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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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191話【雑念】



雑念(ざつねん)


 ()の存在に注意しながら、エドガー達【福音のマリス】一行は荒野を調査(ちょうさ)する。

 と言っても、その()調査対象(ちょうさたいしょう)の可能性が高い為、待ち受けると言う手もあったが、その選択は捨てた。

 理由は単純であり、待ち受ける(・・・・・)という行動に(てき)した人材がいなかったからだ。


 ローザにせよメルティナにせよフィルヴィーネにせよ、待っている事を得意としない。

 特にフィルヴィーネだ。自分でも「待たされるのが嫌い」と言っていた手前、エドガーが気を利かせた。というかそうせざるを()なかった。


「……《石》の反応はなしね。よし、進みましょう」


 ローザは右手を胸の前に出して、《石》の同調(どうちょう)で探る。

 しかし、《石》の反応はなかった。


「分かった」


 (うなず)き合い、みんなで進む。

 エドガー達は(すで)にキャンプからは離れ、歩いて探索(ウォーキングサーチ)で進んでいた。

 荷物(にもつ)はエドガーとメルティナが背負っている。

 一応の為、二日分ほどの食料と水を背荷物(せにもつ)として持ち運び、野宿(のじゅく)できるようにしていた。

 勿論(もちろん)拠点(きょてん)であるキャンプ地点に帰れるように計算はしているが、()といつ遭遇(そうぐう)するか分からない。

 ハッキリ言って、遭遇戦(そうぐうせん)(のぞ)むところでなかった。


「……」


「……」


 敵が近くにいるかもしれないとローザが言っても、サクヤとサクラはぎくしゃくしたままだった。

 本人達はそうは言わないかもしれないが、エドガーからすればそう見える。

 この状態のパーティで戦闘を行う事は難しい。

 どちらかがミスをすることも、十分考えられる。

 その二人に注意しすぎて、エドガーがミスをする可能性だってなくはない。


 それを考慮(こうりょ)して、留守番(るすばん)をさせる事も考えたが、ローザは「そちらの方が危険でしょう」と却下(きゃっか)

 そうして結局、全員で探索(たんさく)を開始したのだ。


「メルティナ、マッピングは?」


「イエス。しています。本当は空からしたいところですが……」


 メルティナが、荒野の地図を書き(しる)している。

 空を飛び写真を()ればいいのではとも考えたが、どこから見られているかも知ったものではない。

 (トラップ)を作動させてしまった時点で、先制はあちら側だ。


「地図もないなんて……どうやって行き来しているのかしらね。本当に……」


「イエス。同意です」


 ローザとメルティナの会話に、エドガーは不思議(ふしぎ)そうな顔をし。

 フィルヴィーネは「転移(てんい)をすればよかろう」と、規格外(きかくがい)な事を言い出す。


「……ここって」


 少し歩き、開けた場所に出る。

 やけに綺麗(きれい)地均(じなら)しされ、ところどころには木材が乱雑(らんざつ)()らばっている。

 その木材をよく見るに。


「……()、かしら……」


「であろうな。この規模(きぼ)、数十人は住んでいたであろう……だが、この様子ではかなり年季が()っている」


「村の跡地(あとち)という事ですか?」


 (かわ)き切った砂を(すく)い、さらさらと流れる様を見ながらエドガーが言う。


跡地(あとち)と言うには何も無さすぎだな……精々廃墟(はいきょ)の数ヶ所でもあればな」


「何もなさすぎだものね……家の痕跡(こんせき)なんて一切ないし、どこに何が()っていたかも想像できないわ」


「……検索完了。この木片の劣化(れっか)具合から、推定(すいてい)でも15年以上は経過(けいか)しています」


 バラバラになった木材を片手に、メルティナが言う。

 持った瞬間にパラパラと(くず)れ始め、木屑(きくず)となった。


「――これじゃあ焚火(たきび)にも使えないわ……予備をもって来てて正解だったわね」


 そう言いながらローザはサクヤを見る、が。


「……サクヤ。(まき)は?」


「――へ?」


 (まき)を背負っていた筈のサクヤを見たのだが、その背に(まき)は――無い。


「……サクヤ、もしかしてだけど……忘れちゃった?」


 エドガーが指示(しじ)してサクヤに頼んでいた筈の、薪持(まきも)ち。


「……あっ……――も、申し訳ありませんっっ!」


 全員に向かってサクヤは土下座をする。

 その姿は必死であり、自分のミスを自覚して顔を青ざめる。


()えては言わないけれど……どうするの?」


 小声で、ローザはエドガーに言う。

 頭を下げ続けるサクヤも気になるが、普段こういう時にサクヤにツッコむはずのサクラの様子も気になっていた。

 サクラは上の空で、どこか遠くを見ている。


「えっと……どうするも(まき)を用意しないと」


「――そっちじゃないわよっ」


「……ぅっ!!――ご、ごめん」


 バシンっ!と背中を叩かれた。

 エドガーもふざけた訳ではない。本当に(まき)は用意しなければならないのだが、ローザが言いたいのはそうではない。

 (めずら)しい、ローザのエドガーへのツッコミ(物理)。


「……まったく、どうするの?アレ(・・)は」


「僕も思ってるよ……」


 今も頭を下げ、地に(ひたい)を付けるサクヤ。

 それとは正反対に、背を向け我関(われかん)せず。サクラは話しすら聞いていない様に、遠くを(なが)め続ける。

 その肩にはリザがちょこんと座っており、様子をちょくちょく教えてはくれるのだが。

 首を横に振り、「駄目(だめ)っぽい」と合図(あいず)してきた。


「……主様(あるじさま)っ。わたしが取りに戻ります!失態を取り返させてください!」


「え、いや……そこまで」


 しなくても、と言えればいいのだが。

 荒野の夜は冷える。ローザに消えない炎を出してもらったとしても、魔力には限界がある。

 無暗(むやみ)に魔力は使わせられなかった。


「今すぐに――」


「よい。(われ)が行く」


 サクヤが顔を上げて、涙目でエドガーに申し出た直後。

 辺りを見渡していたフィルヴィーネが、戻って来て()べる。


「わざわざ戻らなくても(われ)転移(てんい)で持って来よう……この人数を転移(てんい)させるには骨だが、(まき)の束くらいは構わぬ」


「「……」」


「む……なんだその顔は。心底意外と言いたそうな顔だな……」


 その通りだった。エドガーもローザも、無言で(おどろ)いていた。

 フィルヴィーネが(みずか)らそれを言い出すとは(つゆ)とも思わず、ついポカンとしてしまったのだ。


「あ、いや……ありがとうございます!助かります!」


「そ、そうね……感謝するわ」


「……では行ってくる。サクヤを借りるぞ」


「え、わたしは……一人で――」


 フィルヴィーネは、サクヤがいつも巻いている赤いマフラーを(つか)むと、シュン――っと消えていった。

 本当に一瞬で、問答無用だった。


「――なるほどね……」


 ローザは、フィルヴィーネの意図が分かった。

 フィルヴィーネが転移(てんい)する瞬間、視線(しせん)はサクラに向いていた。

 話しをしろという事だ。その為に、わざわざサクヤを連れて行ったのだ。


「……本当に、変な“魔王”様ね……」


 元の世界では、愛が深い程《残虐(ざんぎゃく)な魔王》と言われた、フィルヴィーネ・サタナキアの考えに、ローザは嘆息(たんそく)しながらサクラの方に歩み出した。





 装甲車【ランデルング】の入り口付近に置かれた、(まき)の束。

 キッチリと(そろ)えられた長さに太さ、用意した人物の性格が出ていた。


「あやつ……【悪魔の心臓(デモンズハート)】はあんな埃溜(ほこりだ)めに置いておいて、こんなにもキッチリと(まき)を並べるか……可笑(おか)しな奴よ」


 クックックと笑みを浮かべながら、フィルヴィーネはエドガーが用意していた(まき)に手を伸ばす。

 以前、フィルヴィーネを“召喚”する(さい)に使用した貴重な魔“道具”が、乱雑(らんざつ)に置かれていた事を思い出して。


「――フィルヴィーネ殿!!どうしてわたしを連れ出したのですっ!わたしは一人で……」


「なんだ……?一人で――逃げ出すつもりか?」


「――っっ!!」


 その言葉を聞いた瞬間。

 怒りか、(あせ)りか分からない。

 だがおそらく、図星(ずぼし)だったのだ。

 それでも認めたくなくて。サクヤは()け出していた。

 小太刀(こだち)を抜き放ち、フィルヴィーネの首めがけて。


 一閃の(ごと)軌跡(きせき)は、誰にも見えはしない必殺の一撃。

 首を切断するつもりで()りぬかれた刀は、(なか)ばから折れて(かわ)いた地面に突き刺さった。


「――なっ……!」


 ガギン――と(にぶ)い音を響かせたフィルヴィーネの手枷(てかせ)

 反射的に差し出した右手で防がれた、サクヤからの攻撃。


「――見事だ。(われ)にも見えんかったぞ……だがしかし、(パワー)が圧倒的に足りぬ……ロザリーム程もあれば、(われ)の首も飛んでいたかもしれぬぞ……?」


 半分は冗談、しかし半分は本気だ。

 フィルヴィーネは素直に()めた。

 自分を殺しにかかって来た抹殺(まっさつ)の一撃を。笑顔で。


 (はじ)かれ、飛び、着地するサクヤ。

 空中で一回転し、反動で着地した地面は土煙(つちけむり)を巻き起こす。


「――言って良い事と悪い事がある……フィルヴィーネ殿!!」


「クックック!悪い事をするのが“魔王”であろうが……それに、(うそ)()いておらぬからなぁ!」


「――くっ!!」


 (ほとばし)る紫色のオーラを全身に(みなぎ)らせ、フィルヴィーネは高らかにサクヤに告げる。


「お前が逃げるも勝手、あやつ(サクラ)が逃げるのもまた勝手だ。ならば、(われ)が何を言おうとも勝手であろうがっ!!」


「――だ、黙れぇぇぇぇ!!」


 全て真実。しかしその事実は、サクヤの心に突き刺さる。

 (とげ)を持ったその言葉に激高(げきこう)し、サクヤは今まで使ってこなかった【忍術】を使う。

 怒りのままに、衝動的に。


「何にそんなに怒る所があるっ……本当のことを()べただけであろうがっ!!」


 飛翔(ひしょう)してきた何本もの苦無(くない)を、フィルヴィーネは手枷(てかせ)(はじ)き返す。

 と、そこにサクヤの姿はない。


「――消えた……いや、気配(けはい)を消し切れてはいない……なっ!!」


 フィルヴィーネは、足をドスンと地に突き刺す。

 声が()れたのは、その中からだった。


「……くっっ」


 シュッ――と、フィルヴィーネの影の中から出てくるサクヤ。

 見破られる筈のない初見(しょけん)の技を(やぶ)られ、歯噛(はが)みする。


 【影移動】。

 魔力を(もち)いて、影と影を移動し敵に近づく【忍術】。


「クックック……気配(けはい)を出し過ぎだ。隠し通せていないぞ」


「ならばこれでっ……!」


 (あせ)るサクヤが(ふところ)から取り出したのは、数個の丸薬(がんやく)

 それをフィルヴィーネの足元に投げつけると、ものの見事に煙が充満(じゅうまん)していく。

 風が()いでいる為、ドンドン視界(しかい)(うば)われ。


煙幕(えんまく)か……だが逃げるものではない……ならば――こうだっ!!」


 フィルヴィーネは煙中(えんちゅう)に手を突っ込み、思いっ切り(つか)みとる。


「――なっ!?――ぐぅっ……な、何故(なぜ)……!?――がはっ!!」


 見えもしないのに、フィルヴィーネはサクヤの首を(つか)んで引っ張り出した。

 殺意を持って近づいてきたサクヤの首を、指がめり込むほどに(にぎ)り、そのまま地面に叩きつけた。


 衝撃で、煙幕(えんまく)などあっと言う間に晴れていく。

 そこには、仰向(あおむ)けで(くや)しさを(にじ)ませるサクヤと。

 ニヤリと不敵(ふてき)に笑うフィルヴィーネが。


「何度も言わせるなよ小娘……気配(けはい)駄々洩(だだも)れなのだ、【鈍獣(ウロース)】でも気が付けるわっ!」


 サクヤは、地面に叩きつけられて呆然(ぼうぜん)としている。

 【鈍獣(ウロース)】ってなんだ。とは考える時間もなかった。


「お(ぬし)、自分で言ってて馬鹿(ばか)らしくはならないのか……?」


「な……なに、が……」


 背中から叩き付けられたサクヤは、肺に空気が入らず上手く話せない。


「お前自身が昨日言うてたであろう……?あれだけ覚悟を持って、サクラに言葉を(つら)ねたと言うのに……そのお前がサクラの空気に(さら)されてどうする。巻き込まれ体質か?」


 重々(おもおも)しいサクラの感情に自然と巻き込まれ、引っ張られて、サクヤもどんよりとした感情になっていた。

 それは認めざるを()ない。

 昨日までは本当に何ともなかった。サクラに()べたことも嘘偽(うそいつわ)りはない。

 サクラがどう考えるかも分かっていた。それでも覚悟を持って話した、妹の話。


 【魔眼】の話をしたのが切っ掛けとは言え、自分の思っていた事を(さら)け出した。

 そしてサクラがそれを気にしている事は明白で、サクヤは気に止めながらも進んでいこうと心掛けたつもりだった。

 だが実際(じっさい)は、サクラの空気に思いっ切り巻き込まれ、同じ感情を持ってフィルヴィーネに突っかかった。つまり、八つ当たりだ。


「わ……わたしは……」


 起き上がろうとして、フィルヴィーネに手を(つか)まれる。

 引っ張られ、座る形ではあるがフィルヴィーネに顔を見せる。


「なんと無様(ぶざま)なものよ、ほれ……涙を()かんか」


 グシグシと、フィルヴィーネは自分の服でサクヤの(ほほ)(ぬぐ)う。


「……よ、よしてくれ……自分で出来る」


 何なんだこの人。と、サクヤの心は少しづつ、冷静(れいせい)を取り戻していった。


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