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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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185話【二つの索】



◇二つの(さく)


 【ルノアース荒野】。

 ()()てた荒野を走る、一台の馬車があった。

 ガタゴトと音を鳴らして、回る車輪は木ではなく鉄。

 荒野の硬い地面にも負けない車輪は、【リフベイン聖王国】にはない、鉄で出来た車輪だ。

 隠蔽(いんぺい)するように、車輪を(おお)い隠すように張られた(まく)は、地面ギリギリを(こす)っている。

 渓谷(けいこく)があったであろう川の名残跡(なごりあと)に馬車は一時停止をして、その中から数人降りてくる。


「……ちっ。なんだよ、くせぇな……」


 大きめの男と見られる人物が、警戒(けいかい)しながら真っ先に降りつつも、悪態(あくたい)()く。


「――うっ……何の(にお)いでしょうか……」


 その後には少女と見られる人物が続き、フードの中からちらりと出ていたイエローグリーンの髪が風に()かれて()れる。

 馬車から降りた全員が、一様(いちよう)目深(まぶか)にフードを被り、全身をローブで(おお)い隠している。

 ローブとフードは(つな)がっており、白の色彩と相まってどこぞの宗教(しゅうきょう)のようだった。

 誰も見ている人などいないこの荒野で、全身を隠すローブの集団。

 ハッキリ言ってかなり(あや)しい。


「……(くさ)った魚、かしら……この川は随分(ずいぶん)前に()れているように見えるけれど。それとも――もっと何か別の……」


 馬車から最後に降りてきた人物は、スンスンと鼻を利かせて腐敗臭(ふはいしゅう)()ぐ。

 その様子を、お付きであろう二人は(あわ)てて止める。


「おい、やめとけって!」

「おやめください!鼻が取れてしまいますよ……!」


「取れる訳ねぇだろ……」

「万が一があるでしょうっ!?」


「――ねぇよっ!!」


「おやめなさい。(わたくし)達は堂々としてはいられないのよ……?」


「「――!!」」


 ローブの奥から放たれた威圧感(いあつかん)に、二人は身を(すく)ませる。


「わ、わりぃ」

「申し訳ありません!」


 男はそっぽを向き、少女は不敬(ふけい)な態度に謝辞(しゃじ)をする。

 頭を下げて下を向いた少女は、目線を地面に下げたことで、そこにあった物を目にする。


「――きゃっ!!」


 後退(あとずさ)って、男にぶつかる。


「……いってーな!――どした?」


「い、いや……これって……()、じゃないですか……?」


「ああっ?」


 男はしゃがみ込んで、()れた川に(しず)んでいたとみられるそれ(・・)を引き抜く。

 完全に()れ切って、土塊(つちくれ)と化している川底の汚泥(おでい)

 腐敗(ふはい)した何かと、長年の汚れたヘドロで、異常な(にお)いを出していた。


「……人骨(じんこつ)だな。足の骨だ」


「――ええっ!!」


「……やはり、この臭いは人の腐敗臭(ふはいしゅう)だったのね……」


 一際(ひときわ)オーラを持つ人物は、男が持つ人骨をまじまじと見ると。


「ここ一帯(いったい)を掘り返しましょう。川であった筈だし、土は柔らかいでしょうから……」


 考えがあるのか、御者(ぎょしゃ)をしていた人物にも声を掛けて指示(しじ)を出す。


「全員で()るわよ。その方が早いし……それに、ここの秘密(・・)が分かるかもしれないわよ?」


「――仕方がないな」


 馬車の御者(ぎょしゃ)をしていた男は、車内から(くわ)を出して真っ先に土を(えぐ)り始める。


「――いや、俺等(おれら)の分も取れよっ!」


 一人で作業を進める御者(ぎょしゃ)の男に、ガラの悪い男は声を(あら)げる。


「まぁまぁ。そういう方ですから……はい、どうぞ」


「ちっ……おう。わりぃな」


 少女から(くわ)を受け取り、照れくさそうに礼を言う男。


「……ふふっ」


 リーダーと見られる、指示(しじ)を出した少女が笑う。


「ああ――?何が可笑(おか)しいんだよっ……」


「いいえ……仲良くなったものだなと、思ってね」


「ちげぇよ!」

「ち、違いますっ!」


 二人は否定(ひてい)するが、タイミングもばっちりだった。


「……さぁ。捜索(そうさく)するわよ……この国の()を……」


 ローブの四人は、それぞれが(くわ)を持って土塊(つちくれ)を掘り返す。

 この川があった場所に、どれ程の闇が埋まっているかを知らしめるために。





 宿屋【福音のマリス】。

 休憩所にて、ローザとサクラが話しを終えた。

 紅茶を飲みながら、一息つく二人。


「……確かに(あや)しいですね……姿を現さない《男か女か分からない声》の人物……《石》と関連ありそうな言動に……“悪魔”……」


「あれからそいつらは出て来ていないわ……それ以前に《魔法》か“魔道具”か、いずれかを(もち)いた会話だった。そのせいで近くにいたかも分からないのよね……ただ、やはり《石》ね。あの時は【魔石(デビルズストーン)】だった……そして、先日(・・)も」


 ローザがこの世界に来た直後に戦った、“悪魔”グレムリン騒動(そうどう)

 警備隊の男、イグナリオ・オズエスを暴走させた紫の【魔石(デビルズストーン)】。

 フィルヴィーネの《石》、【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】と同じ色をしながらも、その(しつ)はまったくの別物。


「ん~……“悪魔”って言われたら、あたしの中では今は真っ先にリザちゃんが出てくるんだけど……」


一旦(いったん)あの小さな“悪魔”は忘れて……そうね、エミリアの決闘時に戦った“悪魔”バフォメット、あれに(もっと)も近いわ」


 グレムリンとバフォメットに共通するのは、【魔石(デビルズストーン)】だ。

 紫色で、禍々(まがまが)しい程の雰囲気(ふんいき)(かも)し出す《石》。

 鮮麗(せんれい)のせの字も無いような、無骨(ぶこつ)な、加工のされていない《石》。

 ローザ達が所持(しょじ)する“魔道具”の《石》と、対極(たいきょく)と言える存在。


「……グレムリン、バフォメット――っと……」


 サクラは【スマホ】で“悪魔”を検索(けんさく)し始める。


「……グレムリン、伝承上(でんしょうじょう)の生物……“妖精”の一種で、機械にいたずらをする……――“妖精”?」


「私も同じ反応した記憶があるのだけれど……サクラの世界でもそうなのね、グレムリン」


 サクラの反応に、前に自分も同じ反応をしたと笑うローザ。


「いやいや……あたしの世界だと空想上(くうそうじょう)の生き物ですから!存在しませんから!」


 左手にティーカップ、右手に【スマホ】を持って。

 自分の世界とローザの世界の違いに改めて(おどろ)く。

 サクラからすれば、自分以外のどの世界も、果てしない程の異世界(・・・)なのだ。


「あら、そう……」


 何故(なぜ)か残念そうに、ローザは紅茶を飲――まずにフーフーする。

 「()れてから随分(ずいぶん)()ちますよ」とサクラは笑う。


「バフォメット……グレムリン……アスモデウス、でしたっけ。リザちゃんの名前」


 「ええ、確かそうね」と、ローザはちびっ――と紅茶を飲んだ。

 サクラは着々と【スマホ】で“悪魔”を調べていく。


「アスモデウスのイメージ……まったくないんだけど、リザちゃん」


 ポンコツ具合が先行して、“悪魔”の怖いイメージなど皆無(かいむ)だった。


「もし、あの時と同じ奴らが(あらわ)れるとしたら、確実に戦いは起きるわ。それが“悪魔”かは分からないけれど、事前に情報(じょうほう)共有(きょうゆう)しておくことは悪くないわね」


「ですね。いない(・・・)【忍者】は置いておいて……」


 いない【忍者】サクヤは、エドガーと共にフィルヴィーネの所だ。

 話しが終わった後、フィルヴィーネの部屋に行こうとしたエドガーだったが、そのフィルヴィーネが「ポニテの小娘を連れて来い」と、リクエストされていたので、サクラは何も言えなかった。


「あたしは色々調べておきます。ローザさんは、メルが帰ってきたら今日の事を教えてあげてくれませんか……?エド君達はまだ来なさそうですし……」


「……了解(りょうかい)、仕方がないわね……」


 紅茶を飲み干して、ふーっと息を()き。憂鬱(ゆううつ)そうな顔をするローザ。


「くれぐれも、適当(てきとう)に話しをしないでくださいね……?」


「分かってるわよ」


 ローザが戦闘以外の事を(こな)せない女性だと理解し始めて、少し不安気な表情を見せるサクラ。いや、不安と言うよりも、心配だろうか。


「――心外ね。大丈夫よ」


「……」


「だ、大丈夫だってば……」


 ジト目が止まらないサクラ。

 「大丈夫」と言われれば言われるほど心配になる。


「……」


「――大丈夫だってば!しつこいわよっ!!」


「いはぁははっ、ふみまへん……おはひふて」


 テーブルに身を乗り出して、サクラの(ほほ)を引っ張る。

 みょ~んと伸びるサクラの(ほほ)は、(もち)のように柔らかかった。


「全く……随分(ずいぶん)と変わったわね、サクラ」


 ぷるん!と戻ったサクラの(ほほ)を優しく()でながら、ローザが言った。


「……そ、そうですか、ねぇ……?」


 先程までその動向が心配だったはずの、ローザのお姉さんの様な顔にドキリとする。

 女の子でも、同性にドキリとすることがあるものだと、サクラの心は()ねた。


「ええ。変わったわよ……自分では気付けないものなのかもね、案外(あんがい)と」


 ()でていた両手を離し、腕を組んで逡巡(しゅんじゅん)とするローザ。

 うんうんと(うなず)いて、自分の中では解決してしまったのか、ローザはそのまま休憩所から出ていった。


「……そういう所なんだろうなぁ、ローザさんの魅力(みりょく)って……まるで猫みたい」


 自分で解決して、自分で()っていく。

 数日部屋から出てこないかと思えば、サクラですらこんなにも気になってしまう。

 自由奔放(じゆうほんぽう)自信気質(じしんきしつ)、プライドが高く、誰にも(したが)わない。

 まるで、捨てられてしまった血統書(けっとうしょ)つきの野良猫だと思えた。

 去っていくローザのその様を見つめていたサクラは、後ろ姿を【スマホ】のカメラで撮る。


「……カッコいいんだけどなぁ……」


 ローザの後ろ姿は、誰にも(くっ)さない自信と悠然(ゆうぜん)に満ちた、いい女の背中だった。


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