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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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エピローグ【帰還、そして動乱へ】

第一部、完。


誤字修正しました。

報告ありがとうございます。



帰還(きかん)、そして動乱(どうらん)へ◇


 ローザが必死に、なけなしの魔力で運転した【ランデルング】を北の門近くに停車(ていしゃ)させ、エドガーはサクラを背負(せお)った。

 すぅすぅ――と、浅くだがしっかりと感じる呼吸(こきゅう)に、エドガーは安心する。


 (すで)に夜は近く、ぽつぽつと王都に蠟燭(ろうそく)(あか)りが点灯し始めていた。

 メルティナはフィルヴィーネが背負(せお)い、実はかなりの重症者(じゅうしょうしゃ)であるサクヤは、ローザが肩を貸して歩き始めた。

 目的地である宿屋【福音のマリス】は、北門に近い位置にある為大した苦労(くろう)ではないが。

 全員、物凄く疲れた顔をしていた。


 エドガーは、サクラを背負(せお)いながら歩いていくと、宿の前で全員で深いため息を|吐《》ついた。

 やっと帰ってこれたと、心底安心したのだ。

 誰も待っていない()が家ではあるが、ここまで安心出来るのかと(おどろ)いた。


「……僕はサクラを部屋に連れて行くよ。サクヤは手当(てあ)てね……メルティナも、意識(いしき)が戻るまでは部屋でいいかな」


 エドガーは指示(しじ)を出す。

 ローザとフィルヴィーネは(うなず)いてくれた。

 扉を開けて、()ぐに蠟燭(ろうそく)()を点ける。

 それを確認して、たいまつ替わりをしていたローザが右手を下ろした。


「……ほれ、ロザリーム。サクヤを連れて来い……手当(てあ)てするのであろう」


「え、ええ。そうね……行くわよっ?」


「――あ、あぁ……すまぬ」


 サクラの事が気がかりなのだろうが、サクヤもかなりの重症(じゅうしょう)なのだ。

 ご自愛(じあい)してもらわなければ。





「よっ……と」


 ゆっくりと、サクラを二階の自室のベッドに寝かせて、タオルケットを掛けるエドガー。


「……感じない……な」


 エドガーは、サクラとの契約の(あかし)である自分の(ひたい)()れる。

 そこに契約の《紋章》は無く、サクラの(ひたい)の【朝日の(しずく)】も、光を失っていた。


「……大丈夫、だよね……サクラ」


 彼女が寝ている事を確認して、エドガーは部屋を出る。

 一抹(いちまつ)の不安を(かか)えつつも、やることが沢山ある。

 ドアは開けっ放しにしておいて、いつ何があってもいいように出ていくのだった。




 一階に戻ると、サクヤがローザに包帯を巻かれていた。


「――ちょっ……ローザ、不器用(ぶきよう)すぎだよっ……!」


 サクヤはダルマのようになっていた。

 包帯(ほうたい)でぐるぐる巻きにされて、目元だけが出ている。


「やふぁりほうれすふぁ……あういふぁま」

(やはりそうですか……主様(あるじさま))


「……し、仕方ないでしょう……手当(てあ)てなんてしたこと無いのだし……そんな事を言うなら代わって!」


「は、はぁ……」


 エドガーは、ぐるぐる巻きのサクヤを解放し、傷だらけのサクヤを(あらた)めて見る。

 サクラとメルティナが大怪我(おおけが)を負ってしまった事で、(うす)れがちだったがサクヤも相当な大怪我(おおけが)だ。

 肩はぱっくりと割かれ、()り傷切り傷も絶えない。


「……ごめんサクヤ……僕が、もう少ししっかりしていれば」


 エドガーは、包帯(ほうたい)を巻きながら(あやま)る。

 【東京タワー】攻略のメンバーを決めたのはエドガーだ。

 メルティナを残していたが、外にも敵がいるという事を考えていなかった。


 その【東京タワー】は、あの後に姿を消した。

 完全に元の荒野に戻り、残されたのは大量の骨だけ。


 それを王女に報告すると同時に、西の国、【魔導帝国レダニエス】の事をどう報告するか。

 考えを(めぐ)らせながらサクヤの手当(てあ)てをしていると、サクヤが。


「わたしは……サクラに(あやま)らねばなりません……主様(あるじさま)やローザ殿、フィルヴィーネ殿がくれた好機(こうき)を、わたしは見す見す逃したのです……」


 荒野でのやり取りの事だろう。

 サクラとサクヤの空気感を何とかするために、エドガーとローザは何度か機会(きかい)を与えていた。

 フィルヴィーネは、戦ってまで考えを聞き出してくれた。

 だが、サクヤはそのチャンスを手放したと言う。

 タイミングが悪かったのは(いな)めないだろう。ただ、結果が最悪過ぎたのだ。


「そんな事は……」


「――そうね」


「ちょ、ちょっと、ローザっ!」


「――うぐっっ!」


「ああ!ごめんサクヤ……!」


 否定(ひてい)しようとしたエドガーと、そのまま返答したローザ。

 エドガーはローザの直球を返そうとしたが、包帯(ほうたい)を持つ手に力が入り過ぎた。


「い、いえ……その通りですから。サクラに、(あやま)らねば……わたしは」


 それはきっと、サクラも同じはずだ。


「せめて、あの者と普段通りに戦えていれば……きっとサクラがあのような目にあう事は無かったのです……わたしは、未熟ですっ」


(あの者?……外にいた敵の事、かな?……いや、それは後で聞こう)


 サクヤは(うつむ)き、涙を流す。

 エドガーもローザも何も言わない。言えない。

 しかし、一人グサグサ物言う者がいた。


「――当然だ。お主等(ぬしら)はまだ十代の小娘(ガキ)……未熟(みじゅく)な事は当然だ、異世界人だからと胡坐(あぐら)をかくな。心身を(きた)えろ。相手に遠慮(えんりょ)をするな」


 フィルヴィーネだった。メルティナを寝かせて来て、リザを胸元に(はさ)んでいる。

 サクラの部屋とメルティナの部屋は隣だが、エドガーより遅れて来たのは、自室で何かしてきたからか。

 というか、リザの顔色が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)悪いのだが。


「本音を(さら)け出せとは言わぬ……小娘(ガキ)小娘(ガキ)らしく、ハチャメチャに生きろ。お主等(ぬしら)は、若さだけ(・・)(われ)に勝てるのだからな……」


 クックックと笑いながら、休憩所に入って来るフィルヴィーネ。


後悔(こうかい)しないように立ち回ることなど、心が未熟(みじゅく)なお主等(ぬしら)では無理もない……後悔(こうかい)しろ。その先に、後悔(こうかい)を振り切るほどの何かがあると信じてな」


「何かって何よ?」


「それは知らぬ。自分自身で探せ……クックック……アーッハッハッハ!」


 高笑いしながら、フィルヴィーネは食堂に向かっていった。

 後を追うように、ローザも付いていく。

 お腹が空いているのだろう。


「……後悔(こうかい)しろ。ですか……結構な事を言いますね、フィルヴィーネ殿は……」


「あはは……そうだね。後悔(こうかい)なんてしない方がいいんだろうけど……やっぱり……生きていれば、後悔(こうかい)することの方が多いから、それでも進んでいく為に……後悔(こうかい)を残さないために……精一杯(せいいっぱい)生きていくことで、見ていてもらいたい、かな。僕は……――よし、終わりだよ」


 (かわ)いた笑みを浮かべながら、エドガーはサクヤの手当(てあ)てを終える。


「……感謝いたします。主様(あるじさま)


「うん。いいよ、行っても」


 サクラの所に。


「――はい」


 ゆっくりと()み出すように、サクヤは二階へ向かっていった。





 空を飛ぶ(・・・・)馬車の中で、ずっと(うつむ)きっぱなしのリューネを、レディルがペシンと頭をはたく。


「……痛い」


「……ならそんな顔してんじゃねぇ!こっちが滅入(めい)るだろうがっ!!」


 隠れていたエリウス達三人を迎えに来たのは、リューネだった。

 その後は“魔道具”【天馬の(くら)】を使って、空飛ぶ馬車で西国レダニエスまでひとっ飛びだ。


「リュ、リューネ……申し訳なかったわ」


「いえ……エリウス様が(あやま)られる事では……」


「そりゃそうだな。コイツが勝手に引きずってんだけだろ……――っで!!痛ってーな!」


 エリウスに【魔剣】の(さや)で殴られ、後頭部を押さえながら文句(もんく)を言うレディル。


(だま)りなさいレディル!リューネは悪くないわ……それに、この“魔道具”を貸してくれたあの“天使”にも、礼をしなくてはいけないわ、嫌だけれど……」


 リューネは、スノードロップに【天馬の(くら)】を借りて、エリウス達のもとに()け付けていた。

 スノードロップは、どうやら転移(てんい)で先に帰った様だが。

 それを聞いたエリウスは、渋々(しぶしぶ)お礼をと考えているらしい。


(……シュルツ・アトラクシア軍事顧問(ぐんじこもん)が連れて来た、三人の部下……その一人、“天使”スノードロップ……異世界の客人(・・・・・・)……味方であるという保証(ほしょう)はないのに、陛下(へいか)も兄様も……気を許し過ぎなのよ……)


 シュルツのもとにいるのは、三人の異世界人だ。

 “天使”スノードロップと、ノインと言う幼女。そしてもう一人の女がいる。


 スノードロップ達は、自分達から()れ回っている、異世界人であるという事を。

 それはつまり、エリウスがいつでも“送還(そうかん)”出来るという事でもある。

 しかし、魔導帝国の皇帝陛下(こうていへいか)であるエリウスの父がそれを認めない限り、エリウスは手を出せない。


 国外では、【送還師】の(にん)は自由だ。

 しかし国内では、皇帝陛下(こうていへいか)承認(しょうにん)が必要だった。

 更には、“送還(そうかん)”に必須の“魔道具”。

 それは、皇帝陛下(こうていへいか)が常時管理している。

 初めから、今回の(とう)を“送還(そうかん)”する(すべ)は無かったのだ。


 軍事顧問(ぐんじこもん)シュルツ・アトラクシアの(あず)かりは、エリウスの兄で皇太子(こうたいし)、ラインハルト・オリバー・レダニエスが一任(いちにん)されている。

 協力者とは言え、異世界の脅威(きょうい)を身近に置いていることが、エリウスには不安でしかなかった。





「……サクラ。ごめんなさいね……わたしは、お前に余計(よけい)な事ばかり()き込んでいたみたい……サクラ、目を覚まして……」


 普段の変?な口調(くちょう)では無く、サクヤは椅子(いす)に座りながら、サクラの(ほほ)()でる。

 “愚者”を演じた【忍者】の、本当の口調(くちょう)


 本当は、横文字だってスラスラ言える。

 記憶力だって、正直ローザよりいい自信がある。

 話しだって、今まで聞いていない()りだけで、しっかりと聞いていた。


「……サクラ、お前はサクラだ……サクラでいいんだ……何にもならなくていい、そのままでいて頂戴(ちょうだい)……サクラっ」


「……ん……ぅぅ、ん」


 その黒き【魔眼】を見開いて、サクヤは椅子(いす)()とばし、サクラに肉迫(にくはく)する。


「――サクラっ!!」


 うっすらと目を開け、サクヤを見据(みす)えるその(ひとみ)は、涙に()れていた。


「……ぁ……ぇ……」


「大丈夫、問題ない!お前は大丈夫だ……サクラっ!!」


 喜びと安心で、胸を()で下ろした。

 しかし、まだ意識(いしき)(うす)れていたサクラの口から出た言葉は。


「……御久しく御座います(・・・・・・・・・)……姉上(・・)……」


「――サ、ク……ラ……?」


 そこに、服部(はっとり) (さくら)は――いなかった。




 ~残虐(ざんぎゃく)の女王が求めるもの~ 終。


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