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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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189話【サクラフブキ】



◇サクラフブキ◇


 サクヤの過去の話は、それで終わりだった。

 でも肝心(かんじん)な事、“もう一つの魔眼”については(なぞ)のままになっていたのだが、“魔王”フィルヴィーネは、サクヤの話しを聞きながらももう一つの在処(ありか)について考えていた。


(生まれつき持っていた……だとすれば、双子の片割れ(・・・・・・)……コノハだったか、それが持っていた可能性もあるな。最早(もはや)探しても見つかる事はないが……サクヤが(のぞ)むのなら――この世界はきっと……)


 視線(しせん)はサクラに向けられて、そこでフィルヴィーネの考えは終結(しゅうけつ)した。

 結論(けつろん)をフィルヴィーネが口に出そうとした、その時。

 ――ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ!!


「――わぁぁぁぁっ!!」


 まるでフィルヴィーネの発言を邪魔(じゃま)するかのように、サクラの服のポケットから音が鳴り。

 (おどろ)き、声を上げたのはリザだった。


「わっ、ごめんごめん……アラームだ!」


 サクラは【スマホ】をタップして、解除(かいじょ)をする。

 その様子を、少し戸惑ったように見るフィルヴィーネは。


(このタイミングで空気を()えさせるか……コレは完全に。つまり、そういうことか……まだ(・・)その時ではないと……)


 そう内心で結論付(けつろんづ)け、フィルヴィーネは言う。


「クックック……(しま)いだな」

(まぁいい……しばし様子を見よう。楽しみでもあるしな……)


「そ、そうですね……明日も早いし、サクヤも疲れたでしょ?」


 エドガーも、少し疲れを顔に(にじ)ませつつ、サクヤを気遣う。


「――あ、はい。少しだけ(のど)(かわ)きました……」


 (みずか)らの喉元(のどもと)(さす)るサクヤ。


「うん。それじゃあ、おわりだね」


 優しげにサクヤに接するエドガーを見ているサクラだったが。


「ねぇサクラ――そろそろ私を離してくれないかしら?」


「……え?あ……ごめんごめん、リザちゃん」


 サクヤの独白中、ずっとサクラに(にぎ)られ、(ひたい)に押しつけられていたリザは、何故(なぜ)艶々(つやつや)していた。

 機嫌もよさげに「ま、まぁいいのだけれど」と、言っていた。

 リザをテーブルに降ろすサクラを見ながら、エドガーがフィルヴィーネに声を掛ける。


「――僕は先に戻ります。そろそろメルティナも帰って来てるだろうし……今日の事を説明しないと」


「ああ、それならあたしがローザさんに言ってあるよ?」


「……え、ローザに……?」


 エドガーの目は「出来るの?」と問いかけているように見える。

 サクラは自信なさげに言う。


「あはは……た、多分」


 自身はないのか、視線(しせん)()らすサクラ。


「と、とにかく。戻ってるかどうか確認しに行ってくるね。サクラとサクヤは……お風呂にでも入ったらいいよ、その……ゆっくり休んでね」


 そう言って、サクヤとサクラ、二人に気を回して部屋から出ていったエドガー。


「そうしようかサクラ。わたしは先に行くぞ?」


「――あ……う、うん」


 サクヤもかなり疲れたのか、エドガーの言う通りに大浴場に向かうようだ。

 残されたのは、サクラとフィルヴィーネ。とリザ。

 自失気味にサクヤを見送るサクラ。その姿に、フィルヴィーネが声を掛ける。


「……気を遣われたな。エドガーにも、サクヤにもな」


「……そう、ですよね」


 フィルヴィーネは勿論(もちろん)、サクラの心境を(さっ)している。

 理由も分かる。それでも、助言はしない。

 それをしてしまえば、この少女(サクラ)の必然を()じ曲げてしまうと、分かるからだ。


 サクヤもエドガーも、サクラに気を遣って早めに出て行った。

 エドガーは二人に気を遣って、考える時間を与えようとしたのだろう。

 サクヤは、おそらく気まずいのだろうとフィルヴィーネは考えた。


「――どう、思いますか?フィルヴィーネさん……」


「サクヤの、()……の事か?」


 少しビクつきながらも、サクラは肯定(こうてい)する。


「……はい」


 フィルヴィーネは眼鏡(めがね)を外してサクラに返す。

 スーツの様な服を、魔力で切り替えて、ラフな服装に着替える。

 フィルヴィーネの服は全てサクラが用意したもので、日本のトレンドを()り交ぜながらも、この世界で(あや)しまれない程度には適応(てきおう)したものだ。

 アップにした髪を(ほど)き、ベッドに腰掛ける。


「サクラ。お前はどう思った……サクヤのあの話を、そのまま信じるか?」


(うそ)を言っているようには見えませんでしたけど……」


「――であろうな。エドガーの【天秤の紋章(ライブラ)】も発動していない。つまりは真実だ……」

(しかし、この娘が真に気にかけているのは……)


 エドガーの新たな能力、【真実の天秤(ライブラ)】は異世界人(みうち)(うそ)を見抜く力がある。それが発動していないという事は、サクヤの話は全て真実だという事だ。


「……だがなサクラ――お前が真実に(おび)えている事……あ奴(サクヤ)もエドガーも気付いておるぞ……そして、その答えをどう受け取るかは、お前次第(しだい)だ」


 (おび)える。正しい表現かどうなのか、サクラ本人には分からないだろう。

 少なくともフィルヴィーネには、リザを両手で(にぎ)って(いの)るように顔を隠す仕草(しぐさ)は、怖がっているようにも取れた。

 サクラは、サクヤが帰った後の扉を見つめ、(つぶや)くように、(しぼ)り出すように。


「……知ってます。あたしは、サクヤの言葉に怯えてました……きっと、聞きたくなかったんだと思います……それは、【忍者】……――サクヤも、エド君も気付いてて……サクヤもきっと言わないようにしてたんだと思いました……多分、初めて会った時に、もう気付いてたんだと思うんです」


 ふぅ、と息を落とし。

 推測(すいそく)邪推(じゃすい)とも取れる言葉を並べる。

 しかしもう、(うたが)余地(よち)のない答えを、(みずか)ら指し(しめ)すように。


「――あたしがもし、サクヤの妹の……生まれ変わり(・・・・・・)だったら、あの子は……どう思いますかね?」


「……ふむ」

(答えに辿(たど)り着いていながら、他人に助言を求めるか……人からの言葉を吸収して、何を(ゆが)める?……その気持ちはお前だけの物であろう。決して他人に(ゆだ)ねていいものではない……)


 フィルヴィーネは(あご)に手を当てて考える。

 自分がサクヤに話させたとは言え、言動にすら(ことわり)を乗せる“神”の力は、うかつな事を言って良いものではない。

 フィルヴィーネは慎重に、それでもサクラに言える範囲の言葉を与える。


「――サクヤからすれば、悪くはない気分だろう。だが本人からすれば、【魔眼】の暴発とは言え……殺してしまったと言う事実があるからな……」


 異世界のもう一人の自分(・・・・・・・)

 そう思っていた。だがそれは、サクラが思っていた事だ。

 しかしきっとサクヤは、あの時初めて顔を合わせた瞬間、サクラが妹の生まれ変わりだと気付いたのだ。


「お主達は、同じ(たましい)と言っても別世界……正確には歴史も時代も違う世界なのだろう?」


「え……うん、多分……そうだと思うけど……」


「お前が妹の生まれ変わりだとして……サクラ、お前はどうするのだ?――まさか、妹として生きていくつもりか?」


「それは……違う、けど……」


「――けどなんだ?あ奴の話しに同情(どうじょう)でもしたか?」


「――ち、違うっ!!」


 カッとなって、大きな声を出してしまう。

 それでも視線(しせん)は外さず、フィルヴィーネを見据(みす)えて言う。


「それだけは違うんです。あたしは……同情なんてしてない、だって、だってそれじゃあ……」


 自分自身に同情するのと同じ。

 自分がカワイソウ(・・・・・)だと、不幸だと思っていると認めることになる。

 それだけはしてはいけない。

 「カワイソウでしょ?」と、自分から同情を(あお)るようなことは、絶対に嫌だった。


「……――ならばそれでいいではないか。馬鹿者が」


「――え?」


 「やれやれ」と言って、フィルヴィーネは疲れたように息を()き。


「――サクヤに言ってやれ。自分は違うと……妹ではないと、ハッキリとキッパリと……その口で言えばいい。あの視線は妹ではなく、お前(・・)を見ていたぞ……?」


 サクラがリザで顔を隠している間、サクヤはサクラを見ていた。

 それを、サクラは気付いて隠していた。目が合えば、確定だと言われる気がして。


「……し、知ってますってば、そんなこと!」


 中途半端(ちゅうとはんぱ)に開いていた扉を開けて、サクラは出ていく。

 フィルヴィーネの様に、「何事も愚直(ぐちょく)に対応など出来っこないですよ!」と背中で(かた)って。

 最後はバタン――!!と扉を閉めて、サクラは逃げて行った。


「……やれやれ、青いな」


「そりゃあ、フィルヴィーネ様と比べてしまえば誰だって青いでしょうに……」


 若く青い果実の様な、少女達の葛藤(かっとう)に。

 ん千年とん百歳の“魔王”様は、郷愁(きょうしゅう)(しの)ぶように、ベッドへ寝転んだ。


(……これが精一杯(せいいっぱい)か、今の(われ)には。因果(いんが)を断ち切るのは簡単だ……だがそれは、(おのれ)で切り開くべきもの。精々悩め、乙女たちよ……)


 目を閉じて、悩める少女達の葛藤(かっとう)(とうと)ぶ。

 助言の一つで運命(さだめ)(ゆが)めてしまう神意(しんい)を持つフィルヴィーネには、答えを出してあげる事が出来ない。

 例えその悩みの答えを知っていようとも、その先にどんな選択肢が存在していようとも、フィルヴィーネには、この世界に干渉(かんしょう)することが出来ないのだった。





 二階の休憩スペースの柱の影から、一階に下りる為の大階段を見つめる。

 少しして、全速力で階段を()け下りていくツインテール。

 その走っていく少女の後ろ姿を見ながら、もうひとりの少女は失笑(しっしょう)する。

 当然、自分自身にだ。


 過去を話したことで、何か(ひずみ)が生まれるかもしれないとは思っていた。

 《契約者》である彼か、はたまた自分か。

 まさか彼女にだとは、思いもよらぬ形に自分を罵倒(ばとう)してやりたくなる。


 記憶を辿(たど)って、思い起こされるもう一人の自分。

 笑顔のまま時を止め、そのまま息絶(いきた)えた二つ結びの黒い髪(・・・・・・・・)


『――あははっ!姉上ぇ!こっちです、こっちこっち!』


 思い出されるのは笑顔のままの幼い妹だ。

 けれども、ありえない筈の成長した姿の妹が、脳裏(のうり)に焼き付いて離れない。


「……話さねばならぬ状況だったとはいえ、(こく)な事を言ったな……わたしは」


 彼女が感情的(ヒステリック)な事を忘れた訳ではない。

 喜怒哀楽(きどあいらく)がはっきりしているからこそ、悩みも人に(つた)っていく。

 それは蜘蛛(くも)の糸のように、(から)みつき執着(しゅうちゃく)する。


「――だが……わたしは信じるさ。サクラ、お前を……コノハではない、別の世界に生きていてくれたお前を……わたしは、絶対に守って見せる……!」


 妹を殺めた【魔眼】に(ちか)って。

 もう二度と、同じ過ち(・・・・)にならない様に。


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