196話【出逢い1】
◇出逢い1◇
展望台にいたエリウス達は、直ぐにローブのフードを被った。
このローブは、【薄幸の法衣】という“魔道具”だ。
使用者の存在感を薄める効果がある。
「何故こんなに近くまで気付かなかった!レディル」
「――知るかよ、俺はしっかり【死の神の眼】を使ってたっつの!!」
物陰に隠れ、いがみ合う男二人。
それに対して、別の物陰に隠れた少女二人は。
「……赤髪の女……ローザ!楽しみだなぁ!」
「――エ、エリウス様……?」
ガラリと雰囲気を変えたエリウス。
フードを目深に被り、ちらりと見える耳に光るイヤリングが、その雰囲気を変えた“魔道具”だ。
「僕は待っていたんだよっ……!強敵に逢えることを、戦える喜びをさっ!!」
少年のようでもあり、少女のようでもある。
存在を不確定にする“魔道具”、【幻想の耳飾り】。
久しぶりにこの“魔道具”を発動させた事で、エリウスも昂っていた。
少年にも少女にも聞こえる声音で、エリウスはリューネに言う。
「リューネ。相手は数人ってレディルが言ってたね……相手、出来るかい?出来るよねぇ!」
「――は、はぃっ!」
普段と違う、違いすぎる主人の昂りに、リューネは「はい」と答えるしかなかった。
◇
階段から展望台へと入るゲートまで、十刻(十分)程で到達したエドガー、ローザ、フィルヴィーネの三人。
本当はもう少し急げたのだが、何だかローザが高い所が苦手らしく、時折立ち止まっては「すぅ、はぁ」と、深呼吸をしていた。
「……何故ついて来たのだ、其方」
「エ、エドガーが決めたことに歯向かうわけないでしょ……」
若干震えながら、ローザはフィルヴィーネに言う。
エドガーは乾いた笑みを浮かべながら。
「ローザが高所が苦手だって分かってたら、メルティナに頼んだんだけどね……」
「私だって知らなかったわよ!自分が高所恐怖症だなんてっ!」
フィルヴィーネさんと空中で戦っていなかった?とは、敢えてエドガーは言わなかった。
「――む!?……ええいバカ者!落ち着かぬかっ、気付かれておるぞっ!」
フィルヴィーネは、感知対策として《魔法》を使っていた。
そのおかげで、ここまで気付かれること無くすんなりとこれたのだが、どうやら今のローザの叫びで《魔法》が歪んだ。気付かれたらしい。
意外な所でドジを踏むのがローザだと認識した。
「す、すみません!!」
「――ご、ごめん」
真剣なトーンのフィルヴィーネに、堪らず二人は謝った。
まぁ、悪いのは明白なのだから仕方が無い。
「いいか?敵は……4人だな、各々が隠れている……遮蔽物はあまりないから、直ぐに戦闘に入るだろう……ってどうした?ロザリーム……」
フィルヴィーネが丁寧に説明していることに、違和感、と言うか疑問を持つローザ。
「貴女……《石》の反応が無いのに分かるの?」
「当然であろう……魔力を感じる。微かだがな、上手く隠しているが、我には意味なしだ」
“魔道具”は隠せても、内から溢れる魔力を完全に隠すことは難しいと言うフィルヴィーネ。
「――それってつまり……初めから知っていたの?」
「……。……。……あ」
この“魔王”様は、初めから知っていたのだ。
敵が何人いるかも、どこにいるかも。魔力を感じる事で、誰よりも正確に理解していた。
聞かれなかった。
そう言われれば、もうどうしようもないが、フィルヴィーネは正直に本音を言う。
「――うむ、知っていた……だが我が本質的に手助けする事は無い。必要も無いからな……」
「そ、そんな……」
エドガーは驚くように言い、ローザは。
「“魔王”の力は絶大。貴女が介入すれば……全て滞りなく解決する……そう言いたいの?」
「――結論から言えば、そうだ。だから我は今後も、トラブルに自ずと突っ込んでいく気はない。エドガーに助けを求められれば多少は考えるが、今回のように……歯車を回す必要がある時は、絶対に助力はしない。覚えておくがいい」
歯車を回す。それは何の?誰の?
否。全員のだろう。
エドガーの、異世界人達の、運命の歯車。
フィルヴィーネはサクラとサクヤに言った。
「“運命”ではなく“必然”だと思え」と。
定められた“偶然”を“必然”と捉える事で、何事も前向きになれる。
そんな意味合いがあるかもしれないと、勝手に納得したエドガーであったが、今のフィルヴィーネの言葉を聞いて、少し思うところがあった。
それは。
「それじゃあ……今後は協力を得られない……って事、ですよね?」
「――うっ、ま……まぁまて、何もまったく協力をしないと言う訳ではない。お主等が解決しなければならぬ事に、“神”は理を覆すような真似は出来ぬのだ……“神”であった手前、導くことは出来ても、答えをそのまま教える事はは出来んのだ……許せエドガー……あと、その子犬の様な顔をやめよっ!意思が揺らぐであろうが!」
視線を逸らしながら、フィルヴィーネは告げる。
元々“神”である為、ある程度の理は理解してしまう。
これから何が起こるのか、どうすればいいのか、断片的だが解釈を一瞬で出せてしまう。
それは、人としては面白くない事だとフィルヴィーネは思っている。
だからこそ、エドガー達には必要ない。
助力はしよう、だが解決は己でしろ、そう言いたいのだ。
「諦めなさいエドガー、“神”とはそう言うものよ、この女は“魔王”だけれどね……」
「……そ、そっか。分かった……今後も、助力お願いします」
「……う、うむ……何故だか釈然とせぬが、まぁいいであろう」
(ロザリームの言う事はすんなりと聞くのかこの男は……なんであろうか、この……自分の飼っていた動物が他人に懐く気分だ)
「……それじゃあフィルヴィーネ、早速協力してもらうけれど、いいのね?そのつもりでついて来たのでしょうし」
「うむ。まぁな。相手は四人だ……それも“魔道具”を上手く使える者共だ……数的に仕方あるまい」
「分かった……一人だけでいい。抑えて」
「いいだろう。エドガーも用意しろ……戦闘になるぞ」
「――あ、はいっ!」
あんなことを言ったのに、いきなり協力してくれるんだ。
そんな顔をして、エドガーは【片手半両刃剣】を二刀流状態で手に持つ。
ローザも、いつもの長剣を《石》から用意した。
何故か同じものを4本、両手に持ち、残りの2本は腰のベルトに差した。
鞘の無いまま差してるけど大丈夫なのだろうか。
「行くわよ……――開幕から飛ばす!……【火炎弾】!!」
ローザの宣誓と共に、分厚い鉄板の扉が、見事に吹き飛んでいった。




