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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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203話【絆が生まれる瞬間】



(きずな)が生まれる瞬間◇


 【東京タワー】の別方向に降り立ったエリウス達【魔導帝国レダニエス】の三人は、すぐさま行動を開始しようと(こころ)みる。


「――エリウスが法衣(ほうい)を脱いでこっちに来た時は、心臓が飛び出るところだったぜ……」


「うむ。同意だ」


「し、仕方がないでしょう……あの魔法使い、ローザに一枚食わされたわ……消えない炎(・・・・・)だなんて想定(そうてい)してないわよっ」


 足の具足(ぐそく)に付けた浮遊(ふゆう)の“魔道具”を解除し、エリウスは近くを見る。

 少し離れた場所に、エドガー達がいる。

 顔を確認できないほどの距離(きょり)だが、(さわ)がしい気もする。


「――で、どうすんだ?リューネを待つか?ま、あいつが上手くやってればの話だがなっ」


「……馬車の場所が分からん。入れ違いになっても困る……少し離れて待つのが得策(とくさく)でしょう」


 カルストはレディルに、次にエリウスに向けて言葉を並べた。

 その言葉にエリウスは(うなず)いて、ゆっくりとこの場を去る。


「ええ、そうしましょう……」

(また、近いうちに会いましょう……エドガー、ローザ……)





 慟哭(どうこく)するサクヤの背に、エドガーは手を()える。

 何も出来ない自分に、エドガーは歯を食いしばる。

 ローザが心臓マッサージを(こころ)みているが、出血が異常だった。


「――戻ってきなさい!サクラっ!!」


 回復の(すべ)を持たないローザでは、治癒(ちりょう)することは出来ない。

 もしメルティナを無理矢理起こしたとしても、魔力不足でまともに使える装備を【クリエイションユニット】から作れるとは思えなかった。

 エドガーが魔力を譲渡(じょうと)したとしても、失った血液は戻せない。

 何も出来ない状況に、エドガーは声を()らす。


「……くそっ」


 こんな時だけ、変に頭が回る。

 無駄(むだ)だと分かっている時に(かぎ)って、しっかりと答えを出せてしまう。

 そんな自分に最大限の嫌悪(けんお)(いだ)いて、エドガーは見守る事しかできなかった。


 冷たくなった手を(にぎ)り、嗚咽(おえつ)()らして泣き続けるサクヤ。

 ()れ出ていく言葉は、自分を責める刃となって自傷をする。

 わたしのせいだ、わたしを(かば)ったから、わたしが代われば。


「……」


 やがて、ローザの手が止まった。


「……エドガー、ごめんなさい……」


 息を(あら)くして、ローザが(あやま)る。


「……なん、で……ローザが、あや、まる……」


「う、うぅ、サクラ……サクラぁぁ……」


 ローザは、一番最善(さいぜん)()くしてくれただろう。

 魔力の少ない状態(じょうたい)で《魔法》を使い、それでも懸命(けんめい)に動いてくれた。

 サクヤだって、怪我(けが)をしているのに必死にサクラを探していた。


 何も出来なかったのは――自分だけだ。


 ローザが、サクラの(ほほ)()れる。

 (さいわ)いと言っていいものか、心臓と頭は無事だった。

 顔は綺麗なまま、その(ほほ)にローザの涙がこぼれた。


「――どけっ……お主等(ぬしら)邪魔(じゃま)だ!」


「――!?」

「フィ、フィルヴィーネ……?」


 いなくなったと思っていたフィルヴィーネが、突如(とつじょ)目の前に現れる。

 (けわ)しい顔でサクラを見やると、その手に持った(・・・・・)小指程の(つつ)を開けて――サクラに()りかざした。





 フィルヴィーネが転移(てんい)した先は、誰もいない渓谷跡(けいこくあと)だった。

 気を失うリザを優しく()でやると、ゆっくりとその口を開く。


「……出てこい……ガブリエル(・・・・・)


 “神”であった時の部下であり、【四大天使】に数えられる“天使”の一人、ガブリエル。

 (かげ)から現れたのは、白銀の髪を風に(なび)かせる、おっとりとした女性。

 メルティナと戦っていた、スノードロップだった。


「――お久しぶりですね。ニイフ様……何年ぶりでしょうか」


ニイフ(それ)は止めろ、(われ)は“魔王”フィルヴィーネだ……」


「これは失礼しました……《残虐(ざんぎゃく)の魔王》、フィルヴィーネ・サタナキア」


 渓谷(けいこく)の壁に寄りかかり、フィルヴィーネは苛立(いらだ)ったまま乱暴(らんぼう)に言い放つ。


「――あの(とう)にいる最中(さいちゅう)、ずっと(われ)らを見ていたのはお前だな……?」


 大方の検討(けんとう)は付いているのか、答えを完全に言わないのは、聞き出すためか、それとも情けか。


「……やはり、気付かれていましたか。流石(さすが)でございます……」


「つまらぬことをしてくれる……妨害(ぼうがい)とはな、お陰で(われ)らは大惨事だ」


 スノードロップは、ウフフと(ほほ)に手を当てて笑い。


「はい。それについては、わたくしも悪いと思っています……ですのでこうして、お呼びした(・・・・・)のですわ」


 スノードロップは、胸に(かがや)く《石》に()れる。

 【運命の水晶デスティニー・クォーツ】。

 フィルヴィーネの紫水晶(アメジスト)とはまた違い、完全なる透明(とうめい)な、()き通った水晶(すいしょう)だった。


「……」


 フィルヴィーネがあの場から消えたのは、何も仲間を見捨てた訳ではない。

 この《石》の反応を感じ、その反応を頼りにここまで転移(てんい)をしたら、感じ覚えのある持ち主の気配(けはい)があったという訳だ。


「“魔王”フィルヴィーネ――これを。お()びの(しな)です……」


 スノードロップはフィルヴィーネに歩み寄って、(ひざまず)き差し出す。

 小指サイズの小筒(こづつ)を。


「……これはっ!【月の金木犀(きんもくせい)】か……!」


「はい、今の名を……【月の(しずく)】……西国レダニエスで作られた、“魔道具”ですわ」


「――金木犀(きんもくせい)治癒(ちゆ)の力を……人間が、だと?」


 半信半疑(はんしんはんぎ)だが、手に持つ魔力の波動は本物だ。

 (うたが)っている訳ではない、が。


「“神”の秘術(ひじゅつ)である戦略機械(システム)の技術を……人間(ごと)きが複製(コピー)したと言うのか?」


「……製法(せいほう)はわたくしが流出(りゅうしゅつ)させました。この聖王国にも、金貨5枚という破格(はかく)の安さで横流しし始めている所ですわ」


「――おいっ」


「てへっ……」


 スノードロップは、可愛らしくウインクする。


「……お前……変わらぬな。何が狙いだ……?」


 “神”の秘術(ひじゅつ)を簡単に流出(りゅうしゅつ)させたかつての部下に、肩を落として(なげ)く。


「――わたくしの不徳(ふとく)で、大切な方の大切な方を傷つけてしまいました……」


「……」

(随分(ずいぶん)と回りくどい言い方をするな……)


 フィルヴィーネに勘繰(かんぐ)られている事を、おそらくスノードロップも気が付いている。

 それでも、白銀の“天使”は笑顔を絶やさず、飄々(ひょうひょう)とした態度で続ける。


「――ですので、そのお()びです……フィルヴィーネ様。今回の件を、反省(はんせい)するつもりはありませんが……次の時(・・・)の為に、少しばかりの謝罪ですわ」


 (くわ)しい事は話すつもりが無いのか、スノードロップは顔を上げ立ち上がると。

 ウフフと再度微笑(ほほえ)んで、背を向ける。


「ではフィルヴィーネ様……また(・・)お会いしましょう、わたくしと彼が再会する(・・・・)、その時まで……しっかりと彼を守っていただきますわよ……“魔王”さ・ま」


「……相も変わらず、食えぬ奴だな。恩を売ったつもりか?“天使”が……?“魔王”に」


「ウフフ……どうとって貰っても構いませんよ。何せ、そのために《(それ)》を用意したのですから」


「――なんだとっ!貴様(きさま)か!(ぬす)んだのはっ!!」


「……違いますわ。この世界で手に入れたのはわたくしですが、元の世界での盗難(とうなん)関与(かんよ)していませんよ」


「……」


 スノードロップは、【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】をこの世界で(・・・・・)手に入れたと言う。

 それはつまり、時代の流れで何処(どこ)かに安置(あんち)されていたと言う示唆(しさ)

 (いぶか)しみつつも、フィルヴィーネは理解する。


「ウフフ……お判りいただけましたでしょう?……ですが、これからも、くれぐれもご自愛くださいね――では……」


 そう言い残して、スノードロップは転移(てんい)していった。


「……なるほど。口止めという事か……大切な方(エドガー)に対しての……」


 状況証拠(じょうきょうしょうこ)と言うには少ない数だが、スノードロップの言う大切な方(・・・・)。とはおそらくエドガーだ。

 フィルヴィーネは腕組しつつ考える。


「そう言えば、メルティナと戦っていたな……――そう言う事か……何か植えた(・・・)と言う訳か……メルティナに。それ()言うなと……やれやれ、どいつもこいつも……(われ)(かせ)を押し付けおって……」


 スノードロップの得意《魔法》、妨害(ぼうがい)

 その波動は、超広範囲に及ぶものがあったと思い出す。

 効能は多岐に渡り、メルティナと戦っている最中も、何らかしらの《魔法》は掛けていたのだろう。


「……【月の雫(コレ)】に(めん)じて、少しの間は(だま)っていてやろう……だがなガブリエル。“()”は気まぐれで、退屈が嫌いなのだと、忘れるなよ……?」


 フィルヴィーネは虚空(こくう)(つぶや)く。

 そして、完全に反応の消えた《石》の余韻(よいん)を覚えつつ、【月の(しずく)】を手に、転移(てんい)を開始した。





 戻って来たフィルヴィーネは、【月の(しずく)】をすぐさま使用した。

 光り(かがや)く極小の(つぶ)は、キラキラと舞い降りてサクラの身体に降り注がれた。

 傷は見る見るうちに()え、血の気の無かった肌も赤みを取り戻していく。


「……フィルヴィーネさん……これって――いや。良かった……」


 エドガーは、突然いなくなったと思ったら、また突然現れたフィルヴィーネを不思議(ふしぎ)に思うも、見る見るうちに回復が見て取れるサクラに安堵(あんど)する。


「……――これは紫月(しづき)の力だ……確かロザリームには言ったな、戦略機械(システム)の事を」


「月にある……金木犀(きんもくせい)、だったわね。貴女(あなた)の力の(みなもと)である」


「そうだ。それを――取ってきた(・・・・・)


「……」


「……」

(まぁ、そうだろうな……ロザリームには前に、今は月に行けぬと断言(だんげん)している……(あや)しむのも当然。だが、今は何も言うなよ……)


 ローザは視線(しせん)を変えることなく、サクラの顔を(のぞ)き続けていた。

 フィルヴィーネの言葉にも考えはあるだろうが、それよりも。

 “安心”と言う二文字が、胸にいっぱいだった。


「――ありがとう。フィルヴィーネ……感謝しているわ」


「……」

(これはまた……意外な一言だ。しかし……うむ、悪くないな)


 泣きじゃくるサクヤと、ホッとしてへたり込むエドガー。

 ローザはその様子を見て、優しく笑顔を向けた。


「――さぁ、サクラをこのままにしておけないわよ。()ぐにでも宿に運ばないと。フィルヴィーネ、手伝って……あ~、エドガーもね」


「……うむ、仕方ないな」

「うん……そうだね」


 ぐすっと涙を()いて、エドガーも言う。


「フィルヴィーネさん……本当にありがとうございました!」


「――わ、(われ)は何もしておらん……気にするな。ほれ、それからメルティナを忘れるなよっ」


 「そうでした……」と、ローザが地面に寝かせたままのメルティナを、エドガーは急いで走って行き背負(せお)う。

 意識(いしき)がまだ()めないサクラは、ローザがお姫様抱っこをしていた。

 心配そうに(のぞ)き込むサクヤに「もう平気よ」と声をかけていたりと、なんだか本当に家族のように見えてくる。


 そしてフィルヴィーネが、最後に。


「よし……大盤振(おおばんぶ)()いだ。全員固まれ!【ランデルング】まで()んでやろう。(われ)(つか)まるがいい!!」


 両手を広げて、フィルヴィーネは大いに笑う。


(人間は(おろ)かで狡猾(こっけい)……卑怯(ひきょう)怠慢(たいまん)だ。だが、こうして一人の少女を救おうと尽力(じんりょく)する……(はかな)く、清らかで……(とうと)い心も持っている。()は嬉しく思う……ここに来てよかった。不自由はあるが、()は生きていこう……この世界で、お前達、人間と共に……)


 退屈(たいくつ)辟易(へきえき)し、(うば)われた《石》を求めてやって来た、(はる)(はる)か未来の世界。

 【召喚師】と言う少年に呼び出された、異世界の“魔王”が本当に求めたものは、“絆”と言う(とうと)いもので、限りある命を持つ人間の中に混じって()たその存在を、フィルヴィーネは、とても美しいと思うのだった。


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