しせい)には文句が無かった。


『……――分かっている。(われ)が話しをさせた責任(せきにん)も、少なからずある……出来る限りの事はしよう』


『ありがとうございますっ』

『感謝しますっ!フィルヴィーネ殿……!』


 そう言って、その日の話し合いは終えた。

 サクヤは部屋に戻り、エドガーはメルティナの部屋に向かった。

 残されたローザとフィルヴィーネは。


『……どう思う?本当のところ』


『そうだな……(われ)の見立てでは、サクラは【人格変更能力】を持つのだろう?』


『ええ。【ハート・オブ・ジョブ】だったかしら』


 思い(えが)いた人物になりきる事が出来る、サクラだけの能力。

 なりきった人物のステータスや能力を引き出し、性格まで変えてしまう能力(スキル)だ。


『簡単な話し、サクヤの妹に成り代わったのだろう……代わったまま、そうして瓦礫(がれき)に押しつぶされ、記憶を失った……元の自分の記憶を(・・・・・・・・)、な』


『……じゃあ、あれはサクラが思い(えが)いたサクヤの妹?』


『――いや。サクラがサクヤの妹……コノハの生まれ変わりなのは確定であろう。サクヤも断言(だんげん)しておったしな。それ(ゆえ)に……(ひど)い話しになりそうだ……』


『……そう、ね……』


 サクラの記憶が戻っても、コノハが今度は消えてしまう。

 サクヤも、きっと理解しているはずだ。今いる妹は――存在して(いて)はいけない、幻なのだと。


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