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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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188話【咲夜の歴史】



咲夜(サクヤ)歴史(れきし)


 その言葉を聞いた時、何故(なぜ)か心臓が高鳴(たかな)った。

 サクヤの口から()と言う言葉が(つむ)がれて、その時を待っていたと言わんばかりに、全身の血液が沸騰(ふっとう)したような、蒸発(じょうはつ)にも似た感覚。

 まるで、あたしがその()だって言われたみたいで、ドキリとした。


「――わたしは本来、双子です。妹の名は……コノハ。《咲くやこの花》、から名付けられたらしいです」


 あたしの名前ではなかった。

 でも、胸のドキドキは止まらない。全然止まってくれない。むしろ、コノハと言う名を聞いて心音が加速していた。

 エド君もリザちゃんも、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでサクヤの話を聞いてる。

 唯一(ゆいいつ)フィルヴィーネさんだけが、余裕(よゆう)がある様に、エド君が持ってきた紅茶を飲んでた


「――初めの頃は、【魔眼】なんて知らなくて……普通に過ごしていました。ですがコノハの、妹の心の臓を止めたのは、本当に偶然(ぐうぜん)だった……と、思います。五つの時、庭で遊んでいたわたしは、妹を追いかけて外に。敷地外(しきちがい)に出たんです……」


 口調(くちょう)が変わってきているサクヤの顔は、(なつ)かしそうに、悲しそうに。

 あたしを見て、その言葉を並べていく。


「かけっこをしていたんです。でも、突然動きを止めた妹は、後ろ姿のまま……笑顔のまま……息を引き取った――その場で死んでしまったのです……どうにも、屋敷(やしき)敷地内(しきちない)には結界(けっかい)護符(ごふ)()ってあったらしく、それを超えてしまった(ゆえ)に、【魔眼】が発動したのではないかと……」


 「フィルヴィーネ(・・・・・・・)殿の言う通り、石の様でした」。そう言うサクヤの言葉の重みに、あたしは胸を()め付けられた気がした。

 いつもはおちゃらけて、ふざけて、笑って(さけ)んで泣いて、(くや)しがって、エド君の為に一生懸命(いっしょうけんめい)で。

 そんな彼女(サクヤ)の悲痛な笑顔が、見てられなかった。


 話しを聞きながら、あたしは視線(しせん)を合わせないように彷徨(さまよ)わせる。

 丁度(ちょうど)リザちゃんと目が合って、(つか)みかかる様にエド君からひったくる。


「うわっ……!?」

「――ふぎゅっっ!」


 リザちゃんで顔を隠すみたいに、()に両手を持っていく。

 「――はわぁぁぁぁ!」と、リザちゃんは変な声を出す。

 うるさいとも思ったけど、誤魔化(ごまか)せるなら何でもいいや。

 エド君も、何かを(さっ)してくれたのか何も言わないし。


「――その後は、目隠しをした生活でした……家族内でも、呪われた眼(・・・・・)だと、処分すればいいと何度も言われていたそうです」


 全てのきっかけとなった“妹”コノハの命の停止。

 それが始まりとなって、サクヤの幽閉(ゆうへい)は進んで行った。

 屋敷(やしき)の中での幽閉(ゆうへい)、しかも目隠しをしてだ。


 父親は、サクヤの左眼が【魔眼】である事を知っていたらしい。

 自分が心臓を止められる事を恐れて、秘密(ひみつ)にしていたのだと言う。

 最低だ。でも、恐怖は理屈(りくつ)じゃない。

 あたしだって、恐怖は知ってる。


 声も出ず、身体が言う事を聞かない。

 誰にも言えなくて、人知れず、心を侵食(しんしょく)していく。

 サクヤのお父さんも、そうだったのかな。


「五年ほど()ち、わたしは自分だけの部屋でなら目隠しを取る事が出来ました……その中で、シノビの……くノ一の技を学んだのです。【魔眼()】の制御(せいぎょ)も、少しずつですが出来るようになり。動物で練習もしました」


 「今思えば悪い事をした」そう言うサクヤの(かわ)いた声は、とてもあたしの心に響いた。


「……制御(せいぎょ)を出来るようになっても、父上は私に会う事をしなかった。それどころか、制御(せいぎょ)が利くようになったことで、より自分の身を(あん)ずるようになったらしく、いっそう部屋に(こも)りがちになったらしいのです……」


 「徳川に(つか)える忍びが情けない」そう言いながらも、自分に(おび)える父の姿を想像したのか、()やむように言う。


「わたしから歩み寄っても()けられるだけ……ならばどうするべきであったのでしょうか……」


 長いサクヤの独白に、フィルヴィーネさんは。


「――どちらにせよ、お(ぬし)が【魔眼】を使えるようになっても変わらなかった訳だな、待遇(たいぐう)……いや監禁(かんきん)か」


 自分の家に監禁(かんきん)されてた、か。

 そう言えばあたしも、居場所は自分の部屋だけだったっけ。


「その通りですフィルヴィーネ殿、わたしの日課(にっか)はひたすらに訓練(くんれん)でした……この【魔眼()】を使いこなし、シノビの能力を高める。それだけを考えていました……」


 サクヤは拳を(にぎ)って、ゆっくり開く。

 少し胼胝(たこ)が出来た指、こっちの世界に来てからも()かしていない訓練(くんれん)の成果。

 最近はエド君とも剣術の訓練(くんれん)してるんだよね、この子。


「ある程度の制御(せいぎょ)を覚え、心の臓を止める事はなくなりました。訓練(くんれん)(しょう)した、殺人のおかげで……」


 この(かん)訓練(くんれん)で命を落としたのは数人。

 家の人に用意された、下手人(げしゅにん)――犯罪者だったらしいとサクヤは言う。

 それを言ったらわたしも変わらぬがな、と、(さび)しそうに。


「それでも。処遇(しょぐう)は変わらなかった……わたしは。どれだけ頑張っても、努力しようとも……結局、《()()》だったのです」


「い、()み……()?」


 エド君が聞く。少し聞きにくそうにしてるから、かなり気を使っているのが分かった。


「はい、()み嫌われ……厄災(やくさい)とされていました」


 一人の子供を“厄災(やくさい)(あつか)い。

 いくら異能を持っているからとはいえ、(ひど)い。


「わたしは気にしていません」


 「事実ですから」と笑うサクヤの表情は、優しげに(あふ)れ、誰の事も(うら)んでいないと物語(ものがた)ってる。

 そんなのは違うよ、(うら)んでいいはずだよ。とは、言えなかった。

 それは多分、サクヤが妹を(あや)めてしまった事を、最大限に背負っているからだと思う。


「そうして数年何も変わらず、父上は隠居しました。名を息子、わたしの兄に(ゆず)り……家督(かとく)も全て(ゆず)って、完全に隠れてしまったと……母上から聞きました」


 (なつ)かしそうに、母の面影(おもかげ)を思い出すように言う。

 そうか、少なくとも、お母さんは味方でいてくれたんだね。

 ――ああ。あたしとは反対だ。


 サクヤの時代だと、女性の立場はかなり低い筈。

 それでもサクヤの味方をしてくれてたと考えたら、いいお母さんだ。


「……兄上が襲名(しゅうめい)して()ぐに、わたしの嫁入りが決定しました」


 そういえばそうだった。


「――なんと!お前は人妻(・・)だったのか……!?」


 フィルヴィーネさん、それあたしも言いました。

 「違うっ!……あ、いや違います」と、いつもあたしに言うみたいに言いかけて、フィルヴィーネさんにツッコむ。


主様(あるじさま)も……そんな目で見ないでください。わたしは感謝しているのですから」


 ああ、その言葉だけで、エド君が勘違(かんちが)いしたのが分かる。

 多分、大切な人がいたのに“召喚”してしまった。って思ってるんだ。


「……何の時間を過ごしていたのか、わたしの人生は何だったのか……(てい)のいい厄介払(やっかいばら)いをされて。【魔眼】の事を()せながら嫁に行く……その道中で、わたしはこちらに来たのです」


 妹の死、家族から“厄災(やくさい)(あつか)いされた【異能(まがん)】。

 十年以上()えて、()えて()えて()えて。

 そして辿(たど)り着いた――異世界(いばしょ)


 あたしも一緒に居たとはいえ、もしかして、あの時のサクヤって、あたしに対してかなり緊張してた?

 ああそうか……もうその時に、あたしが妹なんじゃないかって、勘付(かんづ)いてたんだね。


『そんなはしたない声を出すものではないぞ、そなたもヒノモトの女子(おなご)であろう?』


 あたしの顔を見た瞬間のサクヤ。よく思い出せば、凄く強張(こわば)ってた。

 やっぱり、妹さんの面影(おもかげ)をあたしに重ねたんだ。


主様(あるじさま)には感謝をしているのです。わたしは、初めて自由を()た……不思議(ふしぎ)と、この世界では【魔眼()】の自由も利きます……ローザ殿が言う変換(へんかん)された?からでしょうか……」


 身体の再構築。そのおかげで、不安定だった【魔眼】の制御(せいぎょ)も、元の世界よりも上手くできるって事ね――って、その話はあの時しなさいよっ!!


「……ふむ……では、ここに来るのが運命、いや必然(・・)だったと思え」


「「――!!」」


 フィルヴィーネさんの言葉は、サクヤにもあたしにも刺さった。

 きっとこの場にいれば、ローザさんにもメルにも刺さるはずの言葉だ。


「正直言って、“運命”などといった安い言葉で買えてしまえるほど、(われ)も、お(ぬし)たちも売りになど出されていない……だがここに、エドガーのもとに来ると決めたのは自分自身、違うか?」


 サクヤは(うなず)く。

 あたしも、内心で返事をしていた。


「ならば話は簡単だ……“運命”は“必然”に変えればいいだけ、運命的に出会うのではなく……初めから必ず出逢う(・・・)事が決まっていた……そう思えばいい」


 運命の出逢いを果たした。

 そんな言葉、何の信用になるのか。

 あたし達異世界人は、理由が個々(ここ)にあるにせよ、元の世界を逃げ出したんだ。

 そう取っても、取られてもかまわないと思っていた。

 でも、自分自身で思う事が違えば、それだけで見方は変わる。


 必ず出逢う。何があっても必ず。

 絶対、エド君と出逢う。

 運命の出逢いと、必然の出逢い。

 相対的(そうたいてき)に似ているようで、全くの別物だ。

 運命は変えられる。けれど、必然は変えられない。

 逃げられない、確定の世界。


 あたし達とエドガー・レオマリスは、そういう関係。

 そう取るだけで、世界の色が変わる。

 考え方、思考実験、思い込み。

 なんだっていい。あたしが決めればいい。

 あたし達で決めればいい。


 ――そう思えれば、どれだけよかったんだろうね……


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